PostScriptイベント後記

公開講座

公開日:2020/09/24

AIは人間の創造力を拡張する可能性を秘めている (シンギュラリティナイト 第2回レポート)

New Normal創造のために、各分野で先行する専門家を講師として招き、どのように世界をアップデートしていくのかを共に考えていく講座です

開催エリア:オンライン

イベント概要

イベント名 デジタルハリウッド大学公開講座「シンギュラリティナイト」第2回
日程 2020/07/28

デジタルハリウッド大学が主宰する公開講座『シンギュラリティナイト』は、全20回、2年に渡って実施されることを予定された、イベントシリーズ。シンギュラリティに到達した未来について考えていこうという、この連続講座の第2回目は、AIと創造性の未来との関係性について、アーティストの徳井直生さんにお話いただきました。

AIで仕事がなくなる?

徳井さんは、東京大学工学部で博士課程を修了した研究者であり、慶應大学大学院政策・メディア研究科の准教授であり、そしてアーティストでもあります。

アーティストとしては、AIを用いたインスタレーション作品で知られており、AIと自身の発想を掛け合わせた作品を発表しています。そこで、今回のテーマは、「AIと創造性の関係について」です。徳井さんは次のように説明します。

「僕は自分の会社をやりながら、大学でも教えているのですが、自分は何者かといわれればアーティストとして認識しています。研究分野としてはコンピューテーショナル・クリエイティビティというものになります。コンピュータ上に創造的な振る舞いをするシステムをつくることによって人の創造性について調べたい、そしてアーティストの創造のプロセスを拡張したいと考えています」

徳井さんは講義の本題に入る前に、1つのアンケートをとりました。AIは人間の代わりにクリエイティブな仕事もできるようになるのか? それともAIには表現はできないのか?

しかしAIはこのどちらでもないと徳井さんは言います。その理由を、今回の講義のなかで自身の作品や活動を紹介することで解き明かしていく、とおっしゃいました。

過去の模倣でない表現をAIで可能にするには

聴講者アンケートでは「AIはものづくりをするようになり、アーティストが仕事を失う」という回答が多かったのですが、これはニュースでAIの進化がたびたび報道されている影響もあるでしょう。

例えば、最近では「AIによってレンブラントの新作が描かれた」や「過去の実在する歌手の声をAIで再現し、過去に歌ったことのない曲を歌わせた」といった、過去の作品をAIが機械学習してそれと同じ表現力で新たな作品を創造するという事例が、たびたび紹介されています。

the Next Rembrandt ProjectがAIに描かせた絵画。

Open AIのJukebox。アーティストやジャンルを指定すると、サンプルを出力する。

研究者のあいだでも大きな話題となり、AIによるものづくりについて議論が巻き起こりましたが、このような事例は徳井さんがつくっているAI作品とは方向性が違う、と言います。

「(下図の)円におさまる範囲でAIを使って過去につくられた何かを模倣するということになります。僕が考えているのは、すでにつくられたままの表現ではなく、そのスキマや外側にある新しい表現をつくるにはどうするのか、ということです」

そこで徳井さんが紹介したのが、Google傘下のAI企業が開発し世界チャンピョンを破ったコンピュータ囲碁プログラムAlpha Goです。2015年、Alpha Goと対局して敗れた世界チャンピオンは、対戦後に「自分の知っていた囲碁の世界は、全体の一部でしかなかった」という発言をしたそうです。そして、その後AIとの対戦手法を自分の戦略にも取り入れたといわれています。こういった「世界を広げること」が、音楽や絵画の世界でもできるでしょうか。

人間の既知の枠を超えていくという意味では、クリエイティブ表現において難しいのは、何が「よい表現か」「新しい表現か」ということを、囲碁のように客観的には評価しづらいという点です。また、レンブラントに近い絵を学習して模倣することはできますが、絵画の歴史のなかでピカソが「キュビズム」という手法を生み出したように、AIそれ自体が新しい表現方法を生み出すということは難しいだろうということを、徳井さん自身の問題意識としてあげています。

これらを踏まえた上で、

・人の創造性との掛け合わせ

・偶然性の導入

・他の尺度の導入

という切り口をもとに、徳井さんのAIを使った作品の紹介と解説が行われました。

人の創造性との掛け合わせ:AI DJプロジェクト

AI DJプロジェクトは、徳井さんが「自分ではない自分といっしょにDJをしてみたい」というアイデアからスタートしたプロジェクトです。

「自分の手癖みたいなものを壊し、新しい表現を模索するという意味で、人間のDJとAIのDJがBack to Back(1曲ずつかける、掛け合いの手法)で、レコードを使いステージでDJを行いました」

このAI DJは、観客の反応や、相手のDJに呼応して選曲を行なえます。ミックスのしかたや曲のタイミング合わせもAIが行っています。観客の反応はカメラから人間の身体のゆれを見て、判断します。

また、AI DJの選曲アルゴリズムは、ありきたりなものにならないように、曲そのものが持っている雰囲気を数値化して分析し、曲のジャンルや使われている楽器、気分などを判断・学習できるようにしています。

偶然性の導入:Israel & イスラエル

2つめの事例としてあげられたのは、世界的なフラメンコダンサーであるイスラエル・ガルバンとYCAM(山口情報芸術センター)とのコラボ企画で、徳井さんのAIのタップダンサー“イスラエル”と実際のイスラエル氏が共演し、舞台を創出したこころみです。

徳井さんは、フランメンコの音楽性の基礎にある「サパテアード」というタップダンスに注目し、ガルバン氏のステップを専用ブーツのセンサーで収集し、学習したモデルと交互に踊る、ダンスのBack to Backのスタイルを提案しました。

制作プロセスのなかで苦労したのは「自分の劣化コピーはいらない」というガルバン氏の強い要望と、フラメンコの要素を取り入れて学習させた結果をたびたび「これはフラメンコっぽすぎてつまらない」と言われてしまったことでした。

「いかにダンサーの動きを学習しながら、そこから外れていくのかが課題でした。テクニカルな部分は詳しく解説しませんが、その対応として、偶然性を入れていくということをしました」

結果、公演初日にはガルバン氏から、“人間でもなく、もちろんフラメンコ・ダンサーでもない、なにか未知の生物と踊っているような気がしてステージにひとりで居ることを忘れた”という好意的な感想をもらうことができたそうです。

他の尺度の導入:GANsのリズムマシーン

AIを使って新しい要素をもつ表現をつくり出すために、どういうフレームワークが考えられるのか。徳井さんは現在、「他の尺度を取り入れる」というやりかたに取り組まれています。

「現在のAI表現は、AIで教師データ学習を行なわせると、生成されるものが既存の模倣になってしまうため、新しいものを生むことが難しい、という課題があります。ではAIが得意な評価尺度を導入することで新しい表現を結果的に生み出すことは可能だろうか、と考えました」

ここで徳井さんが事例としてあげたのは、AIを制作手法に用いているアーティスト、トム・ホワイト氏の作った「パーセプション・エンジン」という作品です。丸や線といった図形をランダムに並べて絵を描いてき、それを画像認識のソフトウェアにかけて、例えば扇風機であれば、扇風機として認識される確率が高くなるように丸や線を動かしていくことで、扇風の持っている特徴をとらえた絵が出来上がります。

「ここで面白いのは、人間の絵画を真似したのではなく、新しい抽象表現が生まれている、と言えるところです」

徳井さん自身も“他の尺度”を取り入れるべく、存在しないリアルな人間の顔写真を生成して有名になったGANs(Generative Adversarial Networks/敵対的生成ネットワーク)を、作品作りに導入しました。

徳井さんが作ったエンジンは、ジャンルを指定してダンスミュージックのリズムを生成するというものです。様々なジャンルのダンスミュージックを機械学習させてリズムを生成するだけでは、既存の音楽の模倣に過ぎません。そこで、徳井さんは既存の識別器の他に、もう1つ識別器を追加しました。


「元々の識別器は、自分が聴いているリズムが元々の学習データに合った本物か、生成器によって作られた偽物なのか判別するものです。新しく追加した識別器は、ハウスなのかテクノなのかといった、音楽のジャンルを識別します。この時、生成器には識別器をできるだけ混乱させるように、機械学習を進めていきます。そうすると、オリジナルの生成器はあるのでダンスミュージックっぽさは残りますが、過去になかったリズムパターンが生まれやすくなるのです」

実際に生成されるリズムパターンは、たしかにどのようなジャンルに属するのかわからない、ちょっと聴いたことがないようなユニークなものでした。

表現の未来について考える

AIの能力がシンギュラリティに近づいているなか、表現者やクリエイターは、未来をどう考え、未来に対してどう準備すべきでしょうか。

徳井さんは、写真の歴史にそのヒントを見出しています。

1839年に生まれた写真の技術は、実は画家によって発明されました。カメラの原型である「カメラオブスキュア」は画家がパースをとるためのオートメーションのようなものだったからです。写真が発明されリアルな像が撮影できるようになると、当初、盛んに撮られたのは「肖像」と「風景」でした。当時の風刺漫画にも、肖像画家や風景画家の仕事がなくなっていった様子が描かれています。

一方で、リアルさでは絵画に勝る写真が普及したことで、絵画の世界では逆にぼやけたようなタッチで心の印象を描く「印象派」という潮流が出てきます。さらに一部写真家の間では、印象派に影響をうけてぼけた写真を撮るようなピクトリアリズムというムーブメントが起きました。

「つまり新しい表現方法が出てくると、それに影響される人が常に出てきて、それに呼応してまた新しい表現が生まれるという歴史があるのです。このような経緯をみれば、AIが作品づくりのプロセスに使われるということが当たり前になってきてもおかしくないと考えています」

AIは人間の表現を拡張することができるはず

徳井さんが考える未来のAIは、AIが仕事を奪うのではなく、AIが仕事のやりかたを変えるというものです。オートメーション化される部分や量は分野によって違っても、AI技術が進むとクリエイターが不要になるのではなく、お互いがインスパイアされる存在になると考えられています。

では、AIをうまく活用して創造性に役立てるためには、どうすればいいのでしょうか。

「私はAIを、ものごとを効率化、最適化するだけでなく、既知の領域のスキマや外側の部分を賢く探索させることができるツールだと考えています。創作についても、AIにオルタナティブな解を求めることが大切です。そして、AIがつくり出したものが外れすぎていないか判断したり、評価基準そのものをアップデートしていくということが人間のあらたな仕事になってくると思います。それはAIにできないことです」

いかがでしたか。「シンギュラリティ」は一般にAIが人間を凌駕すると考えられがちですが、徳井さんの提案の中には、人間の可能性を拡張しながらも、人間がAIをうまく使うための道筋やヒントが多く含まれていそうです。

シンギュラリティナイト公式サイト

https://www.dhw.ac.jp/p/singularity-n/

▼過去のレポート記事はこちら

「目先のテクノロジーにとらわれず、100年後のビジョンを見据えよ」 デジタルハリウッド大学公開講座 シンギュラリティナイト 第1回レポート
ゲスト:林 信行さん

(プロフィール)

徳井直生

アーティスト 慶應義塾大学 政策・メディア研究科(SFC) 准教授 / 株式会社 Qosmo 代表取締役 / Dentsu Craft Tokyo, Head of Technology Computational Creativity and Beyondをモットーに、AIと人の共生による創造性の拡張の可能性を模索。AIを用いたインスタレーション作品群で知られる。また、AI DJプロジェクトと題し、AIのDJと自分が一曲ずつかけあうスタイルでのDJパフォーマンスを国内外で行う。2019年5月にはGoogle I/O 2019に招待され、Google CEOのキーノートスピーチをAI DJによって盛り上げた。東京大学 工学系研究科 電子工学専攻 博士課程修了。工学博士。

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