Interviewインタビュー

No.39

公開日:2021/06/29 

公立小学校教員から、大学院生兼EdTech研究・実践家に転身。テクノロジーを活用して人と人との「つながり」を探究し続ける

EdTech研究・実践家 デジタルハリウッド大学大学院

No.39

EdTech研究・実践家
小林英恵さん(デジタルハリウッド大学大学院在学中)

小学校の先生を退職し、EdTechによる「オンライン小学校をつくる」という目標を掲げてデジタルハリウッド大学大学院へ入学した小林英恵さんは、コロナ禍の追い風を受けて加速するオンラインの学び場を次々と社会実装し、試行錯誤しながら探究しています。活動を通して見えてきたこと、今後の展望についてお聞きしました。
(※このインタビューは、2021年6月当時の内容です。)

子どもたちの未来につながる「新しい教育」をつくるため大学院へ入学

Q
もとは小学校の先生をしていたという小林さんが、デジタルハリウッド大学大学院に入学したきっかけは何だったのでしょうか?
A
大きなきっかけは、佐藤昌宏教授との出会いです。

公立小学校教員という仕事は私にとって「天職」でした(今でもたまに戻りたいと思うほどです(笑))が、公教育は大きく変わらなければならない、と課題意識を抱えていました。
2020年6月に開催された「EDIX」という教育イベントで佐藤教授の講演を聞いて、「EdTech」が公教育を変えると確信しました。当時、パソコンも持っていなかった私ですが、子どもたちの未来のために“新しい教育”をつくるには、まずは私自身が「テクノロジーの知識」、「ビジネス感覚」、「クリエイティブスキル」を身につける必要があると腹を括って、デジタルハリウッド大学大学院の門を叩きました。

Q
デジタルハリウッド大学大学院で小林さんが取り組まれている研究について教えてください。
A
入学前のタイミングなのですが、2020年3月、コロナ禍により全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校が一斉休校しました。これは戦後初の出来事で、教育現場の観点からみると大事件。

「オンライン小学校をつくる」という目標をもって大学院に入った私が、この状況を黙って見ているだけでいいのか…、いま自分にできることは何だろう…、と悩んだ結果、「居場所を失って孤立している子どもたちをオンラインでつなげるスクール」を思いつきました。
武蔵野大学の学生5人が賛同してくれて、一緒に「ワンラインスクール」を立ち上げました。

構想からリリースまではなんと3日間!全て初めての経験でしたが、ドメインを購入して、WEBサイトを作って、Facebook広告を出して。全国から参加者を募りました。

毎日朝の9時から夕方4時までZoomでつないで、小学生〜大学生が一緒に生活しました。朝の会で子どもたち自身がその日の活動を決めて、勉強したり、アートをしたり、ゲームをしたり。お昼休みはお話ししながら一緒にご飯を食べました。おうちの人は仕事に行っていて、家でひとりぼっちの子どもが多かったので、オンラインの「つながり」を提供できた価値は高かったと思います。

いまやすっかりZoomなどでのオンラインコミュニケーションは普通となりましたが、コロナ禍が始まったばかりの頃は、まだ当たり前ではなかったので、会ったことのない子ども相手にZoomを使うことは、ひとつの挑戦でしたね。

活動する中で印象深かったのは、学校の再開に伴ってワンラインスクールがいったん閉校することになり、最後のお楽しみ会で、富山県に住む小学5年生の子に「会いたい」と言われたこと。この時は感激して泣いてしまいました。オンラインでも、リアルと変わらない信頼や愛情が生まれることが分かりました。

「ワンラインスクール」の実践を皮切りに、大学院で学びながら「EdTech研究・実践家」と名乗り個人事業主として仕事をするようになり、オンラインの学び場のプロデュースを数々手がけてきました。経産省「未来の教室」実証事業プログラム「OJaC」において、不登校児童生徒向けに提供した「チャット部活」もまた、面白い実践になりました。

Q
「距離の壁を壊す」ということ以外で、リアル授業に比べてオンライン授業の方が優れている点を教えてください。
A
デジタルハリウッド大学紀要『DHU JOURNAL Vol.7 2020』に掲載された、研究ノート「オンライン授業におけるアバターを活用した個別最適化」で発表した内容が、まさにその点についてなのです!

都内某私立大学で、ある先生がアバターを使ったオンライン授業を実践していました。授業を受講した学生にオンライン授業中の「見た目」についてアンケートをとりました。その結果、学生が一番授業を受けやすいと感じた先生の見た目は、キャラクターのアバターだったんです。

その理由について、学生からは「先生の顔色を気にしなくて済む」「非日常感があって面白い」「先入観なく話を聞ける」といったほか、「90分間知らない人の顔をアップで見るのはつらい」といった率直な声も。キャラクターアバターを使うことでリラックス感、エンターテイメント性、フラットな関係性を向上させ、適度に非言語情報を遮断できるので余計なことを考えずに授業に集中できるというメリットがあると分かりました。

キャラクターアバター以外にも、より実物に近いリアルアバターにしたり、犬や猫のアバターにしたり、見た目を変幻自在に変えられる点が、オンライン授業ならではの魅力です。
これを活用すれば、授業を受けやすくなる学生がいるのみならず、「やりたいことを諦めない」世の中が実現できると思っています。「こんなことしたら、あの人にどう思われるだろう…」って怖くてやりたいことができない、なんてことありますよね。そんなことも、自分じゃなくてアバターにさせてしまえば…。
このように、アバターを使って、自分の中に存在する様々な“面”を、自由に表現できる現代を「パラレルミー時代」と呼んでいます。

自身の大学院生活をより充実させるための「バーチャルキャンパス」もスタート

Q
小林さんが大学院に入学された2020年4月は、コロナ禍によりまさにリモート主体の環境づくりが始まっていた頃かと思います。オンラインでの大学院生活について、どのような思いや発見がありましたか?
A
デジタルハリウッド大学大学院はさすがで、コロナ禍においても全ての授業がオンラインで実施されたので、学びの活動は止まらずに済みました。
オンラインで新しい知識を得たり、ディスカッションをしたり、それもリラックスできる自宅から、移動時間ゼロで学べるというのは革命的だなと思いました。画面をスクリーンショットすればいいから、ノートを取るのも楽。あとから検索もできてしまう。

しかし、楽しみにしていたキャンパスライフはお預け。
友だちができず、孤独でさみしい時期を過ごしました。オンライン授業だけでは、院生仲間とのつながりや、大学院へのエンゲージメントは希薄なままでしたね。
そんな自分の中にあった課題感を解消するためにつくったのが「バーチャルキャンパス」です。

2020年の夏に「Remo」というサービスを利用して、オンライン懇親会を開催したのがはじまりです。その次の日から毎日、院生が主体的に授業の前後に集まって、授業の感想を話したり、雑談を楽しんだりする場になりました。「Remo」はZoomと違って、自分のアイコンを近づけた人とだけ会話ができるツールなんです。まるでキャンパスのラウンジのような、ふらっと立ち寄って、気になる人に話しかけられる場をオンラインで実現できました。「うぉ〜!やっと友達できた〜!」とみんな大喜び。試行錯誤がたくさんありましたが、だんだん仲間が集まって、2021年度は大学院の公式バックアップをいただいて運営しています。現在はアップデートして、「oVice」というサービスで運用しています。

Q
「バーチャルキャンパス」について、現状の課題や将来的な目標、今後の見通しを教えてください。
A
今後は、気になってはいても参加できていない人を巻き込む工夫が必要かなと感じています。
来られない理由は何なのか、忙しさなのか、気恥ずかしさなのか、ツールの使いづらさなのか……非アクティブ層へのヒアリングはまだまだできていないので、よかったら話を聞かせてもらいたいですね。

とは言え、昨年度に比べて、今年度は「院生たちが何を知りたくて、何をしたいのか」というニーズのヒアリングに力を入れたこともあり、院生主体のコミュニティが盛り上がっています。「大学院にどんな人がいるのか知りたい」という声から、院生が交代で自分の得意分野について講義を行う「30分輪番講義」や、「日本のお椀の使い方や、あいづちのニュアンスなど細かいお作法を学びたい」という留学生の声から、「世界のお作法研究会」という定例イベントが生まれました。
これからもみんなのやりたいことを原点として、いろいろな企画をしていきたいと思います。

将来的には、現役大学院生だけでなく、修了生やデジタルハリウッドに関心がある人も集まれる場を目指しています。 デジタルハリウッドで得られたご縁のおかげで、今の私があるので、自分のためにも他の誰かのためにも、デジタルハリウッドという共通点をもった人たちがつながれる場を運営し続けたいですね。

迷ったら飛び込め!人生をドラマチックに

Q
デジタルハリウッドの学校理念「Entertainment. It’s Everything!」について、小林さんはどのようにこの言葉を捉えられていますか?
A
私は、自分のこの人生という「ドラマ」をいかに面白くできるか、ということに命を賭けています(笑)死に際に、「あぁ、面白い人生だった!」と笑顔で万歳したい。 だから、「するか、しないか」で迷ったときは、必ず「する」に飛び込んできました。もちろん失敗して、死にたくなるほど辛い局面は何度もありました。いじめられたり、失恋したり、騙されたり。でもそれも全て、ゲームの中の「クエスト」のようなもの。HPがゼロになろうとも、クリアするまで何度でも挑戦すればいい。

失うものがあったとしても、必ず得られる学びがありました。人生は、人間くさく、山あり谷ありの方が面白い。それが私にとっての「Entertainment」です。

Q
小林さんが一貫して人と人との「つながり」を大切に思い、それをオンラインで実現できるシステムを構築しようとするのはどのような思いからでしょうか?
A
たしかにこれまでの活動について、全てが「つながり」というテーマに集約されていますね。そのコアについては、まだ自分でも分析中ですが、現時点での見解だと、生まれ育った家庭でのさみしい経験からかもしれません。私の生まれ育った家庭もなかなかにドラマチックで、多感だった私の反抗期は10歳〜20歳までと長かったんです。ずっと、愛されていない、ひとりぼっちと思い込んでいました。本当は、家族のことが大好きで、仲良くしたかった。でもそれが素直に表現できなくて、自分の中で矛盾と混乱から色々歪んで絡まっている感じが未だにありますね。昔よりは改善してきましたが。
だから、他者とつながりたい、という思いの熱量が高いのかもしれません。
そうやって、「つながり」にこだわっていたら、たくさんの人とのご縁に恵まれました。「つながり」が私の人生をドラマチックにしてくれている。だから、これからも「つながり」をつくっていきたいと思うし、それで誰かと誰かがつながって何かが生まれたら、もう最高にドラマチックで「Entertainment」ですよね。
Q
今後のご自身の展望について教えてください。また、そのためには新たにどんな「学び」が必要だと思われますか?
A
最近大阪にあるNPO法人の理事になりました。そこは、不登校の子どもを対象としたフリースクールを運営しているのですが、フリースクールに来ることさえできずに孤立している子ども向けに、オンラインの居場所事業を新しく立ち上げることになり、そのプロジェクトリーダーとしてジョインしました。これまでの経験、ノウハウ、アイデアの全てを注ぎ込んで、最高のオンラインの居場所をつくります。

実は、このプロジェクトが完成したら、次のステージにいきたいと思っています。そのテーマは「EroTech(エロテック)」です。私の30年程度の短い(?)人生ですが、世の中を見ていると、性トラブルで人生が崩壊する人が少なくありません。それなのに、今の学校では性教育をしっかりと扱わない。性について考えることは、自分の命の使い方を考えること。だから、性に関するEntertainmentであり、Cultureである「エロ」を研究し、テクノロジーを使って人の身体を拡張するEroTech革命を…と詳しくはまだ秘密です(笑)
「エロ」の探究も、結局は「つながり」のため。全然違うことのように見えて、私の中では根っこがつながっています。

そのための新しい「学び」は、一次情報に触れる、ということを徹底的にやってみようと思っています。誰かから聞いたり本で読んだりした情報ではなく、私が直接その人と話して、私自身が体験して、そこから学んだこと、感じたこと、考えたこと、やりたい!と思ったことを本気でやっていく。そういう純粋性を極めていきたいと思っています。

Q
デジタルハリウッド校友会に期待することはなんでしょうか?また、読者である校友会メンバーに向けてメッセージをお願いします。
A
毎月、もしくは3ヶ月に1度など、定期的にデジタルハリウッド関係者がふらっと集まれる会がほしいです。なんならバーチャルキャンパスをそういう場にしていけたらと思うので、ぜひタイアップしましょう!デジタルハリウッドのコミュニティを、みんなで盛り上げていけたら嬉しいです。
ツナガレデジハリー!

小林英恵さんが学んでいるコースはこちら↓↓
デジタルハリウッド大学大学院

EdTech研究・実践家
小林英恵さん(デジタルハリウッド大学大学院在学中)
大手百貨店社員、公立小学校教員を経験後、デジタルハリウッド大学院へ入学。EdTechを活用したオンラインコミュニティについて研究している。2020年3月、全国の小学生から大学生を対象に、オンライン上で共に学び合う「ワンラインスクール」を創立、運営。2020年夏より、デジタルハリウッド大学大学院生のコミュニティづくりを目的とした「バーチャルキャンパス」を運営し、現在までに300名以上が参加している。
小林英恵さんオフィシャルサイト

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