Interviewインタビュー

No.57

公開日:2022/12/22 

自分の得意分野を爆発させて、職業を“つくって”しまえばいい。デジタルハリウッド出身ロボットデザイナーと見据える未来の働き方

デザイナーロボットデザイナー教授 デジタルハリウッド大学デジタルハリウッド大学大学院デジタルハリウッド東京本校

No.57

otuA株式会社代表
ロボットデザイナー
デジタルハリウッド大学および大学院准教授
星野裕之さん(デジタルハリウッド東京校修了)

デザインとテクノロジーを融和させ、日常を豊かにすることを目指すotuA株式会社。代表を務めるロボットデザイナーの星野裕之さんは、デジタルハリウッド専門スクール出身で、現在は大学、大学院で准教授としても活躍中。デザイナーとしての人生が始まったきっかけから、現在の職業、学生の職業との向き合い方までお話をお伺いしました。
(※このインタビューは2022年8月当時の内容です)

常に思考しているのは、テクノロジーを日常に溶け込ませるためにできること

––早速ですが、星野さんの職業についてお聞かせいただいてもいいでしょうか。

星野裕之さん(以下星野さん):僕はロボットデザイナーとして働いています。最近だと、デザインとアートとテクノロジーの領域をぐるっと回りながらプロトタイピングから社会実装をつなげていくという仕事が多いです。プロトタイプとテクノロジーを軸にしたものを扱っていますね。

たとえば、通信系研究所のデジタルヘルス系のデバイス。プロトタイピングと実証実験用の数台をつくって実験しています。あと、メーカーは最近、“何か環境にいいことをやらねば”という機運が高まっているので、“ソーラーがある未来”というコンセプトモデルをつくりました。彼らは“素敵な”プロダクトアウトをしたいという気持ちがあるのに、アウトドア的なものになってしまうようで。価格帯は上になるけれど、ラグジュアリーなソーラーライト、サスティナブルライトのデザイン中です。彼らと一緒に、“地球貢献”をコンセプトにソーラーで動く亀型ロボットも制作しました。将来、人間が壊した生態系を亀型ロボットが戻していく、そして本物の亀がロボットを見つけて、森の仲間に紹介するという青図まで描いたんです。いろいろ想像するのが好きですね。

ただ、デザイナーとしては、どうしたら人に興味を持ってもらえるのか、わかってくれるのかと考えなければいけませんから、1人で想像するだけでなく、人に対して好奇心を持つことは忘れないようにしています。自分がつくったものを使うのも、そして評価するのも人。“すべての事柄は人に向いている”ということを意識していますよ。その意識を持ちつつ、今後は、自分たちで「いいな」と思った提案に、なるべくナチュラルにテクノロジーを持ち込めるようにしたい。テクノロジーを当たり前のように日常の中に入れるにはどうしたらいいのかということを常に考えています。

––モノづくりをする職業だと技術ばかりに目が向きがちですが、対象者はとても大切ですね。杉山学長も「単純に技術を学ぶだけでは足りない」とおっしゃっていたのですが、身につけた技術をどう生かしていくかも考えないといけないですね。

星野さん:そうですね。確かにこれからは、“テクノロジーを使う技術”を持っているだけではダメで、“テクノロジーを使いこなす技術”を持っていないといけないと思います。テクノロジーに作業をさせるのではなく、テクノロジーにしてもらった作業を人間が判断するといったような感じ。でも、アーリーアダプタータイプの学生はこういった行動が既にできていますよ。テクノロジーを使っておもしろさを底上げしたいという気持ちがあるからでしょうね。目指すべきところに至る思考が確立されてきているんだろうなと感心します。

僕もデジタルハリウッドで学んだ3DCG、社会人になって経験したデザインやビジネスの仕方といった技術を最大限に生かせるよう、さまざまな方法論を勉強したり、新しい角度からのチャレンジをしたり、努力を続けていかないといけないなと気が引き締まります!

“困ったときに掴む藁”=デジタルハリウッド

––現在星野さんはotuAでロボットデザイナーを務めていらっしゃいますが、きっかけはなんだったのでしょうか。

星野さん:デジタルハリウッドのプレイスメントセンター(現キャリアセンター)にフラッと寄ったときに、現在“ソニーのCTOをされている北野さんのプロジェクト(国の研究機関でのヒューマノイドロボットの研究開発とそれに伴うロボットデザインの研究)でアルバイトを募集している”というんですよ。直感的に「おもしろそう」と思って面接に行きました。そうしたら表参道のど真ん中、とても広くて素敵なマンションのツーフロアを研究所にしていて、玄関にロボットのAIBOがいるんです。聞いたらロボットとバイオの研究所だと……もう「絶対にやりたい!」と。そこでアルバイトとしてロボットのデザインをはじめたことがきっかけです。すぐにヒューマノイドロボットデザインの手伝いをさせていただいたのですが、光造形機(3Dプリンター)を使って“ロボットを現実に引き出すこと”に早々に成功して。光造形機は、今や目にする機会は増えましたが、この頃まだ少なかったんです。そのロボットがさまざまな媒体によって世界中に拡散されていって、ヴェネツィアにロボットを持っていったり、ニューヨークに展示しにいったり……。こういった経験に、世界の広さと世界が認めるクオリティを教えてもらいました。アルバイトという立場でこんなにおもしろいことを体感できたと同時に、僕のロボットデザイナーとしてのキャリアがはじまったんです。デジタルハリウッドには感謝しかありません(笑)。

––星野さんがデジタルハリウッドに入られたきっかけもお伺いさせてください。

星野さん僕のきっかけは“大学受験失敗”。浪人生なのに勉強に打ち込むでもなく、ひたすらにバイクのカスタムに時間を費やす日々を過ごしていました。今思えばこれが現在行っている機械的なプロトタイピングに通ずるのですから不思議ですね。そんな日々の中で「映画製作に進みたい」と思ったこともあったのですが、バイクしか触っていませんからどこにも行けない。「これからどうしようか?」とぼんやりとテレビを観ていたら、デジタルハリウッドの杉山学長の“卵型スピーカー”の番組がNHKで流れていまして。全然内容は覚えてないのですが、ファンキーな人がすごく楽しそうに話す姿を見て、「これだ」と決めたんです。誰もが知っている偏差値の高い大学や芸術系の大学といった本流から、僕は脱落してしまった。ただ、デジタルハリウッドなら、セカンドチャンスとして新たな本流をつくれるかもしれないと考えたんです。

––確かに杉山学長は「デジタルハリウッドは自分らしく生きる人のための学校だ」とよくおっしゃっています。デジタルハリウッドで“自分だけの道を拓くこと”ができるかもしれないと思えたのでしょうか。


星野さん:まさにそういった期待とともに、ですね。また、さまざまな学生に会いますが、同じような考え方で飛び込んできている子は多いなと思います。デジタルハリウッドは、これまでもこれからも“困ったときに掴む藁”のような存在なんだと認識しています。

––なるほど。以前星野さんとお話させていただいた際、デジタルハリウッドを“雑多”と表現していました。そのときはどういうことだろうと思っていたのですが、あえて本流から外れた場所で新しい何かを生み出したい人達が掴む場所、いい意味で一見ではわからない感じをひっくるめて“雑多”だったんですね。

星野さん:デジタルハリウッドって名前からして捉えどころがないですよね(笑)。見る人のマインドセットと角度によって意味が変わるというか、それぞれが持つ期待に応じて姿形が変わるんですよ。デジタルハリウッド大学で准教授をさせていただいていて、多くの学生に会いますが、在籍している学生は多様で本当におもしろい。自分のやりたいことに対して迷っている学生は特におもしろいですよ。僕のゼミ生にも迷っている子は常にいますけど、ディスカッションを重ねていくことで、その子の得意分野や切り口が浮かび上がってくるんです。それを社会にどう売り込んでいくか、何が強みなのか、一緒にずっと考えています。

自分が就く職業は選んでも、つくり出してもいい

––社会に売り込んでいくことを考えたときに、既存の職業に当てはまらないこともきっとありますよね。アーリーアダプター的な立場だと思うのですが、星野さんが受講生だった頃にもそのような方はいらっしゃいましたか。


星野さん:その頃は、特にデジタルが輝いていた時期で“光に集まる虫”みたいな感じでしたね……(笑)。よくわからないけれど、なんとなくおもしろそうというだけで集まった人達が大半だったんです。でも、今でも忘れられないのは、釣具メーカーの営業を辞めてCGを学んで表現力を手に入れたのに、社会的アウトプットの形がなかった人がいたこと。釣具メーカーの営業とCGクリエイターというハイブリットな職業がまだなかった訳です。ただ、今思うと釣具のことがわかるCGクリエイターは世界に100人もいないですから、どんどん売り出していくべきだったのかなと。アーリーアダプターの種のような人はたくさんいたはずなのですが、気づけない人がほとんどだったのかなと思います。職業というのはテクノロジーや社会が変容する中で絶えず変わっていきます。また、過去の経験と肌感を含めて、5年同じフォームで通ずる職業はなかなかないですから、職業は準じる時代ではなく“つくる”時代に入ってきていますね。職業も価値も、新しくつくっていくものであると考えています。

––頭ではわかっていても、職業を新しくつくり出すのは難しそうです。

星野さん:そのハードルを下げるために未来職業カードというものをつくりました。既存の職業とテクノロジーをかけ合わせたら? という想像がしやすくなると思います。

実現性などは置いておいて、先んじて“メタバース”と“学芸員”の視点から新しい職業を想像できるっておもしろいことじゃないですか。毎年テクノロジーを増やしていくんですが、“Web3.0”が入ってきたらどうなるんだろう? “Web3.0”と“学芸員”だとどうなるんだろう? と考えるだけでワクワクします。何度も言いますが、職業はつくればいいんです。卒業生でも新しい職業をつくっている子はいますよ。だから、卒業したときに「就きたい」と思う職業がなくても不安に思ったり、慌てたりしないでほしい。既にある、用意されている職業から漏れたからといって人生は終わらないですから。それよりも、よりチャレンジングでおもしろいほうへ向いたと考えるといいですよね。学生にも卒業生にはそういった現状だけでなく、新しいジャンルでのチャレンジの仕方や姿勢を伝えていきたいですね。

<星野さんおすすめ リーダーを志すアーリーアダプターたちに読んでもらいたい本3選>

『アップルデザイン―アップルインダストリアルデザイングループの軌跡』/アクシスパブリッシング
アップル社の創業20周年を記念し、インダストリアルデザイングループを内側から描いた貴重なレポート。アイデアを製品にしていく方法、市場には出されていないデザインコンセプトや製品が明らかにする。

『MEAD GUNDAM』/復刊ドットコム
『∀ガンダム』の主要メカデザインを務めたシド・ミードと日本スタッフのやりとりをまとめた1冊。モビルスーツの設計を、400点以上のデザイン画で見せる。

『逆風野郎 ダイソン成功物語』/日経BP
恐るべし、掃除機革命!掃除機の発明で、“お洒落家電”旋風を巻き起こした英国の伝説的デザイナーが語る、反逆と破壊と創造の人生。

星野裕之さんが学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッド(専門スクール)東京本校

otuA株式会社代表
ロボットデザイナー
デジタルハリウッド大学・大学院准教授
星野裕之さん(デジタルハリウッド東京校修了)
2000年ERATO 北野共生システムプロジェクト デザインアシスタントを務め、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせる。2009年にotuA株式会社を設立し、ロボットデザインを中心に、デザインとテクノロジーの融合を提案する。2016年からデジタルハリウッド大学准教授として勤務。

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