Interviewインタビュー

No.59

公開日:2023/03/15 

価値観をアップデートし、「次の普通は何か」をキャッチする。起業経験から得た、人の役に立つためのビジネス哲学

プロデューサー営業推進部長講師 デジタルハリウッド大学大学院

No.59

メルカリ株式会社 セキュリティ戦略チーム
浅枝大志さん(デジタルハリウッド大学大学院修了)

デジタルハリウッド大学大学院在学中に起業し、会社経営に携わってきた浅枝大志さん。現在はメルカリ株式会社に在籍し、新たなキャリアを築きつつあります。起業家と会社員、双方の視点を持つ浅枝さんが考えるアントレプレナーシップ、ビジネス哲学についてお話を伺いました。
(※このインタビューは2022年12月当時のものです)

起業家としてぶつかった「20人の壁」を越えるために

Q
浅枝さんには、2021年にもインタビューに登場していただきました。当時は株式会社ミラティブで営業推進部長をされていましたが、2021年8月からはメルカリ株式会社にお勤めとのことです。どのようなキャリアプランから、お仕事先を選んでいるのでしょうか。
A
僕はデジタルハリウッド大学大学院在学中に起業し、就職経験もないままベンチャー企業を経営してきました。これまで本気で立ち上げた会社は2社。ひとつは、仮想空間サービス『セカンドライフ』を展開するメルティングドッツ、もうひとつはアメリカで創業したソーシャル音楽サービスのスタートアップ企業Beatroboです。

ですが、どちらも社員が20人くらいの規模になった時に、壁にぶつかったんです。周囲からは「また起業すれば?」と言われますが、前2回の失敗に対する解決策を見いだせないまま起業しても、また20人の壁にぶつかるはず。なので、社員20人以上のベンチャー企業で働き、自分に足りないものを見つけようと思いました。

それに、ベンチャー企業って達成感がなかなか得られないんです。「誰かにこの体験をしてほしい」という思いから新しい製品・サービスを生み出しても、すぐに次やるべきことができて役に立ったという実感がない。自分が本当に世の中に役に立つことをしているのかという漠然とした不安も感じはじめていました。そこで、自分が役立つことをしていることを実感できそうで、なおかつ20人以上の規模感で急成長している株式会社ミラティブに入社しました。

Q
規模の大きい企業に入社し、どんな発見がありましたか?
A
まず、恥ずかしながら自分が意思決定者ではないという経験が初めてでした。これまでは僕が経営者でしたから、自分で最終責任を取るのが当たり前でした。でも、いわゆる中間管理職の立場だと、「こういうことをやるべきです」と言っても「え、どうして?」と言われてしまいます。ファクトや数字を示し、背景や文脈を知らない相手が求める形で上司の耳に入れておくことが重要なんですよね。会社員にとっては基本中の基本ですが、僕は就職経験がなかったのでそれがわからなくて(笑)。他にも、効率的な組織運用について学び、次にもう一度起業する時は、100人規模までの組織は想像できるようになりました。

ミラティブが上場するまで在籍しようと考えていましたが、そんな中、声をかけてくれたのがメルカリでした。グローバル展開をするために、日本語と英語ができて、ゼロイチで事業を立ち上げた経験があって、ITに強い人を探しているということで、あまりそういう人がいなかったようです。僕としても今度は2,000人規模の上場企業に入社するのは、初めてのこと。自分がゼロから起業して20人規模に育てた経験、50人から数百人規模に成長するであろうミラティブでの経験に続いて、日本有数のIT企業で、なおかつ海外展開にチャレンジする機会はそうそう得られないだろうと思い入社を決めました。

Q
現在は、メルカリでどんなお仕事をされているのでしょう。
A
入社当時は、グローバル戦略チームとして世界中をまわりました。現在は、お客様の個人情報や金融情報を守るセキュリティ戦略チームに在籍しています。チームメンバーに外国人メンバーも多いため、日本語と英語を駆使してハブのように動きつつ、重要な戦略提案にも携わっています。サイバーセキュリティのプロフェッショナルに囲まれる毎日で、本来は専門外の領域ですが、「どうすれば自分が役に立てるか」という考えで働いています。

「次の普通は何か」を考える

Q
新たな経験を積み、今度はさらに大きなスケールで起業しようと考えているのでしょうか。
A
いつかそのタイミングが来るかもしれませんが、起業するために今の仕事をしているわけではありません。僕が起業する基準は、「この領域については僕が世界で一番詳しい。寝ても覚めても世界で一番そのことを考えている。これを必要としない世の中は間違っている」と言い切れるくらい自信があるかどうか。そういうものが出てきた時、我慢できなくなって、また起業するのだと思います。

過去2回、起業した時もそうでした。『セカンドライフ』を展開する時は、今後必ずインターネットは3D化して、すべての人がアバターを使い、仮想空間に住むようになると思いました。実際それは近づいていて、今はメタバースがそれに近い世界を実現しようとしていますよね。Beatroboでは、「日本の音楽業界は間違っている。いつまでもCDを売り続けるのはおかしい」という考えのもと、音楽がストリーミング化したあとの世界を見据えてサービスを立ち上げました。当時の思いは、今も変わっていません。そういう一生ものの思想が僕にとっては大事で、とりあえずトレンドに乗るとか、儲かりそうとかでは僕は起業しないと思います。

Q
メタバースや音楽ストリーミングサービスなど、将来のテクノロジーも予見したうえでビジネスを立ち上げていたんですね。浅枝さんは、どのように未来を見ているのでしょう。
A
「次の普通は何か」を考えます。なくてはならない製品・サービスで、まだみんながやってないこととなると、結果的にテクノロジー系になりやすいのだと思います。
Q
「次の普通が何か」がなかなかわからないため、ビジネスを始めようという人たちは苦戦しているのではないかと思います。
A
そういう人たちは、心の底からその製品・サービスを求めていない可能性があります。例えば「メタバースをやらなければ」と取り組んでいる大企業の人たちが、本当にメタバースを必要としているかというと疑問です。給料もよくて、家族もいて、土日は友人とキャンプに出かける生活をしていたらメタバースなんて要りませんから。でも、体が不自由な方にとっては、自由に移動して会いたい人に会えるメタバースは素晴らしい空間です。『セカンドライフ』が流行った時も、トランスジェンダーの方から「ここなら見た目を気にせず、自分らしく過ごせる」という声を聞きました。事業を立ち上げるには、「何かが足りなくて苦しんでいる人たちが、不自由なく過ごすには何が必要なのか」という視点が重要なのだと思います。
Q
先ほど浅枝さんは「役に立ちたい」とお話されていました。その気持ちとも重なりますね。
A
そうですね。僕は基本的に、お金のために起業したことはありません。「これは世の中にあるべき」と思う製品・サービスを作っているだけです。誰かがすでにやっているなら、それでいい。それを喜んで使います。「放っておいたら、僕が生きているうちに誰も作ってくれなさそうだな、困るな」と思ったら、自分がやる。そういう基準で動いています。

全世代に友達を作り、「普通」をアップデートする

Q
2022年にはデジタルハリウッド大学で「イノベーター論」の講義をされていました。こちらでは、どんなお話をされたのでしょう。
A
ゲストをお招きして、「令和転生」をテーマに話をしてもらいました。今の記憶を持ったまま、20歳に生まれ変わったら何をするか、僕が面白いと思う20~60代の方に語っていただきました。受講生は20歳前後なので、聞いた話を20歳として実際に行動に移すことが可能なわけです。海外に行く、新しい事業を仕掛ける、英語を学ぶ、アイドルのオーディションを受けるなど、いろいろなことを話していただきました。

毎回課題も出しました。例えばスクウェア・エニックスの元社長・和田洋一さんがゲストの時の課題は、「もし、何のしがらみもなく1兆円、1000億円、100億円、10億円をもらえるとしたら、四択のうちどれを選びますか?なぜですか?」。最後の授業では、なぜその課題を出したのかという意図を説明し、「君たちはこう答えたけれど、出題者はこういうところを見ているんだよ」と種明かしもしました。

Q
浅枝さんは、もし今20歳になったら何をしますか?
A
実を言えば、僕自身は授業でその話をしていないんです。でも、何をするかな……。たとえば、今後人口減少に伴い、日本の国力が弱っていくのは確定なので、それに備える動きをすると思います。そうなると、おそらくインターネット上、しかも日本語ベースではない空間で活動しそうな気がします。日本観光英語YouTuberでもやるかもしれませんね(笑)。あと、英語のゲームを、子どもと一緒にYouTubeで実況するチャンネルも面白そうです。英語教育とゲーム実況を兼ね備えたYouTuberという新ジャンル、とか?いずれにしても、日本に依存しない環境を用意すると思います。
Q
講義を通して大学生に向き合った感想は?
A
講師を引き受けた時、テーマがふたつありました。ひとつは、これまでイノベーター論の担当講師をされていた杉山学長のビジョンを何らかの方法で継承すること。もうひとつは、僕自身が10代、20代と接点を持つことでした。授業はすべてオンラインだったので、授業終了後におしゃべりとかがあまりできなかったのはちょっと残念でしたけどね。
Q
10代、20代と接点を持つことで、得られるものは何でしょうか。
A
先ほどの話とつながりますが、「普通」をアップデートできるんです。例えば、私と同年代の30代40代とつるむと、今でも「お前、太ったな」などと容姿いじりは起きます。でも、10代の前で同じ発言をしたら面白くもなんともないんですよね。お笑いのトレンド変化も同じですが、昔はネタに、笑い話にできたことも、今だと冗談にならなくなる。その差がわからないと、老害まっしぐらです。世の中に求められる製品・サービスを考えるうえでも、価値観を常にアップデートして、「次の普通」を知っておかなければならないと思っています。
Q
浅枝さんが、若い方々とネットワークを築くうえで大切にしていることは?
A
20代前半の頃、20個以上先輩の方から「これからの人生では、全世代にひとりずつ友達を作りなさい」と言われました。「自分が何歳になっても、常に10代、20代、30代、40代、50代にそれぞれ、仕事相手ではなく、友達を作れ」と。僕はそれを忠実に実践するよう心掛けています。20代の頃は年上の方と仲良くなるのは簡単でしたが、自分の年齢が上がると年下の友達を作るのは難しいんですよね。自分が相手を友達だと思うだけでなく、年の離れた相手からも友達として扱われる必要がありますから。

痛みを解決し、人の役に立つものを作りたい

Q
浅枝さんは、今後の人生についてどんなビジョンをお持ちですか? どんなテーマを掲げて、日々を過ごしているのでしょう。
A
昔話をしないこと、常に今が最新であり続けることを心がけています。逆に言えば、アップデートし続けること以外に、あまり興味がなくなってきました。以前は、固定された世界を変えてやろうという発想でしたが、今は世界が白と黒ではなく、グレーもあるグラデーションだとわかってきました。
Q
時代の流れというよりも、ご自身が年齢を重ねたからそう思うようになったのでしょうか。
A
それは確実にありますね。自分は実力で生きてきたと思っていましたが、4年前に子どもが生まれ、僕も誰かに育てられてきたというありがたみに気づきました。それに、人生ってつながっていることにも。祖父母が親を育て、親は僕を育て、今は僕が子どもを育てている。そう考えると、120年後は現実の延長で、想像できる身近な未来になったんですよね。以前は想像できる範囲が狭かったから、馬鹿なこともしたし、「世の中は間違っている」と言い切ることもできました。でも今は、ずっと続いていく人間の社会を意識するようになり、自分のことしか考えない時代を一度終わらせたという感じでしょうか。
Q
今、浅枝さんが個人的にハマっていることはありますか?
A
その暇がないぐらい、4歳の子どもの世話をしていますね。土日は僕が基本的に面倒を見て、月~金も保育園への送り迎えをしています。その分、勉強や読書をしたり、企画を考えたり、誰かと会ったりする時間は極端に減りましたが、今は子育てでしか得られない体験を最大化するためにやり切ろうと思っています。一方で時間は有限であることにも気付かされ、その中でどう詰め込むか、どう効率よく動くかなど、なにかに取り組む際には濃度を意識するようになっています。
Q
起業家のイメージが強い浅枝さんですが、この数年でいろいろな立場を経験されているんですね。次に「これはやらなければ」と起業する時のジャンルがとても気になります。
A
子どもがどう幸せに生きるかは、ひとつのテーマになるかもしれませんね。あと、最近考えているアプリもひとつあります。あるとてもお世話になっている方ががんになり舌を切除しなければならなかったのですが、こうした方々の生活を便利にするアプリで丁度いいものがなく、企画に取り組んでいます。 これを一生の事業にしようとは考えていませんが、「これは世の中にあるべき」と思ったものです。結局、そういう基準でしか僕は動かないんですよね。
Q
身近で困っている人、何かマイナス面を抱えている人が、困らずに暮らすためというのが発想の原点なんですね。
A
そうですね。事業のテーマは「痛みの解決」。「あったらいいよね」というものは、なくても困りません。あったら即使いたいもの、ないと困ると思えるものを作っていきたいです。

浅枝大志さんが学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッド大学大学院

メルカリ株式会社 セキュリティ戦略チーム
浅枝大志さん(デジタルハリウッド大学大学院修了)

青山学院大学経営学部卒業。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。2012年米国デラウェア州に音楽スタートアップBeatrobo Inc.を設立、CEOに就任。事業売却後、AIスタートアップ・スタジオ All Turtles のプロダクトマネージャーを経て、2020年に株式会社ミラティブのシニア・プロデューサーとして参画。2021年より株式会社メルカリに在籍。事業の傍ら、著名シリコンバレーの起業家の取材通訳・講演同時通訳を務める。米国育ちのバイリンガル。著書に『ウェブ仮想社会「セカンドライフ」: ネットビジネスの新大陸』(アスキー)、翻訳書に『WHO YOU ARE』(日経BP社)、『爆速成長マネジメント』(日経BP社)など。

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