Interviewインタビュー

No.30

公開日:2021/01/29 

“おとなになっても想像以上に世界は広がる” 渇望する「好き」に向き合い続けるための学び

CGデザイナー映像ディレクター デジタルハリウッド東京本校

No.30

映像監督/アートディレクター/CGデザイナー
かとうみさとさん(デジタルハリウッド 本科CG /VFX専攻卒業)

Official髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)の『ノーダウト』をはじめ、人気アーティストのミュージックビデオを多数手がける映像監督、かとうみさとさん。MTVが主催する音楽アワード「VMAJ2018」で、最優秀邦楽新人アーティストビデオ賞を受賞するなど、活躍中のかとうさんに、「デジタルハリウッド時代の学び」と「今後の夢」について、聞きました。
(※このインタビューは、2020年12月当時の内容です。)

アーティストのイメージだけでは、MVは“足りない”

Q
「ミュージックビデオ」の制作は、音楽をビジュアルに落とし込む作業とも言えると思います。制作するなかで、やりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?
A
ミュージックビデオは、アーティストやマネージメントの人たちと話し合いながら作っていくのですが、自分が曲を聴いてイメージしたことと、アーティストが表現したいことが食い違うこともあります。ですが私は、アーティストのイメージを実現しただけのMVでは“足りない”と思っているんです。大切なのは、MVを見た人に対する「引っかかり」を用意することで、そのなかで作品に意味付けすることが自分の役割だと考えています。

アーティスト側の希望に寄り添いつつ、自分からの提案も積極的に展開し、意見交換を重ね、試行錯誤しながら完成に向かっていく。その過程は実に刺激的で楽しくて、“やりがい”そのものですね。

Q
アーティストの方たちは、それぞれ楽曲に思い入れがあると思います。意見交換の段階で、「こういう映像がほしい」と要望されるケースもあるのではないでしょうか。
A
もちろん思い入れは強いと思いますが、「絶対にこういう映像じゃないとダメだ」という人はほとんどいないですね。私から提案させていただくことも多く、全体として、自由度は高い印象です。たとえば、私が手がけた[Alexandros](アレキサンドロス)のミュージックビデオ『Feel like』という曲では、ボーカルの川上洋平さんからは当初、「ダンスビデオを作りたい」とオファーをいただきました。そこで私は、真っ白なスタジオのなかで、ポップでアメリカンな雰囲気の女性たちが踊る内容を提案したんです。すると制作中に、川上さんから「もっとオリジナリティーを出したい」と要望があり、そこから新しい表現方法を模索することになりました。

目指したのは、ポップで明るい雰囲気でありながら、セクシャルでグロテスクであること。

テーマを「料理」と設定し、ホットケーキを作っていく過程で果物を潰したり、シロップを垂らしたりする映像を差し込むことで、“艶っぽい”表現を加えました。川上さんご本人もこの演出を気に入ってくださり、その後、2本のミュージックビデオをご一緒させていただくことができました。私にとって、思い出深い作品のひとつです。

アウトプットの幅が広がったデジタルハリウッドスクール時代

Q
着実にキャリアを重ねられている、かとうさんですが、そもそも映像監督になった経緯とは、どのようなものなのでしょうか?
A
昔から音楽も映像も好きで、そういうものを自分で表現できたらとは考えていましたが、「今から始めるのも遅いのでは……」と悩んでくすぶっていました。当時、私は東北芸術工科大学の企画構想学科で広告のマーケティングをメインにした座学の勉強をしていました。
大学ではアートディレクターや映像プロデューサーなど、大物のゲスト講師も含めて自分の憧れに直結するような人たちとの出会いが多くありました。そのなかでA4A(エーフォーエー)という制作プロダクションの代表と知り合い、会社にアルバイトとして入社したのが、映像監督になったきっかけです。
同社は私が上京する前から好きだった「相対性理論」というバンドのライブ演出やミュージックビデオを制作しているプロダクションで、仕事を通して、多くの経験をすることができました。そこで将来を見据えて、「今からきちんと、CGの勉強をしておく必要がある」とアドバイスされ、CGを学ぶことを決めました。

どこで学ぶべきか悩みましたが、デジタルハリウッドに決めた理由は、一年間でしっかり技術を習得できるという点で「大人になってからでも本気で学べる場所」だと感じたからです。

私はCGや映像制作に関して全くゼロ状態からのスタートでしたので、学校に行くなら全力で取り組もうと覚悟して、デジタルハリウッドに通い始めました。
そこでCG制作を中心に、映像編集の技術も習得できたことは、“今”に大いに活きています。ですから、映像監督として必要な基礎的な技術や知識は、デジタルハリウッドで学んだと言っても過言ではありません。

働きながらスクールに通う日々は、忙しくも充実していました。知識や技術がどんどん身につき、「作れる」ようになっていくのを実感する毎日。そのなかで、スクールでつくった作品を会社で見せたら、「じゃあ、ライブの背景映像も作れるんじゃないか」と代表から言われて。仕事を任されたときは、とってもうれしかったですね。仕事で作ったものをスクールの課題として提出することもあり、仕事とスクールでの学びがリンクしていたことも、短期間で一気に成長できた要因だと思います。

Q
忙しい学生時代、友人から刺激を受けることもありましたか?
A
はい。たくさんのいい出会いがありました。24時間利用できるスクールには、いつ行っても人がいて、作業をしている。その姿を見るたび、「私もがんばろう」思えました。
周りが努力している姿に私も感化されて、人生でいちばん勉強したんじゃないかなというほど勉強しました。

スクールで知り合い、現在でも親交がある友人ももちろんいます。CGアーティストの森田悠揮さんなど、自分と年齢が近くて優秀なクリエイターが身近にいたことは、大きな刺激になりました。そんな素敵な友人たちと出会えたことも含め、デジタルハリウッドに通っていた時間は、私にとって、今でも“楽しい思い出”です。

生きている限り、できるだけ色々な方法でアウトプットし続けたい

Q
最近は、祝祭(シュクサイ)という会社をご自身で立ち上げたり、Glium(グリウム)という音楽ユニットで自らアーティスト活動したりと、さらに“アウトプット”の領域を広げている印象があります。
A
そうですね、芋如来メイ(イモニョライメイ)ちゃんと活動している「Glium」では、音楽も映像も自分たちで作っているのですが、まさに「自分のアウトプットを増やしたい」という思いで始めました。バッグブランド・Samantha Vega(サマンサベガ)のCM「Samantha Vega 2020 autumn collection」では、楽曲をGliumで、映像を私が監督をして制作しました。トータルでその作品に携わり、ブランドの世界観を構築できたことは、非常に楽しかったですね。

アウトプットの方法や手段をたくさん持っているということは、自分が表現したいものをより繊細に、詳細なかたちで再現できるということ。その領域をどんどん広げ続けていきたいと思っています。

同時に、最近アウトプットをしていくなかで感じているのが、「インプット不足」です。たとえば家にいるときにMVや映画を観たり、画像検索サイトを眺めて、自分は何が好きなのか探ってみたり。そういうことは意識的にやっていますが、自分の意識していないところから偶然訪れるような、“新しい発見”や“学び”がほしいなと思うので、様々な分野の人と出会ったりもっと遠くに足を運んだり、プライベートで何かを大好きになったりしたいなと思います。
少し大げさかもしれないですが、MV監督をやりだして5年間。わりと自分がやりたいと思っていたことを全て達成したのではないかと思う瞬間もあるんです。

昔から好きだったバンドやアイドルのミュージックビデオが撮れて「じゃあ次にどうする?」と自問自答してみると、「これ」という答えを持っていない自分がいました。そんな現状を打破して、さらに上を目指すためにも、インプットの機会は増やしていきたいです。

Q
“新しい発見”や“学び”は、人との出会いがきっかけになることもありますよね。
A
もちろんです。そういう意味では、デジタルハリウッド出身の方々とコラボして何かを制作してみたいですね。

同世代で活躍しているデジタルハリウッド出身者とコラボしてみたいという思いがあります。
たとえば企業広告のCMとかで、集まった各人のスキルが活かせたら、すごい作品が生まれる気がします。……と言いつつ、果たして自分が天才のような人たちについていけるかという不安もありますが(笑)。
出身者だけでなく、現役の学生とのコラボも楽しそうですよね。実際今ひとりで作業しているときでも、「もっとアイディアが欲しい」とか、「一緒に手伝ってくれる人がいたらいいな」とか思う瞬間がいっぱいあるんです。だからデジタルハリウッドCG学科に在籍している学生さんには、「よかったら、私と一緒にコラボしませんか?」と言いたいですね。

そうやって人と化学反応を起こすことで、新しい、素敵な作品が生まれるんだと思うんです。

これからも自分の好きなものに真剣に向き合い、表現(アウトプット)し続けるために、死ぬまで「学び」(インプット)を続け、自分の世界を広げていきたいですね。

かとうみさとさんが学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッド本科CG/VFX専攻

映像監督/アートディレクター/CGアーティスト
かとうみさとさん(デジタルハリウッド 本科CG /VFX専攻卒業)

宮城県仙台市出身。2014年に東北芸術工科大学を卒業後に上京し、映像制作会社で働きながらデジタルハリウッドスクールでCGを学ぶ。2016年に初めてMVを監督して以来、人気アーティストのMV監督、ジャケットデザインを手がける。現在はMV制作だけにとどまらず、アーティスト、アートディレクター、CGデザイナーとしても、幅広く活動中。

【受賞歴】
・第14回ベストデビュタント2018グラフィック・アート部門受賞
・MTV VMAJ 2018 最優秀邦楽新人アーティストビデオ賞
/Best New Artist Video -Japan- Official髭男dism -『ノーダウト』

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