No.21
フリーランス デジタルプロダクト・サービスデザイナー
酒匂 ひな子さん(デジタルハリウッド大学卒業)
このインタビューは2019年9月当時の内容です。
社員が5人から100人に! 初めて関わった自社開発アプリが大ヒット
- Q
- 酒匂さんは、デジタルハリウッド大学の卒業生だそうです。入学されたきっかけは?
- A
- 酒匂:親がパソコン関係の仕事をしていたので、高校時代から情報系の授業が得意だったんです。そこで情報系を担当していた担任教師に、「大学でももっとWebの勉強をしたい」と相談したところ、デジタルハリウッド大学を紹介されました。
- Q
- 入学年度は?
- A
- 酒匂:2009年に、大学5期生として入学しました。まだ秋葉原のダイビルに校舎があった頃でした。
- Q
- 大学でも、Webをメインに学んだのでしょうか。
- A
- 酒匂:最初はそう考えていたのですが、デザインやCGなどいろいろな分野が学べますし、当時は映画に魅力を感じたんですよね。1年生の頃は、幅広い授業を取りつつ映画とグラフィックデザインを中心に学びました。でも2年生になり、就職を考えるフェーズに入ったところで、もともと興味のあったWeb系に進んだほうがいいのかなと思うようになって。3年生からはWebメインになりました。
- Q
- その頃からインターンにも行き始めたんですよね。
- A
- 酒匂:はい。2011年から株式会社エウレカでインターンとして働き始めました。インターンの第一志望に挙げたら、たまたまキャリアセンターの方とエウレカの創業者がお知り合いだったみたいで。「すごくいいよ」と勧められて、実際に働き始めたら先方にも気に入っていただきました。
- Q
- エウレカでは、どんなお仕事をされていたんですか?
- A
- 酒匂:最初は、化粧品のランディングページのWebデザインやアプリのデザインなどをしていました。大学でデザインの基礎知識を学び、ソフトも使えたので、仕事の現場でも応用ができました。後に独学でデザインを学んでいる方も入ってきましたが、やっぱり基礎が違うんですよね。なので大学でちゃんと学んでいてよかったなと思いました。
その後、自社サービスを始めることになり、マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」に関わることになりました。
- Q
- 今や1000万人が利用するアプリですよね。その立ち上げに関わったというのは、すごい経験です。
- A
- 酒匂:当時は、まさかそこまで伸びると想像できていませんでした。無我夢中で作っていたら、いつのまにかすごいことになっていたという感じです(笑)。とにかくサービスを成長させるために必死でしたが、新しいことにチャレンジをするのは楽しかったですね。最初は代表2人と私とエンジニア2人だったので、私の提案を採り入れていただくことが多く嬉しかったです。
- Q
- 酒匂さんの役割は、やっぱりデザインでしょうか。
- A
- 酒匂:最初はデザインだけでした。その後裁量を広げていき、プロダクトマネジメント(PdM)にも関わるようになりました。最初は5人でしたが、徐々に人が増えていき、最終的には100人近くなったので、まとめる人間が必要なフェーズになりました。
- Q
- デザインとPdMでは、全く役割が違いますよね。人によっては「私は現場で手を動かすほうが好き」という方もいますが、酒匂さんはPdMに向いていたのでしょうか。
- A
- 酒匂:確かに葛藤はありました。2回くらい悩んだ時期があって。最初は、エンジニアの仕事もやろうとしたんですよ。5年くらい前でしょうか、デザインもできて自分で実装もできる「フルスタックデザイナー」という言葉が流行ったんです。コーディングは大学で勉強していましたが、フロントエンドエンジニアの方に比べるとまだまだなので技術をもっと学ぼうかと考えた時期もありました。
その後、デザインにちょっと飽きてしまった時期もあって……。長く続けてきてやり切った感もありましたし、会社としてもプロジェクトをまとめられる人を高く評価する傾向があったんですよね。そこでPdMに立候補したら、会社がそのためのチームを作ってくれたんです。そこで1年半くらいPdMの仕事をしました。最初は不安でしたが、後輩の指導をしたら、周りの人から「教えるのうまいね」と言っていただき、「あ、やってみたら意外とできるんだな」という自信につながりました。
デザイナーから起業家へ 初のサービス「ペアケア」がヒットの兆し
- Q
- その後、フリーランスになったのはどういうきっかけでしょう。
- A
- 酒匂:同じ会社で、同じサービスを6年ほど続けていたので、別のことにトライしたくなったんです。そこで2018年からフリーランスになりました。
- Q
- 不安はありませんでしたか?
- A
- 酒匂:ありました。でも、エウレカで上司として働いていた方が、私より先に独立したので相談に乗っていただいて。そもそもエウレカの場合、辞める人の半分くらいが起業するかフリーランスになるんです。転職する人はそんなにいなくて。先輩がフリーランスとしていきいきと仕事をしている姿を見て、「かっこいいな。私も一度フリーになってみたいな」と思っていたので、思い切って独立しました。
- Q
- そこからはどんなお仕事を?
- A
- 酒匂:デザイナーをしつつ、新規プロジェクトにも関わっています。お仕事は、基本的にすべて紹介ですね。私が退職する前に、エウレカの創業者2人が代表を引退してエンジェル投資家をやりつつ新しい会社を経営していたんです。その投資先を紹介していただいたり、あとはほかの会社の横のつながりやデザイナー同士のコミュニティで仕事を紹介していただいています。
- Q
- 「仕事がなくて困った」という時期はありませんでしたか?
- A
- 酒匂:ないと言えばないのですが、収入に対する不安はありますね。プロジェクト型で納品するケースと、会社に半分所属して業務委託に近い形で仕事をするケースと両方あって。業務委託のほうは収入が安定するんですけど、プロジェクト型は入金がすごい先……というような不安はありました。独立したものの、以前の給料より収入が下がるかもしれないという葛藤はありました。
- Q
- そんな中、酒匂さん自身でもサービスを立ち上げています。LINEで生理日を予測・共有する「ペアケア」はどういう経緯でスタートしたのでしょうか。
- A
- 酒匂:エウレカを退職する際、フリーランスで仕事をしながら自分のプロダクトを作りたいと思っていたんです。当時は全くアイデアが浮かびませんでしたが、いざ辞めて考える時間が増えた時にアイデアが降りてきて。女友達や女子大生の子たちにインタビューをして、LINEで生理日予測ができたらいいんじゃないかという仮説が生まれ、開発に乗り出しました。
- Q
- もともとヘルスケアやウェルネスの分野に興味があったのでしょうか。
- A
- 酒匂:エウレカの頃から、女性をターゲットにした美容、ファッション、ヘルスケアの仕事が多かったので興味はありました。
- Q
- ローンチまでの期間は?
- A
- 酒匂:今年3月くらいにアイデアが浮かんで、半年後の9月にリリースしました。フリーランスの仕事をしながら作っていたので時間がかかりましたが、そこまで複雑なサービスではないので、もっと絞れば1、2ヵ月ぐらいでできたんじゃないかと思います。
それに、マネタイズ的な不安があってなかなかリリースできなくて。今は自己資金で運営していますが、投資家の方から「収益性のあるサービスなのか」と聞かれて、そこでもやもやしてしまって。その点は、今も課題ですね。無料で利用できるので、現在はビジネスプランをいくつか練っている最中です。まずはユーザーを増やして、できるだけ多くの方々に使っていただくことに重点を置いています。
- Q
- 企画からローンチまで、すべて酒匂さんおひとりで担当されたのでしょうか。
- A
- 酒匂:UIデザインは私が担当しましたが、エンジニアは別の方にお願いしました。クマのイラストは、デジタルハリウッド大学の同級生に描いてもらいました。主にその3人で作っています。
- Q
- パートナーにも次の生理日を知らせることができる、パートナー共有機能があるのが面白いですね。
- A
- 酒匂:パートナー共有は、インタビューの時に「生理やPMS(月経前症候群)のこと、彼氏にも知ってほしいよね」という話になったのがきっかけです。
生理周期アプリの最大手「ルナルナ」にも、パートナー共有機能はあるのですが、有料なんですよね。私は、ペアケアを男性が生理を理解できる場所にしたいと思いましたし、女性も男性に理解してもらうことで安心できると思い無料で提供することにしました。
- Q
- アプリをダウンロードしなくても、LINEの「友だち登録」をするだけで利用できるのも魅力です。
- A
- 酒匂:そのほうが手軽ですよね。それに、パートナーとは絶対LINEでやりとりするじゃないですか。そこに入り込みやすいんじゃないかという思いもありました。
- Q
- ほかに、このサービスの魅力を教えてもらえますか?
- A
- 酒匂:ペアケアは「生理の見える化」をコンセプトにしており、生理による身体や気持ちの変化に「気づく」だけでなく、「安心」できるサービスを目指しています。
生理は個人差があること、周りに言いづらいことが理由で、不安を持っても相談したり行動に起こしにくいんですよね。また、プロダクトオーナーである私自身が生理のある当事者なのでユーザーの気持ちを理解できますし、ずっとUIデザインを手掛けてきたので、UIやユーザー体験にはこだわっています。
- Q
- 今回いちばん工夫したのは?
- A
- 酒匂:カレンダー機能ですね。開発中のプロトタイプを友達に見せて、フィードバックをもらった結果、今のデザインにしました。ユーザーのみなさんからのフィードバックも、すぐに反映しています。ずっとサービス開発や改善に携わっていたので、これまでの知識を応用しやすいです。最近も、ある機能を改善したら「変わりましたね」とユーザーさんが気づいてメールをくださったのがうれしかったです。
- Q
- 現在の「友だち登録」数は?
- A
- 酒匂:7000人を超えていました(9月18日現在。10月21日時点で2万人突破)。リリース当初はTwitterでみなさんがシェアしてくれて、登録者数が増えたんです。その後は広告やSNSなどのマーケティングに力を入れて登録者を増やしています。当面の目標は100万人です。
- Q
- 今後、機能も追加していくのでしょうか。
- A
- 酒匂:生理だけでなく、例えば妊活のサポートなど、女性の不安をきちんと解消し、安心してもらえるような機能を追加するつもりです。ほかにも、婦人科の先生に監修していただき、体にまつわる正しい情報も届けていきたいですね。特に若年層や男性にも読みやすい形で。「いつもと違うな」「不安だな」と思ったら、相談しやすい仕組みも考えています。すでに関係機関から、そういったお声もかけていただいています。
- Q
- 確かに、女性の体に関する不安を解消できたらすごくいいですね。
- A
- 酒匂:そうですね。今は20歳前後のユーザーが増えているのですが、若いうちから自分の体に関心を持つことはすごく大事だなと思います。若い女性に啓蒙しつつ、彼女たちが年齢を重ねて結婚して、子供が欲しいと思う頃まで使い続けられるようなサービスにしていきたいですね。
女性の体の不安を取り除くサービスを作りたい
- Q
- 「ペアケア」の運営と並行して、フリーランスの仕事も続けているのでしょうか。
- A
- 酒匂:少しボリュームを減らしていますが、半々ぐらいでやっています。将来的には、自分が考えたサービスだけに集中したいと思っています。そこでしっかり収益を上げることが目標ですね。エウレカもそうだったんです。最初は化粧品のWebサイトを制作していましたが、途中から自社サービスがスタートして、今はそちらに専念しているので。それを見て育ってきたので、考え方も似てくるんですよね。
- Q
- 将来的には、「ペアケア」以外のサービスを増やすことも考えているのでしょうか。
- A
- 酒匂:はい、考えています。
- Q
- 10年後の自分はどうなっていると思いますか?
- A
- 酒匂:自分の作ったサービスで収益を上げ、自分自身のプライベートの比重も大事にできればいいなと思います。
- Q
- デジタルハリウッド大学時代のお友達が、「ペアケア」のイラストを描いているとお話しされていました。ほかにも、当時の同級生とはつながりがあるのでしょうか。
- A
- 酒匂:もちろんあります。先輩や同期の友達にも、起業していたりベンチャー企業で役員をしていたりする人がいるので、紹介してもらうことも。私自身、今起業に向けて動いているので、リアルな話を聞いています。
- Q
- デジタルハリウッド大学の卒業生は、横のつながりが強いですよね。
- A
- 酒匂:大人になった今でも、好きなものが似ているんですよね。みんな映画とか大好きじゃないですか。私はIT寄りの仕事をしていますが、分野の違う友達とも仲良く集まっています。映画の話をすると「あの映画のエンドロールに名前が載ってるよ」と言われたり、ゲームについて話していたら「あのCG作ったの私だよ」と言われたり。そういう人たちがゴロゴロいるので刺激になります。
- Q
- 校友会に期待することはありますか?
- A
- 酒匂:「仕事で出会った方が、実はデジタルハリウッド出身だった」みたいなことがけっこうあるんです。「自分の知らないところにも、卒業生がこんなにいるんだ!」と驚くことが多いので、もっと卒業生に気づける仕組みがあるとうれしいですね。最近では、大学10期生の方と知り合いました。デジタルハリウッド大学卒というだけで、「じゃ、あの先生知ってる?」という話で盛り上がれるのが面白いですよね。
- Q
- 最後にメッセージをお願いします。
- A
- 酒匂:「ペアケア」、ぜひ使ってください!
そして、もしこのようなヘルスケア分野に強いデジタルハリウッド出身の方がいたらご連絡ください。正しい生理日や排卵日を予測をするためにはデータが大事なので、そういった研究に力を入れていきたいと考えています。
また、「ペアケア」を始めてから気づいたのですが、生理不順の女性って想像以上に多いんですよね。そういう方は「ペアケア」のような生理予測アプリを使えないと思っているようです。そういった女性を取り込み、不安を取り除くサービスを作っていきたいと思います。
- Q
- 世の中の役に立ちそうですね。
- A
- 酒匂:マッチングアプリ「Pairs」も少子高齢化問題を扱っていましたが、結局、私はそういうことに社会課題を感じているんだなと思いました。これからも、女性が安心できるサービスを作っていきたいです。
インタビュー:野本由起
フリーランス デジタルプロダクト・サービスデザイナー
酒匂 ひな子さん(デジタルハリウッド大学卒業)
WEBデザイナーを目指し、2009年度にデジタルハリウッド大学へ進学。2011年4月より株式会社エウレカにてインターンとして勤務を開始し、恋活・婚活アプリ「Pairs」の立ち上げに携わる。2013年、同社に入社。2018年3月よりフリーランスとして独立し、2019年にLINEで生理日予測・共有ができるサービス「ペアケア」をスタート。
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