Interviewインタビュー

No.49

公開日:2022/05/11 

AI時代の「創造性」とは? クリエイター支援を通じて見出したクリエイティブの本質

アートディレクターイラストレーターデザイナー代表取締役 デジタルハリウッド大学大学院

No.49

株式会社BRAIN MAGIC 代表取締役CEO
神成大樹さん(デジタルハリウッド大学大学院 修了)

クリエイターの作業効率化や、身体への負担を軽減するために開発されたデバイス「Orbital2(オービタルツー)」。開発を手がけた株式会社BRAIN MAGICの神成大樹さんは、デジタルハリウッド大学大学院でその着想を得て、特許の取得や商品化へと至ったといいます。大学院での経験が神成さんに与えた影響やエピソード、そして「クリエイティブ」に対する信念についてお話を伺いました。
(※このインタビューは、2021年11月当時の内容です。)

大学の仲間と立ち上げた会社が大学院入学のきっかけに

Q
神成さんは高校生の頃からイラストの仕事をされていたそうですね。
A
はい。スマホやパソコンで遊べるソーシャルゲームのイラストを描いていました。きっかけは高校生の頃、ネットで声をかけられたことです。最初はイラストに色を付ける仕事から始まり、大学生の頃にはオリジナルのイラストを描くようになっていました。
Q
その後、大学に進学してからは、どのようなことをされていたのですか。
A
玉川大学の芸術学部メディア・アーツ学科(当時)で、まさにデジタルハリウッドの専門スクールで学ぶような内容を学んでいました。当時、ポスターや同人誌を学校のプリンタで作っていたのですが、部屋に保管されていたコピー用紙を全部使い切ってしまうなど、かなり自由にさせてもらっていましたね(笑)。ちなみに、この時の活動は、とても大きな反響をいただきました。
Q
大学を卒業してすぐに起業をされたそうですが、経緯を教えていただけますか。
A
大学時代の仲間は皆、自分の名前で仕事が舞い込んでくるほど優秀な人たちばかりで、当時から「卒業後、3年間フリーランスをやって人脈を作ってから、皆で集まって会社を立ち上げよう」という話をしていたんです。諸事情により3年を待たずして起業することになったのですが、卒業して間もなく大学時代の仲間が再結集してできたのがデザイン制作を事業とする株式会社B.C.Membersです。

ところが実際に会社を始めてみると、案件は入ってきているのに「あれ、会社にお金がない」という事態に陥りました。何が起きていたかというと、「売掛金倒産」しかかっていた状態、つまり売り上げが入金される前に支払いで資金不足になってしまったんです。経営について何も知らない状態で会社を始めてしまったことに危機感をおぼえ、経営や法律について総合的に学べるデジタルハリウッド大学大学院へ入学することにしました。

青天の霹靂だった「プロダクト・プロトタイピング演習」の授業

Q
デジタルハリウッド大学院で印象に残っている授業や出来事を教えてください。
A
「プロダクト・プロトタイピング演習」という香田夏雄先生と三淵啓自先生が担当されていた授業は、私が現在、代表を務める株式会社BRAIN MAGICの商品「Orbital2」が生まれたきっかけにもなりました。授業の内容は、これまで電子工作をしたことがない人でも、LEDを光らせたり、モーターを動かしたり、簡単なモノづくりに触れられるといったものです。本来、私はデジタルハリウッドで経営を学んでB.C.Membersへ持ち帰る予定だったのですが、この授業を受けたことで、「もしかしたら、自分がイラストレーターとして感じていた課題を解決できるんじゃないか」と感じたのです。まだ明確な出口は見えていませんでしたが、まさに雷に打たれたような衝撃でした。
Q
イラストレーターとして感じていた課題とはなんでしょうか?
A
身体的な負担の大きさです。長時間イラストを描いていると、腰の痛み、手首の腱鞘炎、ドライアイといった症状に常に悩まされます。「Orbital2」は、まさにそういったクリエイターたちの負担を軽減し、クリエイティブに集中できる環境を提供するジョイスティック型のデバイスです。

最初、修了課題は別のテーマに取り組もうと思っていたのですが、自分がそのテーマにモチベーションを保つことが出来ず、結局、「Orbital2」の原型となるデバイスの開発に舵を切ることに。香田先生を捕まえて「こういうことをやりたいのですが、授業外で付き合ってもらえませんか」とお願いし、徹夜で個人研究を助けていただきました。この経験が、後の株式会社BRAIN MAGICの創業にも繋がっていきます。

BRAIN MAGICを創業したのは2016年2月、大学院修了直前です。研究していた技術が特許になりそうというタイミングで、「デジコレ6」という大学院の成果発表会にノミネートされ大勢の前で自分の研究について話をするチャンスをいただきました。ですが、公で知られている技術だと特許権が得られないのです。発表会に間に合わせるように、急遽会社(BRAIN MAGIC)を立ち上げ、特許取得を急いだという経緯になります。

もともと「Orbital2」は自分が使うために作っていたのですが、教授たちが「売った方がいい」と言ってくれたり、「欲しい」という人が出てきたりしたので商品化に至りました。最終的にデジタルハリウッドが出資した案件の第一号にもなりました。

Q
デジタルハリウッド大学大学院で学んだことが、そのまま現在のお仕事に繋がっているという感じですね。
A
授業での学びも大きかったですが、大学院で出会った仲間から受けた刺激も非常に大きかったです。特に印象的だった人物は二人。一人は元自衛隊員という変わった経歴を持つ同級生の仁木崇嗣さんです。仁木さんはデジタルの力で政治を変えようと活動されている方でして、頭の良さや行動力に加えて、とにかくフィジカルが強い。徹夜で帰って、疲れ切ったから寝ようというタイミングで、そこから反省会を平然とやるような強さがありました。普通の人なら「もう無理」となるところを「無理じゃない。やると言ったらやる」という姿勢からは、起業家たるもの、こうじゃなきゃいけないと感じました。

BRAIN MAGICを起業するという意思を持てたのは、ピーター・ローゼンバーグの存在が大きいです。授業に遅刻したのに、堂々と笑いながら正面入り口から入ってきたので、最初の印象は「やばいやつ」でした(笑)。でも、佐藤昌宏教授のエデュケーションテクノロジーを行う教育ゼミで、1年目は私がゼミ長、彼が副ゼミ長。2年目は彼がゼミ長で、私が副ゼミ長という縁もあり、いろいろと関わるようになったのです。

当時彼は英語のアプリサービスを立ち上げるなどさまざまなチャレンジをしていましたが、すべてがうまくいったわけではないと聞きました。そんな中でも常にチャレンジし続ける姿を見て尊敬とともに、なぜそんなに頑張れるのか疑問を覚えました。そしてある時直接彼に聞いてみたのです。そしたら彼から「J.K.ローリングを知っているか?」と言われました。『ハリー・ポッター』シリーズで知られる英国の作家J.K.ローリングは無名時代、さまざまなエージェンシーや出版社に『ハリー・ポッター』の出版を掛け合ったそうです。しばらくはなしのつぶてだったそうですが、自分の作品が面白いということを確信していたため、諦めることはありませんでした。そんな中、とある出版社の編集が家にローリングの原稿を持ち帰ったところ、それを読んだ子どもが「続きが読みたい」と言いました。結果、『ハリー・ポッター』は日の目を見ることになったそうです。そのエピソードを用いてピーターは「自分がやるべき、世に出すべきと思ったことは、諦めずにやり通すべきだ」と、僕に話してくれたのです。

目指しているのは人間が「クリエイティビティ」を失わない世界

Q
デジタルハリウッドでは“Entertainment. It’s Everything!”という理念を掲げています。BRAIN MAGIC のホームページにも、同様の言葉が掲げられていますが、神成さんはこのメッセージにどのような意味を込めているのでしょうか。

A
将来、AIの能力が一層進化し、仮想現実が当たり前の世界が訪れた時、いま自分がコミュニケーションしている相手が本物の人間なのか、人工知能なのか判別もできないという状況は起こりうると思います。憧れのクリエイターが人工知能だとわかった時、あなたはどうしますか? クリエイティブをAIまで担うようになったら、人間には何が残されるのでしょうか。

人は未知のものに対して危機感を覚えます。でも既知にすれば、怖くありません。ただ時代に流されるのではなく、そういった流れに抗って全力で未来を上書きしていこう、既知の上で、クリエイターたちと共に楽しい未来を作っていこうと考えました。そういう意味も込めて、”Entertainment. It’s Everything!”という言葉を掲げました。

Q
神成さんの今後の展望について教えてください。
A
人生通して、テクノロジーによって人がクリエイティビティを失わない、人と人工知能が混然一体となってよりすぐれたクリエイティビティーを発揮する社会を実現したいと考えています。人の中にある「創造性」とは何か、と考えたとき、誰かを忖度するのではなく、何かに流されるのではなく、最後の最後、何を実現したいのか、誰に何を伝えたいかをギリギリまで妥協なく磨き上げた強い意志なのではと考えます。近い未来、その意思のないクリエイティブはAIによる自動生成で十分となるでしょう。そんな時代だからこそ、意思を失わずに持ち続けることができるよう、人が「創造性」をより強力に発揮するためのソリューションを研究し作っていきたいです。
Q
最後にデジタルハリウッドの現役の在学生や卒業生、関係者など、インタビューを読んでいる読者にむけてメッセージをいただければと思います。
A
自分自身、デジタルハリウッドに入って人生が変わりました。デジタルハリウッドの池谷和浩さんが言っていることを一部お借りするのですが、デジタルハリウッドは「港」のような存在なんです。未だ見ぬ世界に向けて港から冒険に出て、冒険が終わったらまた元の港に戻ってくる。私もまさしくそうだなと感じていて、同じ世界を目指してひとつの船に乗ってくれる仲間がいたり、冒険の為の補給物資を積んでくれる投資家がいたり。仮に失敗しても死なずに戻ってくれば、また温かく出迎えてくれて、皆で「どうだった?」「きつかったわー」と話ができるような場所だと思うのです。

だから、デジタルハリウッドを卒業した方々も、また戻ってきて勉強して、どんどんチャレンジして、皆で世界を楽しくしていきましょう、とお伝えしたいですね。

神成大樹さんが学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッド大学大学院

株式会社BRAIN MAGIC 代表取締役CEO
神成大樹(デジタルハリウッド大学大学院卒業)
1989年3月11日生まれ。デジタルコンテンツマネジメント修士。学生時代よりイラストレーター、デザイナーとしての活動を開始。2012年ソーシャルゲームのイラスト、UI等周辺デザインを主な事業内容とする株式会社B.C.Membersの創業に参加。取締役に就任。その後ソーシャルゲームブームの波に乗りイラストレーター、アートディレクターとして職務に従事する傍ら、社会人大学院生としてデジタルハリウッド大学大学院に通い始める。これをきっかけに、予てより構想のみ存在したクリエイター特化型の入力機器の研究開発をスタート、2016年に同研究とビジネスモデルを持って株式会社BRAIN MAGICを創設。現在同製品を中心にさまざまなクリエイター向けソリューションを開発中。

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