Interviewインタビュー

No.41

公開日:2021/07/16 

“日本一の田舎”をポジ転させるエンタメの力「秋田おじさん」の遙かなる挑戦

デジタルハリウッド大学大学院

No.41

お粥とお酒ANDONシモキタ店長
武田昌大さん(デジタルハリウッド大学大学院修士課程修了)

秋田の若手農家たちと一緒に農家のイメージと流通の在り方を変えた「トラ男」(トラクターに乗る男前農家集団)、「年貢」を納めて「村民」になれる古民家保全の参加型プロジェクト「シェアビレッジ」など、地元秋田の魅力を発信するべくクリエイティビティあふれる地方創生活動を続けてこられた武田昌大さん。それらの取り組みの根底には、デジタルハリウッドで培った「すべてをエンタテインメントにせよ!」の発想がありました。
(※このインタビューは、2021年6月当時の内容です。)

エンタメのない町だからこそ、「エンタメ」に飢えていた少年時代

Q
子どもの頃からエンタメ業界を志していたという武田さんですが、エンターテインメントに興味を持ったきっかけはなんでしょうか。
A
僕の地元は秋田県の人口が当時15,000人くらいしかいないような小さな町なのですが、周りは田んぼだらけで、とにかく東京と比べると刺激が少ないんですよ。田舎って本当に時がゆっくりと流れていて、景色が何も変わらない。一方で僕の子どもの頃って、当時ファミコンとかスーパーファミコン、プレイステーションなど、最新のゲーム機が発売されはじめた時期で。周りの風景は何も変化がないのに、テレビの中はゲームやドラマ、映画、CMで目まぐるしく変化していて、面白いなと思いました。そこからなんとなく、エンタメの業界に行きたいなという気持ちが芽生えたんでしょうね。
Q
実際に大学を卒業してから念願かなってゲーム業界に入られたそうですが、会社に入社してすぐデジタルハリウッド大学大学院に入学されたと聞きました。大学生の頃からデジタルハリウッドをご存知だったのでしょうか。
A
「デジタルハリウッド」の名前を知ったのは、大学の時に見たテレビ番組です。杉山知之学長が出演していて「すべてをエンタテインメントにせよ!」というようなことをおっしゃていったのが、「確かに!」って刺さったんですよね。実際に入ろうと思ったのは、学生の頃からビジネスに興味があったからです。僕のいた大学(立命館大学)って、起業家精神を持った人が多くて、友達もビジネス関係の専攻を取っていたので、その影響もあり「ビジネスの分野って面白そうだな」と思っていました。クリエイティブの仕事にも興味はあったのですが、ビジネスの勉強をしたいなという気持ちも強く、デジタルハリウッド大学大学院はビジネスの一線で活躍されている先生たちの話が聞ける環境があったので、入学を決めました。
Q
入学されてみて、印象的だったことはありますか
A
みんな本業のかたわら学びに来ているということもあり、かなり前のめりで肉食系な人たちが多いのが印象的でしたね。例えば休憩中の喫煙室でのコミュニケーションから、新しいプロジェクトが生まれることもありました。それぞれ何かしらスキルを持っているので、アニメーションを作ろうという話になった時に「俺、脚本書けます」「僕、キャラクターを動かします」「私は編集しますよ」と手を挙げていって、実際に作品を完成させることができてしまう。そうやってできた作品が、小さな映画祭で賞をとったこともありましたね。日々刺激的で、仕事と授業の両立で忙しかったのですが、ぜんぜん苦になりませんでした。

インターフェースやデザインもユーザーとのコミュニケーション

Q
デジタルハリウッド大学大学院ではどのような学びがありましたか。
A
ビジネスの基本的な考え方を学べたことは、今の活動にもつながる大きな糧になりましたね。山本和夫先生の「ストーリーマーケティング手法」の授業は特に印象的でした。授業で毎回お題となる映画が提示されて、それを観て自分なりにストーリーラインを分析していくんですけど、ヒット作の法則性が段々と分かってきて、段々と他の映画を見ていても「数分後に何が起こるか」、先の展開が読めるようになるんです。
Q
「ストーリーマーケティング手法」が武田さんの仕事に、どのように生かされるのでしょうか。
A
絶対に勝たなければいけない「事業ピッチ」や「プレゼン」に、ストーリーマーケティングの手法が役立っています。結局、「プレゼン」も「映画」と同じで、お客の心を動かすためにいかにドラマチックに物事を伝えるかというのが大事で、そのために必要とされるのが「ストーリー」なんです。山本先生の授業で、世の中の映画やCM、ドラマが、どのように人の心を動かしているか、その仕組みをかなり学べたので、それが現在、僕が人に何かを伝えるときのヒントになっています。

いま地域に求められているのは「エンタメ」の力

Q
先ほど、杉山学長がテレビで発信していた、学校理念の“Entertainment. It’s Everything!”(すべてをエンタテインメントにせよ!)が胸に刺さったというお話がありましたが、今もやはりこの言葉に共感するところはありますか。
A
ありますね。秋田県って日本において地域課題の“先進県”とされていて、人口減少率が日本一、高齢化率も日本一、100年後には秋田県自体がなくなるとまでいわれています。これ、すごいネガティブじゃないですか。仕事がない、お金がない、出会いがないといわれている中で、そこをどうポジティブに捉えてもらうか、魅力がないとされている秋田県をどう面白がってもらうか、そこに必要なのはやっぱり「エンタメ」の力だと思います。
Q
武田さんが秋田の農業衰退に危機を感じ、地元の若手農家さんを募って結成した「トラ男」の取り組みも、ネーミングといい、見せ方といい、ソーシャルを取り入れた活動形態といい、非常に「エンタメ性」が高いですよね。今では当たり前のことだと思うのですが、アナログのイメージが強い農家さんがデジタルを駆使しているという印象も新しかった気がします。
A
人が面白いと思うポイントって「ギャップ」だと思っていて、そのギャップが大きければ大きいほど面白くなる。正直、他県の人って秋田に対して何もイメージがないと思うんですよ。マイナスでもプラスでもない「ゼロ」。でもね、日本一の田舎だからこそ、大きなギャップを生み出せる、伸び代しかありません(笑)。
Q
今の時代、武田さんのように自分の住んでいる地域の魅力を発信したいという方は多いと思いますが、どうすれば地元の魅力を発見することができるのでしょうか。
A
デジタルハリウッドの授業の中でいわれて1つ心に残っているのが、「自分が泣けない人は、人を泣かせられない。自分が笑えない人は、人を笑わせられない」という言葉。要は人の心を動かすんだったら、自分の感度が高くなきゃダメということです。「地元をPRしたいけど、何も魅力がない」と思っている方がいたら、とにかく自分の足で移動して、見て、感じることをオススメします。本やネットで読んだ情報で「こういうすごい場所があるらしいですよ」だとぜんぜん説得力がないし、やっぱり自分で体験するということが大事だと思いますね。
Q
武田さんも「トラ男」を始めるときに、何もツテがない状況から100人の農家さんを実際に訪問して、話を聞く中で「米の直接販売」というビジネスに思い当たったそうですね。
A
自分で動くことで、気持ちが乗ってくるし、思いが強くなるんですよね。いま僕は、秋田の食やお酒を提供する下北沢の『お粥とお酒のANDON』(2020年4月オープン)というお店で、店長として毎日店頭に立っています。月に1200〜2000人、1日だと多い時で300人くらいのお客さんと接しているのですが、これまで秋田を隅々まで見てきたという自負があるので、お客さんに対しても秋田の魅力を、自信を持って話すことができます。おかげさまでこの1年間で常連さんもたくさんできて、中にはお店きっかけで秋田に行ったという人までいらっしゃいます。

お店に立って気づいた「リアル」だからこその価値

Q
そもそも、これまでEC販売に取り組まれていた武田さんが、リアル店舗の事業に乗り出された狙いはなんだったのでしょうか。
A
秋田の魅力を伝えるために、リアルの店舗でしかできないことがあると思うんですよ。例えば、うちでは「ぼだっこ」っていう塩辛い鮭を使ったおむすびや、「だまこ汁」というきりたんぽ鍋みたいなものを販売しているんですけど、お客さんが「ぼだっこ1つ」「だまこ汁1つ」と口にすると、「よっしゃ、秋田弁を広めた!」って嬉しくなるんですね。これ、僕だけの楽しみなんですけど(笑)。ネットでは絶対にそういう会話は発生しないし、リアルだからこそ生まれるコミュニケーションですよね。それにリアルの店舗があると、たまたま通りがかった人に、秋田の魅力をプレゼンできる。この偶然の出会いというのがリアルの場所を持つ良さなんです。
Q
今後、秋田を盛り上げる活動として、武田さんが取り組んでみたいことはなんでしょうか。
A
僕の活動は秋田の生産物を「流通」させるというところから始まったんですけど、いまは「消費」として飲食をやっている。ここに「加工」を加えて、一人で6次産業化を目指すというのが直近1〜2年の話。そこからさらに先だと、今は東京を拠点に活動をしているのですが、いずれは地元に帰って、秋田の町づくりに取り組みたいと思っています。先日から思いつきで「秋田おじさん」という肩書きを名乗っているのですが(笑)、秋田の伝道師「秋田おじさん」として、秋田の中から外に発信をしていく、そのためにデジタルはすごく必要だし、やっぱり秋田という誰も興味を持っていない部分に興味を持ってもらうために、引き続きエンタメの力は必要になってくると思います。
Q
最後に、デジタルハリウッド卒業生の皆さんに伝えたいメッセージはありますか。
A
何か一緒に面白いことしませんか! という思いはあります。仕事先でたまにOB・OGと出会うこともあるのですが、まだまだ僕が会ったことのないすごい先輩・後輩をたくさん輩出しているはずですし、みんなで一緒に何かやったら新しいビジネスが生まれるかもしれない。お酒を飲みながら楽しいことができればと思いますので、もしよかったら下北沢に来て秋田おじさんに絡んでください。

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お粥とお酒ANDONシモキタ店長
武田昌大さん(デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科修了)
1985年秋田県生まれ。2008年立命館大学情報理工学部卒業、東京にてデジタルコンテンツ業界に従事。2011年株式会社kedama設立。2016年内閣府が運営する地域活性化伝道師に選ばれる。秋田の農業の未来に危機感を持ち、若手米農家集団トラ男(トラクターに乗る男前たちの略称)を結成。お米のネット販売サイトtorao.jpとtoraofamily.comを運営している。2015年春クラウドファンディングで約600万円の資金を調達し、築134年の茅葺き古民家を活用した新ビジネス 「シェアビレッジ(sharevillage.jp)」を立ち上げ。また、2017年に日本橋・小伝馬町におむすびスタンド『ANDON』を、2020年に『お粥とお酒のANDON』をオープンし、秋田の食とカルチャーを発信し続けている。

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