PostScriptイベント後記

シンギュラリティナイト

公開日:2020/11/09

“愛される会社”を作るために、地球視点でのデザイン思考を持とう(シンギュラリティナイト 第4回レポート)

New Normal創造のために、各分野で先行する専門家を講師として招き、どのように世界をアップデートしていくのかを共に考えていく講座です

開催エリア:オンライン

イベント概要

イベント名 デジタルハリウッド大学公開講座「シンギュラリティナイト」第4回
日程 2020/09/15

デジタルハリウッド大学が主宰する公開講座『シンギュラリティナイト』。第4回となる今回は、KESIKI INC. パートナーの石川俊祐さんによる「愛される会社の作り方」についてお届けします。

デザインとは既成概念を疑う作業

今回のテーマである「デザイン思考」とはいったいなんでしょうか。

「そもそもの成り立ちが“De-sign”ということで、既存の価値や概念、今あるものを疑ってもいいんだよというのが出発点になっています」と、石川さんは説明をスタートします。

今目の前にあるモノ、体験、会社、働き方、モビリティ、食、これらは本当にふさわしい形であり、豊かさを人間に与えているのだろうか、あるいは自然にとっても本当によい形であるのか、そういった既成概念を壊すというところが、デザインの背景にあります。

石川さんにとってデザインとは、形、色、素材、だけではなく、前提となる「そもそもなにを作るんだ?」というところが含まれている概念なのです。

「形のあるものと形のないもの、空間、雰囲気、あるいは人の気持ちみたいなものまでがデザインする対象になっているのです」

ではなにをどうデザインしようと決めるのか。石川さんは、10年近くイギリスでデザインを学びましたが、その際に自分なりの「解釈」と「問い」を立てることが、デザイナーの根本的な能力だと知ったと言います。問いを立てるのは「自分の目で見て観察して違和感を捉える」ということです。

卒業後、石川さんはアジアや欧米を含めた世界を舞台にデザインの仕事をスタート。多くの経験を重ねたあと、「デザインという概念をもう一度日本で再定義しよう」と決意し帰国しました。

まず人から始まるデザイン思考

デザイン思考の概念。まずPeople(人)からスタートし、その先にBusinessとTechnologyがあることに注目

石川さんの言う「デザイン思考」はまず「People」から始まります。

もちろん、ものごとを解決するのに技術(Technology)は必要ですし、持続可能性を高めるビジネス(Business)の視点も必要です。ただしその時にきちんと人からスタートしないと、誰のためのものなのか、本当に必要とされているものなのかがわからなくなってしまう恐れがあります。

さらに、今の時代は人だけではなく地球全体のことを考える必要があります。

地球全体のことを考えた時に、どういった技術でなにを実現するのか、そしてそのなにかを維持する方法をビジネスとして思考しなくてはいけない時代になっているのです。

「これからお話したいことは、中・長期的に大きなチャレンジとして弊社KESIKIが掲げている”愛される会社・人々のやさしさがめぐる経済”ついて。そして、それを実現するためのポイントとなる3つの大きなデザイン指針です」

「愛される会社」とは。カルチャーとエクスペリエンス

石川さんは現在「愛される会社」を作り、増やし、そしてその会社を長期的に持続可能にするためにはどうすればいいか、というチャレンジをしています。

その背景として、以下の4つの世の中の潮流(VUCA)を挙げられます。

・Volatility(変動性・不安定さ)
・Uncertainty(不確実性・不確定さ)
・Complexity(複雑性)
・Ambiguity(曖昧性・不明確さ)

この先なにが起きるのかわからない世界で仕事をし、幸せに生きていこうと思った時に石川さんは、これまでの会社の作り方や、デザインの仕方、事業の生み出し方がどうやら通用せず、誰も幸せになれないんじゃないかという思いから、より幸せで生産性もクリエイティビティも高くて、持続性のある会社を作ることを考えたのです。

そこで「愛される会社」をどのようにデザインし経営していくかについて、自分たちなりのメソッドに落とし込む作業を行いました。

ではそのプロセスを見ていきましょう。まずはその会社の存在意義、自分たちのPurpose(意図・目的)がなんであるのか、それを実現するためにはどういうOrganization(組織)であるべきか。そこではどのようにStakeholder(従業員、関係各社)が関わってくのかということをきちんと思考するところから始めます。

その確認を前提とし、右側のExplore(探求・リサーチ)、Focus(問いの設定)、Prototype(体験の具現化)、Circular(ビジネスモデル)、そして最終的なOutput(製品・サービス・体験)を生み出していくという流れになります。

左側のカルチャー、つまり我々はこういう会社になりたい、あるいはこういう思いで世の中に存在しているということと、右側のエクスペリエンス、つまり生み出しているプロダクトが一致している状態が、社員にとってもユーザーにとっても「愛される会社」になるということなのです。

これまでは図の主に右側のプロダクトやサービスにのみクリエイティブな思考やデザインが使われてきましたが、実は左側の会社そのものをデザインの対象としてみると、作りながら考える、問いを立てながら進むといったクリエイティブな思考やデザインを使えることがわかったのです。

「我々はプロダクトもサービスも含めた会社というものを一人の巨人のようなものという捉え方をしています。会社が巨人だったとしたら、やっぱり性格が良いほうがいいし、普通のサイズの動物とも共存できるような人格であってほしいと考えます。実はそういうものがデジタル化によって透明性が増した時代においてはすごく重要になってくるので、このあたりに踏み出すことで幸せのパイを上げようと試みています」

なぜ、企業にカルチャーが重要なのか?

なぜ「愛される会社」にカルチャーが重要かというと、このVUCAな時代には自分の働き方、生き方の選び方において会社がすごくわかりやすい性格をもっているからです。自分にあった、自分らしくいられる会社が見つかることと、そこで自分の能力を発揮できることは密接に結びついていますし、幸せに生きるということにもつながります。

そういう意味でカルチャーデザインというものが愛される会社の軸になっていきます。

この会社のカルチャーがあるからこういう働き方ができ、左側と右側がぐるぐる回転して新しいものが生まれ続けるのです。

3つの DESIGN PRINCIPLES

ここからは「愛される会社」を作るのに必要な3つのポイント、PURPOSE、ORGANIZATION、STAKEHOLDERについての説明です。PURPOSEには2つの点があるので、石川さんは4つのポイントをあげます。

・PURPOSE-目的(1):ASK LIKE AN ARTIST / DESIGNER(アーティスト/デザイナーのように問いを立ててみよう)

なにを生み出すにも大事なのは、たとえそのような空気ではなかったとしても、違和感をもったらその瞬間に「そもそも〜ってどうなんでしょう?」とアーティストやデザイナーのようにはっきりと言う勇気です。

例えばソニーのウォークマンは、そもそも音楽って移動しながら聞くものではないけど、「本当は移動しながら音楽を聞きたい」という素朴な思いに見事に応えました。

次の図は直感的な違和感から問いを立てることの重要性を示したものです。縦軸が「問う(Question)」と「解く(Solution)」、横軸が「左脳(Intelligence)」と「右脳(Emotion)」を表しています。

従来のデザイナーは右下に位置付けられます。様々な要望に応え、右脳を使いクリエイティブに解いていくという作業です。

シンクタンクや研究所などは、左上になります。左脳を使って分析し課題を提示します。

同じく左脳で分析し様々な問題解決を行うのが左下のコンサルティングファームになります。

そして、観察することによって直感的に違和感を見つけ、未来につながる問いを立てるのが右上のアーティストでありデザイン思考なのです。石川さんはこの右上の部分がないと未来を鋭く捉えることができず新しいものが生まれにくいと主張します。

この図を新しいオフィスのデザインにあてはめてみましょう。右下のデザイナーは要望にあわせたデザイン案が出てくるでしょう。左上のコンサルからは効率や生産性の向上といった問題解決が提示されるでしょう。しかしそこから新しい発想は出てきません。

新しい発想というのは、人間を観察することによって生まれる「どこからどこまでがオフィス?」、「そもそも働くってなんだっけ?」、「そもそもオフィスって必要?」といった違和感から来る問いから出てくることが多いのです。観察眼と違和感を捉える力が非常に重要なのです。

・PURPOSE-目的(2)::EXPLORE LIKE CHILD(子供のように探求しよう)

この言葉は、探求と観察によって自分なりの違和感を感じる力がつけば、それを通してはじめて自分の主観となり、「本当は〜したい」という問いが作れるようになれるという話です。

問いを立てるためには、一直線に走るのではなく、一見寄り道や無駄足と思われるような探求や、いろいろなことを体験、観察するということをプロセスに取り入れることが大切です。

このように「拡散」と「収束」という癖をつけていくことによって、自分がなにをしている時にでも、その体験を自分の問いやテーマに落とし込み自分なりの違和感を見つけ、そこから主観が生まれて問いが成り立っていくのです。

「メタ認知しながら自分なりの言語化をして主観を作るということです。これを癖にすることがとても大事、そこからやりたいことが生まれてくるのです」

・ORGANIZATION-組織:LEAD LIKE SHEPHERD(羊飼いのように導こう)

次は組織をどうファシリテートするかというリーダーの役割についての話です。SHEPHERDとは羊飼いのことですが、羊飼いに率いられた羊たちの生活は、草を食べたり運動をしたり、とても自由です。とは言えしっかり仕事もしています。それをモデルにした考え方と言えます。

これからのリーダーは、新しいものを生みだし、カルチャーを育くみ、自分や社員の幸せも考えていかなければなりません。リーダーシップの役割も羊飼いのようになるのではないかということです。

なぜなら、人々の働き方がリニアなものではなく拡散・収束し、作りながら考えていくという従来のような予測を立てにくい働き方に変わっていくからです。

その時にクリエイティブなリーダーシップは、単にやることをメンバーに与えるのではなく、環境のみを与えて自分らしく働くということをどうデザインできるかが求められるようになるのです。

・STAKEHOLDER-ステークホルダー:EMPATHIZE LIKE A BIG FAMILY(大家族のように共感しよう)

最後のポイントは大家族のように共感する力です。社員として会社で仕事をしたり、また経営者として自分の会社で働いていると、どうしても自分の会社がいちばん大事になってきますが、実は下請けの会社が虐げられていたり、プロダクトが環境に悪影響を与えているということも起こってきます。

すべてにおいて透明性が上がり、トレーサビリティが高くなっている現在、そこは確実に会社の評価に関わってきます。

「愛される会社を目指すなら、ステイクホルダー関係者各位が今どういう状態にあるのか、自分の大きな拡張ファミリーとして考えてあげなければいけないのです」

これまで会社にとっていちばん大事なのはお金を払ってくれる顧客でした。もちろん今でも大事なのですが、そのために社員が休みもなく必死で働いていてはモチベーションも低くなり生産性も下がります。

そうではなく社員全員が、なぜ自分がこの会社に存在しているのか、会社の目的はなにか、そのプロセスとしてなぜ今それをやっているかが明確で、全員がいきいきしている状態の方がいい状態です。

そのためには、顧客と同じくらい、またはそれ以上に社員も自分たちの会社を愛せるようにデザインする必要があります。もちろんステイクホルダーとの関係性もそうですし、地球に愛されているかということも愚直に考えなければなりません。

まずは愛される会社をデザインし、次にその会社同士のつながりをデザインします。そうすることで経済全体もデザインでき、今までと違った思いやりをもった「やさしさがめぐる経済」が実現するのではないか、というのが石川さんの今の目標なのです。

冒頭に紹介したデザイン思考の図をもう一度見てみると、人間、テクノロジー、ビジネスという部分に、実は生物や環境、LIFEというものがステイクホルダーに入っていることがわかります。

「今後地球市民として、どのように愛される会社をデザインしていくのかということを考えるのは大事なこと、それを実現するための4つのポイントを重点的にシェアさせていただきました」

(プロフィール)

石川 俊祐

KESIKI INC. パートナー 多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム 特任准教授・プログラムディレクター 英Central Saint Martinsを卒業。Panasonicデザイン社、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。Design Directorとしてイノベーション事業を多数手がける。BCG Digital VenturesにてHead of Designを務めたのち、2019年、KESIKI設立。NTT Communications KOEL、Career Incubation、CCCなど複数社のアドバイザーを兼務、英国D&ADやGOOD DESIGN AWARD、香港DFAの審査委員なども務める。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』。

シンギュラリティナイト公式サイト                    https://www.dhw.ac.jp/p/singularity-n/

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