Interviewインタビュー

No.19

公開日:2019/08/19  取材日:2019/06

みんなで作る楽しさ、コンテンツを受け取る人の喜びを大切に。 体験をデザインするクリエイティブディレクターの思い

ディレクター講師 デジタルハリウッド東京本校

No.19

クリエイティブディレクター
ヒラノホクトさん(デジタルハリウッド デジタルコミュニケーションアーティスト専攻卒業)

このインタビューは2019年6月当時の内容です。

屋外広告のデザイナーからコンテンツクリエイターに転身!

Q
ヒラノさんの現在のお仕事は?
A
クリエイティブディレクターとして、企業のコンテンツを制作したり、結婚式をプロデュースする株式会社空飛ぶペンギン社で企画・開発をしたりしています。デジハリ20周年イベントの際には、イベントのプロデュースやコンテンツの制作でご協力させていただきました。
Q
もともとデザインやコンテンツ制作に興味があったのでしょうか。
A
高校時代は鍼灸師やスポーツトレーナーを目指していました(笑)。でも、受験に失敗してどうしようかと思っていたところ、友達がCGやWeb系の専門学校に入るというので僕も同じ学校に行くことに。「先輩がいないコースがいいな」と思い、新設されたばかりのデザイン科に入学しました。そこでグラフィックデザインを学んだところ、面白いなと思って。
Q
興味を持てなかったら大変なことになっていましたね(笑)。どんなところに魅力を感じたのでしょう。
A
自分が作ったものが、形になるのがうれしかったですね。在学中からデザイン会社でアルバイトを始め、卒業後はそのまま就職せずにフリーランスになりました。でも、最初は仕事が来ず、途中で始めた古着屋さんもうまく行かずに就職することにしました。
Q
就職先はどんな会社でしたか?
A
ラッピングバスやビルの壁面広告、車体広告などをデザインする、屋外広告の制作会社でした。遠くからでも目立つようにデザインしたり、同じブランドのアイデンティティを保ちつつ車種によってデザインを変えたり、屋外広告ならではのデザインを考えるのが楽しかったです。でも、リーマンショックで広告費が削られるようになり、将来に不安を感じるようになって。ちょうどデジタルサイネージが普及し始める頃だったので、6年以上勤めた会社を辞めて映像やウェブを両方学べるデジハリに入学しました。
Q
次はデジタルサイネージ、という予感があったのでしょうか。
A
屋外広告でもプロジェクターやタッチパネルを使うデジタルサイネージが普及し始めて、将来面白いことができそうだなと思ったんです。それに、自分自身もできることを増やしてステップアップしたいなと思って。そこで、デジハリで勉強してから転職活動しようと考えました。
Q
デジハリでの1年間はいかがでしたか?
A
いちばんの財産はクラスメイトです。いまだに付き合いがある人もいますし、仕事の相談もします。30歳を過ぎてから入学したので、最初は10歳以上離れたクラスメイトと仲良くなれるかなと思いましたが、一緒にたくさん作品を作りました。
Q
どんな作品ですか?
A
Wiiリモコンを振ると、画面上の木が育つインスタレーション、ARを使った遊びのコンテンツなど、いろいろ作りました。8人のメンバーで、8日間で1本の作品を作るというハードなOJTに参加したこともあります。
Q
それまでは2Dのデザインでしたが、インタラクティブ性のあるコンテンツも作るようになっていったんですね。
A
授業で動画やFlashを学んだり、Kinect(ジェスチャーや音声で操作できるデバイス)を使って人の動きで操作するコンテンツを作ったりするうちに、どんどんそっちが楽しくなっていって。表現の幅は、一気に広がりました。
Q
デジハリ卒業後は、またフリーランスに戻るんですよね。
A
卒業時に、いろんなことがあったんです。ひとつは、デジハリとマイクロソフトによるソーシャルゲームの開発コンテストで優勝したこと。自転車で世界を走り、仲間と走行距離を競いあうというFacebook連動ゲームをチームで企画・開発し、優勝の副賞としてサンフランシスコでプレゼンする機会をいただきました。

また、デジハリのデジタルフロンティアでは準グランプリをいただき、そこからインタラクティブコンテンツについてお声がかかるようになって。建築設計事務所のGENETOさんとTOKYO DESIGN WEEKに展示をさせていただいたり、un-T factory!さんと一緒にコンテンツを作ったり、ディレクター的な立ち位置でインタラクティブコンテンツの企画・展示に携わるようになっていきました。

「MEET MEET MEET!」
「世界文様紀行」

また、デジハリ在学中に結婚式をプロデュースする空飛ぶペンギン社が立ち上がり、一緒にビジネスを展開するようになって。いろいろなことが一気に動き出したため、就職せずにフリーランスになりました。デジハリのスマートワーク(現・xWORKS)にも関わり、そこからお仕事をいただくこともありました。

体験をデザインし、多くの人を喜ばせたい

Q
いろいろなお仕事をされていますが、ご自身としては「インタラクティブコンテンツのディレクター」という認識でしょうか。
A
「体験をデザインする」ことを念頭に置いています。デジタルに限らず、アナログでも体験をデザインできると思っていて。アクションを起こすと何かが返ってくるような、面白みのあるものを作りたいと常に思っています。
Q
体験をデザインすることの面白さは、どんな点に感じますか?
A
やっぱり展示やコンテンツを喜んでもらうのが、いちばんの楽しさです。空飛ぶペンギン社には、「フォトシュシュ」というサービスがあるんです。結婚式に参加した人がスマホで写真を撮影して、スクリーンに向かってシュッと飛ばす。そうすると、リアルタイムにその画像がスクリーンに表示されるんです。集まった写真は新郎新婦さんにプレゼントされますし、集まった写真を使ってその場でフォトコンテストもできます。お子さんからご年配の方まで楽しく写真を送ってくれますし、新郎新婦さんも喜んでくれるのが、すごく楽しいんです。結婚式以外にも応用できるので、ハウステンボスで展示させていただいたり、Bリーグ(プロバスケットボールリーグ)やVリーグ(バレーボールリーグ)のハーフタイムで使っていただいたりもしました。

「フォトシュシュ」

Q
どういうところから発想を膨らませるのでしょう。
A
「フォトシュシュ」の場合は、僕だけでなく結婚式のプランナー、エンジニアなど、みんなで企画を考えて作りました。もともとは、ひとつの結婚式のための一コンテンツとして考えたもの。その結婚式に参列するゲストを楽しませようというところから、発想を膨らませています。

「フォトシュシュ」に限らず、ベースにあるのはみんなを楽しませたいという思いです。デジハリの職員さんの結婚式をプロデュースしたこともあるのですが。美術館が会場だったため、柱で視界が遮られてしまう席も。そこで各テーブルにタブレットを設置し、映像を流したり、クイズを出題したり、参列者に「おめでとうボタン」を押してもらって最後に押した回数が多かった人を表彰したりという演出を考えました。新婦に心拍センサーをつけてもらい、新郎がどんな言葉を言うといちばんときめくかという余興も。自分の結婚式でも同じことをやりましたが、最終的にケツバットを食らいました(笑)。

Q
(笑)。ただテクノロジーを活かすだけでなく、みんなを喜ばせようというエンタテインメント性を重視されているんですね。
A
テクノロジーよりも、いかにコンテンツで楽しんでもらうか、いかに盛り上がってもらうかが大事だと思っています。それこそ、ケツバットのようなアナログなことで盛り上がるならそれでもいい。「VRで何かコンテンツを作ろう」という発想ではなく、「この人たちに喜んでもらうために何をしよう」と考え、「それならVRがいいかも」と発想を広げていく流れです。その際、「じゃVRを使おう」「ARにしよう」と提案できるくらいには、今何が流行っているのか情報収集するようにしています。どんな技術を押さえるべきかは、デジハリで学びました。
Q
メディアアートのクリエイターの中には、自分自身を表現したい、クリエイティビティを発揮したいという方もいます。ヒラノさんはそうではなく、みんなを楽しませたいとい気持ちが根底にあるんですね。
A
そうですね。みんなで作る楽しさ、そのコンテンツを受け取る人の喜びを大事にしています。デジハリを卒業する時に、クラスのみんなでサプライズムービーを作ったんですよ。お世話になった先生方や普段泣かない職員さんを泣かせようというのが裏テーマ(笑)。そこで、校舎を舞台にアナログとデジタルがほどよく混ざった映像を、職員さんには内緒で作って。卒業制作で徹夜する中、12時間ぐらいで一気に制作しました。あの時のモチベーションの高いプロジェクトの進め方、「誰かのために」というマインドは今でも大切にしています。
Q
チームでものを作るのもお好きなんですね。
A
はい。以前はグラフィックデザイナー、今はディレクターと名乗っていますが、こっちのほうが天職だと思います。新しいことを企画して、みんなで一緒に作るのはやっぱり楽しいですね。
Q
仕事のやりがいは、どんな時に感じますか?
A
リアルな話を言えば、打ち上げです(笑)。みんなで達成感を味わって、盛り上がる。それがあるから、みんな頑張れるんだと思います。シンプルになってしまいますが、みんなでいいものを作るというのがやりがいですね。

次世代のクリエイターを育てる「デジタルアーティスト専攻」のアドバイザーに就任

Q
今年4月からは、デジハリに新設された本科デジタルアーティスト専攻のアドバイザーも務めているそうです。
A
去年から、1年間かけてどのような人材を育てるかデジハリと話し合いました。次世代のクリエイターについてデジハリのビジョンをうかがい、「こんな方に講義をしていただいたらどうか」とゲスト講師についてご提案させてもらって。
Q
デジタルアーティスト専攻が新たにできたということは、ヒラノさんのようなクリエイティブディレクターのニーズが増えているのでしょうか。
A
様々なメンバーで取り組むプロジェクトが増えているためか、ディレクター自体の需要が増えている気はしますね。ご提案したゲスト講師の中には、ディレクターもいればデザイナー、エンジニアも。いろいろな立場の方から、幅広い視点でお話をしていただこうと思っています。僕がデジハリに通っていた頃に刺激を受けた方、僕が今いちばん話を聞いてみたい方にもお声がけいただいてます。
Q
全体を統括するディレクターにも、デザイナーやエンジニアの知識が必要ということでしょうか。
A
全体的なスキルや最新の技術でどんなことができるのかなどは幅広く押さえておく必要があると思います。そのうえで、実際にコンテンツを作る際には、専門の方をアサインして相談しながら制作するという流れがで制作しています。
Q
4月から授業がスタートしましたが、いかがでしょうか。
A
先日は、生徒と一緒に山口県のアートセンター「YCAM(ワイカム)」に合宿に行きました。メディア・テクノロジーを駆使して新しいスポーツのアイデアを実現するという、スポーツハッカソンを体験させていただきました。生徒たちはもちろん、僕にとっても大きな刺激になりました。刺激というか、勉強になった(笑)。もちろん、生徒たちはまだ入学して2ヵ月くらいなのでアウトプットは見えてきません。卒業制作で、僕がびっくりするようなものが出てきてくれるとうれしいですね。
Q
生徒を指導する立場になり、ヒラノさんの視点も変わりましたか?
A
クリエイター対クリエイターとして接しているので、あまり「先生」という感じではないんです。逆に、日頃の仕事で「先生みたいなしゃべり方するね」と言われるぐらいです(笑)。

 
Q
生徒さんはどういう方が多いのでしょうか。
A
ある程度クリエイティブ経験がある人しか入れない少数精鋭のクラスなので、すごい経歴をお持ちの方もいます。ゲスト講師もさまざまなジャンルの方々をお呼びしているので、それぞれから刺激を受けてもらえたらうれしいです。僕が作るコンテンツはみんなを楽しませるためのものですが、アート寄りのことを教えてくれる先生も。自己表現のひとつとしてデジタルアーティストを目指す生徒もいるので、一人ひとりが自分に合ったものを吸収してもらえたら。
Q
ヒラノさんご自身は、今後どんなお仕事をしたいですか?
A
やっぱり、「作ってよかった」と言ってもらえるコンテンツを作っていきたいです。基本的には、楽しい仲間といいものを作り続けたい。それにはまだ力不足な部分もあるので、そこを伸ばしていきたいです。
Q
力不足な部分とは?
A
リーダーシップだったり、企画力だったり、いろいろあります。今回ゲスト講師の方々のお話を聞いていると、僕ももっともっと頑張らなきゃと思いますね。
Q
最後に、デジハリおよび校友会の魅力についてアピールをお願いします。
A
デジハリに入学し、グラフィックデザイナーとしてやってきた時よりも世界が広がりました。チームでのものづくりの楽しさを知りましたし、面白い人たちともたくさん出会えたのもデジハリのおかげです。校友会を通じて、横のつながりも生まれます。最新の情報も、得やすいのではないかと思います。

インタビュー:野本由起

クリエイティブディレクター
ヒラノホクトさん(デジタルハリウッド デジタルコミュニケーションアーティスト専攻卒業)

1979年生まれ。グラフィックデザイナー、屋外広告デザイナーを経て、2011年デジタルハリウッドに入学。クリエイティブディレクターとしてさまざまなコンテンツの企画・開発に携わりつつ、結婚式のプロデュースを行う空飛ぶペンギン社のディレクターも務める。デジタルハリウッド 本科デジタルアーティスト専攻のアドバイザー兼講師、日本電子専門学校グラフィックデザイン科非常勤講師を歴任。

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