No.58
ミレー株式会社 代表取締役
早川世治さん
デジタルハリウッド大学大学院(2004年入学)
有機野菜・無農薬野菜の通販事業を通じて日本の農業の発展と人々の健康、地域活性を目指しているミレー株式会社。その代表取締役を務める早川世治さんに、農業系ビジネスとデジタルハリウッドの関連性や山あり谷ありの激動の半生、そして今後実現させたい夢などについてうかがいました。
(※このインタビューは2023年2月当時の内容です)
有機野菜・無農薬野菜のネット通販事業に取り組む
––現在、早川さんはどのようなビジネスを手掛けているのですか?
早川世治さん(以下早川さん):有機野菜・無農薬野菜のネット通販事業です。毎朝千葉県香取郡多古町近辺の農家さんが収穫した野菜を一つひとつ丁寧に仕分け、検品したのち、当日中に全ての野菜を出荷しています。おいしさを大切にしているものだからこそ、新鮮さにもこだわっているわけです。注文方法は、当社の販売サイトから、ほしい時にほしい野菜をほしい数だけ自由に選べる個別注文と、おすすめの野菜をセットにして定期的にお届けする定期注文があり、ご自由にお選びいただけます。
千葉県香取郡多古町近辺の農家さんが真心込めて育てた有機野菜・無農薬野菜はおいしく、安心・安全なので、多くの方から好評をいただいています。
野菜の卸売宅配事業からスタート
––このビジネスを始めたきっかけは?
早川さん:高校生の頃から、自分は他の人とは発想が違う変わり者だから勤め人は無理だと思っていたことと、独立心も強かったので、将来は起業して自分で事業をやるしかないと考えていました。だから高校、大学時代はその資金を貯めるためアルバイト三昧で、大学4年生までに160万円貯めました。
どんな事業をやろうか考えている時に、千葉県香取郡多古町で有機野菜を作っている農家さんと出会い、その野菜のおいしさに感動。これをもっと社会に広めたいと思い、1995年に貯金と銀行から借りたお金を元手にトラックを購入し、個人事業主として有機野菜・無農薬野菜の卸売宅配事業をスタートしました。具体的には、多古町で野菜をトラックに積み、自分で運転して東京都内各地の小売店に届けるというスタイルでした。
野菜の通販事業に転換
早川さん:ただ、自身で配達をすればするほど、納品先を開拓するための営業に時間が割けなくなるという悪循環に陥りました。さらに、本職のトラックの運転手なみの距離と時間を走るのですが、利益はごくわずかだったので、6年間で卸売宅配事業から撤退。1999年に宅配業務はヤマト運輸に依頼して、私は営業・販売活動に専念する小売業(通信販売)に転換しました。実家近くのマンモス団地の全室を飛び込み訪問して回り、その際渡した有機野菜のお試しセットが好評で、定期購入の申し込みが増えました。その後は新聞に広告を打つことで新規顧客を増やすことに成功し、売り上げはうなぎのぼり。初年度の年商が5000万円、2年目には8600万円にまでなりました。
ただ、確かに新聞広告を打つと毎月、新規顧客が100件ほど増えるのですが、同じように定期購入をやめる人も100件ほど出るようになったんです。その理由は、定期購入は会員のケアをしっかりする必要があります。しかし、当時は私一人だったのでその余裕がなく、放置状態になっていたからです。
これではダメだと会員のケアをするために事務所を借りて、従業員を2人雇用しました。すると今度は広告出稿するための資金が足りなくなってしまい、売り上げは頭打ちになってしまったんです。
楽天市場に出店
––その打開策は?
早川さん:どうしようか悩んでいた時、当時月額5万円でインターネット上で商品を販売できる「楽天市場」の存在を知りました。月5万で全国に宣伝できるなら安いもんだと思ったので、迷わず出店。Webシステムやデザイン、写真撮影、メルマガ、注文の処理など、初めての作業ばかりで苦労しましたが、必死で勉強して少しずつEC(イーコマース)への理解を深めていったことで、徐々に売り上げも伸び、軌道に乗せることができました。これが、今に続くECに参入した最初のきっかけでした。さらに、2004年には全国イーコマース協議会が主催するベストECショップ大賞で、大賞を受賞。これがきっかけで、デジタルハリウッド大学大学院に入学したんです。
デジタルハリウッド大学院に特待生として入学
––入学の詳しい経緯を教えてください。
早川さん:ベストECショップ大賞の授賞式で当時のデジタルハリウッドの社長が講演したのですが、その中で、「デジタルハリウッドも大学と大学院を作る。日本初の社会人大学で、特待生を募集している」と話していたので応募したんです。
––応募した目的は?
早川さん:自分の会社を上場させたかったからです。昔から農業は儲からない事業の代表格と言われていました。それだと人は集まりません。だから新しいテクノロジーの力で儲かる事例を作って、魅力的な事業というイメージに変えたかった。そのノウハウをデジタルハリウッド大学院でなら学べると思ったんです。
また、デジタルハリウッド大学の卒業生の優秀作品発表会を見た時、いくつか斬新な作品があったので、この技術はECにも使えると思ったことも大きな動機です。それで何回かの面接を経て合格、入学したんです。
––デジタルハリウッド大学院で学んでその後のビジネスに役立ったことは?
早川さん:ゼネラルプロデューサーコース(当時)で、PhotoshopやIllustratorなどのソフトの基本的な使い方やクリエイターやエンジニアとの付き合い方の概略を学んだことが、その後のビジネスに役に立っています。
そもそもビジネスは一人では何もできません。仕事を選ぶのはクリエイターやエンジニアですが、儲からない仕事ややりがいのない仕事は選びません。農業においても同じで、儲からない農業は誰もやりたがらないし、継ぎません。経営者の私ができることはワクワクする仕事を考えることしかないわけですが、その点でもデジタルハリウッド大学院で学んだことは大いに役に立ちました。
––その他に入学してよかったと思うことはありますか?
早川さん:卒業後、起業した会社を上場するなど活躍している同期が何人かいるんです。それに大いに刺激を受け、自分のビジネスに対するモチベーションが高まりました。また、新しいビジネスモデルをたくさん考えるようになったことも大きいですね。
自社ドメインサイトを構築
––野菜の通販ビジネスのその後は?
早川さん:2006年6月に楽天に頼らずとも、自社でネット販売ができるように、自社ドメインサイトを開店しました。買い物かごシステムの開発から着手したWebサイトは、当時話題になり、web年鑑2007(日経BP社)にも掲載され、経済産業省が認定するIT経営百選でも優秀賞を受賞しました。この頃には売上・利益ともに安定して伸びていき、2010年の決算では過去最高を記録しました。
そして次の展開として、有機野菜・無農薬野菜の流通事業をネット上だけではなく、実際に街の中に店舗を作って販売する実店舗事業に着手。資金調達、銀行融資も決定するなど順調に進み、オープン予定日も2011年3月26日土曜日(大安)に決まりました。この時までは何もかもが順風満帆で未来は薔薇色でした。
一瞬で明るい未来が潰えた悪夢の3.11
––オープン予定日が2011年3月26日ということは……。
早川さん:そうです。その直前の3月11日に発生した東日本大震災ですべてが暗転しました。震災の2週間後に発生した福島原発事故により、多古町のほうれん草からも基準値を超える放射性物質(ヨウ素)が検出。風評被害と業績悪化のリスクは当然予想できましたが、それ以上に安心・安全を重視したので、お客様にこの事実を包み隠さず公表し、安全性が確保できるまで、ほうれん草と葉物類を出荷停止する旨を記した約5,000通のはがきを発送しました。同時に、その日以来、安心・安全を担保できるようになるまで、広告を打つなどの積極的な販売を自粛しました。
その結果、売上げはごく短期間で3分の1にまで激減。1日で400人のお客様が定期購入を中止した日もありました。さらに、その結果に悲観した社員が相次いで退職。その数は4分の3にも上りました。そして、通販事業と並行して事業の柱に据えるべく、立ち上げに奔走していた店舗事業も、オープン直前に起こった悪夢のような事故により、開店初日から営業不振、すぐ閉店に追い込まれたのです。これまでも山あり谷ありでしたが、直前まで順風満帆だっただけに、さすがの私も打ちひしがれました。
いったんは心折れるも再び立ち上がる
––そこでよく心が折れなかったですね。
早川さん:いや、いったんは完全に折れましたよ。これまで必死で頑張ってきたけどもうここまでかと。でもこの会社自体は絶対に生き延びさせると考え直しました。
––それはなぜですか?
早川さん:いろいろな理由があります。ここで会社を畳んだら、これまでお世話になった農家さんやデジタルハリウッドを始めとする出資者に迷惑をかけることになる。雇用している社員もいる。そして、私自身、学生時代からずっとやってきたこのビジネスを今辞めたら、17年間の苦労が全部水泡に帰すことになる。
だから売上げを少しでも戻そうといろいろあがきました。でも全部うまくいかず八方塞がりに。このままでは確実に資金ショートを起こす。そうならないための唯一の望みは原発事故を起こした東京電力からの賠償金でした。それまで生き延びるためにいろんな金融機関から借りられるだけお金を借りました。震災前までは業績がよかったので億単位のお金を借りられたんです。それで耐えて、3年後に賠償金が入ったので何とか会社の命を繋ぐことができたわけです。ただ、放射能騒動が落ち着いた後、有機野菜のネット通販ビジネスを本格的に再開しましたが、離れたお客様の多くは戻らないし、新規顧客獲得も思うようにいかず、いまだ苦境は続いています。
逆境をバネに再起
––当時、3.11の震災さえなければ…という感じですよね。
早川さん:いえ、確かに当時はそうでしたが、今思えば、あの時の経験があったからよかったということもあります。
––どういうことですか?
早川さん:震災が原因でできた莫大な借金は従来取り組んでいたような農業関係のビジネスではとても返しきれません。だから大企業が参画してくれるような大規模なビジネスを新しく立ち上げて、上場して株価の向上とともに一括返済する。打開策はこれしかないわけです。そのために、メタバースやWeb3などを必死で勉強して数々の新しいビジネスプランを100以上考えました。
もし3.11の震災がなければ今でもECと実店舗で農産物を販売していたと思いますが、そこそこの成功で満足していたでしょう。だから今の自分のモチベーションを支えているのは新しいビジネスプランだけなんです。それもただのプランではありません。そのビジネスプランをひと言で表現すると「日本をEC大国にする事業」です。
世界を変える2つのプラン
––スケールが大きいですね。新しいビジネスプランについて詳しく教えてください。
早川さん:大きく2つあります。1つは「10pxEC」事業。新たな法則を用いた、EC構築の制作概念です。10px四方単位のグリッドでサイトを設計していくECサイト開発手法で、HTML、プログラムなどの開発スキルがなくとも、イメージしたものをそのまま形にすることができ、OS、ブラウザごとの微調整が不要で、プラットフォームの乗り換え、データベースの変更の必要がなくなります。これによって老若男女誰でも自分のECサイトを作れるようになるのです。
それだけではなく、できる人は自分流にカスタマイズすることができます。デジタルハリウッド大学や大学院にも「自分はもっと斬新なサイトを作ってみんなをあっと言わせてやりたい」という人が多いでしょう。自分の世界観を実現できるので自己実現欲求も満たすことができます。
しかし、この「10pxEC」事業は、私が構想する全事業の半分にすぎません。もう一つの別事業と組み合わせることで完結します。
––そのもう一つのプランとはどのようなものなのですか?
早川さん:「10pxEC」が普及すればECサイトは爆発的に増えるでしょう。するとただでさえ膨大な荷物量で宅配クライシスと呼ばれ社会問題化している今よりも宅配荷物の量が増えます。だから「10pxEC」事業だけでは不十分で、この問題を解決するプランが必要です。いわば、「10pxEC」を商流の川上と捉えるともう一つの事業は川下に相当します。それが「置配スペース」事業です。
具体的には、大規模マンションの1階に、ヤマト運輸や佐川急便など様々な宅配荷物はもちろん、ネットスーパーやamazonなどからの荷物、ウーバーイーツや出前館などの料理も一括納品できる置配スペースを設置するのです。これにより宅配業者はいちいち玄関先まで行かなくても置配スペースに荷物を置けばよくなるので、時間と手間が大幅に削減できます。実際に私が大規模マンションで26個口の商品を配達してみた結果、一括納品できる置配は、玄関先渡しによる配達に比べて配達完了に至るまでの時間が10分の1で済みました。再配達が皆無になる他、時間指定もなくなるため、配達者の労働力の大幅削減に貢献できます。
––でも受け取る居住者にとっては、いちいち1階の置配スペースまで荷物を取りにいかなければならなくなるから嫌がられるのではないでしょうか?
早川さん:確かにおっしゃる通り、置配スペース単体の設置では、居住者にとって面倒なことが1つ増えるだけになります。しかし、解決法はあります。具体的には、これまで操作の統一化が行われていなかったマンション内の集合玄関オートロック、スマートインターホン、スマートロック、エレベーターなどの各種機器を、置配スペースと同じ仕様(顔、スマホなどの統一ID、ネットワークOS)でシームレスに繋ぎます。この周辺環境整備を行うことで、より高度なセキュリティと暮らしの利便を同時に高めることができるわけです。
現在、ある大規模マンションで実証実験を行っているのですが、これまでトラブルやクレームはゼロで、居住者からは便利で助かるといったお声をいただいています。また、農産物流通における置配スペースの活用では1000円かかっていたクール宅配送料が100円へと、10分の1になり、物流コストの9割削減に成功しました。
ともに夢を追いかけてくれる仲間を大募集!
––すごいですね。
早川さん:ただ、現状ではまだただのプランで、僕一人ではどうにもなりません。だから共に実現してくれるビジネスパートナーを募りたいのです。
3.11の大震災で莫大な借金を抱え、自宅を競売に掛けられるなど、どん底をさまよった中で気づいたことは、「人の気持ち」の大切さです。私だけがどんなに優れたビジネスモデルを考案しても、ほかの人が共感して協力してくれなければ形になりません。
会社を経営する上では一枚岩のチームを作らなければならないわけで、メンバーの情熱や能力が足りなくてもダメだし、経営者としても魅力あるビジネステーマを作れなければ人を輝かせることができません。メンバー全員が主役となりオリジナリティを発揮できる事業を作ることが重要で、それができれば日本の会社は世界に存在感を示すことができます。そのために私の残りの人生すべてを懸ける覚悟です。
この新しいビジネスプランに興味のある方はぜひご一報ください。一緒に日本の社会課題を解決し、新たな市場を作りましょう!
早川さんへのご連絡はこちら↓↓
hayakawa@millet.co.jp
早川さんが学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッド大学大学院
早川世治さん
ミレー株式会社 代表取締役
2004年デジタルハリウッド大学大学院に特待生として入学。
1971年、神奈川県生まれ。
学生時代に有機野菜・無農薬野菜の宅配事業で起業。その後ネット通販事業に転換。東日本大震災など幾多の困難を乗り越えて現在も事業継続中。並行して考案した新規ビジネスプランの実現のため奔走している。