Interviewインタビュー

No.15

公開日:2019/02/26  取材日:2017/07

Webデザイナー、イベントプロデューサー、 講師、シンガーソングライター、旅人… さまざまな顔を持つ彼女が挑む、次世代を見据えたものづくり

Webデザイナーフリーランスプロデューサー講師 STUDIO渋谷

No.15

Coco-Factory代表/デジタルハリウッドSTUDIO講師
久保田 涼子さん(デジタルハリウッド渋谷校卒業)

このインタビューは2017年7月当時の内容です。

自分らしい仕事をするために、大学卒業後デジハリへ

Q
久保田さんは、Webクリエイター、デジタルハリウッド講師として活躍しつつ、イベント制作・企画、シンガーソングライターなど幅広い分野で活動を行なっています。現在、最も比重が大きいお仕事は何でしょうか。
A
フリーランスとして個人で請け負うWeb制作業と、企画展やイベントなどのプロデュース業です。プロデュースの方は、毎年夏に大きな企画を2つ行っています。今年は7月30日~8月6日に「第三世代が考えるヒロシマ「  」継ぐ展2017」(以下「継ぐ展」)、8月19日~20日に「誰にも教えたくない林間学校2017」(以下「林間学校」)を開催しました。いろいろな人をつなぎ、ひとつのプロジェクトを達成する、ということを中心にして活動しています。「林間学校」は今年で6年目ですが、デジタルハリウッド出身の仲間と立ち上げた企画なんです。
Q
そもそもデジハリに入学したきっかけは?
A
もともと音楽の道に進みたくて、大学在学中にデビューしたいと夢を抱いてました。その未来予想図はなかなか実現せず……。音楽は無理でも、自分が好きなこと、自分らしい仕事をしようと考えるようになりました。そんな時、バイト先のレストランで知り合ったDTPデザイナーさんのことを思い出したんです。

彼女と海外旅行に行った時、「平日ですが、お仕事は大丈夫なんですか?」と聞いたら、「納期さえ守れば大丈夫」と返答があったんですね。その自由に生きる姿に惹かれましたし、手に職をつけるという意味でもデザイナーという仕事はいいなと思いました。そこで彼女に相談したところ、「今はWebの時代だからWebデザインを勉強してみれば?」とアドバイスを頂いたんです。すぐにネットで調べ、口コミランキングで評価の高かったデジハリに通うことに。調べてから2日後にはカウンセリングを受け、その場で入学を決めました。大学を卒業してすぐ、デジハリに通い始めました。

Q
入学するまで、Webに関する知識はなかったんですよね?
A
そうなんです。だから、すごく大変でした。月・木に授業があるのですが、木曜日に月曜日までの課題、月曜日に木曜日までの課題を出されるんです。学費を稼ぐためにバイトをして、夜はふらふらになりながら課題に取り組んで。Web独自のカタカナ用語もわからなければ、ツールの使い方もわからないという状態でした。でも、人一倍負けず嫌いだったので、ひたすら頑張りました。それに一緒に勉強した仲間にも恵まれたと思います。「みんなで卒業まで頑張ろう」というクラスだったので、とにかく一生懸命でした。
Q
短期間で急成長したんですね。
A
必死でしたね。課題提出の時は、自分の課題をモニターに映し出して、クラスのみんなで見てまわるという地獄のような時間があって(笑)。スキルが高い人たちの作品を見て、「すごいな、どうやったらこんなにうまくできるんだろう」「私も頑張らないと」と刺激を受けました。
Q
挫折しそうにはなりませんでしたか?
A
デジハリは、はじめて自分の意志で通い、自分で学費を払った学校でした。だからこそ、「これだけ資金を投資したのだから、必ずスキルを取得して取り返そう。最後まで走り切ろう。」という思いがありました。あとは、やっぱり仲間に恵まれたのが大きかったですね。
Q
Web制作の楽しさも感じるようになりましたか?
A
いいえ、在学中は楽しむような余裕はありませんでした。とにかく必死でしたから。最初はWebデザインをやりたかったのですが、グループワークでコーダーを担当してからコーディングに興味を持つようになりました。
Q
卒業後はどうされたのでしょう。
A
卒業後の就職先も、デジハリのおかげで決まりました。
在学中、授業の講評会に時々来られていたディレクターにお声掛けいただき、卒業してすぐに就職先が決まったんです。その会社で約4年間マークアップエンジニアとして働いていました。

お遍路の旅で心がまっさらに 肩書に縛られず、人対人として接することの大切さ

Q
その後の道のりも、紆余曲折あったようですね。
A
とにかく私はルーティンワークに向いていなくて、「会社に定時に行って、休まないこと。」という世の中の人たちが当たり前に出来ていることが苦手でした。そんな中、リーマンショックが起きて、派遣切りの波が襲ってきたんですね。お察しの通り、勤怠不良でしたから(笑)。私がリストラ対象になりました。退職時に上司から「人にはいろいろな受け皿があり、合う受け皿は人それぞれ違う。今の時代の私たちの会社が久保田さんに合わないだけで、他にも合う受け皿はたくさんあると思う」と言っていただいたのを、今でも覚えています。

こうした経緯を実家の父に伝えたところ、「お前は5年後のことを考えて仕事をしていたのか?目の前の仕事をただこなして、時間だけ過ぎて、30歳までそんな生活を続けるの? 音楽だって中途半端じゃないの?」と怒られ、そこで改めて自分の甘さに気づきました。「次のステップを考えないと」と思いましたが、なかなかこれだ!というものが見つからず・・・。しばらく家で悩んでいると本棚に昔買っていたお遍路の本を見つけたんですね。

私は大学時代に東京から実家のある広島まで自転車で帰ったことがあるほど一人旅が大好きで、歩き遍路にも興味がありました。本をめくると「自分探しの旅として、お遍路さんになる人も多い」と書いてあって、「これだ!」と思ったんです。「油絵のように上塗りする人生もいいけれど、一度まっさらにしたら何か見えてくるものがあるんじゃないか」と思い旅に出ました。そして、1ヵ月半かけて四国を周りトータル1200kmを歩きました。

Q
歩いている間は、何を考えているんですか?
A
歩き始めはいろんなことを考えていましたが、途中からほとんど無心です。四国にはお接待という文化があり、歩いていると沢山の方々に助けられるんですね。雨の中歩いていると、若い男の子がずぶぬれになりながら駆け寄って下さり「僕も昔お遍路さんでした。頑張ってください」とジュースを差し出してくださったり、お父さんお母さんのように優しく接してくれたご夫婦がいらっしゃったり。人のありがたさ、衣食住のありがたさを実感しました。本当の意味で、まっさらになりましたね。
Q
どんな変化がありましたか?
A
社会の中では肩書というフィルターを通して人を見ることが多くありますが、お遍路に行ってそれがなくなりました。お遍路さんは、社長さんも無職もみんな同じ服を着て、同じ目線で道を歩きます。一期一会ですし、その積み重ねで今を生きているんです。お遍路を経験することで素の久保田涼子が見えましたし、人と接する時も肩書に縛られず人対人で見られるようになりました。
Q
仕事に対する意識も変わりましたか?
A
旅人として自由に暮らしているうちに、だんだん社会に帰りたくなりました。SNSでみんなが夜中まで仕事をしているのを見てうらやましくなり、社会に何も還元できていない自分をもどかしく思うようになって。根無し草のようにただ転々としていては、何も生み出せない。ひとつの場所に根を張り、人とつながりながら何かを生み出すことを仕事にしたいと実感したんです。
Q
お遍路の旅から戻り、どんな仕事を始めたのでしょう。
A
同級生や友達から仕事の依頼が積み重なり、いつのまにかフリーランスになりました。デジハリのTAを始めたのも、その頃です。
Q
現在は、講師として活動されています。もともと教えることに興味があったのでしょうか。
A
興味を持ち始めたのは実際に教え始めてからです。デジハリに来られる受講生さんは自分のライフスタイルや働き方を変えたいと思い、学びに来られる方が多いです。それぞれの人生の分岐点にデジハリがある感じがします。そういった方に自分のスキルが還元されて、卒業後もつながり、仕事を一緒に生み出していける喜びは大きいです。

私にとって、音楽を作るのも、ものや場所を生み出すのも、人とのつながりがあってはじめて出来ること。コラボレーションが創作活動のモチベーションにつながっています。デジハリの講師になったのも、人とのつながりが生まれるから。デジハリは人と人とをつなげてくれる場だと思っているので。

Q
イベントプロデュース業も、人とのつながりから生まれたのでしょうか。
A
「仲間内で面白いことをやりたいよね」というところからスタートしています。「林間学校」は、神奈川県北部にある芸術の街 藤野で開催しています。そこにある廃校がすごく魅力的な場所だったので、デジハリの卒業生や友達とワークショップイベントを始めました。ジャンベやそば打ち、タップダンスなど、いろいろなワークショップを体験できます。今年は「藤野フレンドパーク」というミッションラリーを企画しました。これも人とのつながりを増やす企画です。
Q
フリーランスで活動していると、なかなか横のつながりが生まれません。そういった方々にとっても、魅力的なイベントですね。
A
ひとりで来る人も多いんです。ひとりで遊びに来て、友達を作って帰って、翌年は一緒に来るというケースも。場所もいいし、人もいいからでしょうね。
Q
人のつながりを広げたくても、なかなかうまくいかない人もいます。コツはあるのでしょうか。
A
肩書関係なく、人として向き合うことではないでしょうか。あとはワクワクすること。「この人と何かしたら面白い」という好奇心のアンテナを、常に持ち続けているといいと思います。
Q
「人脈を作る」というと打算的に聞こえますが、「面白そう」という理由で人とつながるのはいいですね。
A
「林間学校」は、面白そうだから遊びに来るという人たちばかりなんです。でも、ただの遊び場にも関わらず、そこから仕事が生まれるんです。肩書関係なく話しつつも、社会生活に戻った時に「あ、そういえばあの人、カメラマンだったな」「あそこで会った人、雑誌の編集者だったっけ」と仕事につながる。それが「林間学校」のいいところですね。
Q
いろいろな企画・仕事を手がけていますが、いちばん楽しいのは?
A
全部楽しいです。一番大変ですけどやりがいがあるのは「継ぐ展」かな。今年で3年目ですが、次世代が考える平和学習の場として一大プロジェクトになりつつあります。認知度が高まるにつれ、携わる人も増えていったので、その分時間もとられますが、次世代につなぐべき意味のあるプロジェクトなので、今後10年は続けるつもりです。被爆者の方々は今後ますます少なくなっていきますが、その時に何を残していくのか。それを体現できればいいなと思っています。

デジハリは、ものづくりをベースに人間関係を築ける最高の場

Q
6月には、初の著書『Webデザイン良質見本帳 目的別に探せて、すぐに使えるアイデア集』を刊行しました。どのようなきっかけで本を出すことになったのでしょう。
A
デジハリ経由でお話をいただきました。
今までの自分の集大成と言える一冊です。未経験からWebデザインを学び、約10年たった今の視点でWebサイトを多角的に研究しています。400以上のサイトを掲載していますし、その倍以上のサイトをチェックしました。私自身のスキルも、この本を書いたことで上がったように思います。なんとなくわかっていたことを言語化することで、私にとってもいい勉強になりました。
Q
初心者からプロのWebデザイナーまで、幅広く役立ちそうな一冊です。
A
情報設計、色、パーツ、レイアウトなど多角的な視点からWebデザインを学べます。逆引き辞典としても使えますし、打ち合わせの時に「こういうサイトはいかがですか?」とイメージを伝える指差し帳としても役立つはずです。基本的なWeb制作のワークフローも書いていますが、クライアントとデザイナーがお互いに理解し合うための一冊になればいいなと思っています。デジハリの受講生や講師にも「どんな本があったらいいと思う?」と意見を求め、みんなに手伝ってもらいながら作り上げました。私の横のつながりを凝縮した本でもあります(笑)。
Q
多岐にわたる活動をされていますが、お仕事をするうえでのポリシーはありますか?
A
相手のことをしっかり考えることです。Web制作の場合、私はフルオーダーメイドで作っています。コンサルティングから写真撮影、Webデザインまで全部手がけ、どうしたらこの方々の良さがWeb上で表現できるかなと考えているんです。クライアントにとって最良のゴールを達成するための方法を、最優先で考えています。
Q
Webサイトを制作する際には、クライアントと直接話すことを大切にされているそうですね。
A
そうですね。ニューヨークまで行ったこともあります。やっぱり現地の空気感、その方の雰囲気、着ている服など、すべてがWebデザインに反映されるんですよ。ですから必ず現場に行き、人に会うようにしています。旅費はほぼ自腹ですが、直接会ってヒアリングして、納品の時にもおうかがいします。現場主義なんでしょうね。
Q
Webデザインのお仕事で、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
A
やっぱりお客さんに喜んでいただいたり、反応や感想をいただいたりする時でしょうか「ホームページを見て、お店に来る人が増えました」って言われると、作ったかいがありますよね。あとは、ひとつの仕事が別の仕事につながる時ですね。これまでの仕事も、営業をかけたわけではなく全部紹介なんです。Webサイトをひとつ作ったら、それを見た方がクライアントさんに「あのサイトは誰が作ったの?」と聞いて、私が紹介されて……という流れが、仕事のベースになっています。紹介するということは、それだけ評価、信頼してくださっているということですからうれしいですよね。
Q
今後挑戦したいことはありますか?
A
今は、Web制作よりもプロデュースの仕事が増えています。企画展の作り方について、講義する機会も増えつつあります。次世代に向けて、意味のあるものを作るのが私の仕事のコンセプト。それをもっと深めていきたいです。

時間は有限なので、やりたいことを取捨選択するのも大事だなと思っています。あっという間に時間は過ぎてしまうので。父親の言葉ではありませんが「5年後の自分はどうなっていたいか」と逆算して考え、仲間と一緒に目の前のことに必死に取り組んでいきたいです。

Q
5年後、久保田さんはどうなっていると思いますか?
A
Webも含めたトータルプロデュース業をやっている気がするんですよね。
Q
アウトプットの形にはこだわっていない気がしますよね。
A
そうなんです。自分のスキルを、いろいろなジャンルに還元する久保田涼子でありたい。根底にあるのはものづくり、それも意味あるものを作りたいという思いですね。次の世代に残せるものを作りたいと考えています。
Q
音楽活動も続けていくのでしょうか。
A
昨年1年間は執筆をしていたのでお休みしていましたが、これから復帰しますよ!
Q
最後に、デジハリとは久保田さんにとってどんな場ですか?
A
最近は渋谷校だけでなく広島校でも教えていますが、どの場所でもデジハリ色が出るんですよね。ものづくりをベースにした、いい人間関係を築けるのがデジハリの魅力。人とのつながりを生む最高の場です。既成概念にとらわれず、「やってみればいいじゃん」と自由な発想が生まれるのもデジハリならでは。全国にスタジオも増えているので、どんどんつながりを広げていきたいですね。

インタビュー:野本由起

Coco-Factory代表/デジタルハリウッドSTUDIO講師
久保田 涼子さん(デジタルハリウッド渋谷校卒業)

2005年、東京女子大学心理学科を卒業後、デジタルハリウッド渋谷校へ入学し、Web制作全般を学ぶ。Web制作会社にマークアップエンジニアとして勤務後、1年間旅人に。2011年、Web制作・ナレーター業務を請け負うCoco-Factoryを立ち上げ、フリーランスとして活動を再開。同時に、デジタルハリウッド講師に。イベント制作・企画、シンガーソングライターとしても活躍中。2017年6月、初の著書『Webデザイン良質見本帳 目的別に探せて、すぐに使えるアイデア集』を出版。
Coco-Factory久保田涼子オフィシャルサイト第三世代が考えるヒロシマ「  」継ぐ展2017誰にも教えたくない林間学校2017

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