No.87
株式会社NTT ExCパートナー【NTT MEDIA LAB】
DXソリューション部 ソリューション技術部門 テクニカルプロデュース担当
sigiさん
デジタルハリウッド東京校本科1996年修了
一台のコンピューターが人生を変えた
──sigiさんは1995年にデジタルハリウッド本科一期生として入学していますが、その動機は?
高校生の頃からバンド活動をやったり、理系の大学に進学後はPhotoshopやIllustratorで作成された作品を見て、自分でも作ってみたいと思っていました。大学を卒業した後、光ファイバーなどを作るメーカーに技術職として就職したのですが、ずっとアートには興味があり、アートっぽいことがやりたいと思っていたんです。ちょうどその頃、スティーブ・ジョブスがマッキントッシュを発表し、個人で3DCGが作成できる時代が到来しました。
はじめはMacで絵を描きたいという程度だったのですが、どうせやるならプログラミングから学んで3DCGが作れるようになり、最終的にはアートっぽいことを仕事にしたいなと。それを実現するための方法をいろいろと調べていたら、ちょうどデジタルハリウッドが開校することを知り、27歳の時、3年間勤務したメーカーを辞めて、一期生として入学したんです。
──それまでの仕事とは全然違うデジタルの世界に知識や経験ゼロで飛び込むわけですが、会社を辞める時、不安や葛藤はなかったですか?
確かにダメだったらどうしようとか、多少の不安はありましたよ。でも勤めていた会社で研究職のまま続けていく自信が次第に弱くなっていって、それなら本当にやりたいことをやろうと思って辞めたんです。
プログラミングとCG制作の基礎を身につける
──デジタルハリウッドでの学びはいかがでしたか?
最初はCG制作の基本的な部分から学んだ方がいいと思い、プログラミングのコースに入ったのですが、同時に最終的に絵を完成させるための、3DCGソフトやノンリニアの編集ソフトも勉強させてもらいました。
当時使っていたマシンはSillicon Graphics社製のIndyで、扱っていたソフトウェアは、PRISMSという、アニメーションやVFXプロジェクトのワークフローを整理し、自動化することを目的としたパイプラインソフトウェアでした。
──デジタルハリウッドに入学してよかったと思うことは?
一番は何も知らないところから、クリエイティブ業界の事情やプログラミングの基礎、CGソフトの使い方など、CG制作に関する様々な知識やスキルを身につけられたことですね。当時はインターネットもなかったので、独学で学ぶことが難しい時代でしたから。クリエイターとしての基礎を築けたことはその後の人生ですごく役立ちました。
それと、同じ志をもつ友人とも出会えたし、クリエイティブ業界にも入れたので、デジタルハリウッドに入学してよかったです。
──デジタルハリウッド時代、強く印象に残っている思い出は?
学校の床によく寝ていたことですかね(笑)。当時は本格的な3DCGの制作にはものすごくお金と時間がかかっていました。マシンは最低でも100万以上はするので、とても自分では買えず、学校の機材を使用するしかありません。レンダリングにも今とは比べ物にならないほど長い時間がかかっていました。そういうわけで、課題制作や自主制作で家に帰るのが面倒くさいので、みんな寝袋持参で学校に泊まって作っていたのです。今となってはいい思い出です。
フリーランスとして活動
──デジタルハリウッドを卒業後は?
そのまま学校に残って、翌年入学してくる学生を教えるティーチングアシスタントとして1年間勤務しました。担当していたのはCGの基礎を教えるCG概論という授業。同じことでも自分で覚えるのと、人に教えるのとでは全然違います。人に教えるためにはより理解度を深めなければならないし、うまく伝えるスキルも必要になるので、より勉強しました。このことも今にすごく生きています。
3年目以降は、引き続きデジタルハリウッドでCG概論の講師の仕事をしたり、デジタルハリウッドが立ち上げたクリエイター専門の派遣会社に登録して、モーションキャプチャーの修正や、現在勤務している会社でワークステーションのメンテナンスの仕事などをしていました。この時、デジタルハリウッドで学んだプログラミングの知識が役に立ちました。
社員としてバーチャルスタジオに携わる
その後、1998年に現在勤務している株式会社NTT ExCパートナー(当時NTTラーニングシステムズ株式会社)が、バーチャルスタジオのシステムを作って事業展開することになったので、そのスタッフとして正式に入社しました。バーチャルスタジオは、実写映像とCGをリアルタイムで合成し、あたかも仮想空間で撮影しているかのような映像を作り出すシステムのことです。これでテレビ番組やプロモーションビデオなど、いろいろな映像を作っていました。
具体的な業務としては、本格的な機材を使用しての撮影や照明、音声などのスタジオ業務からCG作成、クロマキー合成、リアルタイムレンダリング、編集まで一通りのことを経験しました。この時、CGのメインソフトとして使っていたのはSoftimageでした。
CG制作がメインに
でもこのバーチャルスタジオが5~6年で閉鎖になっちゃったんですよ。それで2004年からはCG制作のチームにジョインして、映画やドラマ、CM、ゲーム、パチンコ台など、あらゆるジャンルのCG制作を手掛けるようになりました。僕も若かったので、もう来た案件は何でも闇雲にやっていました。よくデジタルハリウッド時代と同じように会社に泊まり込んで仕事をしていましたね。
しばらくするとドラマと映画がメインになりました。当時主に使用していたのはMayaというソフトです。
2004年以降はひたすらCGを作り続け、気がつけば20年経っていました(笑)。
技術の進歩に必死で食らいつく
──2004年から現在まで、デジタル技術は進歩のスピードがものすごく早かったと思うのですがいかがですか?
そうですね。今でも毎年どんどん新しい技術が生まれているので、常に勉強しなければなりません。デジタルハリウッドを卒業してからは独学なのでついていくのが大変です。でも最近はインターネットで簡単に調べられるので、まだ楽ですね。20代の頃は教えてくれる人もなかなかいなかったので大変でした。
──20年の間で技術的に大きく変わったと思う転換点はありますか?
日々少しずつ、どんどん変わっているのでこれというのは難しいのですが、例えば10年前くらいのフィジカルベースドレンダリングの技術の登場は自分にとっては衝撃的でした。
光の反射、屈折、散乱、吸収など物理現象としての光学現象の計測を行い、厳密な数式を用いてモデル化したレンダリング手法で、まるで実写のようなリアリティのあるCG映像を作ることができます。
僕がCGを始めた頃はハリウッドのスタジオが作るようなリアルできれいなCGの制作はすごく難しく時間がかかるものでした。しかし、フィジカルベースドレンダリングの技術を取り入れることで、ハリウッドと同等なクオリティーのCGが比較的短時間で作れる、という希望をもつことができたので、僕にとって大きな一つの転換点となった気がします。
また、3DCGにリニアワークフローの考え方が広まってきたときも、CGの世界が大きく変わったと感じました。すべての映像素材が現実世界と同じ見え方になるよう管理するカラーマネジメントの一つで、これによってすごく楽にCGで色をリアルに表現できるようになり、僕たちにもハリウッド映画のようなすごいCGが簡単に作れると思わせてくれました。
近年はUnreal Engineの登場でリアルタイムでCGが作れるようになったので、大きく変わったと感じます。最近仕事で主に使っているのもUnreal Engineです。
初の大作『男たちの大和』
──これまでいろいろな映画やドラマの制作に携わってきたと思いますが、印象深い作品を教えてください。
ドラマでは、2013年のNHK大河ドラマの『八重の桜』ですね。江戸時代の無数の建物が建ち並ぶ城下町の広大な風景や大勢の人々が橋を渡るシーンなど、VFXカットがかなり多かったので苦労しました。
映画では2005年、37歳の時に関わった『男たちの大和』という映画です。初めて手掛けた大作だっただけに、ものすごく大変でしたね。ただでさえCGパートがものすごく多かったのですが、多くの戦艦から戦艦同士の戦闘シーン、爆発シーンなど、とにかく手間暇がかかる難しいシーンが多かった。初めてのことばかりで、試行錯誤の連続でした。リテイクも多くて何度も作り直しました。そのため、当時はスタッフが20人ほどいたのですが、みんなで数カ月間休日返上で制作をしていました。でも当時はみんな若かったので勢いで乗り切った感じです。完成した時はほっとしましたね。やはりキツかった仕事の方がよく覚えてますね(笑)。
──それほど苦労して完成させた映画なら、試写を観た時は感慨深いものがあったのでは?
まあ、映像は制作途中に何度も観ていますし、その時はもう次の仕事が始まっていたので、逆に試写なんか見てる暇ないんだけどな…という感じでした。もし20代の頃なら感激したかもしれませんけどね。当時はもう来る仕事をこなすので精一杯でしたから。
やりがいは感謝の言葉
──CG職人として淡々と仕事をこなしていたと。では仕事のやりがいはどんな時に感じますか?
僕が作ったものに対して発注者からありがとうと言われた時ですね。その後またオーダーが来れば僕の仕事に満足してくれているということでしょう。こんな自分でも人の役に立っているんだなと実感がもてるのでうれしいですね。
──CGやVFXの制作の仕事はすごく楽しいとか天職だなと思いますか?
いや、あまり思ったことはないですね。ただ、自分には少し向いているかなとは思います。
昔は自分が作ったCGが監督からOKもらってもいつも「これでいいのかな…」と思っていたのですが、最近になって、自分の作ったものを見て、やっとここまでできるようになったなという多少の満足感のようなものはたまに感じられるようになりました。
──CG制作の仕事がものすごく好きというわけではないという点が興味深いですね。であるにも関わらずなぜ20年以上もこの仕事を続けてこられたのでしょうか?
この仕事は辞めるまでずっと覚えることだらけで、本当にきついんですが、新しいことを覚えた時は満足感ややりがいがあるし、それだけに飽きないんですよね。ずっと同じことの繰り返しなら多分飽きて辞めていたと思います。今は映像系の生成AIについて勉強中です。
──仕事をする上で心がけていることは?
若い頃は自分がいいと思うものを作りたい、自分の味を出したいという気持ちが強かった。でも、CGの仕事を始めたらその気持ちはすぐなくなって、監督が作りたいものを作りたい、監督の期待に応えたいという思いで仕事をしてきました。最近はそれにプラスαの価値をつけるというか、監督の要望や期待を少しでも超えるものを作りたいと思っています。
壁の乗り越え方
──仕事をする上で、壁にぶち当たった時はどのようにして乗り越えてきましたか?
一人で抱え込まないで、周りのスタッフに相談していました。すると誰かしらが何かしらの解決策を提示してくれるので、それで乗り越えてきたように思います。なので僕はスタッフにすごく恵まれていると思いますね。
──ではこれまでつらくてCG制作という仕事を辞めようと思ったことはないですか?
それはないですね。というか、忙しすぎてそういうことを考える暇もなかったというのが正直なところです。
──それほど忙しすぎたらそれが嫌になって辞めたいとは思わなかったのですか?
もう途中であきらめましたね。これが自分の選んだ道だからしょうがないと。
仕事の忙しさというより、それによってどんどん友達がいなくなったことの方がつらかったですね。友達の結婚式も仕事でドタキャンしたこともありました。そこで友達の方を取ってしまったら、仕事を遅らせていろんな人に迷惑をかけてしまうし、最悪の場合仕事がなくなってしまうという思いの方が先に立ってしまって。それも自分で選んだ道だからしょうがないと。
──今後の目標・展望は?
特に定めてはいないです。今までも目標や展望があって仕事をしてきたというよりは、絶え間なくやってくる仕事を必死でこなしてきたので。それがこの先も続けば同じようにやるだけだし、なくなればその時考えます。
──デジタルハリウッドの現在のスローガン「すべてをエンタテインメントにせよ!」をどう捉えていらっしゃいますか?
「何でも楽しくやろうよ」というコンセプトだと解釈しています。キツいこともつらいこともすべて前向きに捉えるという感じがしてすごくいいと思います。
CGの世界を楽しみ尽くそう
──在校生へのメッセージをお願いします。
CGに関しては、やりがいもあるし、楽しもうと思えば一生かかっても楽しみきれないくらいの奥深さがあるので、ぜひ一生懸命取り組んでいただけたらと思います。
あとは、単なるCG制作だけではなく、世界にあふれる戦争や貧困を減らし、環境問題の解決に貢献できるような人がデジタルハリウッドの中から出てきてくればいいなと思います。
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デジタルハリウッド東京本校
株式会社NTT ExCパートナー【NTT MEDIA LAB】
DXソリューション部 ソリューション技術部門 テクニカルプロデュース担当
sigiさん
1967年、埼玉県出身
大学卒業後、光ファイバーなどを作るメーカーに技術職として入社。3年間勤務後、アートに関わる仕事を志し、1995年、デジタルハリウッド東京校一期生として入学。卒業後はフリーランスとしてデジタルハリウッド東京校の非常勤講師やPCのメンテナンス業務などを経て、2004年に株式会社NTT ExCパートナーに入社。以降、クリエイターとして数々のドラマや映画などの3DCGやVFXの制作に携わっている。
主な実績
【ドラマ】 NHK、民放の放送用ドラマ。OTT用配信ドラマ等
【映画】「男たちの大和/YAMATO」、「ヤッターマン」、「東京タワー オカンとボクと、時々オトン」、「リボルバー・リリー」等
【WEB】 「FUJIFILM FinePix REAL 3D体験スペシャルサイト」、「MAZDApremacy(スタイル&カラー)」等
【CM】 「パラマウントベッド」、「アリコ CI」、「東レ企業CM」等
その他イベント映像、PV、TV-CM、TV番組、ドラマ等多数手掛ける。