PostScriptイベント後記

シンギュラリティナイト

公開日:2021/02/03

行政のDX化は民間とのフラットな関係で推進される(シンギュラリティナイト第8回レポート)

New Normal創造のために、各分野で先行する専門家を講師として招き、どのように世界をアップデートしていくのかを共に考えていく講座です

開催エリア:オンライン

イベント概要

イベント名 デジタルハリウッド大学公開講座「シンギュラリティナイト」第8回
日程 2020/12/08

デジタルハリウッド大学が主宰する公開講座『シンギュラリティナイト』。第8回のゲストは、NTTドコモ勤務の会社員から国会議員に転身し、現在は「デジタル庁」の立ち上げに着手する自民党デジタル社会推進本部の事務総長の小林史明さん。行政におけるDXの現状と未来について、小林さんに語っていただきました。

時代に沿ってルールを変えていくのが「規制改革」

NTTドコモに法人営業として働かれていた時代に、さまざまな「規制」によって企業活動が影響を受けることを実感し、法律を学びはじめた小林さん。それをきっかけに、時代に合わない形骸化したルールを政治の立場から変えていきたいと考え、国会議員に転身しました。「規制改革」とは、「時代に合わない法律を、時代に合ったルールに変えること」だと小林さんは説明します。私たちの身の回りでは、どんな規制改革が行われているでしょうか。ひとつの例として、2018年に実現した漁業法改正を挙げます。

「私たちはふだん、魚やうなぎが絶滅の危機に瀕しているというニュースを耳にしますが、何が原因なのでしょうか。センサーや魚網の改良が行われるにつれ、世界では漁獲量は倍になり乱獲が起こりやすくなっている反面、日本の漁業自体は衰退しています。そこには、養殖業に企業や個人が進出しづらい現状や、漁獲量がきちんと定められていないという背景がありました」

戦後間もなくに作られたままの規制を見直し、「サステナビリティ」「効率化」という現代の視点から改革されたのが、昨年12月に施行された新漁業法等です。これにより、「衛星から海の生き物を見守る」「IoTを使った漁業」など、先進的な技術活用も国内で可能になったそうです。

■行政や市民、専門家を巻き込みコーディネートしていく

現在多くの規制改革に注力している中でも、小林さんがもっとも力を入れているのは、デジタル改革です。

「近年、雇用統計や賃金統計に間違いがあったり、ごまかしがあったりしました。それ自体はよくないことですが、現場では人が減っているにも関わらず、いまだにアナログなやり方で“お役所仕事”が続いています。国家公務員の業務内容に見直しがされないままでは、負担が増えて間違いやごまかしが起こり続けることになります。構造を改善するには、必ずDXの推進をしなければなりません」

業務のデジタル化やDXの推進は、なぜ政府や行政にとっては簡単ではないのでしょうか。その理由のひとつは、まず、 昔作られてきたルールを放置してきたから、または諦めてきたからだと言います。

昭和の時代はモノがなく、インフラが整備されていませんでしたから、橋を架ければ街は発展することは明らか。市民は課題をわかっていて、解決方法もわかっていました。政治家は行政と市民の橋渡し調整する役割で、それはシンプルな関係でした。

一方、令和の時代は、モノもあるしインフラもある。問題はたくさんありますが、課題が見えない時代です。住民も課題がわかりません。たとえば人口減少が止まらない街。課題も解決方法もかわらない。そこで政治家の役割となるのが、『行政や市民、専門家を巻き込んで得意分野を持ち寄り、提案・コーディネートをすること』だ、と小林さんは指摘します。

その取り組み例として挙げたのが、小林さんの地元の福山市の街おこし。47万人の人口があり、優秀な企業が多くあるにも関わらず人口減少が続く市で、問題解決をするための「提案」をしました。

「何をすれば、住んで楽しい面白い街になるのでしょうか。サラリーマンの方から大学生まで集めて議論したところ、何もない川縁の原っぱに<家族で楽しめるバーベキュー場>や、<街中では禁止されているスケボーパーク>を作りたいという案が出ました。仲間を集め、市への提言もしながら、3年間でこれらのエンタテインメント施設の建設を実現できました。自分たちで街を変える自信がつくと、市民は自主的にプロジェクトをスタートさせるようになり、さらに街が活性化します。このように、政治と行政が一方的に物事を決めるのでなく、『街の人、域外の人とコラボレートし、政治課題を一緒に作る』というのがこれからのやり方だと思います」

芦田活部で主導して完成した河川敷のスポーツ施設。
施設にて皆で撮影。

■デジタル化によって地方からの改革も可能に

デジタル規制改革も、提案・コーディネート型で進めるという小林さん。「はんこの撤廃」も、 人事総務で実際に行政とのやりとりを業務とする人たちをSlackのチームに招いて議論し、その意見をもとに提案を行いました。そういった場作りと意見を引き出すコーディネート力が、政治家の仕事になってきていると言います。

「はんこの廃止を提案したのは今年の4月です。国がコロナ予防のためにテレワークを求めているのに、多くの勤め人がはんこを求めて出社していました。しかし実際に、そのはんこを求めていたのは、実は政府だったのです。

新しい政策実現には、3つのステップが必要です。このはんこ問題のように、まず第一に、これが社会全体の問題だと世間に捉えられることが必要です。次に、具体的な解決策を提案し(はんこの場合は電子署名)、そして最後に責任者が実行にOKを出すことです。はんこ廃止についてはすでに多くの企業トップはOKを出し、廃止に向けて動いています」

社会全体のDXを進めるには、まず身近なところからということで、 一昨年から局長を務めた自民党青年局(45歳以下の国会議員約50名、地方議員1325名)も昨年よりDXを進めています。DXによりメンバー間でフラットに情報交換できるようになり、情報力と政治力がアップ。さらに、デジタル活用によって地域ごとの距離の格差が縮まり、 地域から日本を塗り替えていくことが可能になると小林さんは言います。

「フラットな組織作りや、外部の人とのコラボレーションなど、域外の人や、より幅広い人材を受け入れることは、地域おこしにおいてもよい結果を生んでいます。同様に、組織の多様性、域外の知識や専門家とのコラボレーション、ダイバーシティは、強い組織を作るために必要です。ですから今日、このレクチャーを聞いている方にもぜひ政治に参画していただきたいと考えています」

■ 「手段」ベースから、「目的」ベースで進める改革

続いて小林さんは、行政のDXにおける課題についてお話しされました。現在、政府のシステムはデジタル化されていますが、各省間のデータベース同士は繋がっていません。また同様に、地方自治体の住民情報を含めた情報を入れるデータベースは、1781の自治体がそれぞれに開発運用しており、接続できていません。そのため、本来の意味で作業を効率化するようなデジタル化ができていません。

「みなさんは、今年の全国民への特別定額の実施に、どうしてあんなに手間と時間がかかったのだろうかと思っていませんか。その理由は、データがあっても活かせる形になっていないからです。国は、これを今後5年間で改めます」

今後、地方のシステムは共通化され、クラウドに置かれます。また、税の仕組み、介護の仕組み、保険の仕組みといったものがアプリケーションとして、SaaS(Software as a Service)的に利用できるようになる予定です。システムの共通化によって国民が書類を提出する手間が減り、個人が使える助成金や補助金もスマホで申請が可能になる、そんな未来を小林さんは描いているそうです。

「共通システムでデータベースが一元化できれば、アプリケーション開発は、大手ベンダーでなくても、地域の企業で担うことが可能になり、フェアで使いやすく、みんなにチャンスのあるマーケットになっていくのではないかと思います。行政のデータを民間の企業に活用してもらい、新しいサービスをビジネス化してほしいですね」

そのために、小林さんが進めるのがデジタル規制改革です。先にご説明したはんこ廃止によって、約1万5千種類の手続きが、はんこなしで可能になります。しかし、はんこ以外にも日本の法律は、デジタルによる効率化を阻害する慣習がいくつかあります。「書面で提出」、「対面の本人確認」……これらを1つ1つ法改正していては時間がかかりすぎます。こういった慣習を一気通貫で見直し、「手段」ベースから、「求める目的」ベースに書き換えようとしています。求める目的を実現できるなら手法を取り払える。それはイノベーションの障害を取り除くことに繋がります。

民間のみなさんに、どこがどう変われば、もっと仕事がしやすくなる、生活が便利になるという声をいただきたいです。 たとえばお隣の韓国では、地図サイトを開いてクリックすると、その土地にかかわる法律や規制が全て見られるサービスがあります。こういったものは、国のデータベースを整理して民間に活用いただくことで、どんどん可能になっていく。日本の多くの問題を解決するようなイノベーションをどんどん生み出していきたいですね」


行政のDXで、あらゆる世代に積極的に政治に参加してもらい、未来を一緒に作っていきたいと語る小林さん。一方通行でなく、行政と民間が共同で政治を行っていくフラットな時代だからこそ、デジタルハリウッドの卒業生・修了生のような、デジタルの知識を備えた若い世代に大きなチャンスがあるかもしれません。

小林 史明

自民党デジタル社会推進本部事務総長、自民党前青年局長。元総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官。「テクノロジーの社会実装によりフェアで多様な社会を実現する」を政治信条とし、規制改革に注力。第3次安倍改造内閣・第4次安倍内閣においては、総務大臣政務官兼内閣府大臣政務官として、電波・放送・通信関連の規制改革を推進し、楽天の新規参入、携帯キャリアのいわゆる2年縛りの是正など、政策面から通信業界の健全な競争環境作りを実現した。また、自民党行革推進本部で規制改革チーム座長、デジタル社会推進特別委員会で各種小委員長を務め、漁業改革、公務員制度改革、デジタル規制改革をもたらす提言をまとめた。社会における規制改革をもたらす提言をまとめた。先日デジタル社会推進本部事務総長として、デジタル庁創設に向けた提言をまとめた。 広島7区、3期目。広島県福山市出身。

シンギュラリティナイト公式サイト                    https://www.dhw.ac.jp/p/singularity-n/

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