Interviewインタビュー

No.25

公開日:2020/05/01 

フリーランス16年目のクリエイターが語る AI時代でも食べていける仕事術

イラストレーターディレクターデザイナーフリーランス STUDIO横浜

No.25

ディレクター/デザイナー/イラストレーター
トツカケイスケさん(デジタルハリウッド卒業)

このインタビューは2020年1月当時の内容です。

IT企業のエンジニアからクリエイターへ 人とのつながりで仕事の幅を拡大

Q
トツカさんは、明治大学理工学部を卒業後、IT企業に就職されたそうですね。その後、デジタルハリウッドに入学したのはなぜでしょう。
A
トツカ:小さい頃からイラストやキャラクターの仕事をしたかったのですが、なにせ僕の地元は地図にも載ってないほどの田舎町でして(あ、ちょっと言い過ぎました)、更に当時は今のようにネットが充実していなかったので、どうしたらクリエイティブな仕事に就けるかわからず…とりあえず数学と英語が得意だったので理工系の大学に進学したんです。
その流れでIT企業に入社したのですが、実際に働いてみると楽しくないこと山の如しで、毎晩ワインボトルを空ける荒んだ生活をしていました(笑)。
このままではいかんと、どうせなら憧れてた職種に転身しようと決めました。決めたからにはダラダラと在席せず3ヵ月で退職しちゃいました。その年の7月にデジタルハリウッド横浜校のコースがスタートするタイミングだったので、ちょうど良かったです。
Q
デジタルハリウッドでは、どんなコースを専攻されたのでしょう。
A
トツカ:当時は「Macマルチメディア」という、AdobeのIllustratorやPhotoshop、Flashなど総合的にツールを学ぶ半年間コースでした。最初はキャラクターデザインコースに入ろうと思ったのですが、職員の方に「キャラクターデザインでは食べていけないよ」と出鼻をくじかれまして(笑)
「じゃ、なんのためにこのコース作ったの?!」と心の中でツッコミを入れましたが、この話はご内密にお願いします。
Q
デジタルハリウッドを卒業されてからは、どうされましたか?
A
トツカ:貯金も尽きかけたので一旦実家に帰りました。でも、当時は地元にクリエイティブ系の就職先がなく、数週間はエヌ・イー・イー・ティー(NEET)でした。
そんな時、友人から「バーベキューをするけど来る?」と誘われて行った先で、その後入社する制作会社の社長と知り合ったんです。
お偉い方とはつゆ知らず、若さ故に下世話な話をしてたら気に入られまして「うちの会社に遊びおいで」と言ってもらったんです。
当時はFlash全盛期だったので、デジタルハリウッドで作ったものを見せたら、「いつからうちの会社来る?」と言われ、履歴書も見せずにそのまま入社しました(笑)
Q
そこではどんなお仕事を?
A
トツカ:百貨店や自動車メーカーの販促物がメインのグラフィックデザインです。
そこでベテランのディレクターに師事して基礎を学べたことは、僕のフリーランス人生の大きな糧になってます。
Q
仕事でイラストも描くようになったキッカケは?
A
トツカ:会社員時代、在宅作業の際に間違って仕事用のデータフォルダの中にオリジナルで描いてたイラストデータが紛れ込んじゃったんです。本来なら恥ずかしいミスなのですが、先輩から「イラスト描けるんだね、仕事でも描いてよ」と好転しちゃいました(笑)
当時はコミカルなタッチでしたが、独立後にキュートなスタイル、大人っぽいクールなスタイルとタッチを増やしていきました。

Q
フリーランスとして活動し始めたのは?
A
トツカ:制作会社で2年半ほど経ち、仕事の幅を広げたくて転職活動を始めた矢先、某イラストのコンテストに入賞したんです。けっこうな賞金を頂いたのもあり、人生経験として1年だけフリーランスをやってみようかという軽い気持ちで始めたのがキッカケです。でも、良縁に恵まれて、2年目もやってみよう、3年目も…と、おかげさまで気付けば16年も続いてます。
Q
そこから現在に至るまで、順調にお仕事をされていますよね。最初の頃は、どのようにして仕事を獲得したのでしょう。
A
トツカ:持ち込み営業はほぼしてなくて、日常で出会う方々とお仕事に繋がることが多かったです。
たまたま行ったフリーマーケットで仲良くなった出店者が、その後Web制作会社を始めることになり僕が外注のデザイナーとして一緒に仕事をするようになったり。
いま連載中の4コマ漫画の仕事も、海でギターを弾き語ってた人とFacebookのアカウント交換したのがキッカケですし、動画ディレクターの仕事におかれましては、なぜか母校ではない早稲田大学のOB会に呼ばれた先で、近くに座っていた動画広告会社の方から「ディレクター、やりません?」と誘われたんです。
Q
それまで動画ディレクターのご経験は?
A
トツカ:ありません。
未経験な事はお伝えしましたが「大丈夫ですよ」と言われまして(笑)
でも、実際にやってみると、”クライアントにヒアリングして情報を整理する” という根幹のプロセスはデザインの仕事と同じなので、あとは尺とナレーションの使い方、動画特有の効果的な表現などを徐々に学んでいきました。とはいえ、簡単な仕事ではなく奥が深いので今も勉強中です。
臆せず挑戦することは大事だなと感じました。
ただ、出来ないことは出来ないと素直に伝えることも同じく大事ですね。仕事欲しさに嘘をついて炎上案件になると沢山の人達に迷惑をかけますので。
Q
人とのつながりから仕事が生まれることが多いですね。
A
トツカ:はい。異業種の友達が多く、誘われた飲み会や交流会に行くと、デザイナー探しで困ってる人と仕事につながることもあります。特に若い頃は深酒するほど仲良くなって仕事に繋がってたので「ベロベロの実の能力者」と言われてました。
それに「お仕事下さい」よりお相手の方からお願いされたり、紹介の方がパワーバランスも良いので、良好なパートナーシップになりやすいんです。
本当にどこから仕事につながるか分からないので、たとえ合コンで好みのタイプの人がいなかったとしても侮ってはいけません(笑)

デザイナーの理想は組織の伴走者

Q
AI時代の働き方で大切だと思うことを教えてください。
A
トツカ:前談が長くてスミマセン(笑)
デザイナーに限らずクリエイター全般に「人間力」が求められてくると思います。
ひと昔前までは、制作ツールや画材・機材を使えるスキルがクリエイターにとって大きな価値になっていましたが、今はAIも進化してそれまで価値のあったスキルが、ツールの1つとして誰でも手軽に使えるようになっています。
そうなると、大事なのは人間力だと思うんです。ビジネスマナーはもちろん、コミュニケーション力・提案力・交渉力、さらには主体性。この点では一般企業の社員に求められるスキルと変わりないかもしれませんね。
人間力を活かして上流工程から仕事に関われるようになるとフリーランスとしての価値は上がります。
特にデザイナーの場合は経営視点でデザインの話ができる『組織の伴走者』になることだと思っています。
Q
確かに、上流工程から仕事に関わらないと、単価も上がりませんよね。
A
トツカ:はい、クリエイティブな仕事の大半は『労働対価』より『価値対価』だと思うので、どれだけ時間を使ったかではなく、どれだけ価値を提供するかになってくるので、代わりの効く仕事や効果が出ない仕事ぶりでは単価は上がりません。逆にクライアントの売上げや知名度を上げるものを提供出来れば単価も上がります。(という意味では「単価」という言葉はシックリきませんが)
今は見栄えの良いデザイン素材が手軽に買えるため、それなりに体裁のいいものを作れちゃうので、『デザイン=表層美』と捉えていると、キャリアを重ねてもフットワークが軽く安価で請けてくれる人に仕事を取られてしまいますし、発注側も本来求めてる成果は出ません。
デザインは表層美を作るだけでなく、その前段階の切り口や見せ方などの『考え方』が本来の役割の大半を占めてると思うからです。
キャリアが価値になるのは、表層的な点もありますが、実践経験からくる勘所や知見によって、その『考え方』も養われるからです。
Q
異業種の方々と交流する経験も、そういったところにも活かされているんですね。
A
トツカ:はい。「今の社会はこういう流れになっているから、弊社はこういうサービスを提供している」とか普段自分では調べないような話が聞けますし、それを基に自分で調べたりして勉強しています。
よく「デザインは課題解決」と言われてますが、様々な業種の課題を解決するにあたって、社会に無関心だと効果的な提案ができませんから、少しでもアンテナを張っておくように心がけてます。
関係が深いお客さんには、思いついた事などを進んで提案すると喜ばれることが多いです。
Q
デザイン価値の理解が広まれば、デザイナーとクライアント双方に良い効果が生まれますよね。
A
トツカ:そうですね。発注側が価値を理解していないと、単純に見積もり(安さ)だけでデザイナーや制作会社を選び、結果的に期待していたものが出来ず改めて別のところに依頼をするというケースを何度も見聞きしたことがあります。そうなると発注側は最初の労務費も製作費も無駄になります。
ですが、発注側が価値を理解してリテラシーを上げれば、期待してたものを作れるデザイナーや制作会社の選定も出来て、価格面や双方の敬意なども含めた良好なパートナーシップになると思います。
そのためには、本質的な価値を社会に啓蒙するのもクリエイターの仕事の1つだと思うので、最近は僕の知識や経験が少しでも業界水準の向上に役立てばと、講座やイベントに出演させて頂いてます。
Q
クリエイターの数も年々増えてるので仕事を勝ち取るための主体性も大事ですね。
A
トツカ:はい、著名な人でない限り、待っているだけでは仕事は来ないし、すぐに他の人に取って変わられる時代になってきていますね。
近年だと、SNSで積極的にPRするのもが最たる例ですが、オフラインでの主体性も大事だと思います。ちなみに僕は昔パートナー会社のロゴや名刺がイマイチだったので、勝手に作ってプレゼンした事もあります。今思えば主体性通り越して不躾ですが(笑)
勝手に提案したのでそのときは無償でしたが、それがキッカケで大きなお仕事に繋がりました。
余談ですが、よく「クリエイターが無償で対応するのは業界を悪くする」みたいな声もありますが、一概には言えず、僕は”時間の投資”として考えてます。
それが投資に値するかどうかの判断やさじ加減も人間力の1つと言えるかもしれませんね。
Q
デジタルハリウッドを卒業し、デザインやモノづくりの現場に出て行く若手クリエイターに向けてアドバイスをいただけますか?
A
トツカ:失敗を沢山しても、とにかく実体験から仕事の勘所を養って欲しいです。
ネットで得た座学的な知識で武装して仕事がデキるようになった気になるのは、格闘技入門の本を読んで強くなった気になってるのと同じです。
ちなみに、僕は子供の頃からドラゴンボールを読んでいるのに、かめはめ波は未だに出せません。
話が逸れましたが、実践で得た「勘所」は現場や状況に応じて適切な対応・提案が出来る大事なスキルになります。

また、在学生のうちは生徒同士のつながりも大切にして欲しいですね。同じ業界に興味のある人が集まってるわけですから、その後の仕事につながりやすいです。
それと、最近では新卒フリーランスって言葉をよく聞きますが、商業デザイナーに関しては、制作会社でデザインの本質を解ってる人に師事して現場を通して基礎を積むことをオススメします。独立はそれからでも出来るので周りに感化されて焦る必要はありません。

トツカさん自身の仕事において大事にしていることは

Q
仕事のための情報収集や息抜きなど、どのようにしているのでしょう。
A
トツカ:煮詰まったときは散歩に行くと意外と良いアイデアが降ってきたりします。つい遠くまで行き過ぎて電車で帰ってくることもありますが(笑)
時間があるときは都心まで出ます。渋谷・表参道・六本木・銀座のようにトレンドが詰まった場所は、行くだけで刺激が目に飛び込んできますし、DNAが騒ぐというかモチベーションも上がります。
情報収集ではInstagramでトレンドのビジュアルをチェックしたり、Twitterから肌感的に今の流れを収集してます。
それと、デザイン年鑑を見るのが至福の時間なので、デザイン系の本の取り扱いが豊富な本屋で長居しちゃいます。
フリーになったばかりの頃は、デザイン年鑑を延々と見ながら「このデザインの良さはどこだろう」と言葉にするトレーニングをしていました。
Q
ただ見るだけでなく、言語化するのが大事なのでしょうか。
A
トツカ:自分がクライアントにデザインを提出する際に理論的に説明ができないと、相手の好みで判断されて意図が伝わらないまま却下されることもあるので、言語化はデザイナーのスキルの1つだと思います。
それと、一般の方が見たときの「このデザイン、なんか良いよね」の「なんか」はデザイナーが意図的に作ってる事が大半なので、感情に訴えかけられるデザインを身につける意味でも言語化は大事だと思います。
Q
仕事をするうえでのポリシー、譲れないことはありますか?
A
トツカ:いくつかありますが、一番大切にしてることは、自分が楽しめるかどうかです。数年前までは「フリーになったのだから、ここまで年収を上げたい」とか目先の数字への意識が強かったですが、やっぱり楽しくないとこの仕事は続かないですし、続いたとしても自分自身が進化しない。
ただ、不思議と楽しく仕事をしてると数字も付いてくるんですよね。
もちろん、まだまだ全部が楽しい仕事というわけではないですが、それでも有り難いことに仕事を選べるようになったはキャリアで積み重ねてきたものがあってのことなので、周囲の方々への改めて感謝しています。

他に大切にしてることは、クリエイティブの価値を理解してくれてる方やクリエイターに敬意を持ってくれてる人とのお仕事を優先してます。クリエイターを社会不適合者のように小バカにしてる人や、誰が作っても同じ(価格優先)というように価値を軽視されてる人だと、気持ちよくお仕事が出来ないし、結果的に良いものは出来上がりません。
残念ながら先程話した価値啓蒙も通じない人もいるので、そこはご縁が無かったとお断りします。
逆に価値を解ってくれていたり敬意を持ってくれる人だと、作り手のモチベーションも上がりますからね。プロとはいえ人間ですから、モチベーションが上がって良い意味で成果物に反映されれば、クライアントにとっても喜ばしいことだと思います。

Q
今後の目標は?
A
トツカ:大きく2つありまして、1つは「笑い×クリエイティブ」をキーワードにした仕事をしたいです。
以前よく書いていたブログが意外と好評だったので、イラストと文章組み合わせて自分らしいコンテンツを配信していきたいです。それと、最近では少しでも業界水準が上がればとクリエイター向けの講座やトークイベントに出演させて頂いているのですが、フリップネタや小ボケを挟みながらお話しすると、参加者のみなさんからは「楽しみながら学べる」と好評です。
堅苦しい講座だと、疲れるし集中力も続かないですしね。登壇する僕も参加者の笑顔を見ながらお話し出来るのはとても楽しいです。
クリエイター向け以外でも、例えば企業のサービス紹介やプロモーションにそれを取り入れたり、延いては企業の説明会の登壇まで出来ると今までにない形で面白そうだなと思ってます。

もう1つは、イラストレーターとしての作家性を打ち出したいです。僕は『カワイイのにトゲがある』をテーマに子供をモチーフにしたシニカルな作品を創っておりまして、ただカワイイだけでなく風刺や社会へのメッセージを込めているこの作家性は簡単にマネできない僕ならではのものだと思ってます。過去には海外でも何度か展示に参加しましたが、ユーモアを含んだブラックジョークは海外のほうが受け入れられやすいので手応えが大きいんです。異なる文化の中で、自分の作品がどんな反応を生むのかもっと見てみたいのでこれからもチャレンジしていきたいです!

Q
イラストは言葉がなくてもメッセージが伝わるので、確かに海外の方々にも受け入れられやすそうですね。
A
トツカ:日本と比べると海外は絵を買う文化があるので気軽に買ってくれますしね。ロンドンの展示では「子供のクリスマスプレゼントにしたい」と、シニカルな作品を購入してくれた方もいました。日本では金額的にも子供にプレゼントにするようなものでもないので衝撃を受けました。

あとは子供のイラストでキッズファッションのブランドとコラボして、ディスプレイやカタログをオシャレに見せるような仕事もしてみたいです。
企業様、ご連絡お待ちしております!
(ちゃっかり宣伝)

インタビュー:野本由起

ディレクター/デザイナー/イラストレーター
トツカ ケイスケさん(デジタルハリウッド卒業)

埼玉県生まれ、東京都在住。明治大学理工学部を卒業後、IT企業に就職しつつも早期退職。 デジタルハリウッドを経て、制作会社でデザイナーとして勤務した後、2004年に独立。 現在はディレクター・デザイナー・イラストレーターとして幅広い分野で活動中。
イラストレーター トツカケイスケのWEBサイト https://www.totsunet.com/
Twitter https://twitter.com/totsu_net
Instagram https://www.instagram.com/keisuke_
totsuka/

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