Interviewインタビュー

No.23

公開日:2020/01/15  取材日:2019/12

肩書は「なんでもデザイン厨」 アパレル販売員からWebデザイナー&ディレクターに転身

Webデザイナーディレクターフォトグラファーフリーランス デジタルハリウッド東京本校

No.23

デザイナー/ディレクター/フォトグラファー/デジタルハリウッドTA
村上 喜美さん(デジタルハリウッド卒業)

このインタビューは2019年12月当時の内容です。

外語大を卒業し、アパレル業界からWebデザインの世界へ

Q
村上さんは神田外語大からアパレル業界に進み、現在はデザイナー、ディレクターとして活躍しているという変わったご経歴です。デザイナーになるまでの経緯をお聞かせください。
A
村上:神田外語大では国際コミュニケーション学科に通っていました。「英語を学ぶ」のではなく、「英語を使って何かを学ぶ」という学科で。私はその中でも、非言語コミュニケーションを勉強していました。
Q
どんなことを学んでいたのでしょう。
A
村上:例えば黄色い服を着ている人はあったかいイメージがする、黒はクールだけれど若干の威圧感がある、といった言語化されていないコミュニケーションです。ハイクラスな店にジャージで行った時ときちんとした服装で行った時で、どう対応が変わるのか実験をしたこともあります。それも見た目という、非言語コミュニケーションですよね。視覚、聴覚、味覚、嗅覚など、言語化されない対人コミュニケーションに興味があったんです。
Q
その流れでアパレルに業界に進んだのでしょうか。
A
村上:そうですね。それと同時に、デザインにも興味がありました。大学時代、ダンスサークルに所属していたのですが、ストリートダンスの公演の間に流す映像を作ったり、イベントのフライヤーを制作したりしていて。そういった活動は個人でもできるけれど、接客は仕事にしないとできないと思い、アパレル業界に進みました。
Q
アパレル業界では販売員をされていたとか。
A
村上:本当は、アパレル企業のプレスになりたかったんです。でも、本社に行けるのはひと握り。しかもファッション系専門学校の卒業生でないと、なかなかそちらに行けなくて。デザインを勉強して、デザイナーとしてアパレル業界に食い込んだほうが早いんじゃないかと考えるようになりました。
Q
それで、デザインの道に進んだんですね。
A
村上:お店でも新商品のPOPやフライヤーを作っていたのですが、「あれ、こっちのほうが楽しいな」と思うようになって。大学を卒業する時は、制作は趣味でやればいいと思っていましたが、なかなか時間が取れないんですよね。そこでデザインを仕事にしようと思ったのですが、転職サイトを見てもアパレルからいきなりデザイナーになるのは難しくて。実務経験が必要だと思い、美大に進んだ高校時代の友人に相談したところ、「専門学校に行ったら?」とアドバイスをもらったんです。そこで、いくつか専門学校を検討し、2011年にデジタルハリウッドに入学しました。
Q
どんなコースを選択したのでしょう。
A
村上:当時新設されたばかりのデジタルコミュニケーションアーティストコースです。Web、DTP、エンジニアリング、AR、KINECTを使ったコンテンツなど、ひととおり学べるコースでした。ほかの専門学校だとWebやDTPの個別コースはありましたが、両方学べるのはデジタルハリウッドしかなくて。でも、どちらかしかできないとこの先厳しいんじゃないかと思い、両方学べるうえに新しいテクノロジーについても勉強できるこのコースを選びました。
Q
大学時代にも、映像やフライヤーを作っていましたよね。その経験は活かされましたか? それとも一から学び直したのでしょうか。
A
村上:ほぼ一からでした。すごく楽しくて、人生で一番勉強しました(笑)。私は週末コースに通っていたのですが、2年目からは転科し、週4で通うようになりました。週末コースは現職のディレクターが専門知識をつけるために通うという感じでしたが、私は転職希望組。もっと勉強したいという熱量が違ったんです。幅広い分野を学び、ディレクター、エンジニア、デザイナーのどれになろうかなと思いながら、2年目を過ごしました。
Q
卒業制作は何を作りましたか?
A
村上:「ミステリーレストラン」という企画を立てました。どこに行くかわからないミステリーツアーってありますよね。それと同じように、街に自動販売機のようなものがあって、人数とジャンルに応じてお店が表示され、どれかを選ぶと予約システムが動くという企画をプレゼンしました。

同時期に、熊本の競輪場とのコラボ企画として、競輪選手の体験ができるゲームも友達と一緒に作りました。自転車のタイムを競うゲームなのですが、競輪選手の目線で動画を撮り、プレイヤーが自転車を漕ぐとその分だけ動画が進むんです。この企画は、エンジニアとして参加しました。

Q
お話を聞いていると、デザイナーやエンジニアとして手を動かすだけでなくプランニングも得意そうですね。
A
村上:企画やディレクションも好きなんです。デジタルハリウッド在学中、勝手に文化祭を企画したこともあります。オーガナイザーとして、企画チーム、運営チームを集め、広報担当にWebやグラフィックを作ってもらいました。

 

「その仕事、やりたい!」と手を挙げるには、相応のスキルが必要

Q
デジタルハリウッド卒業後は、チームラボに入社したそうです。
A
村上:デジタルハリウッド在学中、チームラボから2枠バイトの募集が来たんです。応募したら幸運にも受かったので、半年間Webデザインチームのアシスタントとしてバイトをしました。その後、チームラボに就職し、4年半ほどデザイナーとして働いていました。今までで一番キャリアが長いのが、チームラボです。
Q
チームラボと聞くと、いろいろと面白いことができそうなイメージがあります。
A
村上:大きな組織なので、私が入社した当初は企画、デザイナー、エンジニアと職域がきっちり分かれていました。Webチームとアートのチームもはっきり分かれていて。私はWebチームの一員として、Webサイトやアプリを制作していました。
Q
当時学んだこと、心に残っていることは何でしょうか。
A
村上:やりたいことがあったら「やりたい!」」と手を挙げること。そして、そのために実力をつけることでしょうか。「こういう案件が来たよ」と言われた時に、「やりたいです!」と言うにはスキルがないと無理じゃないですか。面白いことをやりたい、そのためにはそれ相応のスキルを身につけねば、という感じです。
Q
4年半在籍すれば、スキルも相当上がったのでは?
A
村上:そうですね。バイト時代は簡単な仕事が多かったのですが、社員になってからはいろいろできるようになりました。しかも、チームラボの体制もだんだん変わっていって。それまではカタリスト(ディレクター)がお客様のところに行き、デザイナーは社内で作業するという感じでしたが、シームレスになっていったんです。メインのデザイナー、エンジニアも企画段階から打ち合わせに参加し、企画書づくりから一緒にできるようになりました。分業だった頃よりスキルもつきましたし、仕事も楽しかったです。
Q
なぜ退職されたのでしょう。
A
村上:Webデザインの仕事は、クライアントからの受託”がメイン”なんです。自分たちでプロダクトを考え、自社サービスを作ってみたくなって。そこで、自社サービスを展開している小規模な会社を探して、転職しようと思いました。
Q
そして入社したのが、FUN UP Inc.だそうです。
A
村上:私が入社した頃は、社長ひとりしかいない小規模な企業でした。そこで携わったのが「monomy」というサービスです。ユーザーがスマホ上でパーツを自由に組み合わせて、簡単にアクセサリーをデザインでき、しかもオンラインストアですぐに販売できるんです。誰かが気に入って購入したら、職人さんがアクセサリーを製作して発送。バーチャルで作ったものがリアルに届くんです。しかも、受注生産なので無駄もありません。オリジナルのアクセサリーブランドを持てるうえに、人によってはけっこう稼げる。アパレルの経験もあったので、物流という概念が変わる面白い仕組みだなと思い、FUN UPで働こうと思いました。
Q
デザイナーとして働いていたのでしょうか。
A
村上:企画、ディレクション、デザイン、社外の方とのやりとりなど、ほぼ全部やっていました。エンジニアリングは外注でしたが、クオリティのチェックも担当していました。
Q
今までの経験をすべて活かせる職場ですね。
A
村上:そうですね。でも、9ヵ月で辞めてしまいました。というのも、入社した頃から個人的に依頼が来るようになって。仕事を終えて19時に帰って、20時から頼まれた仕事をして、休日もその仕事をして。だんだん個人の依頼をメインにしてもいいのかなと思い始め、フリーランスになりました。

相手のニーズを掘り下げ、伝えたいことをデザインに落とし込む

Q
そこからArrowsというユニットを立ち上げています。
A
村上:Arrowsは、元チームラボのカタリストと組んだ2人組のユニットです。FUN UPで働いていた頃から、その人経由で仕事がきていて。それなら一緒にやろうかということになりました。
Q
名刺には、フォトグラファーという肩書も載っていますね。
A
村上:カメラマンとして依頼をいただくこともあります。写真は、デジタルハリウッドに通っていた頃に勉強しました。「Webデザイナーとして働くなら、素材も自分で撮影したほうが制作コストを抑えられる。撮影もできたほうがいいよ」と聞いて。もともとカメラが好きでミラーレスは持っていたのですが、物撮りやライティングの授業を受けるうちにもっと本格的に撮りたくなり、一眼レフを購入しました。私がWebサイトを作る時は、写真や動画の撮影込みで請けることもあります。
Q
企画やディレクション、Web制作、撮影など何でもできますね。ご自身では、自分の立ち位置をどのように捉えていますか?
A
村上:何でもできる人(笑)。だから肩書も「なんでもデザイン厨」としています。企画もディレクションも、情報デザイン的な部分がありますよね。「何でも整える」という意味にオタクっぽさを加えて、こういう肩書にしました。
Q
企画からデザイン、撮影までワンストップで行なう仕事もあるのでしょうか。
A
村上:ありますね。デザインだけ依頼された場合も、企画や構成は誰が考えて、どんな素材が来るのか確認します。納得が行かない時は、「私にやらせてください」となることもあります。
Q
理想としては、すべて自分でやりたい?
A
村上:はい。そもそもデザインって、相手先の要望をヒアリングをしないとどういう形にしたいのかわかりませんよね。Webサイトを作るとなったら、なぜ作りたいのか、誰に何をどう伝えたいのか、掘り下げていく。その過程で、頼んだ方もサイトを作る意味、企業が何を伝えたいのかがどんどん明確になっていきます。それがわかると、「その思いを表わすデザインはこれだよね」とデザインもスムーズに決まります。そこまでヒアリングして、他の方がデザインするのも嫌じゃないですか(笑)。作るとなったら、すべてやりたいです。
Q
これまで制作してきた中でも、特に完成度の高いものは?
A
村上:デジタルハリウッドが開催している「近未来教育フォーラム」のWebサイトです。Arrowsのもうひとりのメンバーは、絵描きなんです。アーティストとデザイナーのコラボレーションという、Arrowsとして最も良いところを出せたのではないかと思います。

特に「近未来教育フォーラム2018」( https://www.dhw.co.jp/forum2018/ )では、描いてもらった絵をデジタルに落とし込み、違う表現にすることができました。デジタルハリウッドの担当スタッフからテーマを聞き、なぜそのテーマを選んだのか、来場者に何を持ち帰ってほしいのかヒアリングをして。「コンセプトはこれです」と渡された本も、ふたりで読みました。そこからArrowsのメンバーがメインビジュアルを描き、Webサイト、ポスター、DMでそれぞれデザインを変えました。Webも紙もしっかり統一感を持たせつつ、それぞれの良さを活かしたデザインにしてアウトプットでき、私にとっても良い経験でした。

Q
デジタルハリウッドならではのお仕事でしたね。
A
村上:ここまでアートを大切にしていただく機会も、なかなかありません。自由度も高く、やりがいのあるお仕事でした。

 

今、興味があるのは自然と共生する「パーマカルチャー」

Q
では、村上さんがお仕事をするうえで大切にしていることをお聞かせください
A
村上:先ほどと重なりますが、相手がWebサイトで何を伝えしたいのか、深度を下げてニーズを引き出すことです。何を伝えたくてこのデザインになったのか互いに理解していれば、その後相手先がサイトを運用するにあたってもブレが少ないんですよね。逆に、それができる方とでないと一緒に仕事をするのは難しくて。「ただホームページを作ってくれればいいから」って言われたらお断りします(笑)。
Q
デザイナーは、「かっこいいデザインにしてください」と抽象的なことを言われることも多くないですか?
A
村上:そうなんです。でも、その方が考える「かっこいい」とは何なのか、しっかりヒアリングしないと結局デザインを何パターン出しても決まらないんですよ。その人が何を作りたいのかはっきりしないと、何が正解なのかわからない。こちらとしても、ただパターン出しをするだけでは作っていて楽しくありません。
Q
逆に、やりがいを感じる瞬間は?
A
村上:こちらと話しているうちに、相手の方が「ただWebサイトを作りたいと思っていたけれど、それはなぜだっけ」と自覚的になる瞬間に出会うとうれしいですね。しかも、そうやって話をしていくと、「このサイトだったら絶対この色だよね」とわかってくるんです。相手に「この色はどうでしょう」と提案し、「私もそう思っていました」と言われると「キターー!!」となります(笑)。信頼感も生まれるので、あとは自由に作っても大丈夫。自分としても、一番良いデザインにできます。「この人に気に入ってもらうにはどうしよう」ではなく、「この人が輝くためにはこれがベスト」と確信を持って作る時は楽しいですね。
Q
今後チャレンジしたいことはありますか?
A
村上:フォトグラファーとしての活動も広げていきたいですね。依頼されて写真を撮ることはありますが、今後は私が作品として撮影している写真をもっと展開したいと思っていて。ポートフォリオとオンラインストア( https://murakamiyoshimi.stores.jp/ )を作り、そこでマネタイズできたらと考えています。好きなことがもっと仕事になったらうれしいですね。
Q
デザイナー、ディレクターとして活動する以外に、デジタルハリウッドでもTAをされているそうですね。
A
村上:同じコースに通っていた先輩が、今デジタルハリウッドと仕事をしているんです。その縁で「TAやらない?」と軽く誘われました(笑)。私がサポートしているのは、デジタルアーティストコース。今、映像作品やインタラクティブアートなどのデジタルアートがどんどん増えていますよね。その最先端を学ぶコースです。「そもそもデジタルアートとは」から始まり、美術史の流れ、コンセプトの立て方などを、アーティストとして活動している先生方から学ぶことができてすごく面白いんですよね。TAですが、誰よりも真面目に聞いているんじゃないでしょうか(笑)。
Q
デジタルハリウッド校友会に期待することはありますか?
A
村上:私は意外と人見知りで、同窓会に行って「今こんなことをしているんです」とアピールするのが苦手なんです。目的があって情報を掴みに行くならいいのですが……。そういう私でも、なにか交流の機会が持てるとうれしいです。
Q
ほかに、今後の活動でアピールしたいことはありますか?
A
村上:実は最近、デジタル離れしているんです(笑)。今、興味があるのは、自然と共生して暮らすパーマカルチャー。その活動をしている友達5、6人と一緒に、北海道でビレッジを作っています。山肌の一角を友達が購入し、そこに手作りで小屋を作っていて。ようやく電気が通り、Wi-Fiもつながるのでそこで仕事もできるようになりました。大自然の中に入るとデジタルの力は弱いなと思いますが、文明は捨てるつもりはないんです。ものすごくアナログな体験をして、「こういう生活があるんだよ」とデジタルで発信するのも面白いなと思っています。動画や写真ですぐに発信できるのは、今の時代の強みですよね。文明は捨てず、でも自然と共生して、地球ひとつ分の暮らしができたらいいよねと仲間と話しています。将来的には、アーティストが制作に没頭できるアーティストビレッジにしたくて。大自然に放り込まれ、自分のことだけ考える日々も楽しいじゃないですか。春になったら、また私も行こうと思います。

インタビュー:野本由起

デザイナー/ディレクター/フォトグラファー/デジタルハリウッドTA
村上 喜美さん(デジタルハリウッド卒業)

長野生まれ、千葉育ち。神田外語大学を卒業後、アパレル販売員から専門学校を経てデザイナーに転身。チームラボにて経験を積む。その後FUN UP Inc.にて、ディレクション・企画・運営も兼任。現在は、クリエイティブユニット「Arrows」として、デザインを中心に、ディレクション、撮影など多方面で、様々なプロジェクトに関わる。

Portfolio http://murakamiyoshimi.com/
Online store https://murakamiyoshimi.stores.jp/
Arrows http://arrows-art.design/

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