Interviewインタビュー

No.22

公開日:2019/11/27  取材日:2019/04

デザイナー同士の横のつながりを作りたい! Webデザイナー 兼 デジタルハリウッド講師が語る過去、未来

Webデザイナーフリーランス講師 STUDIO福岡

No.22

フリーランスWebデザイナー/デジタルハリウッド大学非常勤講師/デジタルハリウッドSTUDIOトレーナー
おの れいこさん(デジタルハリウッドSTUDIO福岡卒業)

このインタビューは2019年4月当時の内容です

不動産系企業からフリーランスWebデザイナーへ 20代での鮮やかな転身

Q
おのさんの現在のお仕事について教えてください。
A
おの:フリーランスのWebデザイナーとして活動しつつ、デジタルハリウッド大学でIllustratorやPhotoshopの基本操作を教える授業を受け持ったり、デジタルハリウッドSTUDIO新宿や渋谷でトレーナーをしています。

Webデザイナーとしての最近制作したのは、大阪城の敷地内にできたインバウンド客、観光客向けの複合施設のランディングページのデザインを担当しました。

また直近では、写真のレタッチに興味があり、自主制作しています。合成によって撮影ではできない表現をしたり、人物写真をイラスト風に加工したりしてInstagram( https://instagram.com/ono_picnico )にアップしています。好きで始めたことですが、仕事につなげていけたらと思っています。

Q
もともとはデザイナーではなく、不動産系の企業にお勤めだったそうですね。
A
おの:就活の頃は、衣食住の「住」に関わる仕事がしたいと思っていたんです。それでハウスメーカーの営業職ばかり受けていました。でも落ちてしまったので、近い業界である家具家電のレンタル会社に入ることに。そこで営業と事務を並行してやっていたのですが、ある時会社のパンフレットが古いことに気づいたんです。それで、新卒ながら「私、作っていいですか?」と提案して。と言ってもデザインソフトなんて無かったので、エクセルで無理やりパンフレットをデザインしました(笑)。画像の切り抜きもペイントを使ってチマチマと。でも、そんなパンフレットを褒めていただき、「あ、私、こういうのが得意なんだ」と気づき、「これを仕事にできたら楽しいだろうな」と思うようになりました。
Q
普通、「パンフレットが古いから自分で作ろう」とはなりませんよね。
A
おの:それまで自分では意識したことがありませんでしたが、デザインに興味があったんでしょうね。みんな好きなことだと思ってました。
Q
デジタルハリウッドSTUDIO福岡に入ったきっかけは?
A
おの:パンフレットを作ってから、会社の名刺もデザインするようになって。「これからの時代、Webデザインもできたほうがいいかな」と思い、勉強のためにデジタルハリウッドに入りました。25歳くらいでしたね。昼は会社に行きつつ、夜はデジタルハリウッドで学ぶというサイクルでした。
Q
どれくらいの期間、通っていたのでしょう。
A
おの:半年+卒業制作2ヵ月の合計8ヵ月です。
Q
授業の感想はいかがでしたか?
A
おの:講師の方が作品を講評してくださるのですが、「この余白を、もっとこうしたら?」などと自分では思いもしなかったことを突っ込まれるのが新鮮でした。指摘されて「あ、そうなんだ」と気づくと同時に、「デザイナーってそういうところまで気にしないといけないんだ」というプロの目線を学びました。
Q
デジタルハリウッド卒業後はどうされたのでしょう。
A
おの:卒業とほぼ同時期に会社を辞めました。当時デジタルハリウッドSTUDIO福岡は、デジタルハリウッドとパートナーシップを結んでいる九州インターメディア研究所が運営していたのですが、その採用担当の方に卒業制作発表時に声をかけていただいて。そこで九州インターメディア研究所に籍を置きつつ、福岡で親しまれているテレビ局のWeb制作チームに常駐して、Webデザインの仕事をするようになりました。新番組が始まったら番組サイトを作ったり、局主催のイベントのサイト等も作っていましたね。
Q
Webデザインが本職になったわけですね。感想はいかがでしたか?
A
おの:初めての職場は楽しかったです。テレビ局で働いていた時は、自由に作らせてもらっていて。作ったものを提出すると「いいんじゃない?」と受け入れてもらえて、あまりダメ出しされることもありませんでした。初心者としては、気持ちがラクでしたね。ゴリゴリの制作会社に入り、きつい思いをして辞めてしまう人はけっこう多いので。入り口としては良かったと思います。

でも、半年ほど勤めたところで、もっと厳しい環境に身を置き、スキルアップしたいと思うようになって。そこで制作会社に転職しました。やっぱりきつかったですけど(笑)。

Q
どういう点がきつかったのでしょう。
A
おの:まず案件の数が段違いなので、スケジュールも小刻みですし、デザインについても細かく指摘されて。でも、先輩も忙しいので、「修正して」と指摘されるものの、細かく教えてくれる余裕はないんです。「何が変なんだろう」といろいろ調べたり、先輩のデータを見せていただいたり、デザイナー歴の長い同僚に聞いたりして、自分なりに解明してはまた突き返されて……の繰り返しでした。

とはいえ、厳しい分スキルもついたのではないかと思います。制作会社は効率重視なので、自分でもそういったやり方を吸収できました。

Q
そこからフリーになったのですか?
A
おの:はい。その制作会社に1年ほど勤めてフリーになりました。本当は転職をしようと思っていたのですが、ちょうどそのタイミングで個人的な依頼が増えて。さらに、福岡で有名な勉強会の運営を任されることになったんです。サイト研究会、略して「サト研」という勉強会なのですが、もともと運営していたのがデジタルハリウッドでも講師をされていた方々だったんです。その方々が運営を世代交代したいということで、私のデジタルハリウッド時代の同期に声がかかり、そこからおのさんも一緒に、と声をかけて頂きました。毎月開催されて、人の繋がりがたくさん生まれる人気の勉強会だったので、「これならフリーでいけるかも」と、独立することに。不安もありましたが、「やれるところまでやってみよう。ダメならまた考えればいいや」と思っていました。

見た目のカッコよさだけでなく、目的に合ったWebデザインを

Q
東京にはいつ頃来られたんですか?
A
おの:2年ほど前に来ました。ただ、福岡はほかの地方に比べて仕事も十分ありますし、大きなスタートアップ企業も増えていたので、当時は福岡に戻りたい気持ちも強かったです。
Q
東京で一から基盤を作るのは大変だったのでは……。
A
おの:フリーになって半年、調子が乗ってきた時に上京したので大変でした。福岡での仕事も継続していましたが、やっぱり徐々に減っていくんですよね。最初の3ヶ月ぐらいは引きこもっていたのですが、これではよくないなと思ってクリエイターの交流会などに参加するようにしました。そんな中、デジタルハリウッド大学の栗谷先生からトレーナーの仕事を紹介していただいたんです。そこから新たなつながりが生まれました。
Q
教える立場になりましたが、指導する側の難しさは感じていますか?
A
おの:そうですね。私が教えているのは初心者の方々なのですが、生徒さんによって頭で噛み砕ける情報量が違うんですよね。制作していただいたWebサイトを添削する時も、呑み込みが早い方ならすべてバーッと説明しても理解していただけますが、苦手意識がある方に対してはひとつひとつ段階を追って教えなければいけません。頭が混乱してしまいますし、さらに苦手意識を持ってしまいますから。そのあたりを見極め、説明の仕方を変えるようにしています。特にコーディングは、「こう書いたからこうなる」とイメージするのが初心者には難しいので、どう伝えるべきか悩ましいところです。

それとともに、自分で考えてもらうことも重要だと思っています。私が「こうしたほうがいいですよ」と言っても、果たしてそれがその方が表現したいことと一致するかどうかはわかりません。「私はこうだと思うけれど、本当にその通りかどうかは自分で決めてね。すべて鵜呑みにする必要はないからね」と言うようにしています。

Q
逆に、教える楽しさはどんなところに感じていますか?
A
おの:違うクラスの方が、私のシフトをわざわざ狙って教わりに来てくれたり、「先生に課題を見てもらったおかげで1位を取ることができました」と報告に来てくれたりするとうれしいですね。
Q
ご自身が、Webデザインをするときの楽しさ、大切にしていることは?
A
おの:最近はサイトのリニューアル案件が多いのですが、「サイトが古くてダサいから直したい」と言われることが多いんですよね。でも、一度それは置いといて「どんな風にサイトを活用したいですか?」「そもそもなぜサイトが必要なのでしょう」と目的をはっきりさせるようにしています。見た目がカッコいいデザインならいくらでも作れるし、どこにでもありふれています。でも、目的に合わせたデザインじゃないと意味がない。制作費って高いですし。そのため、まずは目的を聞くことを大事にしています。提出したデザインが一発OKだったり、先方に喜ばれたりすると、ヒアリングが上手くいったのかなとうれしくなりますね。
Q
一発OKということは、向こうの要望を満たしたということですよね。
A
おの:そうですね。Webサイトの配色も提案しているので、そちらに納得していただくのもうれしいです。色って、クライアントの主観が入りがちな要素なんです。ターゲットにはこの色が好まれるけれど、「でも私はこの色が好きなんです」と違う色を希望されることも。「会社をどう見せたいかという方針と好みの問題は別ですよ」と丁寧に説明したり、先方の意向を聞いた上で再提案をするなど、努力しています。
Q
得意とするデザインは、どんなものでしょう。
A
おの:ブライダル系のWebデザインの仕事が多いので、20代後半~30代前半の女性が憧れるようなテイストが得意です。ひと口にブライダル系と言っても、式場によってカラーが違うんです。クールでスタイリッシュな式場もあれば、海、山、と自然の中にあったり。それぞれの特色を取り入れつつ、30歳前後の女性に刺さるデザインを心掛けています。
Q
今後挑戦したいデザインは?
A
おの:最近スポーツ系のデザインを少しだけ手掛けたのですが、これまでと全然違うんですよね。それが面白かったので、スポーツやアウトドアのようなちょっと男性的でかっこいいデザインにも挑戦したいです。
Q
デザインにも流行りがありますよね。どのように勉強したり、センスを磨いたりしているのでしょう。
A
おの:日々いろいろなサイトを見るようにしています。でも、トレンドに偏り過ぎると3年後にはダサい……みたいなことになってしまうので、私の場合はあまりトレンドに寄り過ぎず、その企業の雰囲気を表現できるデザインを心掛けています。案件ごとにイメージに合うものをPinterestでピンして集めることが多いですね。そうすると、似た案件が来た時に見直せるので。
Q
最近では、Webデザインの本も執筆されたそうですね。
A
おの:栗谷先生からお誘いをいただき、先生や私のように指導経験のあるデザイナー数名で『初心者からちゃんとしたプロになる Webデザイン基礎入門』という本を書きました。デザインよりも、コーディングの話がメインです。目指したのは、Webサイトを作ろうとする人が最初に手に取る本。Webとは何ぞやから始まり、HTML/CSSの書き方の基本を説明しています。演習としてWebサイトを制作し、最後にアップするところまで解説しているので、この一冊を読めばひと通りWebサイトを作れるようになります。初心者の方に、ぜひ読んでいただきたいです。

仕事は飲み会でゲットする! 人となりを見て、互いに楽しく仕事をしたい

Q
このインタビューを読む方には、フリーランスのWebデザイナーやエンジニアも多いと思います。コンスタントに仕事を受注するためのアドバイスはありますか?
A
おの:私の場合、単発のお仕事が多いのですが……。仕事をどう取ってくるかで言うと、基本的に飲み会です。東京では、IT系のクリエイター交流会がひんぱんに開催されていますよね。そういった場には、クリエイターだけでなくフリーランスに仕事を発注したい方も来ることもあります。そこに参加すると、その場では仕事につながらなくても名刺交換した方から後日仕事が来ることも。これまでの仕事は、ほとんどこの方法で取ってきました(笑)。
Q
うまくアピールするための秘訣はありますか?
A
おの:人となりが合う/合わないって大事だと思うんです。お酒を飲む場って“素”が出ますよね。そこで波長が合うと思っていただけると、その後仕事の依頼をしてもらいやすいんです。私の場合は「あ、仕事を頼みやすそうだな」と思っていただくことを重視しています。気さくで依頼しやすい雰囲気を出すようにして(笑)。iPadなどを持ってきてその場で過去の仕事を見せてくださる方もいます。

私自身、カチッとした人と仕事をするのが苦手なので、気さくな雰囲気を見せておくと堅い方が寄ってこないんですよね(笑)。フィルタリングじゃないですけど、「私はこういう人間ですけど、そんな私に合う方はどうぞ!」という感じです。

Q
なるほど。仕事上のストレスも減りそうです(笑)。
A
おの:仕事をする以上、こちらとしても合わない方とはご一緒したくないじゃないですか。交流会で人となりを見て、こちらも「この人と一緒に仕事したら楽しそうだな」と思える方とめぐりあえるとうれしいですね。
Q
おのさん自身も、人と人とをつなげる活動をされているとか。
A
おの:デジタルハリウッド大学のプロフィールに、ちょっと盛って書いてしまいました(笑)。福岡で運営していたサト研を、東京でも開いていたことがあるんです。勉強会と交流会の間のようなゆるいスタンスで。そこで、ちょっとしたつながりが生まれることもありました。
Q
なぜやめてしまったのでしょう。
A
おの:東京には合わなかったのかなと思います。東京では、かっちりした勉強会やしっかりした交流会しかなかったのでその間を狙いましたが、なかなか参加者が集まらなかったんです。無料イベントなので無断欠席も多くて。知人には「有料にすれば人が集まるよ」と言われましたが、もっとゆるい雰囲気がよかったのでフェードアウトしました。
Q
別の形で復活することはあるのでしょうか。
A
おの:今後は、自分の講座を開きたいですね。先ほどお話したレタッチに関しては、デジタルハリウッドのSTUDIOで勉強会を開くことが決まっています。ありがたいことに、すぐに定員が埋まりました。
Q
デジタルハリウッドには、卒業生のネットワークとして校友会が存在します。校友会に望むことはありますか?
A
おの:同じコースを卒業しても、得意分野が違ったり、違うジャンルに進んだりしているケースって多いですよね。いろいろなジャンルの卒業生が、自分はどういう仕事をしているか話せる場所があったら面白いかなと思います。
Q
今後の目標を教えてください。
A
おの:デジタルハリウッドで学び、デザイナーとして就職したものの、社内にデザイナーはひとり……みたいなケースって多いようです。「せっかくデザイナーになったけれど寂しい」「ほかのデザイナーとのつながりが欲しい」という話も良く聞きます。なので、デザイナー同士の横のつながりを作っていきたいなと思い、イベントを企画中です。
Q
どんなイベントですか?
A
おの:有志のデザイナーがデザインに関する同人誌を作り、頒布する「デザイン読書日和」というイベントです。

エンジニアは勉強会もたくさん開かれていますし、社外のつながりも広いですよね。でも、デザイナーにはそれがない。特に優秀なデザイナーでなくても、違う分野のデザインをしている方と出会えたらすごく勉強になるじゃないですか。ひとりと知り合うだけでも、世界が大きく広がると思うんです。横の繋がりを増やせる仕組みを作っていきたいですね。

インタビュー:野本由起

フリーランスWebデザイナー/デジタルハリウッド大学非常勤講師/デジタルハリウッドSTUDIOトレーナー
おの れいこさん(デジタルハリウッドSTUDIO福岡卒業)

福岡県出身。西南学院大学卒業後、不動産系の企業に入社。その後デジタルハリウッドSTUDIO福岡でWebデザインを学び、フリーランスのWebデザイナーとして活躍。並行して、デジタルハリウッド大学非常勤講師、デジタルハリウッドSTUDIOトレーナーも務める。共著に『初心者からちゃんとしたプロになる Webデザイン基礎入門』がある。2020年2月29日(土)、東京・浅草橋にてデザインに関する同人誌の即売&交流イベント「デザイン読書日和」を開催予定。

デザイン読書日和 https://dezabiyo.studio.design/
初心者からちゃんとしたプロになる Webデザイン基礎入門 https://books.mdn.co.jp/books/3219203009/

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