Interviewインタビュー

No.42

公開日:2021/08/18 

「人を喜ばせること」がミッション エンターテインメントに尽くす人生から伝えたいこと

プロデューサー デジタルハリウッド大学

No.42

NC Japan株式会社
大河内卓哉さん(デジタルハリウッド大学卒業)

デジタルハリウッド大学1期卒業生の大河内卓哉さん。子供の頃から「人を喜ばせること」を自身のミッションと考え、エンターテインメント業を志し、杉山学長のテクノロジーへの展望に共感してデジタルハリウッド大学に入学。在学中に起業し、卒業後は幼少の頃より嗜んでいたカードゲームやモバイルゲームを中心にプロデュース業務で活躍。学生時代に学んだことや仕事に懸ける思いについて伺いました。
(※このインタビューは、2021年当時の内容です。)

起業のきっかけはゲームブログと学内イベント

Q
大河内さんはデジタルハリウッド大学1期生ですが、進学しようと思ったきっかけは何でしたか?
A
大学進学の際にはとても悩んでいました。というのも、社会で求められるスキルが急激に変化する予感がある中で、人生における「大学で専門的な学びを深める時間」を無駄にしたくなかったからです。いろいろと考えましたが、自分に適しているのは人を喜ばせることだったり、人の気持ちを慮ることだったので、エンターテインメント業界で他者に貢献する活動を通して自分を磨いていきたいと考えていました。
そのときに私は、物を作り流通することも含め、ほぼすべての作業がIT(Information Technology)に帰結する世の中になっていくだろうと考えていました。2021年の今の世界では当然のことですね。ですが当時は、この点を明確に指摘し総合的に学べる学科が見つかりませんでした。
徹底的に国内の大学を調べていた中で、株式会社立という挑戦的な試みを行う大学として、2005年に新しくデジタルハリウッド大学が設立されることを知りました。象徴となる学校名に「デジタル」という単語を入れていることも自身の将来への展望と一致していて、大変気に入りました。
杉山学長が考えられていたテクノロジーへの展望が自分のビジョンと重なっていたこともあり、そうしたことを教育材料として取り入れてくれているだろうという確信めいたものがありましたので、進学しました。
Q
大河内さんが受講した講義で特に印象に残っているもの、お世話になった先生とのエピソードについて教えて下さい。
A
南雲先生の「色彩論」はインパクトがありましたね。美術系の大学っぽい授業なのですが、将来につながる学びになりました。プレゼンテーションやモノを作る際に、色彩をどうするかは意識せざるを得ない問題ですからね。また愛澤先生の「起業論」も好きでした。特にメンタリズムや気持ちの保ち方に関係した内容からは多くのことを学びました。 あとはやっぱり杉山学長。現在に軸足を置いた上で未来を予測するという学長のビジョンを300人の学生に向けて伝える内容の授業で、その思いがとても伝わってきました。
Q
大河内さんはどのような経緯で在学中に起業なさったのでしょうか?
A
当時、カードゲームが好きすぎてブログに内容の解説だけではなく販売戦略についていろいろ書いていたら、そのゲーム会社の社長からコンタクトを取って頂けたのです。時には怒られたり言い合ったり色々ありましたが、それでも懇意にして頂きまして、大学で多くのカードゲーム会社を交えたイベントの開催幹事や、業務支援するまでに至り、個人では回しきれない規模に発展していきました。そこで会社を設立しようと決意しました。
あとは授業内の課題の一環で、某大手企業について記事を調べていたら、課題点が見えてきたんです。「このプロジェクトって、もしかしてこのような点がうまくいってないんじゃないか?」と。それでプロデューサーと直接お会いして伝えたところ、それをきっかけにお仕事をいただいたこともありました。その頃は大学もおおらかで、授業後は会議室を貸してくれて、そこにスタッフを入れて仕事をしていたこともありました。今でも感謝しています。
そのように仕事ができたら、そのオーダーに対応できるスキルを持つ方を学内でも集めました。その時にクリエイティブな人と寝食を共にできたことは後々の人生においてとても大きな資産になりました。それぞれの職種の人がどんなところにこだわりを持っているのかを理解したのです。特に能力が高い人ほどストイックで、自分を追い込むようにしてモノを作っていく傾向にありました。そうした姿を間近で見ることができたので、マネジメントを行うべき立場になったときに「この人のために納期や予算をしっかり取らなくては」と考えられるようになり、クリエイターからの信用を得ることに繋がりました。結局、自分のスキルアップに注力するよりも志を同じくする者といた時間というものが、一番の実りある学びや気付きだったんじゃないかな。これは今だから話せることですね。その中からエンターテインメントのみならず、私と同じゲーム業界に入った仲間も複数人出まして、やってよかったなと思う活動の一つになりました。
Q
以前、デジタルハリウッド大学で特別授業のゲスト講師として講義も行っていらっしゃいますが、ご自身が学生だった頃と比べて、今の大学や学生はどのように見えていますか?
A
大学の環境は私たちの頃よりも良くなっていると思います。しかし、環境が整備されたことで、逆に学生は自分で考えて行動する力が弱まっているような気もします。もっと学生は自発的に動いてもいいのではないかなと。先ほど持ち出した自身の例で恐縮ですが、人と会うことで、仕事はいただけたりします。
学生の中からよく耳にするのが、「まだ人に見せるレベルに達していないから」という話。今の自分のレベルや状態を気にするよりも、まずは飛び出して、自分の夢の仕事を一旦近いところで見た方が良いと思います。学生の頃の下積み経験は、自身の責任で事業を行って損害を出すのに比べたら痛くも痒くもないレベルです。ゲームならゲームの会社、撮影だったら撮影の現場に行った方が良いです。それによって自分に何が足りないのか見えてくるはず。足りないものは時間があるうちに学び、実践する。自分に何が足りないのかを分からないうちに、4年間を終えないでほしいですね。
新卒で入社して具体的な業務を覚えるまでが約1年。しかし会社の中にいなくとも、学生の4年間があれば、学びをしながらその1年分のスキルを手に入れてブラッシュアップしていくことは決して難しいことではないと思います。

行き場のない人に寄り添えるのがエンターテインメントの仕事

Q
これまでお仕事をしてきたなかで面白いと感じたことや、刺激的な場面、やりがいを感じた瞬間など、どんなものがありましたか?
A
たくさんあるので語り尽くせないのですが、提供したサービスに本気に取り組んでいただける方を見かけた時にやりがいを強く感じます。正直な話、私が携わっているエンターテインメントの仕事は、衣食住に関わるものではありません。しかしエンターテインメントの仕事は、行き場がなかったり、活力が湧かなかったりする人に対して、精神的な満足度や充実度を与えられる仕事だと思っています。最初にもお話ししましたが、「自分という存在が、社会にどのような貢献ができるか」から私の行動や思考はスタートしていますので、本質的には「誰かのためになりたい」と常に考えて生きてきました。そんな想いを実現するために、エンターテインメントというフィールドで、デジタル技術を使って仕事をしています。
Q
デジタルハリウッドの学校理念は“Entertainment. It’s Everything!”ですが、大河内さんはこの言葉をどのように解釈されていますか? 普段のお仕事の中でこの言葉が響く瞬間はありますか?
A
日本語では『すべてをエンターテインメントにせよ』ですね。私が大学にいた時から理念は変わっていません。このスローガンだけでも学生時代を思い出し、懐かしくなります。この理念の主語は(学生たちよ)だと解釈しました。この学校理念は自分の中の引き出しをどのように外に出していくかという意味合いも含めた上で、すべての学生や卒業生への「エンターテインメントできていますか?」という問いかけでもあると思います。
それを受けて私自身は、“Entertainment. Everything in life!”(私の人生はいつもエンターテインメントに尽くしています)と表現して過言ではない日々を過ごしています。街中を歩いて何かしらのクリエイティブを見ても、フォントやレンダリング、エフェクトの掛け方を意識して見て、いいなと思ったことは自分の仕事に反映させます。豊かになるにつれ、何か使えるモノを作るだけではなく、そこに生きる中で掴んだエンターテインメントを乗せることで、ようやく価値が認めるモノになる世界を見据えた上で、『すべてをエンターテインメントにせよ』なのだなと、受けとめています。
Q
今後の目標、将来像があれば教えてください。またその目標達成のためにされていることがあれば教えてください。
A
上手く伝わるか若干不安ではありますが…目標や将来像は、「自身が愛する該当の分野において、自分がいなくても限りなく正解に近い活動が行われる世の中になること」の実現です。そのために、これまでの私の理念を他者に伝えていきたいです。これが今後の自分の中でやっていくべきことなのかなと、特にここ数年は思うことがありました。
きっかけとしては、過去プロジェクトが一段落ついた際に、自分の理論を後任に伝えきれていなかった経験があります。それではあまりに会社と事業に対して無責任だと思い、自身の退職予定を年単位で延長して、自分のやり方や想いを少しでも継承していきました。大事なのは適性を見極めつつ、信用することでした。そうしないと人は伸びないことを学びました。そうやって信頼して種を蒔いていけば、自分が到達しなかったところにまでいつか到達する可能性があると考えています。
Q
今の大河内さんが学生や後進に向けて講義をするとしたら、どんなテーマでお話ししますか?
A
「エンターテインメントの仕事を行うにあたってのメンタルセット」をテーマとしたいところです。仕事を続けていく上での最も大きな悩みは、人間関係だったり、会社から求められていることが理解できなかったりといったことが多いです。せっかく技術を磨いた人が、メンタルで躓いてしまうのであれば転ばぬ先の杖を伝えることも大切と思います。
Q
デジタルハリウッドの現役の在学生や卒業生、関係者など、インタビューを読んでいる読者にむけてメッセージをいただければと思います。
A
私たちは様々な実現可能性がある、興味深い時代に生を受けている仲間です。なぜならば、その実現可能性という名の未来に対して、各々が自分自身という資本を投じる活動を自らが選択できる権利があるからです。人類の歴史に比べれば、私たちの数十歳程度の差など、些細なことです。ぜひ世代を超えて、同じ時代を生きる仲間として、より良き未来の実現に向けて、共にベストを尽くしましょう。

大河内卓哉さんが学んだのはこちら↓↓
デジタルハリウッド大学

大河内卓哉さん
1985年生まれ。デジタルハリウッド大学1期卒業生。学生時代にベンチャー企業を立ち上げ、その後、株式会社バンダイナムコゲームス(現:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)に就職。主な経歴として、Sony Computer Entertainment Inc. Japan Studioや株式会社ブシロードなどでゲーム制作やプロデュースに携わる。現在はマネジメントを担当する。

一覧へ戻る

←トップに戻る