イベント概要
イベント名 | DHGS 2020年度 成果発表会 Gen : DHGS the DAY |
日程 | 2021/02/27 |
デジタルハリウッド大学大学院(以下DHGS)は、2021年2月27日に院生および修了生、教員による研究成果の発表会「デジタルハリウッド大学大学院2020年度成果発表会Gen : DHGS the DAY」を開催しました。
テーマはギリシア語、ラテン語で「生み出す、生み出されたもの」を意味する「GEN」。参加したのは修了生計20人と、院生、教員ら9人です。今回は、その様子をダイジェストでお届け。「GEN」の名の通り、新しい時代を生み出し始めている成果についてお伝えします。
医療や介護の課題に向き合い、サービスを開発した
DHGSには医療や介護の現場で活躍している学生が多く所属し、日々課題に直面しています。現場で働く人だからこその視点で、すぐに使える低コストでコンパクトなシステムの研究に取り組んでいます。
リハビリテーションの専門家である杉山智さんはエアロバイクとVRを組み合わせた高齢者向けリハビリテーション装置「Virtual Aero(バーチャルエアロ)」を開発しました。
杉山さんは、従来の高齢者向けリハビリテーションは疲労感や退屈感から途中で辞めてしまう高齢者も多く、その結果介助が必要になってしまうと指摘。そこでエアロバイクを漕ぐスピードにあわせ、画面の中の風景が移り変わるVR装置を開発しました。実際に外でサイクリングしているような感覚で、楽しみながらリハビリテーションに取り組めます。
Virtual Aeroは杉山さんが働く施設を中心にすでに3年にわたり使用されており、転倒予防、認知症、大腿骨頸部骨折などの患者に効果があると学会でも発表済み。インターネット環境とモニターがあればすぐに利用可能で、料金はサブスクリプション方式のため利用者が多ければ多いほどコストが抑えられるといいます。
杉山知之学長は「Virtua lAeroのようなVR装置は大掛かりで高価になりがちだが、高齢者の施設に提供できるようにコストを抑え、大掛かりな仕掛けにもしていない、高齢化社会になる日本に必要ですね」と評価しました。
看護師の林千秋さんは、研究のために看護職を一度辞めてDHGSに入学。失声者がコミュニケーションできるデバイスの研究を始めました。同様の研究はすでに企業や大学で取り組まれているものの、機材が高価で入手しにくく、日本語への対応が遅れています。それらの課題を解消するべく、林さんは小型で安価なデバイスの開発を目指しています。
林さんは画像認識と筋電センサーの2つを用いたコミュニケーション方法を模索。画像認識では、口の形から機械に言葉を判断させる方法と、口で文字盤から文字を選ぶ方法を試みました。
また筋電センサーを用いて、口の周りの筋肉の動きから単語を識別させるための研究では、話者の肌荒れを予防するため、独自のセンサーの開発から始めました。
今後も研究を続けるという林さん。医療現場の声を聞きながら研究に生かすため、看護職に復帰して「ものづくりナース」を続けると力強く宣言しました。
「日常を豊かに、みんなが暮らしやすく」の思いを込めた新サービス
障害や疾患による「生きづらさ」や子育てにおける「しんどさ」を解決し、誰もが笑顔で暮らせる社会を作りたい。そんな思いから始まった研究も多くあります。
山中亨さんの「LOOVIC(ルービック)」はまったく新しい移動体験を与えてくれる道案内デバイス。外出時には必ずと言っていいほど使用するスマホの地図アプリは便利ですが、スマホを見ながら歩いていると、事故やケガの危険があります。また空間認知に障害がある人や地図を見るのが苦手な人は、そもそも地図を見ながら目的地に向かうのが難しいでしょう。
山中さんの「LOOVIC」を使えば、地図を見る必要はありません。腕につけたデバイスが、曲がり角に差し掛かると曲がるべき方向に腕を持ち上げてくれます。
LOOVICは、自動運転の車の仕組みを人に応用。子どものころ、親が手を引いて歩いてくれたように、LOOVICが人の手を誘導してくれます。
さらにLOOVICは、さまざまなケースでの「案内」に対応可能。宅配サービスで目的地が分からない、広い倉庫やお店で商品がどこにあるか分からない、空港で搭乗口が分からない、といった場合にも有効です。
息子が空間認識に障害があることがきっかけで研究に取り組んだ山中さん。「誰もが使える優しいテクノロジーを目指す」と発表を締めくくりました。
守矢奈央さんは多汗症患者向けのアパレルブランド「athe(アッセ)」を運営しています。多汗症は全身にわたり多量の発汗がみられる疾患で、守矢さん自身も重度の多汗症。電子機器を水没させてしまう、本がシワシワになってしまうといった日常生活への支障を抱えていました。そこで大学院在学中にアパレルブランドを立ち上げ、吸水性や速乾性に優れた靴下を開発しました。
今後はコミュニティの役割も備えたライフスタイルブランドを目指し、クラウドファンディングプロジェクトの公開予定と新製品の開発を発表。「当事者の生きづらさに寄り添うだけでなく、誰もが人生を100%楽しむ機会を提供したい」と決意を述べました。
園田正樹さんは病児保育施設をネットで予約できるサービス「あずかるこちゃん」を立ち上げました。
産婦人科医として働いていた園田さんは、子どもの軽い発熱をきっかけに仕事を辞めてしまった人たちに出会いました。仕事中に子どもが急病になったとき、上司や同僚と仕事を調整したり、預かってくれる施設を探したりするのは一苦労。保護者は申し訳無さを抱えてしまい、上司や同僚には大事な仕事を任せたくても任せられない葛藤があります。また病児保育施設の利用手続きには電話予約や多くの紙書類が必要で煩雑である点も、働く親が退職を選択する一因と考えました。
子どもの発熱時に職場で起こるこれらの問題は「だれも悪くないけどみんなしんどい」と園田さん。2020年4月に「あずかるこちゃん」をスタートし、約2600人の子どもが登録(成果発表会時点)。2021年2月には横須賀市が自治体として初めてあずかるこちゃんを導入しました。
園田さんは「社会の真ん中に子どもがいて、子どもを直接支援する保護者も周りの大人から手を差し伸べてもらえる社会になるよう貢献したい」と決意を新たにしました。
オンライン授業をさらに発展させ、いつでもどこでも自由に学べる未来が目の前に
新型コロナウイルスに翻弄された2020年。教育の現場ではオンライン授業が当たり前になり、大学1年生がキャンパスで友人を作れず孤独を感じるといった課題もありました。
友人や居場所がない孤独を解消しようと小林英恵さんが立ち上げたのがバーチャルキャンパスです。
バーチャル空間にある机をクリックすると、その机にいる人と会話ができます。実際に、バーチャルキャンパスを使用して勉強会やハロウィンパーティーなどが開催され、オンラインでも「密」な交流が行われたことも。
DHGS事務局もバーチャルキャンパス内に窓口を開き、院生からの問い合わせに対応。300人もの学生がバーチャル空間でのキャンパスライフを楽しんだといいます。
小林さんは、「今後は自分の体をアバターにしてオンラインでもお互いの触覚を刺激できる技術を取り入れ、バーチャルキャンパスを探求していきたい」と話しました。
ギタリスト、音楽プロデューサー、ギター講師とさまざまな顔を持つ加茂文吉さんは、ギターの演奏教育を結集したアプリ「Transcale(トランスケール)」を開発。Transcaleは拍子、キー、コードなどを選んでいくと、楽曲に適したスケール(音階)が提案され、簡単にオリジナル曲が作れるアプリ。完成したオリジナル楽曲の楽譜はアプリからダウンロード可能です。
音楽を学ぶ際には音楽理論の学習が必須と言われています。ですが音楽理論は難解で膨大な知識の集積であるため、学習の途中で諦めてしまい、演奏の勉強を辞めてしまう人も。それに対し加茂さんは、教育者世代が威厳や正当性を保つためのアピールだったという可能性を指摘。Transcaleでの学びは音楽理論を習得せずとも、演奏技術や表現力の向上を可能にすると提案しました。
自身も教育者である加茂さん。これからの時代に求められる教育者の姿は均一な課題を生徒全員に課す者ではなく、個々の生徒の実力に合わせて未来を生き抜くための力を養う伴走者だと締めくくりました。
目の前の課題をすぐ解決しようと取り組む院生たち。成果発表会の全貌はYouTubeで
学びを自分の仕事と結びつけ、在学中から社会実装に取り組む院生たち。
杉山学長は「いくつかの領域を融合して新しいものを作ろうとするとき、『垣根を越えて』とか『異分野の掛け算』というが、(DHGSの)院生を見ていると現場で見えた課題を解決しようとして、我々に出会って自分がその問題を解決するために持ってなかったものを手に入れてるってだけ」と思いを語りました。そして「すごく先の研究開発ではなくて、今使えるものを組み合わせて、今世の中で起きている問題にすぐ役立とうとしている」と称えました。
今年度の成果発表会の様子はYouTubeアーカイブ動画からもご覧いただけます。ぜひこちらから全登壇者の発表をお聞きください。