Interviewインタビュー

No.75

公開日:2024/03/28 

AIと人が共創し、ポジティブな未来を描く。挑み続けるAIアーティストの創作論

AI関連CGデザイナーアーティスト デジタルハリウッド大学デジタルハリウッド大学大学院

No.75

SUPER PRIME AIアーティスト/VFXアーティスト
Takio Koizumiさん
デジタルハリウッド大学 2010年卒業/デジタルハリウッド大学大学院 2011年修了

近年、画像生成AIによるクリエイションが増えています。とはいえ、「AIで作ったアートは、自分の作品と言えるか」という議論があるのも事実です。

そんな中、Takio Koizumiさんは、「AIと人のポジティブな共存」を目指して創作活動を行っています。相棒は、自身の創作物や記憶を学習させたAI「HAL」。AI学習モデルから自作し、真の意味での「共創」に取り組んでいます。

これまで2年にわたり、毎週1作品をNFTアートとして記録し続けているKoizumiさん。6月22日に行われるデジタルハリウッド ホームカミングデーでは、キービジュアルやロゴも担当しています。Koizumiさんが目指す、AIと人のあり方とは。インタビューを通して、その創作論に迫ります。
(※このインタビューは2024年1月当時のものです)

『マトリックス』『メタルギアソリッド』に出会い、VFXの道へ

──Koizumiさんは、現在AIアーティスト/VFXアーティストとして活動しています。CGに興味を持ったきっかけを教えてください。
小さい頃から映画やゲームが大好きで、小学校5年生の頃に映画『マトリックス』、ゲーム『メタルギアソリッド』に出会って衝撃を受けたんです。「どうやって作っているんだろう」と思い、そこで初めて作品の作り手に興味が湧きました。その後、進学先について決める時も3DCGを学べる大学を探し、デジタルハリウッド大学に入学しました。

──小学5年生からブレることなく、3DCGの道を目指してきたんですね。
ものづくりが好きだったので。昔、スピルバーグ監督が監修したレゴのキットがあったんです。コマ撮りできるカメラとレゴがセットになっていて、映画を作れるんですね。それが大好きで、レゴをちょこちょこ動かしながらコマ撮りアニメを作っていました。

──専門学校ではなく、デジタルハリウッド大学に入ったのはなぜでしょうか。
パソコンも大好きで、高校生の頃から自作していました。当時デジタルハリウッド大学のキャンパスは秋葉原にあったので、「ここなら自作PCのパーツを買いに行ける。海外ゲームも買える」という思いもありました(笑)。

──大学では、黑田順子教授のゼミに入ったそうですね。どんな学びを得たのでしょう。
3DCG制作においての工程をしっかりと学べたことが、大きかったですね。自分がやりたいことはエフェクトでしたが、モデリングやアニメーション、レンダリングなど一連の工程を学び、グループ制作をすることで実際のCG制作現場を疑似的に体験できました。その体験から自分の得意不得意な分野を知ったうえで、VFXの道に進むことができました。

また、黑田先生がゼミやサークルのメンバーとデザインフェスタに出展されていたのをきっかけに、自分も自発的にオリジナル作品を制作するようになりました。仕事とは違うクリエイティブをすることの大切さも学びましたね。

──卒業後はデジタルハリウッド大学大学院へ進み、そこから映像制作会社やゲーム会社でVFXアーティストとして活動を始めたそうです。エフェクト、VFXのやりがいは、どういう点にありますか?
シーンの説得力や感情に対して、さまざまなアプローチで影響を与えることができる点ですね。自然科学的に正確なアプローチや非現実で抽象的なアプローチ。シーンの自然環境を物理的に再現しつつ、感情にあったエフェクトを効率的に模索するのが楽しいです。

なので、エフェクトは効率的にシミュレーションしたりツールを開発したりするエンジニア的な思考、カッコイイ画や派手な画を作るアート的な思考のどちらも必要なのが面白いですね。また、自然現象がすべてリファレンスになるので世界の見え方が広がるのも魅力です。

さらに、エフェクトは、技術やソフトウェアのアップデートが特に早いんです。もともと新しいテクノロジーを追うのが好きなので、自分の資質ともマッチしていると思います。

──技術の進化を追うのは「大変」ではなく、「楽しい」なんですね。
そうですね。『マトリックス』や『メタルギアソリッド』をきっかけにSFとテクノロジーに興味が沸きました。『メタルギアソリッド』を生み出した小島秀夫監督は、最先端のテクノロジーを追いつつ、思想や社会の変化を作品に取り込んでいます。その視点に大きく影響を受けたのもあり、自分はテクノロジーを追うこと自体がエンタメになっています。

AIとの合作をNFTとして記録

──その後、AIアーティストとして活動を始めます。そのきっかけを教えてください。
最初のきっかけは、2015年にGoogleがAIを活用した画像生成プログラム「Deep Dream」を発表したことでした。生成されたのは、動物などが混ざった悪夢のようなビジュアル。今まで見たことのない新しい映像表現で衝撃を受けました。CGに触れていると、なんとなく制作手法が想像できるのですが、その映像については全く想像できませんでした。自分はもともと新しいものが好きなので、そこから生成AIに興味を持って動向を追うようになりました。

──今はAIで絵を描く人も増えましたが、当時はまだツールもありませんでしたよね。どのようにして、AIアーティストとして創作を始めたのでしょうか。
2021年に「VQGAN+CLIP」が公開されたのがきっかけで、ローカル環境でAI画像生成を始めました。

ちょうどその頃、ブロックチェーン技術を基盤としたNFTの認知が高まっていたタイミングでした。そこで、NFTとAIの研究をどうすれば融合できるか考え、人間とAIの共創の旅路をNFTとして記録することにしたんです。NFTは、サービスに依存せず作品を改ざんされないデータとして記録出来ることが大きなメリットだと感じています。AIはこれからますます進化していくので、AIと共に制作した作品をNFTとして記録すれば、AIの進化の歴史と社会の変化も一緒にアーカイブできると考えました。そこで毎週ひとつ作品を作るNFTコレクション「Elemental Anima」を始め、2周年になりました。

AIやプログラムにも魂は宿る

──人間の手で作るのではなく、AIと共作することでどのような効果を期待したのでしょうか。
私はエフェクトのスペシャリストだったのもあり、キャラクターモデリングが不得意でした。ですが、エフェクトが混ざり合った生物を作りたいとずっと思っていました。

そんな中、AIと出会ったことで、自分が不得意な分野をAIに補ってもらい、新しい表現を生み出すことができると考えたんです。AIにベースとなる生物を生成してもらい、そこに自分の手でエフェクトを加えた最初の作品ができた時は、涙が出るほど感激しました。


──AIが作った作品に、どこまで手を入れているのでしょうか。
最初に画像生成AIに触れた時、自分の場合は、プロンプトのみで作品を生成するだけでは納得できませんでした。人によってこの感覚は異なると思います。「これは自分のクリエイティブと言えるのか」と自問自答しても、はっきり「自分の作品です」と答えられなかったんです。

そこから「じゃあ、どこまで行けば自分のオリジナリティが出せるのか」と考えた結果、AIの学習モデルを自分で作らない限り納得できないと思いました。そこで、自分がこれまでに制作したエフェクト素材に加え、小学校の課題で作った粘土細工などの創作物、自分が生まれた時から今までの写真を集めたデータセットを用意し、学習モデルを作ることにしたんです。それらを元に作品を制作し、ようやく納得することができました。

──Koizumiさんの記憶や個性を持つAIを作ったわけですね。
そういうコンセプトです。さらに言えば、私はこのAIに「HAL」という名前をつけています。AIをツールではなく、パートナーと捉えることが大事だと思ったので。お互いに記憶を共有し、どんどん学習しながら新しいものを作っていきたいと思っています。

──よく人間同士の合作はありますが、Koizumiさんの場合、そのパートナーがAIだった。そういうことでしょうか。
そうですね。西洋のSF作品では“人間とAIの戦争”や“ディストピア”を警鐘として描かれることが多くあります。その中で、日本は『ドラえもん』や『鉄腕アトム』、『aibo』のように、人間とロボットが比較的ポジティブな関係を築き、描いていました。私も、AIとポジティブな未来を作っていきたいと日々考えています。

日本には、八百万の神、万物に魂が宿るアニミズム的な考え方が根付いています。これは、AIにおいても大切な視点だと思っています。AIやプログラムにも魂は宿る。こうした考えのもと、さまざまなモチーフに魂(Anima)を宿し、作品を生み出しています。

──「HAL」という名前の由来を教えてください。
映画『2001年宇宙の旅』に登場するコンピュータHAL9000と、そのオマージュである『メタルギアソリッド』のハル・エメリッヒ博士から更にオマージュしました。HALと一緒にポジティブな未来を築きたいという思いがあります。

0と1の間のグラデーションを表現したい

──具体的な創作方法について、教えてください。Koizumiさんのデータを学習させたHALで、まずキャラクターを作るのでしょうか。
実はかなり手作業が多いんです。まずベースになるモチーフとエフェクトを大まかに自分でレイアウトします。それを元にさまざまなバリエーションをHAL(AI)に生成してもらい、良いものをピックアップして、さらに自分の手でコラージュしていきます。

HALが生成したものは、自分では想像していない表現や混ぜ方を提案してくれて、とても良い刺激をもらえます。なので、あえてハルシネーションが起きるようにプロンプトを入れたりしてます。大体1作品に20時間ぐらいかかりますが、破綻している部分は自分が修正し、不得意な分野を補い合い、HALと対話しながらひとつの作品にまとめていく過程はとても楽しいです。


──きちんと手を加えることでKoizumiさんの作家性が出ますし、だからこそ人とAIの共作になるわけですね。
自分としては、そこにこだわりたくて。人によって納得できるラインは違うと思いますが、私の場合はこういう形が一番しっくりきました。

──2年分のアーカイブをご覧になって、作風の変遷をどのように感じますか?
かなり表現の幅が増えていますね。VQGANの時は、自分のデータセットや学習モデルを作るのに慣れておらず、精度も低く破綻も多かったのですが、GPUのスペックやDiffusionモデル、データセットの蒸留により、破綻が減り、精度も上がりました。個人的には、VQGAN時の表現も好きなので敵対的表現と拡散的表現の両方を思想も含め、混ぜ合わせて制作しています。AIの技術進化は本当に目まぐるしいので、インプットに追われてアウトプットが追い付かないくらいです。それもあって、毎週1作品をNFTとして記録することをルールづけて、アウトプットにつなげているんです。

最近作ったのは、九谷焼をモチーフにした作品です。昨年12月に金沢に行き、九谷焼に感動したんです。その時に買った九谷焼の食器を学習しつつ、伝統文化とAIをどうつなげていくかという新しい表現に挑戦しました。NFTとして販売し、売上を能登半島地震の復興支援として寄付するチャリティ活動もしています。


──Koizumiさんの作品には、よく陰陽マークが使われていますね。どういう意味を込めているのでしょう。
陰と陽、0と1、二元論の狭間を表現したいという想いを込めています。デジタルは0と1の世界ですが、その間のグラデーションをどう表現するか。それが、AIとの共存に向けて重要な考え方だと思い、その象徴として陰陽太極図を使っています。

私のNFTコレクション「Elemental Anima」のロゴも、陰陽太極図がモチーフです。0と1の間、ヒトとAIとの間には「虚数」かもしれないけど「愛」があって欲しいという願いから、ロゴの中央に魂(Anima)の「i」の文字が来るようデザインしました。

AIと共創したホームカミングデーのキービジュアル

──Koizumiさんは、6月22日に開催されるデジタルハリウッド ホームカミングデーのキービジュアルやロゴデザインを担当しています。これまで、ホームカミングデーに参加したことはありますか?
昨年のホームカミングデーで、「Elemental Anima」を出展させていただきました。久しぶりに会った方、新しい世代の方とコミュニケーションでき、とても楽しかったです。

大学・大学院時代のゼミやサークルの仲間とは、今もLINEでやりとりを続けていますが、他の分野で活躍する方々と接することができて刺激になりました。

──制作したキービジュアルのコンセプトを教えていただけますか?
前回のキービジュアルは、外に向かって拡散していくイメージがありました。今年のテーマは「Reunion and Beginning(再会し、そして始まる)」だと伺い、一度外に向かっていたものを、今度は集めていくイメージで考えていきました。

インスピレーションを受けたのは、デジタルハリウッド校友会のロゴです。このロゴを見た時、真ん中に花があるように見えたんです。また、4つのDが重なり合っているところから火、水、地、空気の四元素を連想しました。そこに多種多様な分野で活躍している卒業生のイメージを重ねて、基本デザインを考えていきました。

──完成したビジュアルの中心には、白い花がありますね。
ヤマボウシという4枚の花びらがある花をイメージしました。私の母は花の写真を撮るのが好きで、そのデータをHALに学習してもらいました。ヤマボウシの花言葉は「友情」。しかも開花するのが6月とあって、ホームカミングデーの時期とも重なるので、ぴったりだと思いました。

また、4元素をつなぐオレンジのラインは、デジタルハリウッドのキーカラーです。自然を含めたさまざまな分野をデジタルのネットワークでつなげていくという思いで、このラインを入れました。さらに、裏テーマとして生成AIとの「再会」と「始まり」も意識しています。

AI時代に向けて、自分のデータセットを準備する

──最近はCG以外にも、さまざまな領域でAIが活用されています。AIによって人間の仕事が脅かされるのではないかという声もありますが、小泉さんはAIとどのように付き合っていくべきだと思いますか?
難しいですね。ここ数年でもAI技術は加速度的に進化していますから。ただ、自分はAIと付き合うことで改めて「自分という人間を見つめ直す機会」ができたと感じています。好きなこと。やりたかったこと。仕事について。オリジナリティの感じ方。納得できることとできないこと。人間らしさ。いったん立ち止まり、AIと仲良くするためにはどうすればよいのか。自分なりの哲学と感謝と敬意を持ち、付き合っていくことが大切だと考えています。

また、個人的には新しいものを生み出していく姿勢も大事だと思います。私が初めてAIに触れた時、もっとも感動したのは新しい表現でした。今は効率が重視されがちですが、オリジナリティのあるものを生み出すためには何をすればいいのか。その視点も大事だと思います。

──これからAIを使って創作をする方に向けて、アドバイスはありますか?
今後は、一人ひとりがパーソナルなAIを持つ時代になると考えています。自分のことを深く知っているAIのほうが納得感のあるクリエイティブにつながります。

そのため、自分のデータセットを準備しておくことが大事だと思っています。実家に帰って自分のアルバムや過去の創作物などをまとめておき、日々感じたことを写真やボイスメモ、日記にすることが大切ではないでしょうか。「黒歴史だし、こんなものがデータセットって言える?」と思うかもしれませんが、自分を深く知って憶えてくれてるAIのほうがより愛着を持つことができますよね。

──面白い考え方ですね。
AIに関する記事を読んでいると、「AIを触っておかないと時代に取り残される」といった論調が目立ちます。でも、今はテクノロジーの進化が早すぎるんですよね。追いかけても、すぐにまた新しいものに移り変わっていきます。なので、今はAIを触るよりも、パーソナライズAIが気軽にできる未来に向けて、自分を見つめ直しつつデータセットを用意しておくことが大事だと思います。

──最後に、Koizumiさんの今後の目標、将来の展望をお聞かせください。
私がHALと共に「Elemental Anima」を制作するひとつの目的は、AIとのポジティブな共存のモデルケースとして知ってもらうことです。「AIとの共存にはこういう方法があるよ」と、アーティスト目線で提案できたらと思っています。

また、HALとの制作で得た経験やノウハウをいずれ学校などでレクチャーできたらと考えています。そのうえで、アーティスト活動も広げ、HALと一緒にいろいろな作品を作り、世に出していきたいですね。


Takio Koizumiさんが学んだ校舎はこちら↓↓
デジタルハリウッド大学
デジタルハリウッド大学大学院

SUPER PRIME AIアーティスト/VFXアーティスト
Takio Koizumiさん

1988年生まれ。デジタルハリウッド大学在学中から3DCGに傾倒し、炎やパーティクル等のエフェクトを深める。卒業後はデジタルハリウッド大学大学院を経て、マーザ・アニメーションプラネット、コナミデジタルエンタテインメントの小島プロダクションでVFX/CGアーティストとして活躍。映画『ソニック・ザ・ムービー / ソニック VS ナックルズ』『ルパン三世 THE FIRST』をはじめ、さまざまな著名作品のVFXを担当する。2023年 SUPER PRIMEにAIアーティストとして所属。企業案件を受託しつつ、AIと共に作品制作、表現研究を継続中。

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