Interviewインタビュー

No.70

公開日:2023/10/17 

デジタルハリウッド U.S.A.校に留学して夢を叶えた男が目指す次なる目標と在校生に伝えたい3つのこと

CGデザイナー代表取締役映像ディレクター デジタルハリウッドU.S.A.校

No.70

ミラクルマイル株式会社 代表取締役CEO
中原 修一さん
デジタルハリウッドU.S.A.校
(dhima通称ディーマ:Digital Hollywood Institute of Media Arts) CG映像専攻2005年修了

現在ミラクルマイルのCEOを務める中原さんは、高専卒業後入社した会社で7年間SEとして働いた後、3DCG制作技術を学ぶためデジタルハリウッドU.S.A.校(dhima)に留学。修了後、現地のVFXスタジオに入社して、CGアーティストとしてハリウッド映画やCM制作に関わるという夢を叶えました。アメリカ時代に経験した学びや仕事、得たものなどを中心に現在取り組んでいる事業や今後の夢などをうかがいました。
(※このインタビューは2023年8月当時の内容です)

夢を求めてアメリカへ

──中原さんが代表を務めているミラクルマイルとはどのような会社なのですか?
ひと言でいうと、コンピュータグラフィックス(CG)を使用した映像、ゲーム、インスタレーション、XR領域などの分野にデジタルコンテンツの企画、制作、開発、管理運営及び販売をしている会社です。一般的には、ポストプロダクションと呼ばれるカテゴリーのスタジオです。

──その中で中原さんの代表としての仕事は?
今は経営の仕事がメインになっています。それ以外ではたまにクリエイターとして制作に加わったり、コンテンツの企画立案、アート系の案件の場合はディレクションをすることもあります。また、デジタルコンテンツ制作におけるコンサルティング業務も行っています。

──中原さんはNECでSEとして7年間勤めた後、渡米してデジタルハリウッドU.S.A.校“dhima(Digital Hollywood Institute of Media Arts)”に入学したそうですね。ITと映像制作は全く違う世界だと思うのですが、なぜですか?
子どもの頃から『スターウォーズ』に代表されるハリウッドの特撮映画が大好きでした。漠然と映画制作に関わりたいとは思っていたのですが、映像表現と同じくらい劇中のロボットも大好きだったので、地元の久留米高専制御情報工学科に入学して、ロボット製作に打ち込みました。

その間も映画業界へのあこがれは持ち続けていたのですが、高専を卒業していきなり映像クリエイターになるというのは現実的ではありません。でも、やっぱり派手な仕事やりたいじゃないですか(笑)。なので、まずは高専時代に学んだことを活かせるITエンジニアの道に進んで入ってしっかり働いてある程度の成果を出せたら、映像製作の方へ行きたいと思っていたんです。

で、NECに入社して世界初の指紋と掌紋を統合した自動照合システムのSI業務を担当しました。当時はこの世界最高峰の指紋照合システムを作る仕事に誇りを持って取り組んでいました。このシステムがニュージーランド国家警察に導入されたので、映像の世界に挑戦してもいいかなと踏ん切りがついたので、2004年の9月に会社を辞めたんです。

でも当時27歳。その年齢で会社を辞めて国内で未経験で映像クリエイターをやりたいと言っても、多分、誰も相手にしてくれないだろうと。そんな時にdhimaを知って、ここに入れば映像制作を基礎から学べるし、アメリカの学校を卒業したといえば箔もついて仕事がもらえるだろうと思ったんです。


──どんな映像を作りたいと思っていたのですか?
当時全盛だったハリウッド映画に出てくるような派手な映像ですね。それと当時はミュージックビデオのクオリティーがすごく上がり出した頃で、そのような映像も作りたいと思っていました。

で、映像制作において当時の自分に何ができるかと考えた時、パソコンでシステムやソフトを開発できるレベルの知識やスキルを持っていたので、ソフトウェアを使ってCG映像を作ろうと思ったわけです。

渡米の1年前から英会話のブラッシュアップとShade 3Dという個人でも買える3DCG制作ソフトを買って独学で勉強しました。そして会社を辞めた翌月の2004年10月、アメリカ・ロサンゼルスに渡ってdhimaに入学したんです。

dhimaでの貴重な経験

──dhimaでは具体的にどんなことを学んだのですか?
3DCG映像制作のコースに入って、まずはMayaという3DCG制作ソフトとCombustionというコンポジットソフトの使い方の勉強から始めました。

──実際に勉強してみていかがでしたか?
3DCG制作の勉強はおもしろかったです。担当の先生がグラミー賞を取ったOutkastの「Hey Ya!」のMVを制作したイケてるアーティストの方だったり、ウォルト・ディズニー・スタジオアニメーターの方だったのがよかったです。そんなすごい先生たちからの教えが記憶として残って、今の仕事に役に立ってるということがかなりあるんです。

──同級生はどんな人が集まっていましたか?
1クラス20人で、9割方は僕みたいな日本人でした。ただ、2、3人ほど現地の方がいて、その中の1人は、40歳くらいのデザイナーの女性で、旦那様がスターウォーズのR2D2をリモコン操作していたという方でした。住んでいる家もハリウッドのあの有名な看板がすぐ近くのビバリーヒルズのど真ん中にある豪邸で、そこに呼んでもらってみんなでパーティーしました(笑)。ほかにもいろいろと滅多にできない経験をさせてもらったり、貴重な人的ネットワークができたりして、かなり有意義な学生生活でした。

──アメリカでの生活も問題なく?
いや、それが生活は大変でした。本来は1年間のカリキュラムだったのですが、当時、専門スクールだったデジタルハリウッドが大学に姿を変える準備の一環で、dhimaを、閉鎖する事になったため、半年に短縮されたんです。つまり1年かけて学ぶ内容を半年で学ぶことになったので、かなり忙しくなったんです。語学学校に通うことも必須だったので、午前中は語学学校に通って勉強して、夕方からdhimaの授業を受けるというなかなかハードな生活でした。

でも授業もクラスメイトとの交流も楽しかったし、いろいろな有意義なことが学べて今に役立っていることも多いし、結論としてはdhimaに入ってすごくよかったと思っています。

無給インターンで修行の日々

──卒業後はどうしたのですか?
最初は半年で日本に帰る予定だったんですよ。ちょうど修了する頃にロサンゼルスで世界最大級のCGの展示会「SIGGRAPH」が開催されたのですが、その中にいろんなCGスタジオがクリエイターを採用するために集まっているエリアがあるんです。渡米する前からそこに顔を出してから帰るというプランだったので、予定通り行きました。そこでいろいろと話したら、あるスタジオがインターンに誘ってくれたんです。おもしろそうだったので帰国するのはやめて、そのスタジオでインターンを始めました。でも3年間無給だったんですよ。


──生活費はどうしていたのですか?
貯金を切り崩しつつ、エンジニア時代の知識を生かして友人たちのPCトラブルを解決することでご飯奢ってもらったり、どうしてもツライときは家族に少し援助してもらったりしていました。とにかく貧乏でしたね。

──インターン先ではどんなことをしていたのですか?
そのスタジオは、オリジナルのキャラクターを使って3Dアニメの映画を作るための資金集めに使うパイロットムービーを作っていました。そのスタジオには映画「Spider-Man2」にVFXスーパーバイザーとして参加された方を筆頭にハリウッドの制作スタジオの現職CGアーティストなど、優秀な方がたくさんいました。そんな本場のCGアーティストたちと交流することでCG制作について学べたので無給でもいいかなと思っていました。

──具体的にはどのような映像を作っていたのですか?
インターン先ではキャラクターアニメーションがメインだったのですが、モーショングラフィックスも多用する映像もよく作っていました。
ただ、僕が本当にやりたいのは、そういうモーショングラフィックスじゃなくて、『スターウォーズ』とか『X-MEN』に代表される実写合成を基本とするビジュアルエフェクトだったので、インターン先の会社に無給のインターンは1回辞めるから、ちゃんと給料が発生する社員として雇ってくれと交渉したんです。

でもそれはできないと断られました。就労ビザも出してもらえなくなったので、もう日本に帰るしかないとなって、身辺整理して帰国の日程もある程度決めました。そんな時、インターン先で一緒に働いていた別のCGアーティストから、「サンタモニカにある知り合いのEight VFXというスタジオが人材募集してる。おまえのことは軽く紹介しといたから連絡してみろ」と連絡がきたんです。それで朝に電話したら「今すぐ会社に来い」って言われて午後に行って面接したら、「明日から来い」と採用されたんです(笑)。インターンで積み重ねた物と知人からの紹介、態度(現地ではAttitudeと言われますが)が悪くないという点で、拾ってもらったんですよね。

そういう経緯で2007年、1ヶ月間の試用期間を経て正社員になって、就労ビザを出してもらうことができたんです。だからアメリカに来てやったことが全部繋がっているんですよ。

VFXスタジオに入り夢を実現

──Eight VFXではどんな仕事をしたのですか?
少数精鋭の小さなスタジオだったので、最初は3DCGジェネラリストとして主にCMのVFXを手掛けていました。長く在籍するにしたがって徐々にフリーのアーティストと組んで仕事をする事が増え、モデリングスーパーバイザーとしてモデリング仕事は全て行うかたわら、専門で群衆シミュレーションをする人になっていった感じです。ヒューレットパッカードやBMW、apple、スーパーボウルのCMなどを作りました。あとは「Knight&Day」というハリウッド映画のVFXも担当しました。

──10代の頃からの夢を叶えたわけですね。この時の気持ちは?
確かに目標だったハリウッド映画の制作に関われたのでうれしかったのですが、その場に行くと同じようなことをしている人が実はたくさんいると気づかされたんです。「あれ、これってそんな特別じゃない? 俺が設定した目標ってこの程度のことだったのか」みたいな。若い頃に設定したゴールって、到達した時には大したゴールではなくなっているんだなって思いました。

ただ、この時担当したVFXがものすごく細かくて手間がかかったのですが、当時のVFXスーパーバイザーに高く評価されました。みなさん、ハリウッド映画の制作に関わるためには超大手のスタジオに入るしかないと思っているかもしれませんが、実は小さなスタジオでもやれることはいっぱいあるんですよね。

そのほか、Eight VFXはフランス人やドイツ人が中心の会社だったのですが、「画」づくりにとてもこだわるスタジオで、映像のどこで止めても「画」として成立するように1フレームごとにレイアウトを気にするようによく言われていました。すごく細かい気づかいですが、連続した映像としてみた時に重みが変わってくるんですよね。また、フリーのCGアーティストたちといろんなプロジェクトに関わることができました。たまにとんでもなく有能なアーティストと一緒に仕事ができたので、スキルアップできてよかったです。

──働き方はどうでしたか? 小規模なVFXスタジオってかなりブラックなイメージがあるのですが。
いやいや、ブラックとは真逆でアーティストをすごく大事にする会社でしたよ。8年間在籍したのですが徹夜は1回しかしたことがないです。しかもその時は自分の担当する部分がどうしても納得できず、結果として徹夜になったという状況で。でも徹夜して仕事を完成させた時、社長や同僚から「お前もやっとうちの一員になったな」みたいなことを言われました。とはいえ決して徹夜を推奨するわけではなく、やらなくてすむならやるなというスタンスでした。


ただ、「自分に与えられた仕事をきっちりしろ」というのは明確で、それができなければ容赦なくその日のうちにクビになったり、逆にそれ以外のことをやったら怒られるんです。例えば自分が使ったコップを洗ったりしたら「お前はコップを洗うために雇われてんじゃねえぞ。ちゃんとクリエイティブをやってくれ」と怒られる。僕が知っている日本のクリエイティブの会社よりははるかに大事にされていると感じていましたね。

人間関係もよくて、同僚も北欧や東南アジアとかいろんな国籍の人がいたけど、みんな高いスキルを持っていたし、人柄もいいやつだったので、プライベートでも遊んだりしていました。こんな感じで回りの人にも恵まれたし、給料もよかったし、最高の環境でしたね。

帰国してミラクルマイルを設立

──だったら帰国せず、そのままアメリカで働き続けるという選択肢はなかったのですか?
もちろんありました。当初は僕もそのつもりだったのですが、障壁となったのはビザの問題です。当時僕がもっていた就労ビザ(H-1B)は基本的には2回しか更新できなかったんですよ。最長6年。それ以上更新するのが難しかった。実はグリーンカードを取得してディズニーに入る道もあったのですが、最低8年と時間がかかりすぎるので帰国することにしたんです。

──帰国してからは?
2年間フリーランスのクリエイターとして活動しました。日本のために働きたいという思いが強かったので、文化財修復をデジタルで行うデジタルアーカイビングをやりたいと思っていました。でも行政にかけあったりしたのですが、なかなかうまくいかなかったので、社会的信頼度を上げることが必要だと思い、2018年にミラクルマイルを立ち上げたんです。

──起業する時に考えていたことは?
アメリカでの経験や実績とサラリーマン時代のSEとしての経験を活かして高品質な映像やIT技術をミックスしたデジタルコンテンツを作りたいと思っていました。一方で労働環境を重視してアーティストが気持ちよく仕事ができる場所を作りたいという思いが一番強かったですね。小さいスタジオは寝袋があって当たり前とか徹夜上等みたいなところが多いですが、それは絶対にやらないと誓いました。細々とでもいいから少数精鋭で、クリエイターが徹夜しなくてもやっていける会社を作ろうと。この思いは今も変わっていません。実際、うちにはいまだに寝袋ありませんから。徹夜するスタッフもいません。するとしたら経営陣。一番泊まり込みが多いですね(笑)。

──今、社員は何人ですか?
正社員が4人で、その中に『パイレーツ・オブ・カリビアン』のVFXを手掛けたスーパーレジェンドCGアーティストが1人います。それとアルバイトが4人ですね。

あとインターンで、デジタルハリウッド大学の学生もいるんですよ。大変優秀な学生で、卒業したら弊社に入ってもらいたいくらいです(笑)。

Virtual Navigator“Marinne”

──起業してこれまでの代表的な仕事を教えてください。
一つは日本科学未来館の常設展示「計算機と自然、計算機の自然」内のコンテンツ、「計算機の自然」というインスタレーションの制作です。総合監修・アートディレクションが落合陽一氏で、GAN(Generative Adversarial Networks 「敵対的生成ネットワーク」)と呼ばれる画像生成系のAIが生成した画像データを用いたアート映像を提供しました。

もう一つは、3DCGのデジタルコンテンツを現実空間に出現させることができるMR(Mixed Reality)技術を活用して、3DCGアバターと体験者が現実空間でリアルタイムに相互コミュニケーションが取れるVirtual Navigator「Marinne(マリネ)」の開発です。3DCGアバターはビデオパススルー機能があるVRヘッドセットを通して現実空間に配置され、3DCGアバターを操作する側(演者)はインターネットを介してシステムと接続できるようにしています。このため、遠隔での会話によるコミュニケーションはもちろん、モーションキャプチャデバイスを使用する事で動きもほぼリアルタイムに送信する事ができるので、体験者はリアル空間内で「実際に会っているような体験」ができます。


これは今のところどの会社も作ってない、当社オリジナルのサービスで、大きな転機になるかもしれません。こうやって言葉で説明してもわからないので、ぜひデジタルハリウッドで体験会をやりましょう!

──今後の目標や展望を教えてください。
一つはサービスとしてしっかり機能した上で、ユーザーがおもしろいと感じ、何かの役に立ち、かつ見た目がかっこいいデジタルコンテンツを作ることを目標にしています。

それと、XRを突き詰めていくと、どうしてもロボティクスが絡んでくるので、将来はハードとしてのロボットを作りたいんですよね。このロボットをCG映像演出とXRに続く事業の3本目の柱にしたいと考えています。

あとはデジタルハリウッドと共同で新しいサービスやコンテンツの研究開発がしたいです。こちらから提供できるノウハウはあると思うし、我々としても若い人たちと交流できるのは大きなメリットですので。

人生に無駄なことは何一つない

──在校生へのメッセージをお願いします。


人と会って話をすることで、得られるものがたくさんあるから、積極的にいろんな人と交流してほしい。これは僕のポリシーでもあります。でもストレスは感じる必要はないから、こいつはヤバいと思ったらすぐ逃げた方がいいですね。

それと、アメリカ時代には、ここでは言えないような、これが将来何の役に立つんだろうと思うようなこともたくさん経験しました。でも今振り返ると、何一つ無駄なことはなかった。今の若い人はシステマチックに考えすぎる人が多いと感じます。例えば「今これができなきゃ次に進めない」とか「自分はまだそこに行っちゃいけない」とかすごく頑なに考えている人には「それって君が思っているより大したことないから1回やってみればいいんだよ」ってよく言っています。

まとめると、いろんな人と会って、少しでもやりたいと思ったらあれこれ考えずとりあえずチャレンジして、いろんなことを経験してほしいってことを伝えたいですね。

ミラクルマイル株式会社 代表取締役CEO
中原 修一さん

1977年、大阪生まれ、福岡育ち。国立久留米高専制御情報工学科卒。学生時代はロボット製作とバスケに打込む。NHK高専ロボコン全国大会出場、優秀賞を受賞。

卒業後、NECソフト(現NECソリューションイノベータ)入社。SEとして海外向け自動指紋認証システム(AFIS)のSI業務を担当。ニュージーランド国家警察に世界初の指紋と掌紋を統合した自動照合システムを導入。約7年間、SEとして経験を積む。

2004年9月退職し、同年10月、興味を持ち続けていた映像制作を学ぶべく渡米。デジタルハリウッドアメリカ校dhima(Digital Hollywood Institute of Media Arts)に入学してCG制作について学ぶ。

2005年3月、修了後インターンを経て2007年、アメリカ・サンタモニカの少数精鋭のVFXスタジオ「Eight VFX」に入社。CGモデラーとしてヒューレットパッカード、BMW、AppleなどのCM制作や2008年公開のハリウッド映画「Knight&Day」の制作に関わる。

2016年、帰国。2年間のフリーランス期間を経て2018年、ミラクルマイルを設立。ITとクリエイティブ、2つの業界を国内外渡り歩いた経験を活かし、シンプルなデジタルコンテンツに留まらず、システムとの親和性が高いプロジェクトにもトータルで取り組める事を強みに、高品質なデジタルコンテンツの提供を行っている。

ミラクルマイルの公式サイト
https://miraclemile-inc.com/

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