Interviewインタビュー

No.60

公開日:2023/06/04 

互いを理解し、生き方に共感するからこそ一緒に歩いていくデジタルハリウッド大学で築いたかけがえのない関係性

アーティストアートディレクターコンテンツプランナーディレクターデザイナーフリーランスプロデューサー デジタルハリウッド大学デジタルハリウッド大学大学院

No.60

マルチアーティスト
naoさん(写真右)
デジタルハリウッド大学2017年卒業、デジタルハリウッド大学大学院2019年修了

UI/UXデザイナー・クリエイター
本多美優さん(写真左)
デジタルハリウッド大学2017年卒業

多汗症の当事者として、疾患の認知を広げ、当事者の悩みを和らげる活動を行うnaoさん。そんな彼女に共感し、その思いをデザインに落とし込む本多美優さん。ふたりのコラボレーションは、デジタルハリウッド大学から始まりました。深く共鳴し合うことで生まれるクリエイティブ、ふたりが目指す未来について話を伺いました。
(※このインタビューは2023年3月当時のものです)

大学時代の友人だからこそ、人間性を知ったうえでプロジェクトに臨める

Q
おふたりはデジタルハリウッド大学在学中からコラボレーションをされていたそうです。どのような活動をしてきたのでしょうか。
A
nao:大学の卒業制作でランジェリーとルームウェアを中心としたライフスタイルブランドを企画し、ブランドロゴやショップカードと名刺のデザインを美優ちゃんにお願いしました。大学院では、多汗症の患者さんに向けて「athe」というブランドを立ち上げることに。私自身も多汗症の当事者なので、医療×テクノロジー×ファッションによる課題解決をテーマに研究を進め、靴下などのプロダクトを開発しました。そのブランドロゴ、Webデザイン、パッケージデザインなども作ってもらいました。

本多:基本的にnaoさんが企画やコンセプトを考え、私がデザインに落とし込むという形ですね。

nao:他の人には伝わりにくい細かいニュアンス、感覚的なところまで汲み取ってくれるんです。

本多:昨年まで、主にモバイルアプリやWebサイト等のUIを制作する会社に勤めていましたが、仕事のうえでも実際に作る工程よりヒアリングにかける時間が長かったんです。大学の頃から「共感のうえでアウトプットをイメージできないと、デザインできない」と思っていました。

Q
そしてこのたび、多汗症の認知を広げ、同じ疾患に悩む人たちに寄り添うことを目的とした個展「My Sweaty Diary」を開催しました(2023年3月25~30日)。こちらでもおふたりはコラボレーションしています。

A
nao:多汗症は、日常生活に支障を来たすほどの発汗過剰が認められる疾患なんですね。ただの汗っかきではないのと、大変さが見えづらいことからひとりで抱え込んでしまう方が大半だったり。日常生活における不便さをはじめ、主に対人面において著しくQOLが脅かされることから、人格形成やメンタル面に大きく影響があるのが特徴かなと思います。直接的に命に関わりのある病ではありませんが、悩んだ末に自ら命を絶つ方も正直少なくありません。周りが思う以上に根が深く、センシティブな疾患ではあるので、こうした現実に真摯に向き合い、共感してもらったうえで、デザインや造形などに携わっていただきました。

本多:仕事の場合、プロジェクトが始まってから、相手の人間性を知っていきます。でも、naoさんとは大学からのつながり。すでに人間性を知っているところからプロジェクトが始まるというのは大きいですね。

Q
今回の個展はどのように作り上げていったのでしょう。
A
nao:最初の構想は、大学院のVRの授業内で出された課題でした。その内容が、「現実で不可能なことをVR空間上で可能にしてください」というVR企画に関するお題で。ずっと「汚い、気持ち悪い」と言われ続けてきた自分の汗を、「きれいなものに昇華したい、虹を描いてみたい」と小さい頃から思っていたので、「水の妖精」という企画を考えました。現実の上で実際にファンタジーをつくってみようと。音楽、パフォーマンスを合わせた映像作品をつくることを決め、その企画を昨年SHIBUYA QWSのQWSチャレンジでトライさせてもらいました。本格的に映像制作に入る前に、まずビジュアルイメージを固めるためにスチール撮影をさせてもらいましたね。QWS入居期間中にふたりであれこれ対話していく中で、制作した映像をただインターネットの海に放つのは、題材も繊細なのでいろいろと懸念があるよねと。できるだけ簡単に消費されないものにしたい、丁寧に作品を届けたい、という想いから、五感を通してストーリーに没入する体験をつくる、オフラインでの展示をつくろうという流れになって。表面的な伝わり方をしないように、じっくり時間をかけてつくり上げていきました。


Q
大学院ではプロダクトを開発していましたが、今回の個展ではミュージックビデオを披露しています。エンターテインメントやアートに活動の方向性を切り替えたきっかけは?
A
nao:そもそも私は、4歳から18歳までクラシックバレエの道を生きてきました。プロを目指していたのですが、怪我や挫折を経験して断念し、先々のことを考えて大学に行くことを決めたんです。中高生の頃からバンドも組んでいましたし、幼い頃からファッションやアートにも囲まれて育ってきたと思います。

デジタルハリウッド大学に入学したのも、今の時代、デジタルの技術を理解したうえで自分がもともと好きなファッションや表現の領域にアプローチするのが正解なのかなと思ったからなんです。もともと表現畑出身なので、エンターテインメントや表現の活動をするのは私にとって自然な流れでした。

希望が見えない世界で光を届けたい

Q
これまでの歩みを伺い、今回の個展はnaoさんのすべてが詰まった集大成だなと感じました。個展に込めた思いをお聞かせください。
A
nao:多汗症に関する活動を7年近く続ける中で、そろそろ次のステップに進まないと自分より若い人たちの命がどんどん失われてしまうのではないか、という危機感を覚えていました。私もイチ重症患者であり、これまでのさまざまな人生経験も踏まえ、葛藤に次ぐ葛藤を経て今があります。希望が見えづらい混沌とした世界で光を届けられたらと思い、今回の展示を行いました。自身がネガティブに感じてきたものをそのまま描くのではなく、「これからも共に生きて行く自分の特性の捉え方や視点を変えることは、実は可能なのではないか」という仮説のもと、試行錯誤しながら胸の内に抱えてきたありのままの自分の姿を、たくさんの方々に支えていただき、ひとつ目に見える形にすることができたかなと思います。

多汗症患者は、生きていくうえで本当につらいことが多いです。一般的な方が当たり前にできることが、私たちには難しい。何がつらいのかも周囲には伝わりにくいです。身近な家族という存在にも理解されないことが多いですね。私自身もそうでしたし、多くの当事者の方々とコミュニケーションしてきた上でそう感じます。

そのため、ひとりで悩みを抱える方が圧倒的に多いです。あまり人には言いたくないことも多いので、誰にも打ち明けず、ずっと隠したまま生きている方も珍しくありません。SNSが拠り所になる場合もありますが、そこで傷ついてしまうこともあったり。課題はたくさんありますね。自分が多汗症だということもわからず、人と明らかに違う発汗量に苦しんでいる方もいます。医療的にアプローチできることも、近年新薬の開発が進み、治療の選択肢が増えてきました。そんな現状も踏まえ、今、サポートが足りていないのは、患者さんの心のケアと、正しい医療情報にたどり着くための導線かなと感じています。そこで力を発揮するのが、エンターテインメントだと思いました。コロナ禍で価値観や生活スタイルに大きな変化があった時も、多くの人が一番励まされたのはエンタメだったように思います。また、これだけ情報が溢れ返っている時代において、汗に関する“正しい医療情報”にたどり着くのは、とても難しいことでもあります。なので、そういった情報への接点と機会をつくる意味でも、エンタメの力を借りて表現しようと思いました。

Q
この個展をご覧になって、勇気づけられる多汗症当事者も多いと思います。反響はいかがですか?
A
nao:「患者会ではなく、こういうイベントだから足を運ぶことができました」とひとりで来場された方、勇気を振り絞って来てくださった方など、いろいろな方がいました。「初めて同じ症状の人に出会えた。『わかるよ』って言ってもらえることがこんなにも嬉しいことだと知った」と目の前で涙ながらにお話ししてくださった方も。私は、国内で1,000人近い多汗症患者さんを見てきました。ひとりひとりの命に向き合うことでもあるので、半端な覚悟ではできません。センシティブなテーマでもあるので、矢面に立つ怖さは周りの人が思う以上にあります。それでも、自分のできることで多くの人を励まし、勇気づけ、少しでも希望をお届けすることが私の使命だと思っています。
Q
本多さんは、そんなnaoさんの思いを受け止め、具体的な表現に落とし込む役割を果たしています。naoさんのお話を聞いて、どんな思いを抱きましたか?
A
本多:私は、人が自身の苦しみ、悲しみを乗り越えようとする姿勢に対して共感を抱きやすいので、初めて多汗症の話を詳しく訊いた時、すごく悔しいと感じたし、この現状に、何か自分の力を貸したいと思いました。

そこから、本当にたくさんの対話を重ねてきましたね。デリケートなテーマですし、本質を伝えるうえでどういう人に見てもらいたいのか、どういう届け方をしたらいいか、どういう表現に落とし込んだらいいか。細かいところまで深く話し合いました。

デジタルハリウッド大学は、ホグワーツみたいに不思議な場所

Q
今回のプロジェクトに限らず、アーティスト・表現者として活動するうえで、ブレない軸、指針にしていることはありますか?
A
本多:私が指針にしているのは、「人に向き合う」ことです。とにかく何を作るにしても、「仕事」より、まず「人」に向き合うことが第一。昨年まで勤めていた会社でも、真摯に人に向き合い、思いを汲み取らないと良いものを作れないと学びました。

nao:まず自分と向き合うことです。私が頑張るのは、まわりまわって世界平和のためでもあって。壮大に感じてしまうテーマですが、平和はどこか遠くにあるものではなく、きっとすぐ目の前にあるもの。自分の身の回りにいる人たちを大切にして、みんなが手を取り合えたら、世界はもっと良くなるだろうと思うんです。日々、地道に自分と向き合い、さまざまな立場や視点でいろいろなことを見つめながら、自分にできる範囲で、平和のための小さな一歩として輪をつないでいるようなイメージです。「何のためか」を忘れず、自分に向きあい続けること。身の回りの誰かと誰かが仲良くなれるきっかけを作ること。日々、そういった種まきを続けています。

本多:naoさんほど真剣に自分と向き合っている人は、なかなかいません。普段会話する時も、驚くほど自分のこと、周りのこと、自分はこの時代においてどういう存在でありたいのかを考えています。そういう話って、温度感が違う人とはできませんよね。私自身も、ひとりでずっと考えていたことを話せますし、お互いに刺激を受け合っています。

Q
それも、デジタルハリウッド大学で築き上げた関係性があってこそではないでしょうか。おふたりにとって、デジタルハリウッド大学はどのような場でしたか?
A
nao:私の中の大事な部分を育んでもらった場所です。たくさんの恩師、かけがえのない仲間たちと出会えたミラクルみたいな場でしたね。たくさん迷惑もかけたと思います(笑)。でも、学年全体で仲が良かったのはきっと私たちなのかなと。個で分散するというより、全体で大きな輪になっていたように思うんですよね。

私自身、いじめや学級崩壊も経験してきたので、学校という場に相当疲れてしまっていたんですね。でもこの大学に来たら、強烈な個性を持ちながらたくましく生きてる人たちがたくさんいて、「ありのままでいいんだ」って気づいたんです。年齢も職業も文化背景もすべて超えてお互いを受け入れられる、ホグワーツみたいに不思議な場です(笑)。

本多:自分の人生をちゃんと生きている人たちがたくさんいますよね。実は入学したばかりの頃、私は友達との関わりを避けていたんです。友達と馴れ合うより自分のやりたいことをやらなきゃと思い、大学1年生の頃からインターンに行き、社会と接点を持とうと焦っていました。

そんな中、「映像制作演習」という授業のグループワークがあり、数人でショートムービーを撮ることになったんです。友達がいないので誰と組めばいいだろうと思っていたら、遠くのほうから私を呼んでくれる人たちがいて。そのグループに加わり、絵が描ける私が監督を務めることになりました。制作過程では「こういう映像を撮りたい」と真剣に意見をぶつけ合ったり、仲間の家に泊まり込んだりしたことも。こうした経験から、「みんなでものづくりするのって楽しい」「同い年の仲間をちょっと舐めてたけど、この人たちすごい」「友達って最高かも」と気づきました(笑)。そうやって仲を深めていくと、みんながいろいろと考えているし、自立して自分のやりたいことに取り組んでいることがわかってきたんですよね。「自分は変な人間だと思っていたけれど、この人たちもちゃんと変だ」と思うようになったのは、大きかったですね。

nao:卒業後も、大学で築いたネットワークが活きています。今回の展示もまさにそう。

個展の制作には、デジタルハリウッド大学時代の同級生も参加。

短い一生のうちに何をどれだけできるのか、人生は自分との戦い

Q
次に挑戦したいことはありますか?
A
nao:多汗症の当事者と専門家と企業の3者をつなぐ架け橋になりたいですね。また、今回はミュージックビデオを制作しましたが、本格的に音楽に取り組み、アルバムをリリースしたいです。

本多:エンターテインメントと医療・社会課題の解決を両輪でやっていくことが大事なんですよね。naoさんがやろうとしているのは、新しいビジネスモデルを一から作るようなことだと思います。

nao:大学院の頃からずっとビジネスモデルを作り続けているようにも思います。前例がない分、「本当にこれで合ってるのかな……?」「自分は一体何をやっているんだろう?」と、わからなくなったり、息切れしたりすることも。それでも、わからなくなる度に原点に立ち返って何のためかを確認し、いろいろな人の手を借りながら、一歩ずつでも前に進めば少しは世界が変わっていくのかなと思っています。

短い一生のうちに何をどれだけできるかは、自分との戦いですね。やれることをやれるときにやっておかないと、きっと後悔するので、楽しみながら頑張ろうと思います。

本多:その気持ち、よくわかります。後になって「あれをやっておけばよかった」と思いたくないし、今この時代にこういう人間として生まれたからこそできることをできる限り全部やっておきたくて。ひとりでもできることはたくさんあるけれど、人と一緒だからできるこそ、より楽しくできることもいろいろあります。私はnaoさんに共感するからこそ、一緒に取り組みたいんです。

私個人としては、昨年会社を辞めて、フリーランスになりました。これからはデジタル領域のUIデザインに限らず、「人と人が関わるためのインターフェイス」を広く捉えて仕事を作っていきたいです。

目指しているのは、誰かと誰かの新しい楽しみ方を作ること。何かを楽しむための方法は世の中にたくさんありますが、「この人とこの人が一緒に楽しむ」ことができていない場所はまだまだあります。例えば、大きい音を聴くことが苦手な方は、ライブに行って音楽を楽しむことが難しいですよね。実はライブに行ける人は限られているし、何かを楽しむという場において、誰かが排除されているかもしれない一面もあります。私はゲームが好きなのですが、naoさんから「多汗症の人はコントローラーを握りつづけること自体が難しいので、できないゲームもある」と聞いたこともあります。Webサービスでも、より多くの人々の楽しみを包括するためには、まだまだ可能性があるはず。そういうところにも目を向け、新しい楽しみ方を作っていきたいです。

お二人が学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッド大学
デジタルハリウッド大学大学院

マルチアーティスト・nao(なお)さん

デジタルハリウッド大学大学院在籍時、多汗症患者向けのプロダクトを開発。自身も当事者として、多汗症の認知拡大、患者の心のケアのために多岐にわたる活動を続けている。2023年3月、初の個展「My Sweaty Diary」を開催。アーティストnaoとして、デビューを果たす。

UI/UXデザイナー、クリエイター・本多美優(ほんだ・みゆう)さん

デジタルハリウッド大学1年次から、UI/UXプランニング・コンサルティング、Webサイトやアプリ等のインターフェイス制作を行う企業にインターンとして参加。同社に就職し、UI/UXデザイナーとして活躍する。2022年、フリーランスとして独立。現在までの経験を武器に、さまざまな領域でデザインとプロデュースを行なっている。

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