Interviewインタビュー

No.11

公開日:2017/08/04  取材日:2017/05

ストリート系映像でシーンを築き、フリーのビデオグラファーに独自の感性と軽快なフットワークで、年間100本の映像を制作!

フォトグラファーフリーランスプロデューサー講師 デジタルハリウッド大学大学院

No.11

Viruksen Production代表 ビデオグラファー/デジタルハリウッド大学非常勤講師
大島 ダヴィッドさん(デジタルハリウッド大学大学院卒業)

このインタビューは2017年5月当時の内容です。

大手企業からのオファー多数!
ハーフの感性を活かした映像をプロデュース

――大島さんは、フリーランスのビデオグラファーとして活躍しつつ、デジタルハリウッド大学で映像制作の授業を受け持っています。まず、映像クリエイターとしてのお仕事についてお聞かせください。

年に100本ぐらい映像を制作・プロデュースしています。得意なジャンルはドキュメンタリー。企業のPR映像やCM、イベントレポートなどの映像がメインです。今人気があるのはFacebookなどのSNSにアップする15秒ぐらいの映像ですね。

――代表的な作品は?

反響が良かったのは、QBハウスのサイトです。去年10周年を迎えたので、全部映像でできたサイトを作りました。Webサイトは別の方が制作し、僕のほうで映像を制作しました。
最近作ったのは、イギリスのロータスのオフィシャル映像。ロータスカップ(レース)とロータスデイ(イベント)のレポート映像がFacebookにアップされました。「お客さま目線で撮ってほしい」と言われたので、車20%、来場者80%で撮ったんです。子供や女性、家族連れなどが楽しそうにしている雰囲気を撮ることで、普段車のイベントに来ない層にもアピールしました。

――大手企業とお仕事をされる機会が多いんですね。大島さんが制作した映像を観て、「うちでも撮影してほしい」とお仕事が来るのでしょうか。

そうですね。営業をかけたことはほとんどありません。大学院時代にYouTubeチャンネルを公開したので、それを見てくれた方からお話をいただくこともあります。

――ストリート系の映像ですよね。フリースタイルバスケ(ドリブル、ハンドリングなどバスケのテクニックとダンスをミックスしたパフォーマンス)の映像を拝見しました。

映像でフリースタイルバスケのシーンを作れたらいいなと思って動画をアップしていたら、なぜか人気が出て。そこからフリースタイルサッカーなどにもつながり、今に至ります。

――映像の世界に足を踏み入れたきっかけは?

もともと高校時代から動画を撮影していましたが、大学時代はCGを勉強していたんです。そんな中、レッドブルにスカウトされ、改めて動画の面白さに目覚めました。海外のトップクラスの現場、舞台裏を見て、撮影や編集のテクニックで「いいな」と思ったら真似して作って。そこから自分のスタイルに進化させていきました。

――レッドブルでの経験が、その後の仕事につながっていったんですね。

あの経験がなかったら、映像を作っていなかったでしょうね。海外は経験や年齢は関係なく、うまければトップに立てます。使えないおじさんを雇うぐらいなら、フットワークの軽い若者を使ったほうがいいという考え方ですから。レッドブルではイベントの撮影をしていましたが、納品もものすごく早いんです。イベントがあったらその20分後に納品。SDカードを渡すと、別のスタッフがほぼリアルタイムで編集してネットにアップしていました。

――先ほど「自分のスタイルに進化させた」と話していましたが、大島さんのスタイルはどのように確立していったのでしょう。

自分の強みのひとつは、ハーフだということ。感性や作り方が、海外寄りなんです。日本の映像を勉強したことがないので、撮影のアングルや編集のリズムもどこか違うようです。「作者の名前がなかったけれど、映像を観ただけでダヴィッドが作ったとわかる」と言われることも。そういった違う目線で映像を作ると、面白いものができるんですよね。日本の伝統文化をストリート系の撮影テクニックで撮ったら、外国人が好むような映像ができたりして。「日本っぽくない映像が欲しい時はダヴィット」と、思ってもらえるようです。

――おひとりで撮影から編集まで請け負っているんですか?

全部ひとりでやっています。それも強みですね。全部僕ひとりで作るので、「こういう映像にしたいから、このカットを撮ってこう編集すればいい」と、作る前から頭の中でビジュアルができているんです。クライアントから「このシーンを押さえてほしい」というプランだけ聞き、あとは自由にやらせてもらっています。

――スタッフがたくさんいるとコンテを描くなどして意思統一を図る必要がありますが、ひとりだとその必要もありませんね。

僕が作る動画は、おもに3分以内の短いもの。どんなイベントかサクッとわかってもらうための映像です。スタッフ5、6人、カメラ3台で何十時間も撮影する……なんてムダですよね? ひとりならそんな手間はいらないし、イベントの入り口から始まって、楽しんでいるお客さんの表情を撮って……と、カットやパターンも決まっています。ムダなカットも減らせますから、その分仕事も早いんです。

――お仕事は順調そうですね。

仕事量は増えましたね。ただ、始めたばかりの頃は、技術もターニングポイントでした。僕が大学を卒業した頃は、まだテープで撮影している人が多かった時代。その時期に、僕はいち早く一眼レフで動画を撮りはじめました。一眼レフを持って、パソコンを背負って、撮ったらその場で編集するというスタイルが流行しはじめた頃です。
今は機材も良くなっていますから、ちょっとお金をかければいい画が撮れます。その分、競争率も上がっていますし、仕事を取るのは今のほうがダントツで難しいです。InstagramにアップするようなPR動画なら、スマホでも簡単に撮れちゃいますからね。今からフリーランスのビデオグラファーになるなら、学生時代にコネを作らないと難しいと思います。

――その中で、仕事を増やすことができたのはなぜでしょう。

フリーランスは、映像を作るスキルだけでなく自分自身も商品です。いくらいい映像を撮ることができても、イヤなヤツと仕事したくないじゃないですか(笑)。クライアントといい感じにコミュニケーションできて、メールなどの返事もすぐに返す。デッドラインも守る。一度仕事をして「今後もお願いしたい」と思ってもらえたらOKです。
正直なところ、同じカメラを使えば画の美しさにはあまり差が出ません。編集のリズムやパターンで僕らしい作品にすることもできますが、企業のPR映像で「こういう映像にしてください」「このストーリーボードでお願いします」と言われたら、誰が撮っても同じです。あとは自分のキャラクターを売っていくしかありません。SNSに「動画をアップしたから見て」とアピールして、そこから仕事につながったこともあります。

――やっぱりアピールするのは大事ですよね。

特にフリーランスは大事です。昔なら営業していたんでしょうけど、今はSNSでアピールすればいいので便利ですよね。
あとは、僕がフリースタイルバスケを撮ったように、誰もやっていなかったシーンを撮ると売りになります。自分のうまいところを探すのが重要なんですよね。
映像を勉強している学生も、「映画をつくりたい」「大手企業で映像を撮りたい」って言うけれど、自分が何を撮りたいのかわかっていません。ドキュメンタリーなのか、ショートフィルムなのか、モーショングラフィックスなのか。強みをわかってから、カメラを回したほうが失敗がないと思います。それが難しいんですけどね。

下手でもいい、自分が面白いと思う映像を作ってほしい

――大島さんは、デジタルハリウッド大学で非常勤講師を務めています。今受け持っている授業は?

映像の基礎を教える授業です。編集ソフトの基本的な使い方を教えつつ、テーマや制限もなく自由に映像を作ってもらっています。要は、時間がある学生のうちに何か作ってみろ、と。それを最後の授業で発表します。

――どんな映像でもいいんですか?

そうですね。でも、グループではなく必ず個人で制作してもらいます。あとは、動けば何でもOKです。アニメでもいいし、YouTuberみたいな番組を撮る人もいるし、プラモデルでストップモーションを作る人も。受講するのは1年生が多いので、映像って楽しいんだよとわかってもらいたいんです。そこで「僕はアニメが得意なんだ」「プロモーション系が得意なんだ」とわかってもらえればいいかな、と。

――面白そうですね。

学生の数だけ作品が生まれますからね。みんなが観て、面白いと思えばそれでいいんです。こんなすごいCGで、こんなすごい機材を使って……なんてどうでもいい。お金をかけても、話がつまらなければ「ふーん」で終わるじゃないですか。YouTubeでも、評価されるのは面白い映像でしょ? 簡単な自撮りでも、ヒットすればそれが正解なんです。

――Web動画は、特にその傾向が激しいですよね。

短くて面白いものが評価されます。集中するのは最初の10秒だけ。つまらなければスキップしてしまいますから。学生にも「下手でもいいから自分が面白いと思ったものを作ろう。観ている人が笑えればそれでいい」と言っています。テクニックなんて、後からいくらでもつきますから。今まで4期ほど授業を担当しましたが、学生の95%が課題を提出しています。

――すごいですね。そもそも、先生としてデジハリ大で働くことになったのは?

杉山学長からFacebookに連絡が来ました。学生時代からTAをやっていましたから、教えることには興味があったんですよね。

――学生に教えるうえでのポリシーは?

先生と学生の間に壁を作らないことですね。年齢が少し違うだけで、お互いクリエイター同士。フラットな関係でありたいと思っています。
あとは、作った映像はSNSにアップするように言っています。自分としては自信がない作品でも、周りは「すごいじゃん」「デジハリ、ヤバいじゃん」となる。「いいね」がつけば自信もつくし、意見ももらえますから。

――見てもらうことが大事なんですね。

フリーになるなら、1年生から活動しなければダメですからね。3年生になったら顧客がいて、仕事をしているのが理想です。最初の授業で「フリーになりたい人」と聞くと半分ぐらい手を挙げますが、最後の授業で同じ質問をすると2人ぐらいに減っています(笑)。厳しい現実を知るんでしょうね。

フリーランスだからこそ、最先端の情報収集を

――大島さんは企業に就職せずに、フリーランスになったんですよね。フリーランスになってよかったことは?

自分でスケジュールを組めること、時間を自由に使えること、収入に関係なく自分らしい生き方ができること。でも、裏を返せば、だからこそ大変なんですよね。サメみたいなもので、泳ぎ終わると沈んでしまいますから。「来月生きているだろうか」という心配は、常にあります。僕の場合、結婚して子供もいますからね。若い人に仕事を取られる可能性もあるし、学生が商売敵になるかもしれない。収入にも波があります。
でも、やって損はないと思います。普通の社会人にはできない経験ができますから。

――フリーランスを目指す人に、心がまえを教えていただけますか?

会社に所属すれば、先輩もいるし新しい技術を取り入れてスキルアップできます。でも、フリーランスは自分しかいません。何もしなければ、同じラインを保つことも難しい。特にCGはそうですね。
だからこそ、今の自分に満足してはダメなんです。去年作った映像を観て「なんじゃこりゃ」と思えないとダメ。「いいものができたな」と思っても、翌週には「もっとよくできるな」と思えないと成長が止まっていることになります。
その分、情報収集が大事になってきます。技術的には日本のほうが遅れているので、海外の情報を引っ張ってこないと差をつけられません。海外でトレンドになっている撮影方法は、大体半年から1年遅れて日本にやってきます。その前に海外の情報を取り込んで、スキルアップして、自分の武器にする。逆に、海外で受けなかった技術は「これは失敗するな」とわかるわけです。時間がある時は、情報を自分で集めて行動する。機材を探したり、展示会を見に行ったりする。けっこう忙しいけれど、そういうことが好きならフリーランスに向いているんじゃないかと思います。

――映像はWebやCGほど流行に左右されないと思っていましたが、そんなことはないんですね。

流行はありますよ。今だったらLog撮影。あとは4K/60p HDRですね。メーカーがカメラのどの機能を打ち出すかによって、トレンドも変わります。クライアントから「こういうのを撮って」と言われることもありますから、使える武器は多いほどいい。「HDRできます」「Log収録できます」となれば、顧客対応の幅も広がりますから。

――確かに、クライアントの要求に応えるためには最新の技術を習得しておく必要がありますね。

先ほど話したことと矛盾してしまうかもしれませんが、仕事によっては自分のスタイルを打ち出すだけでなく、自分の色を消すことも大事です。「シンプルに撮ってほしい」と言われたのに、自分が得意だからとストリート系の映像にしてしまったら、もう仕事は来ませんよね。クライアントの要求に対応することは、とても重要です。

――お仕事でやりがいを感じるのは、どんな時でしょうか。

多くの人に観てもらうのが、いちばんうれしいですね。Web動画は再生回数が目に見えてわかるので、作品がどんどん広まっていくのを見るとやりがいを感じます。低予算で制作した映像でも、それを観て「来年このイベントに行ってみようかな」と思ってもらえれば成功です。

――今後の目標は?

僕は、あまり未来像を作らないんですよ。もともと日本で3DCGをやろうと思っていたのに、映像の道に進みますからね(笑)。いいものを作っていれば、新しい出会いもある。だから、毎日100%で作っていればいいかなと思っています。仕事が来たら、全力を尽くすというスタイルです。
フリースタイルバスケのYouTubeチャンネルでは、新しいレンズ、新しい録り方に好きなだけチャレンジできました。自由なプラットフォームだからこそ、どんどん練習して編集テクニックも身に付いたんです。実験的な表現はそこでやり、そのトライ&エラーを仕事に活かすという“練習”と“実践”の場になっていました。練習の場が仕事につながりトレンドを生み出すこともあるので、流れを作る側、受ける側どちらにも対応できるよう活動していきたいですね。

インタビュー:野本由起

Viruksen Production代表 ビデオグラファー/デジタルハリウッド大学非常勤講師
大島 ダヴィッドさん(デジタルハリウッド大学大学院卒業)

スイス名門、College de l’Abbaye de St Mauriceを卒業後、2006年に来日。デジタルハリウッド大学、デジタルハリウッド大学大学院を修了し、フリーランス・ビデオグラファーとして活動。ストリートシーン専門のYouTubeチャンネルを2010年にオープンし、脚光を浴びる。現在は企業のPRコンテンツ、カーレースなどのイベント動画など、幅広い分野でWeb動画を制作・プロデュース。デジタルハリウッド大学の非常勤講師も務めている。
Viruksen Production→http://viruksen.tokyo/
YouTubeチャンネル→https://www.youtube.com/user/VIRUKSEN

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