Interviewインタビュー

No.94

公開日:2025/04/18 

デジタルが普及した時代、必要なのは「所作」。花街修行を経たクリエイティブディレクター・菊地あかねさんの挑戦

クリエイティブディレクター STUDIO渋谷

No.94

KiQ 主宰 / 所作研究家 / ジェスチャーアーティスト / クリエイティブディレクター / EXPO2025 アーティスト
菊地あかねさん
デジタルハリウッドSTUDIO渋谷 修了

日本の古き良き「所作」と「デジタル」を融合する

──菊地さんは現在、どのようなお仕事をされていますか?
デジタル時代に日本の「美」を再発見し、世界中へ届けようというビジョンをもとに、東京とロサンゼルスを拠点にグローバルに活動するクリエイティブスタジオ『KiQ(キク)』の経営 を行うとともに、クリエイティブディレクターとして企業や個人向けのデザインを手掛けています。

「アート・文化・テクノロジーの調和」 をテーマに、デジタルデザインから空間デザイン、さらにはブランドアイデンティティの構築など、幅広い分野のクリエイティブを制作しています。


▲菊地あかねさん(株式会社KiQ)の作品 「Pureland altAR / 極楽浄土AR」

2025年の4月から開幕する大阪・関西万博のいのちの未来では、世界初の所作デザイナーとしてパビリオン全体のヒューマノイドの所作のデザインを行うなど、人間の所作やこれからのヒューマニティを第一線で構築しています。

菊地あかねさん(株式会社KiQ)の作品「Pureland altAR / 極楽浄土AR」

──菊地さんの作品の特徴を教えてください。
一貫して、日本の 「所作」「伝統美」と「デジタル」が自然に融合している点が特徴です。

所作とは?
「美術館に並ぶような作品と同じように私たち人間やその生き方も芸術にできるのが、私は所作だと考えます。
『自分はデザイナーではないから』と言わず、すべての方が、生きるアートとしてより豊かに生きるようになったら素敵だと思っています。」
(株式会社KiQ 菊地あかねさんのBLOGより引用)

日本の美意識は言語化が難しく、それ自体が日本らしさの一つではあるものの、そのままでは文化を継承できる人がいなくなってしまいます。 だからこそ私は「所作学」と題し、学問として落とし込みたいと考えています。

そして、デジタルを当たり前に扱えることが、私自身のクリエイティブディレクターとしての強みです。デジタルハリウッドでの学びが、現在の活動に生きていることを感じます。

アメリカから帰国して花街修行。そしてデジタルを学ぶ

──所作学、興味深いです。そしてデジタルをよく理解されているからこそ作品に取り込むことができるのですね。デジタルハリウッドに入学されたのは、どのような経緯だったのでしょうか?
もともとヒップホップが好きで、ストリートカルチャーだったり、欧米におけるダイレクトな表現に憧れを抱いてアメリカの大学に留学しました。

20代前半はニューヨークでデザインの勉強をしていたのですが、次第に自国の文化のことをあまり知らない自分に気がつきました。デザイナーとして生きていくために必要な自分自身のアイデンティティが、まだ確立していないことを痛感したのです。

そこで、自らのバックグラウンドを知るべく帰国。日本の伝統や風習に目を向けました。実際に花街のお姉さんのお話を聞きに行き、花街修行を通じて日本の和のふるまいや所作を、肌で感じながら吸収していきました。


同時に、デジタル分野への理解も深めたいと考えました。

デジタルハリウッドWebプログラマーコースの卒業生の方に出会い、当校は熱心に取り組む人が多いと教えていただきました。その方はアメリカのサンノゼで挑戦しているエンジニアです。信頼する彼のすすめもあってデジタルハリウッドを選んだというのが入学の経緯です。

デジタルハリウッドSTUDIO渋谷では新たなスキルを身につけることができました。ニューヨークで学んだデザインに加えてHTMLやCSS、JavaScript、Javaなどの知識を身につけたことが現在のUI/UXやディレクションに活かされているので、学んでよかったと感じています。

個性豊かなクラスメイトと過ごした刺激的な日々

──仕事に活きる経験となって良かったです。在学中、印象的なことはありましたか?
クラスメイトの個性の強さです。アメリカの大学でも幅広い世代や人種の方がいましたが、実践的な仕事に取り組む中で個性的な仲間たちの存在はすごく衝撃的でした。

いつでも相談し合えるクラス制のスタイルが「大人の専門学校」という雰囲気で良かったですね。ビジネスの付き合いではないからこそ、今でも良い関係が続いています。皆さん第一線で活躍されていて、多忙な中でも時々お会いして刺激をもらっています。

卒業制作も印象に残っています。クライアントを自分で見つけて作品を制作したのですが、専門家の方から厳しい意見をいただいたこともありました。実践的な内容だったからこそ「もっと自分の世界を表現して良い作品をつくりたい」と考えるきっかけになったと思います。

卒業後のキャリアと独立の道

──卒業された後は、どのような活動をされましたか?
Web制作会社に就職してデザイナーとして2年間働いた後、クリエイティブディレクター・秋山具義さんのデザインスタジオに入社しチーフデザイナーを務めました。3年後に独立していますが、秋山さんには今でも良くしていただいています。

他にも外資系スタートアップのお手伝いや、デジタルハリウッドで講師を務めたこともありました。生徒には活躍されているクリエイターの方もいて、さまざまな世界で挑戦されている方々と出会えたことは良い思い出ですね。

一つ一つの動きを美しく。花街で学んだ伝統と価値観

──ここからはパーソナルなご質問です。菊地さんが影響を受けた人や作品はありますか?
花街の門を叩いた時、芸者の振る舞いを教えてくださったお姉さんの存在です。

「動きが揃っていない」「ここは見せないとダメ」と、一瞬一瞬の所作について厳しく指導を受けました。芸者は一流のお客様に対するお仕事ですから、どうしたら自分自身が作品として美しくあれるかを一つ一つ研究して教えてくださったのです。

着物は見えない部分が多いですよね。だからこそ指先やうなじの角度が美しく見えて、振る舞いが際立つという美意識が日本古来の暮らし方にはありました。その伝統を継承されているお姉さんに深く影響を受けましたし、尊敬しています。

デジタル作品はパソコンでキーボードを叩けば制作できますが、こうして自分が主体となって舞い、何かを表現できたことは貴重な経験でした。これから年を重ねても人間としての美しさを保つには、芸者の振る舞いのエッセンスが欠かせないと感じます。

80〜90年代のカルチャーから得る表現のヒント

──菊地さんの趣味や好きなものはありますか?
ファミコン、スーパーファミコンです。30年以上前の作品が好きですね。昔のゲームの表現からクリエイティブのヒントを得ています。横にしか動かないシンプルな構造であるにもかかわらず、ビットで表現されたピクセルの中ですごく工夫されてるんですよね。海外に行くと日本のゲームが好きな方が多く、素晴らしい日本の発明だなと思います。

ゲーム以外にも、80年代〜90年代のカルチャーに触れることにはまっています。たとえば、シティポップ。楽曲制作における技術がまだ成熟していないからこそ多様な工夫があり面白いのかもしれません。Y2K(2000年代初頭に流行したファッションやカルチャー)も世界的に流行していますが、こうして感性が美しい時代に憧れを持つことは自然な流れだと思います。

「おかげさま」精神を忘れない

──日頃から習慣にされていることはありますか?
周りの人たちに「ありがとう」という気持ちを伝えることです。

ストイックになればなるほど、気持ちの余裕はなくなるもの。だからこそ意識的に、自分の周りにいる家族や仕事仲間のデザイナーに感謝を言葉で伝えるようにしています。

「おかげさまで」という言葉を大事にすることは花街時代に習いました。 自分は誰かのおかげで成り立っていると考える文化でしたので、今も感謝の気持ちはいくらでも伝えたいと思います。

何事も当たり前と思わないって、すごく大事なことですよね。ディレクターの立場にいると忘れてしまいがちな価値観なのですが、2024年より米国でのスタジオ設立の関係からアメリカと日本を行き来するようになり原点回帰して思い出しました。ポジティブな感情は、どんどん周りの人たちに伝えていきたいです。

共に創り、共に進化するという生き方

──菊地さんにとって「自分らしく生きる」とはどのようなことでしょうか?
言うなれば「共進化」でしょうか。

私は誰かと共創することで自らの感覚が進化し、クリエイティビティを爆発させて自分らしさを確立することができました。

自分がどこへ向かうのか予測がつきませんが、異なる分野の方々とのコラボレーションを通じて、これまでにないことに挑戦し続けることが自分らしい生き方だと思います。

便利になりすぎた今、人間にしかできない「所作」の力を伝えたい

──最後に、今後の目標を教えてください。
日本発の、海外に向けたクリエイティブに挑戦していきたいです。

所作は人間にしかできない、深い「エモーショナル・エクスプレッション」です。その要素を入れたクリエイティブをグローバルに展開することが私の実現したい夢なのです。

その先には、人間が豊かになり、デジタルとともに進化していく未来を思い描いています。

デジタルが普及するにつれて生活は便利になりましたが、一方で人間関係は浅くなりやすく、ストレスを感じている方も少なくありません。AIに仕事が取られてしまう懸念がある今、人間にしかできないことを考えていく必要があるのではないでしょうか。

少し便利になりすぎている時代に、人間がどうクリエイティブになれるかを伝えたい。

そのためにもクリエイティブディレクター、また女性経営者のロールモデルとして歩み、私自身の生き方を表現するとともに、所作を活かしたクリエイティブを世界に向けて展開していきます。

KiQ(キク)Webサイト
https://kiq.ne.jp/

デジタルハリウッドSTUDIO渋谷(旧デジタルハリウッド渋谷校)
https://school.dhw.co.jp/school/shibuya/

いのちの未来
https://expo2025future-of-life.com/

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