PostScriptイベント後記

公開講座

公開日:2021/07/05

Take action for the blue planet 脱炭素と再生可能エネルギー(シンギュラリティナイト第11回レポート)

New Normal創造のために、各分野で先行する専門家を講師として招き、どのように世界をアップデートしていくのかを共に考えていく講座です

開催エリア:オンライン

イベント概要

イベント名 デジタルハリウッド大学公開講座「シンギュラリティナイト」第11回
日程 2021/05/11

今回のスピーカー磯野 謙さんは、自然電力株式会社代表取締役として、日本全国に太陽・風力などの自然エネルギーを導入する会社を経営しています。

ニュースで見聞きしない日がないほどに「脱炭素社会」「再生可能エネルギー」などの言葉が叫ばれるなか、現実はどのように進んでいるのか、私たちがいまできることは何か? をテーマに、お話いただきました。

豊かな自然を守るために行動する会社

風力発電や太陽発電の発電所を建設し、全国に電気を届けるのが、自然電力の仕事です。大学4年生で世界30か国を巡る旅をした磯野さんは、深刻な環境問題・社会問題を目の当たりにし、環境問題に取り組む仕事に就こうと決意しました。

「旅であったさまざまな経験で、自分が育った当たり前の豊かな自然が壊れつつあるということに危機を感じるようになりました」

その後、縁があって風力発電の会社に勤めることになります。しかし産業としても会社としてもまだ成長しきれず、2011年に福島の原子力発電所で事故が起こったことで、電気不足が日本でも現実となり、社会不安など大きな衝撃が国内に広がりました。風力発電所を作る仕事を20代を通して行ってきた磯野さんは、青い地球を未来につなぐために行動していく自分たちの会社として、「自然電力 株式会社」を立ち上げました。

「会社自体も組織の多様性を意識し、30〜40か国からクルー(社員)を採用しています。また、幅広い年代の人をとることも意識しています。

開発しているのは風力、太陽光、小水力、バイオマスなどによる発電力で、日本をはじめ8か国で事業を展開しています。日本国内では100箇所以上の発電所を運用しています。

気候変動と脱炭素問題とは?

気候変動・温暖化という言葉よく聞くと思います。その本質は「観測史上最高の暑さ」や「観測史上最強の台風」など、気候の変化が激しくなっているということです。その主な原因は、CO2排出率の伸び。GDPの伸びに比例して豊かな生活が送れるようになったなかで、CO2の排出が急激に増えて温暖化を加速させてしまいました。

「いま、パリ協定では気温の上昇を1.5度までに抑えようといわれています。2度の上昇と1.5度の上昇ではかなり差があります。例えば、僕は海も山も好きなのですが、2度上がったら珊瑚はなくなってしまいます。きれいな海を見たことがある人ならば、ショックではないでしょうか。東京も、気温が2度上がれば海に沈む場所が増えてしまいます」

「私たちがいまとるべきアクションは、この気候変動をストップさせること」と、磯野さんはいいます。そのためにはCO2排出を劇的に下げる必要があるのです。

ではどのようにCO2を減らせるのか。世界全体で見ると温室効果ガスの排出が大きなところで、電気・熱の生産が25%、農業・林業等が24%、輸送が14%となっています。私がかかわるのはこのうち電気・熱の生産ですが、フードテックなどが進むのは農業(とくに牛肉の食肉)が環境に与えるインパクトが大きいことに関連しています。また輸送は電気自動車などが代替しようとしている分野です。

100年に1度の社会構造の転換期

環境問題にも詳しい世界的に有名な文明評論家・経済評論家のジェレミー・リフキンは、人間社会は、技術の転換によって100年ごとに大きく社会システムが転換することを指摘しています。自然エネルギーとEV自動運転、インターネットによる情報網によって、いま、世界は21世紀における大転換期の途上にあります。

この環境における危機は、社会のシステムを変えるチャンスでもあります。アメリカ・ヨーロッパ・中国もその流れにある、と磯野さんはいいます。

「社会をカーボン・ニュートラルな状態に変えるのは大変なことですが、やることはシンプルです。省エネになる技術と、電化による燃料の変更、電気の生成を自然エネルギーにする、といったことで実現します」

世界情勢が変わるなか、日本の再生可能エネルギーの利用率は2018年度で16.9%(ダムによる水力発電が主力)です。先日、小泉環境大臣があと10年で再生可能エネルギーの採用比率を40%まで上げよう(現状目標は22-24%)と発言されたことから、目標値の変更が期待されています。

日本は自然エネルギーや電気自動車の分野で大きく遅れをとっていますが、これは、急激な技術進歩で、自然エネルギーに関わる製品や素材の価格下落を予想できなかったことが主な原因ではないか、と磯野さんは指摘します。 「私はこの業界にいて、なかなか自然エネルギーによる発電が進歩しないことをずっともどかしい思いで見てきましたが、コロナによるリモートワークやデジタル事業の推進、アメリカの大統領が交代しパリ協定に戻ったことにより、この1年で脱炭素社会への動きは大きく前進しました。このトレンドがいまの勢いのまま推進されれば、“気温上昇を1.5度までに抑える”こともできるようになるのではないかと感じています」

一人ひとりができるアクション

これまで、社会全体の目標値や脱炭素の手段について解説してきましたが、最後に、私たち一人ひとりができるアクションとはなんでしょうか?

まず「CO2排出量実質ゼロの電気を使うこと」。日本では電力自由化によって、その電気の内容を選べるようになりました。

それによりCO2排出量実質ゼロの電気を使う企業も増えています。例えばAudiの電気自動車は自然エネルギーによる電気が使われています。また虎屋、ブルーボトル、ロクシタンなどでは店舗で、自然電力の提供する自然エネルギーで供給された電気が使われています。

次に磯野さんが指摘したのは、温暖化対策とアート・デザインの意外な関係です。

「今回デジタルハリウッド大学でお話しさせていただくのをとても貴重な機会と感じました。その理由は、なかなか自分事として捉えにくいエネルギー問題を、アートの力により、『一人ひとりの問題であるという気づきが広がるのでは』と期待しているからです。私たちも、The Chain Museumとのコラボレーションで、唐津市の風力発電の上に小さなアートを置くというプロジェクトに取り組んだりしています。

また、日本でも2020年に展覧会が行われたアーティストのオラファー・エリアソンの作品に「Little Sun Charge」という、非電化地域に太陽光を届けるというアートプロジェクトがあります。このアートプロジェクトを私たちは自然電力利用を促進する啓蒙活動と考え、ナイジェリアで共同プロジェクトをさせていただいています」

ほかにも、電気自動車を使うと電気の内容について気にするきっかけになると、磯野さんは自分の生活を振り返り指摘します。電気を多く使うようになると、どの電気を使えば地球へのインパクトが少ないのか、わたしたちが考えるようになるからだ、そうです。コロナ期に注目度が上がっている自然の豊かな地方との二拠点生活を可能にするサブスクリプションサービス「SANU」の事業参加についても紹介されました。自然の中で生活することで、豊かな自然を残すためにどのように電気を使うか考えるきっかけになると考えながら、自然エネルギーを提供しているそうです。

環境問題は、この10年が勝負

磯野さんが最後に伝えたいという言葉は、2018年、国連気候行動サミットで事務総長から呼びかけられた言葉です。

「その言葉とは『今日を生きている世代が、地中温暖化の被害を受ける最初の世代であり、壊滅的な結果を避けるための策を打てる最後の世代でもある』というものです。環境問題はこの10年間に私たちがどのような行動をするかが勝負で、いま生きている子供やこれから生まれるであろう子供たちは、何かできるようになってからではもう手遅れになっているというのです。ですから、今日お話を聞いてくださったみなさんには、今日からぜひアクションしていただき、そして環境を変えていくことができればうれしいです」

(まとめ)自然電力が進める取り組みは、グリーン企業との協業や、アートと使った啓蒙活動など、地球に対してできることを、アートやデザインの面からもさまざまな可能性の拡がりを示唆していただいた講演でした。磯野さんによれば、現在日本の家庭では太陽光発電と蓄電器で8割がまかなえ、それが送電線を使う一般の電気を使うよりも安くすることも可能だといいます。地球へのインパクトを下げていくさまざまなアクションが取れる時代になっています。私たちも、できるところから取れるアクションをとっていきましょう。

磯野 謙

自然電力株式会社 代表取締役。
1981年長野県高山村生まれ。長野県、米ロサンゼルスで自然に囲まれた子ども時代を過ごす。大学4年次に30カ国を巡る旅に出て、そこで深刻な環境問題・社会問題を目の当たりにする。大学卒業後は、株式会社リクルートにて、広告営業を担当。その後、風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月自然電力(株)を設立し、代表取締役に就任。
慶應義塾大学環境情報学部卒業。コロンビアビジネススクール・ロンドンビジネススクールMBA。

シンギュラリティナイト公式サイト                    https://www.dhw.ac.jp/p/singularity-n/

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