Interviewインタビュー

No.77

公開日:2024/04/11 

「自分が作ったものの先を意識せよ」 夢の舞台・ディズニーで活躍するアニメーターが最も大切にしている思い

CGデザイナーアニメーター デジタルハリウッド大学

No.77

Walt Disney Animation Studios
小宮 健太郎さん
デジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部 2012年卒業

デジタルハリウッド大学で夢が変わった

──現在取り組んでいる仕事や活動について教えてください。
Walt Disney Animation Studios(以下、ディズニー)でアニメーターとして働いています。監督から渡されたストーリーボードや絵コンテ、レイアウトなどを参考にして、キャラクターに動きをつけるのが主な仕事です。現在は『Moana2』の制作に携わっています。また、Animation Aid カートゥーンクラスの講師も務めています。

──世界中のクリエイターが憧れる、世界最古のアニメーションスタジオで活躍するに至るまでの経緯をお聞かせください。子どもの頃からアニメーターになりたいと思っていたのですか?
いえ、最初はゲームクリエイターになりたかったんですよ。原体験は小学生の頃にプレイしたポケモン。これがすごく楽しくて、漠然と将来はゲームを作りたいなと。その後、高校で進路選択について考える時期になって改めて自分のやりたいことを考えた時に、子どもの頃の記憶がよみがえり、本気でゲーム関係の仕事に就きたいと思いました。そのためにはどうすればいいかをネットで検索したらデジタルハリウッド大学がヒット。この大学ならCGやアニメーションなど、ゲーム業界に就職するために必要なスキルを身につけられそうだと思い、入学したんです。

──それからアニメーターへと方向転換した理由は?
1年生の授業でキャラクターのモデリングやエフェクトのかけ方など、CGの基礎について一通り教わった時、その中で一番楽しいと感じたのがアニメーションだったからです。画面上でただ立っているだけのキャラクターを初めて自分で動かした時、物体に命を吹き込むような感じがしてものすごく感動しました。それ以来、アニメーションについて専門に学ぶようになったんです。

それが決定的になったのは大学3年生の時に観た、ディズニーの『塔の上のラプンツェル』です。キャラクターが本当に生きているみたいにスクリーンの中で生き生きと動いていることに大きな衝撃を受けました。それがきっかけで、自分も将来は海外でこんな作品作りに関わりたいと思い、ゲーム業界志望からアニメーション業界志望へ完全に方向転換したんです。

3年生からCGの勉強に集中できる環境を作りたかったので、必要な単位は2年生までに全部取りました。あとは3年生か4年生の時に、デジタルハリウッドの専門スクールでアニメーションの集中講座に参加して勉強したりもしました。

縦の繋がりで成長

──デジタルハリウッド大学に入学してよかったと思うことは?
まずは、CGやアニメーションの基本を学べたことで、今の自分のアニメーターとしての基礎が築けたということ。一番よかったと思うのは縦の繋がりですね。CG制作のサークルに入ったのですが、2年生から4年生の先輩たちの存在がそのまま自分の1~3年後の目標になるんですよ。彼らの作った作品を見て「あと1年でここまで行けるかな」とか「絶対ここまで行きたいな」などと短期的な目標設定ができたのがすごくよかったですね。もちろん、アニメーション制作で壁にぶち当たった時、尊敬できる先輩たちに直接相談してアドバイスをいただけたのも助かりました。

それと、そのサークルの顧問の黒田先生にも入学から卒業まで大変お世話になりました。CG制作の課題では、最後に講評会もあったのですが、その場にプロになっているOB・OGの皆さんもたくさん呼んでくださっていました。そういう方々に自分の作品を講評していただけたのもすごくありがたかったですね。このサークルに入ったおかげでかなりスキルアップできたと思います。

──デジタルハリウッド大学時代に一番印象に残っている思い出は?
デジタルハリウッド大学の「DIGITAL FRONTIER GRAND PRIX」と卒業制作展に出品したフルCGのアニメーション作品で最優秀賞をいただけたことですね。同級生5人で大学に泊まり込んで頑張って制作したのですが、大変だったけどすごく楽しかったのを覚えています。そんな4年間の集大成として制作した作品が最優秀賞を受賞できてすごくうれしかったです。加えて、プロになるともっと大勢の人たちと一緒に一つの作品を作り上げるので、その礎となる、今に繋がるいい経験になりました。今年からはその『DIGITAL FRONTIER GRAND PRIX 』の審査員になっているので感慨深いものがありますね。


──卒業後はOLMデジタルに入社していますが、その理由は?
CGアニメーションが作れる会社を第一志望として探していたところ、OLMデジタルが『パックマン』を海外のテレビアニメとして制作するというニュースを知って、それに携わりたいと思ったんです。入社後はアニメーション制作と並行して、プログラミングなども手掛けるアニメーションTDという仕事も経験しました。実際にアニメーターとして働いてみて、やはり自分に一番合っている、天職だと思いました。

OLMデジタルで5、6年働いた後、カナダに渡ってSony Pictures Imageworks(以下、ソニー)でアニメーション制作に携わりました。

さらなるスキルアップを目指し海外へ

──その経緯は?
OLMデジタルで年数を重ねるうちに、自分のスキルの限界を感じたので、もっとレベルアップしたい、作品のクオリティを上げたいと思い、「Animation Aid」というアニメーション制作スキルを学べるオンライン講座を受講しました。当時は講師全員がソニーで働いているアニメーターだったんです。

ある時、アール・ブラウリーさん(現ピクサーアニメーター)のクラスを受講していたのですが、「今ソニーがアニメーターを募集しているから応募してみれば?」と言われました。その時は「すごくソニーに入りたい」というよりも、「今応募して果たして引っかかるのか」という動機で応募しました。しかし、2回応募して不合格。アールさんのアドバイスもあり、3度目の正直で『モンスターホテル3』で採用されました。今までぼんやりとした憧れにすぎなかった海外で働くという夢に初めて手が届いた瞬間でした。そして2017年にカナダのバンクーバーに渡り、現在に至るまでずっと同じところで暮らしています。

──海外で働くことに不安はなかったですか?
それはありましたね。最初はビザの問題もあるのでこれほど長くカナダにいられるとは思っていなかったんですよ。当時参加していた作品が終わったら仕事が見つからなくて日本に帰らざるをえなくなる可能性も十分あるなと。

ただ、2020年に永住権を取得したんですよ。そうなるとビザの心配がなくなるので、仕事も取りやすくなります。なのでそれからは「いつ日本に帰ることになるかわからない」みたいなストレス、不安はなくなりましたね。

──ではビザを取ってからは日本に帰りたいと思ったことはないんですね。
いえ、それはいつも思っています(笑)。日本が大好きなので、生活するのは日本が一番だと今でも思っています。なので、もし今と同じ規模の仕事ができるなら、いつでも日本に戻ってきたいと思っています。そんな気持ちのまま、もう6年くらい経ってますけどね(笑)。

ギャップを乗り越えレベルアップ

──実際に初めて海外で働いてみてどうでしたか?
当時日本で手掛けていた仕事と比べてまず関わる人や予算の規模から、ショットに懸けられる時間、求められるクオリティなどが全然違うことに驚きました。

仕事の仕方も、例えば自分の担当パートを監督チェックに出す時に、日本の場合はある程度作ってから出して、それに対して監督から修正指示が入るのですが、ソニーの場合は監督レビューが毎日あるので、毎日が締め切りみたいな感じでした。しかも監督のイメージと違っていたら一から全部やり直しというケースがあるので大変でした。

また、日本の場合は締め切り重視だったのですが、ソニーの場合は締め切りに加えクオリティにもかなり厳しかったので、感じていたプレッシャーの種類が違いました。クリエイターとしてはソニーの方がキツかったです。ただ、その分作品のクオリティが上がり、自分のスキルアップにも繋がったので、ありがたいプレッシャーだったと思います。


──ソニーで仕事をしてよかったと思うことは?
アニメーターとしてハリウッド映画のようなハイクオリティの映画制作に関われたことですね。また、チャレンジングな作品が多かったので、いい経験が積めました。年収も日本で働いていた頃よりも上がったので、そういう意味でもよかったです。

──英語面での苦労はなかったですか?
そもそも高校時代、1年間アメリカに留学したので、最低限の英語力はありました。それに、仕事のやり取りはチャットが多く、読むのも書くのも考える時間があったので、それほど苦労はしませんでした。OLM在籍時でも周りに外国人アニメーターが多かったので、英語力をキープできました。

学生の頃からの夢を実現

──ソニーでは6年間、アニメーターとして数々のハリウッド映画に関わった後、2023年4月にWalt Disney Animation Studios(以下、ディズニー)に入社しました。この経緯は?
先ほどもお話した通り、僕がアニメーターを志したきっかけはディズニーの『塔の上のラプンツェル』だったので、いつかはディズニーに入りたいという夢をもっていました。ただ、やはり世界トップレベルのアニメーションスタジオなので、ソニーで経験を積んである程度実力と自信を着けたらチャレンジしたいと思っていました。ただ、アメリカの会社はビザの問題でカナダよりも入社のハードルが高いんですね。なので難しいかなと思っていたのですが、2022年、ディズニーがバンクーバー支社を作って人材を募集したんです。それで応募するしかないと応募したら合格できたんです。

でも採用される自信は全然なかったですね。ソニーにも自分よりうまい人はたくさんいたので、不採用になって当然だと思っていました。なので、ソニーに応募した時と同じく、腕試し的な感覚でした。

合格通知が来た時は、もちろんうれしかったのですが、それまでに3~4カ月ほど時間がかかったので、やっと終わったという安堵感の方が強かったですね(笑)。


──学生の頃からの夢だったディズニーで仕事をしてみてどうですか?
やはり自分が学生時代から夢見ていたアニメーションスタジオで働けるということ自体、すごくうれしいです。

ただ、アニメーターなので仕事の内容はこれまでと同じなのですが、ディズニーの企業文化に慣れることが大変でした。例えば、まずソニーの時は自分が作ったものを監督に見せて、フィードバックが来て修正するというケースが多かったのですが、ディズニーはまず自分で作ったものに対して説明するところから始まるので、もう一段階英語力が必要になります。

また、アニメーションのカルチャーって、子どもの頃から今まで触れてきた作品に影響されてくると思うんですが、それが日本とアメリカでは大きく違います。なので、自分がこういうテイストがいいと思って作ったものが、監督から「イメージと違うからもっとこうしてほしい」と言われた時、それが自分の引き出しの中にない、ということが往々にしてあるんです。なので、この一年間、仕事をしつつ、改めてディズニーのカルチャーについて勉強し直してきました。

──働き方や働く環境に関してはいかがですか?
今は週に2回出社して、3回は自宅で仕事をしています。労働時間に関しては、クランチという、締め切りの3~4ヵ前の繁忙期以外は残業しちゃいけなくて、8時間しか働けないんです。なので1日8時間で結果を出さなきゃいけないという地味なプレッシャーがあります。ただその分プライベートの時間もしっかりとれています。

周りもいい人たちばかりで、特に入ったばかりの頃は勝手がわからないことも多かったのですが、親切にサポートしていただきました。仕事で悩んだ時も、スーパーバイザーや同僚に聞けば丁寧に教えてくれます。これらはソニーも同じでした。

──ディズニーに入ってよかったと思う点は?
さっきの話と通じるんですが、ディズニーには過去に在籍していたアーティスト達が、アニメーション制作における考え方や作り方についてレクチャーしている映像がたくさん保管されているんです。それらを見るのがすごく楽しいし、ディズニーのカルチャーを勉強する上でも有意義ですね。なのでディズニーに入れてすごくよかったし、充実したアニメーターライフを送れています。

常に120%のパフォーマンスを求められる

──仕事のやりがいはどういうところにありますか?
一番はキャラクターをイメージ通りに生き生きと動かせた時ですね。それはアニメーターを志したきっかけでもあるので、今自分ができているのは幸せだと思います。

──ソニー時代を含めて海外で働くことの大変な点は?
求められるクオリティのレベルがかなり高いので、それに応えるのが大変でした。海外に来てからは常に120%というか、自分の実力以上のものを求められているようなプレッシャーを感じつつ働いてきました。今は少し慣れましたけどね。


──これまでの人生で困難や失敗があった場合はどのように乗り越えてきましたか?
いろいろありますが、疲れたり落ち込んだりしたら一旦休むことが大事だと思います。溜め込んでいてもますます疲弊しますからね。ソニー時代はすごく忙しかったプロジェクトが終わったら、1ヵ月半ほどしっかり休んで、リフレッシュしてまた次のプロジェクトに挑むという感じでやっていました。

自分が作ったものの先を意識する

──デジタルハリウッドの現在のスローガン「すべてをエンタテインメントにせよ!」をどう捉えていますか?
そのスローガンはこの仕事の根底にあるものだと思っています。基本的にアニメーション作業をしている時は自分一人なので、視野が狭くなりがちです。でも、自分が作ったものの先には、数百万、数千万人の観客がいることを意識して、その人たちのために作っているということを忘れてはならないと思います。

もちろん、プロのアニメーターとしてはクオリティの高いアニメーションを作ることは大前提なのですが、それよりも多くの観客が求めているアニメーションを作ること、観客のニーズに応えることがより重要だと思っています。つまり、エンタテインメントとは多くの人々に提供するものなので、「すべてをエンタテインメントにせよ」というスローガンには強く共感します。

──今後の目標を教えてください。
まずはディズニーでちゃんと自信をもっていいものを作ることですね。そして、最終的には帰国して日本でアニメーションを作りたいので、その時にもいい仕事ができるようにしっかりと準備したいと思っています。


──在校生へのメッセージをお願いします。
デジタルハリウッド大学はCGなど専門性の高いことを集中的に学べる大学です。もちろん勉強も大事ですが、それ以外のこともしっかり経験してほしいですね。大学の4年間ってかなりいろいろな経験ができる期間だと思うんですよ。社会人になると、やっぱり大学生の時ほどはプライベートの時間が取れなくなるので、大学生の今だからこそできる経験、旅行や友だち付き合いなど遊ぶこともちゃんと経験してほしい。特にアニメーション制作においては、そのような経験を通じて得た感情が作品に反映されることが多いからです。作品をより豊かなものにするために、よく学び、よく遊んでくださいということです。

小宮 健太郎さんが学んだ校舎はこちら↓↓
デジタルハリウッド大学

Walt Disney Animation Studios
小宮 健太郎さん

1989年、東京都出身。2009年、デジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部に入学。2012年、アニメーターとしてOLMデジタルに入社。フルCGアニメーション作品の制作に携わるほか、アニメーションTDとしても複数のプロジェクトに関わる。2017年、カナダに渡りSony Pictures Imageworksで『ジェイコブと海の怪物』(2022)、『モンスター・ホテル4』(2022)、『モンスター・ペット』(2021)、『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)などに参加。2023年4月、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに入社。現在、『Moana2』鋭意制作中。Animation Aid カートゥーンクラスの講師も務めている。

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