No.5
Storyboard、moe代表
浦本 マサキさん(デジタルハリウッド神戸校卒業)
このインタビューは2016年4月当時の内容です
デジハリではFlashコースとJavaコース、2回神戸校へ通いました
――浦本さんがデジタルハリウッドに通い始めたのはいつ頃ですか?
実は僕、2回デジタルハリウッド神戸校に通っているんです。最初は2003年でしたね。それまで雑貨メーカーに勤めていましたが、1999年にMacを購入し、DTPデザインの仕事を始めたんです。でも当時はWeb業界が盛り上がっていたので、Webデザイナーに転身しようと思い立ちました。でも、それまでは独学だったので、体系的にWebを勉強してできることの幅を広げたいと思ったんです。そこで、当時開校したばかりだったデジハリ神戸校で、半年間Flashについて学びました。2回目に入学したのは、翌年の2004年です。デジハリでFlashを学んだ後Web制作会社に就業できましたが、ちょっと物足りなさを感じていたんです。そんな中、デジハリでマクロメディア(現アドビシステムズ)が主催するリッチクライアントのセミナーを受けて「コレだ!」と思って。ちょうどJavaのコースが空いていたので、制作会社で働きながら受講することにしました。
――その後、独立するまでの道のりを教えてください。
Javaコースを終えた後は当時勤めていた会社を辞め、姫路のシステム開発会社で働いたり、Javaコースの同級生3、4人とチームを組んで仕事をしたりしていました。その後、大手ECサイトの運営会社に出向して働いていましたが、物足りなくなって東京に出ようと思ったんです。でも、話がまとまりそうになったところでリーマンショックが起きてしまって……。「東京には縁がないかな」と思い、2010年からフリーランスとして姫路で活動することにしました。ちょうどその直後にデジハリに校友会ができると聞き、「Richの会」というサークル活動も始めました。
――他にも勉強会をされていましたよね。
デザイナーやエンジニアを対象とした勉強会のほかに、ITマーケティング勉強会を3回開催しました。Webサイト制作やECサイト運営について啓蒙しなければ、地方では仕事がありませんし単価も上がりませんから。
――地方で仕事先を開拓するのは大変ですよね。独立後は、どのように仕事先を広げていったのでしょうか。
普通なら、元いた会社から仕事をもらうケースが多いと思います。でも私の場合、最後に在籍していた会社が客先常駐だったため、営業活動ができませんでした。ですから独立直後は、外部パートナーやフリーランスを募集している東京や大阪のシステム会社を検索し、メールで営業をかけました。5、60社以上に連絡し、結局会ってくれたのは3社ぐらいだったでしょうか。それでもなんとか1社から仕事をいただき、それを細々と続けました。最初の1年は厳しかったですね。あとは、案件紹介サイトにも登録しました。そこからつながり、今も継続的に取引をしている企業もあります。また、数年仕事を続けていると、同業者から「手伝ってくれませんか?」と声がかかることもあります。今では下請け業と同業者からの紹介が半々ぐらいでしょうか。もちろん、僕が直接いただく仕事もあります。
――浦本さんが得意とするのは、どのような分野でしょう。
サービスの実装です。とはいえ、デザインやディレクションをすることもあるので、ほぼオールラウンドですね。アプリに関しては、すべて自分でプロデュースすることが多いです。その時々でいっしょに組めるパートナーがいると仕事の幅も広がりますが、現状ではこうしたパートナーは3、4人しかいません。やっぱりフリーランスだと企業に属したり、廃業したりして、3年ぐらいで消えていくケースが多いんです。僕も年収ベースで言えばサラリーマン時代よりも下がっていますから、今からフリーランスになりたいという人にはあまりおすすめしないですね(笑)。
――とはいえ、フリーランスになって良かったこともありますよね。
時間は自由になりますよね。自分のペースで仕事ができるのは、フリーランスのメリットです。その反面、意識的に外に出ないと情報収集もできないし、精神衛生上もよろしくないので、常に動くようにしています。それもあって、交流会や勉強会に参加するようにしています。
――新しい技術を得るためにも、やはり外に出ることが重要なのでしょうか?
技術に関しては、ネットでもチェックできます。僕自身、技術系、Webマーケティング系のニュースサイトは毎日チェックしています。ただ、フリーランスと社員とでは扱っている技術が違うんですよね。フリーランスは、新しい技術を追い求めがち。勉強会でも高度な技術を扱いますが、実際の現場であまり取り入れられてない場合があるんです。つまり、自分のセールスになる技術を身につけようと思っても、現場で使われていないという問題があるんです。ですから、どの技術を修得すべきか見定めることが必要ですよね。それに今は、技術よりもツール、環境面のトレンドが仕事を左右するように感じますね。フリーランスでは「Dreamweaver」よりも別のソフトを使っている人が多いとか。そういうトレンドも意識しておきたいですね。
――では、もうひとつの事業moeについてうかがいます。moeでは革製PCバッグを制作していますが、この事業に乗り出した経緯を教えてください。
フリーランスになってから、MacBookを持ち歩くようになったんです。となるとPCバッグも必要になりますが、気に入ったものが見つからなくて。もともと僕は皮革産業の町で育ち、実家もタンナーという皮革製造業に従事していました。子どもの頃から革は身近でしたし、バッグを持つとなれば革しか考えられません。そこで、「気に入るものが見つからないなら自分で作ろう」と思ったのが最初のきっかけです。周囲の同業者と話をしても、革製品が好き、自分で革小物を作っているという人が多く、それなら作ってみようと思いました。素材に関しては、地元の良質な革が手に入りますからね。それに、日本のものづくり、伝統産業は斜陽を迎えていますし、皮革業界も景気が低迷しています。どうせやるなら地域を活気づけたいという思いもありました。
オーダーメイドできる革製PCバッグを制作、販売しています
――とはいえ、PCバッグを一から作るのですから大変ですよね。
そうですね。鞄の生産地として有名な兵庫県豊岡市の鞄製造業者組合に相談しましたが、ロット生産だと在庫を抱えることになり、莫大な費用がかかることがわかりました。その後、ファッション系の専門学校に相談しましたが、うまく行かず……。そんな中、地元の革工房さんが製造を引き受けてくれることになり、「まずは作ってから売ることを考えればいいのでは?」という話になって、僕がデザインをして試作することにしたんです。そんな時、知り合いの女性クリエイターから「裏地を選べるほうがいい」と言われたんです。革工房の方も乗り気になり、「播州織を裏地にしたらいかがですか?」と提案してくれました。播州織は、200年以上の伝統がある兵庫県西脇市の綿織物です。それを裏地にして、しかも好みの色や柄を選べたらうれしいですよね。このアイデアをいただき、「それならオーダーメイドにしてしまおう」と決めました。その後試作を重ね、昨年12月からECサイトで販売しています。プレスリリースを出したところ、販売開始日にいきなり2個売れ、驚くと同時にホッとしました。
――現在Makuakeのクラウドファンディングに出品していますね。
はい。資金繰りというより、マーケティングを考えて出品しました。もともとクラウドファンディングには興味がありましたし、Webマーケティングを考えるうえでぜひとも経験しておくべきだと考えていました。それに、地方でもクラウドファンディング事業を後押ししていて、僕も補助金を受けているんです。クラウドファンディングもいろいろな事業者がありますが、相性の良さそうなサイバーエージェントのMakuakeを選びました。
伊勢丹の担当者様より、バッグや革に触れられる方が多く好評とのことで一週間延長の打診をいただきました。東京、新宿方面にお出かけの用がございましたら是非一度手にとっていただければと思います。
詳細はこちらをご覧ください ※ 展示終了致しました
――moeのPCバッグ製造事業を始めたことで、StoryboardのWeb・アプリ制作事業にも影響はありましたか?
今はまだ始めたばかりなので、両事業のバランス取りに苦労しているところです。今後は、moeの取り組みを広く発信することで、Storyboardのインターネットコンサルティング事業のプラスになればと思っています。Webサイトの制作に携わっている人でも、実際に自分でモノを作って売っている人は多くないでしょう。補助金の申請を経験している人も少ないと思います。こうした経験を強みにしていきたいですね。
――両事業の今後の展望についてお聞かせください。
moeに関しては、まずブランディングをしっかりしていきたいですね。Makuakeと新宿伊勢丹のコラボにより、伊勢丹店内にPCバッグを展示することができました。こうした機会を通じてブランドを認知してもらい、付加価値をつけていきたいです。もちろん商品ラインナップも増やすことも考えています。今年は、13インチのPCが入る小ぶりのPCバッグも制作したいですし、テストマーケティングも兼ねて小物も販売していきます。革小物はどうしてもデザインが似てしまうので、差別化するにはブランディングがより重要なんですよね。Storyboardに関しては、moeの実績を活かしてコンサルティング事業に力を入れていきたいです。とはいえ、もともと僕は開発側の人間です。自社サービスのアプリ開発にもチャレンジしたいですね。
――お話をうかがっていると、浦本さんは行動力にあふれていますし、思い描いたことを着実に形にしていますね。その原動力はどこにあるのでしょう。
ひとりで仕事をしていると、誰も助けてくれませんからね(笑)。中には放っておいても仕事が来るタイプのフリーランスもいますが、僕はそういうタイプではありません。となれば、自分から動かないとダメ。しかも地方在住ですから、なおさらです。ネットの普及により地方でも働きやすくなったと言われますが、やっぱりクラウドソーシングサイトでも「東京オフィスに来られる方」という案件は多いんです。一度都会で人脈を作れば地方に戻っても継続して仕事をもらえるかもしれませんが、一度も都会に出ていないと難しいんですよね。
――地方在住のフリーランスは、行動力が必要不可欠なんですね。
空回りすることも多いですけどね(笑)。でも、金融公庫の統計を見ても、個人で開業したところで半年も経たずに廃業するケースは珍しくありませんよね。しかも、Web業界は流行り廃りが激しく、5年先、10年先の見通しが立ちません。だからこそ、僕はmoeを始めたんです。作ったものを手に取れる、実業を持っておきたいという気持ちがありました。
――最後に、校友会会員のみなさんにメッセージをお願いします。
moeで制作したPCバッグは、クリエイターをターゲットにしています。アートでもサービスでもWebでも、何かをクリエイトしている方に使っていただきたいと考えています。クリエイターの中でも、手に取ることができるものを作っている方は意外と少ないんですよね。ぜひmoeを通じてオーダーメイドのPCバッグを作り、ものづくりの感覚を味わっていただけたらうれしいです。
インタビュー : 野本由起
Storyboard、moe代表
浦本 マサキさん(デジタルハリウッド神戸校卒業)
食肉卸、雑貨メーカー勤務を経て、DTPデザイナーに転身。2003年、デジタルハリウッド神戸校に通い、Webデザイナーに。2004年にも再度デジタルハリウッド神戸校でJavaを学ぶ。その後Webサイト制作、アプリ開発、システム開発の仕事に従事し、2010年に独立。StoryboardとしてWebサイト制作、Webマーケティング事業に携わりつつ、2014年には革製PCバッグブランド事業moeもスタート。5月29日までクラウドファンディングMakuakeにて、PCバッグや限定の革製アイテムを出品中。
浦本さんが代表を務める会社 Storyboard
PCバッグ moe
クラウドファンディング Makuake