Interviewインタビュー

No.20

公開日:2019/09/20  取材日:2019/07

あの人気講師と”デジタル番長”がインタビューに登場 会社員からCGの道へ  先生と生徒として出会った二人!

CGデザイナー教授 デジタルハリウッド大学大学院デジタルハリウッド東京本校

No.20

Double-O-Vision CEO/CGアーティスト
船戸 賢一さん(デジタルハリウッド大学大学院修了)
デジタルハリウッド専任准教授
小倉 以索さん(デジタルハリウッド修了)

このインタビューは2019年7月当時の内容です。

会社員からCGの道へ 先生と生徒として出会った二人

Q
小倉先生は、現在デジタルハリウッドで専任講師・准教授をされています。デジタルハリウッドとのかかわりはいつからでしょうか。
A
小倉:1997年にデジタルハリウッドに入学したのが、最初のきっかけです。マスターコースという2年間のクラスに入って、在学中からCGの仕事をしながら自分の作品を作っていました。そのまま卒業と同時にフリーランスになりましたが、すぐに「デジタルハリウッドで講師をやりませんか?」と誘われて。そこで、ひと月に一度くらい単発の講義をすることになり、やがて「週1で授業を担当してください」「週2で」「週3で」「週4で」とコマ数が増えていきました(笑)。

並行してCGの仕事もしていましたが、2000年代初頭はブラックな案件が多かったんですよね。徹夜してようやく作品を仕上げて……という感じで、このままでは年を取ったら厳しいなと思って。講師の仕事も増えてきたので、2010年からはデジタルハリウッドに入社し、先生一本でやっています。

Q
船戸さんはいかがでしょう。
A
船戸:2003年に3dsMaxも学べる総合Proコースに入学しました。それまでは富士フイルム㈱のプロダクトデザイナーとして、カメラなどをデザインする仕事をしていたんです。当然造形で3Dグラフィックを扱うので、CGにもなじみがありました。でも、CGに興味を持ったのは、それよりもだいぶ前の高校生当時、80年代前半の8ビットパソコン時代からでした。

1995年にWindows95が登場して、CGがさらに発達しはじめて、プロダクトの現場にも導入されるようになって。ちょうどこの頃に『トイ・ストーリー』も公開され、CGの映像表現が急速に進化しているのを感じたんです。その当時からデジタルハリウッドに入りたいと思いながらも、入学までにだいぶ時間がかかってしまいました。

Q
その頃には、富士フイルムは退社されていたのでしょうか。
A
船戸:いえ。まだ会社に籍を置いていました。専門スクールを卒業する2004年にデジタルハリウッドに大学院ができると知り、次はそちらに1年間通うことに。予てからCG映像と大好きな音楽の融合した作品をいう想いがあり、音楽といえばということで藝大の同級生だったバイオリニストの葉加瀬太郎氏の事務所に提案してDVDとして作らせて頂くことになりました。まだ経験も浅いのに、怖いもの知らずですよね(苦笑)。クリエイターズオーディションやデジタルハリウッドの専門スクールからメンバーを集め、コラボレーション2枚組DVD『Bloom -Taro Hakase meets Digital Hollywood-』を、2006年にリリースさせていただきました。
Q
その後はフリーランスに?
A
船戸:いえ、ゼロ・イメージワークスというCG制作会社を立ち上げました。デジタルハリウッドには大変お世話になったのですが、いろいろと大変なことが多く、一度会社をたたむことに。そこからフリーのCGアーティストとして活動しています。現在は屋号「Double-O-Vision」として、さまざまなプロジェクトに関わっています。
Q
お二人は、いつ知り合ったのでしょう。
A
船戸:専門スクール時代からお世話になっていましたよね。大学院のプロジェクトも、以索さんにメンバーを紹介していただいたり、CGの相談に乗ってもらったりしました。

小倉:仲良くなったのは大学院からだよね。

Q
もともとは先生と生徒だったんですよね?
A
船戸:以索さんは『Maya』、自分は『3ds Max』と違うソフトを使っていたので、専門スクールでは直接指導を受けることはありませんでした。でも、大学院では「CG概論」の授業を以索さんが担当していて。「自分でプロデュースするとしたらこんな映画を作りたい」と企画を考えたりして、課題が面白かったのを覚えています。2004年当時ですが「『ジョジョの奇妙な冒険』4部を映画化したい」とか提案したりしましたよね。

小倉:今でこそマンガがこれだけ映画化、実写化されてますけど、当時からそういう企画をみんな考えていましたよね。

船戸:とはいえ、実際に作るわけではありません。大学院はプロデュースやディレクションを学ぶ場なので、「こんな映画を作れたら面白いな」とシミュレーションするんです。面白かったですね。

小倉:当時は、大学院に入学する方はほぼ100%社会人。CGのディレクターやプロデューサーはまだ少ない時代だったので、経験談を交えながら1本あたりの制作費などリアリティのある話をしていた記憶があります。

Q
2005年にはデジタルハリウッド大学が創設され、小倉先生はそちらでも授業を受け持つようになりました。専門スクール、大学、大学院では指導方針も異なるのでしょうか。
A
小倉:そうですね。専門スクールでは、CGの技術に特化した授業を行なっています。大学は、技術もさることながら卒業制作でひとつの作品を完成させることが大切です。そのため演出、シナリオ、面白い作品とは何かなどを含めて教えています。大学院は、ビジネスにつながるような話をしています。最近は、大学院の講義は受け持っていませんけれど。

船戸:どういう人を育てるかが違いますよね。基本、専門スクールは自分で手を動かすアーティスト、大学院はアーティストを束ねるディレクターやプロデューサーを育てる場だと思っています。

今も、大学院生と交流のある船戸さん。手にしているのは、大学院発ベンチャーBRAIN MAGICが開発したクリエイター向け最新型入力デバイス「O2」。イラストレーターや動画クリエイターがキーボードのショートカットキーやUIで行なっていた操作をスピーディに行える、画期的な左手デバイスだ。

モテると期待したけれど……? 苦労も多いが奥深いCGの世界

Q
お二人は、ずっとCGの道を歩んでいます。どんなところに楽しさを見出したのでしょうか。
A
船戸:頭の中に思い描いたイメージをすぐに形にできること……でしょうか。もともと自分は美術畑なので、美大生の頃は塑像を作ったりしていました。CGなら圧倒的に制作時間を短縮できますし、表現の幅も広いですよね。ソフトの使い方を学ぶ必要はありますが、イメージをすぐに表現できるのは魅力的です。

小倉:なんでCGを始めたんだろう……。僕はもともと、テレビ局やCM制作会社に機材を納品する会社の技術屋だったんです。大学を卒業してからそういった裏方仕事を2、3年続けているうちに、もう少し華やかな世界に行きたいと思ったのかな。当時は恐竜をCGで動かしたり『トイ・ストーリー』や『ファイナルファンタジー』のムービーがすごいと話題になったり、CGが流行っていたんですよね。「CGクリエイターのような横文字の職業につけば、モテちゃうんじゃない?」という期待もありました。結局モテませんでしたけどね(笑)。とはいえ、サラリーマンを辞めるので崖っぷち。「人生は一度きり、やるしかない」と思って、デジタルハリウッド在学中の2年間は死ぬ気で頑張りましたね。

Q
それはいくつの時ですか?
A
小倉:26、7歳だったと思います。

 

船戸:僕がデジタルハリウッドに入った頃は、もう30歳を過ぎていました。独立してもっと自由に仕事をしたかったので、CGを学ぼうと思ったんです。

Q
小倉先生は教員、船戸さんはアーティストとしてCGに関わっています。立場は違いますが、それぞれのお仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?
A
小倉:やっぱり人間って面白いんですよね。生徒が育っていく様子を見たり、映画のスタッフロールで卒業生の名前を見たりすると、とてもうれしくて。それがやりがいにつながっているのだと思います。
Q
「俺が育てた」みたいな感じでしょうか。
A
小倉:というより「アイツ頑張ってるなー」感ですね。で、「今度アイツに話を聞こう」と思うんです。僕は好奇心が旺盛で、映像を作り始めたきっかけも「どうやって作っているんだろう」という疑問から始まっています。メイキング映像を見たり、雑誌でインタビューを読んだりするのも面白いけれど、作った本人から直接話を聞くのが一番ワクワクします。頑張っているクリエイターに話を聞いたり、現場の人たちのハブになったりするのが楽しいんですよね。個人的に好きな映画のクリエイターを呼んでセミナーを開くのも、この仕事のやりがいのひとつです。
Q
「この作品が面白い」「このクリエイターがすごい」と、アンテナを張っているんですね。
A
小倉:そうですね。常に新しいことを追い求めたり、勉強し続けたりしないといけないのが最近の悩みです。僕みたいなCG屋は、毎年のように新しい技術を身につけたり、新しい方法を試して授業を採り入れたり、常に勉強する必要があります。こんなに大変なはずじゃなかったのに、おかしいな……。
Q
でも、それが楽しいんですよね?
A
小倉:そうですね。困ったことに楽しいんですよ。「こうやって作れば、こんなに簡単にできるんだ」と気づいて、「あ、これ、生徒に教えよう」と思うとワクワクします。カリキュラムを作っている時は、すごく楽しいんです。
Q
船戸さんは、CGアーティストとしてのやりがいはどんな時に感じますか?
A
船戸:自分で企画を提案し、それを実現するのが楽しいですね。例えば、今日着ているTシャツは、葉加瀬太郎氏が1990年にデビューしたクライズラー&カンパニーという3人組バンドの25周年を記念して作ったもの。2015年に再結成の際、是非クリエイティブディレクターをやらせてほしいと事務所に交渉しました。彼らの音楽、バイオリン、ベース、キーボードのシンボルを、ベネツィアの仮面舞踏会風マスクにしたら面白いんじゃないですか、と提案して。

Q
デザインも担当されたのでしょうか。
A
船戸:nendoという有名なデザインオフィスがジャケットデザインを担当することが決まっていたので、自分はクリエイティブディレクターとして関わりました。このマスクを3Dプリンタで出力し、プロモーションビデオでは実際にメンバーがつけて演奏しているんです。映像の企画を提案して、上記3人の音楽性を仮面にというお題でデザインをお願いして、3Dプリンタで作って頂き、それを映像にするという手間のかかる仕事でしたが、実現できた時は感無量でしたね。

デジタルハリウッドは創立25周年!

Q
お二人は校友会の理事も務めています。理事に就任した経緯を教えてください。
A
小倉:僕は校友会の設立初期から理事を務めています。大学ができて数年経った頃、「デジタルハリウッドも在校生・卒業生をつなぐ組織を作ろう」と誰かが言い出したんです。「以索さん、卒業生だし何かやってよ」「はぁ」みたいな感じで頼まれて。それが最初のきっかけですね。

船戸:僕の場合はこれまでも理事の活動をしていたのですが、今期から正式に理事を務めることになりました。

Q
今期は、どういった活動をされているのでしょうか。
A
船戸:今年10月、デジタルハリウッドが25周年を迎えます。そこで10月3日に、渋谷のO-EASTでイベントを開催することになりました。デジタルハリウッド本体と校友会で、このイベントの企画を進めています。キービジュアルのディレクションもしたいと提案しているところです。
Q
今期は鳥取や福岡在住の方や大学卒の方が理事を務めるなど、顔ぶれも大きく変わりました。どんなところに変化を感じていますか?
A
小倉:若返りましたよね(笑)。学部卒の女子2人が入ったので。

船戸:バランスが取れた感じはしますよね。

Q
今後、校友会の活動をどのように広げていきたいですか?
A
船戸:デジタルハリウッドのLab Protoは、校友会員なら自由に使えるんです。Lab Protoは御茶ノ水の4Fにあります、仕事の合間にちょっと立ち寄ったり、プロトタイピングをしたりするのにもいいんです。
※「LabProto(ラボプロト)」は3Dプリンタ、 UVプリンタ、 レーザーカッター等のデジタルファブリケーション機材等を備えた2017年より開講したラボです。
プロトタイピングと、グラフィック系制作の仕上げが出来る場所です。

船戸:あとは、校友会のイメージアップも理事会で考えています。シンボルマークのデザインを変えて、それを25周年のグッズにするのもいいかなとか。クロムハーツっぽい指輪にしても面白そうだな、とか。

Q
校友会は、まだ周知が足りていない部分もありますよね。
A
船戸:そうなんです。デジタルフロンティアでもPR映像を流し、伝えてはいるのですが。大学生や大学院生は入学した時点で校友会会員になっているので、もっと有効活用してもらうための方法を考えています。25周年イベントで交流を図るのも、その一貫です。
Q
最後に、長らくデジタルハリウッドに関わっているお二人から、改めてデジタルハリウッドの魅力を語っていただけますでしょうか。
A
船戸:デジタルハリウッドの魅力は、杉山学長に象徴されていますよね。デジタルハリウッドなら杉山学長。あの自由で柔軟な考え方、何に対してもウェルカムな姿勢は、デジタルハリウッドそのものではないでしょうか。デジタルを切り口にしていますが、間口は広い。大学院では、近年デジタルヘルスやファッションとテクノロジーの融合にも力を入れています。意外なところでデジタルが結びつく面白さや自由な校風に魅力を感じますね。何でもアリだし、何でもできる。いろいろなところにデジタルが広がっていることを、デジタルハリウッドで体感できます。

小倉:なくなることはないので、卒業生もたまに帰ってきてほしいですよね。

船戸:ホームグラウンド的な感じでね。もともと「ハリウッド」と銘打っているのも、ハリウッドではプロジェクトごとに人が集まってくるから。デジタルハリウッドはまさにその特質を実現している感じです。

Q
デジタルハリウッドに帰ってきて、横のつながりを作って、新しい情報を得て、また自分の仕事にフィードバックできる。ただ旧交を温めるのではなく、未来につながる感じがします。
A
小倉:確かにそうですね。それに、デジタルハリウッドは飽きさせないんです。杉山学長をはじめ、みんながいろいろなことにチャレンジしています。御茶ノ水校舎の4F入口にも、いつのまにか横長のモニターが置かれて浮世絵風のCGキャラクターが歩く映像が流れているじゃないですか。ほかにも、ドローンやロボティクスのクラスがあったり、ママクラスではママさんが自宅で仕事できるように勉強していたり、いろんなことを始めていますよね。最近は大学の人気が高くて、倍率も約3倍に。なぜここまで人気なのか、わかりませんが(笑)。

船戸:昔だったら専門スクールに入学していた人が、大学を志望するようになったんでしょうか。僕が学生だった頃はアート方面は美大くらいしか選択肢ありませんでしたが、今僕が高校生だったらデジタルハリウッド大を受験しているかもしれません。

小倉:普通の人にとっては、新しいこと、面白いことをやっているように見えるのかもしれませんね。僕はずっとデジタルハリウッドにいるので、それが当たり前になってしまって。

船戸:Entertainment! It’s Everything.「すべてをエンタテインメントにせよ!」というメッセージいいですよね。まさにその通り。25年前からこのメッセージを打ち出している杉山学長の、未来を見通す力が素晴らしいですね。

小倉:学長は預言者ですから。

インタビュー:野本由起

Double-O-Vision CEO/CGアーティスト
船戸 賢一さん(デジタルハリウッド大学大学院修了)

富士フイルムのプロダクトデザイナーを経て、フリーのCGアーティストに。「Double-O-Vision」として、映画、ドラマなどのVFX、CGを中心に活動している。葉加瀬太郎氏DVD『Bloom』をはじめ、監督・プロデュース作品多数。最近ではVTuberの企画等にも携わる。

デジタルハリウッド専任准教授
小倉 以索さん(デジタルハリウッド修了)

フリーのCGクリエイターとして活躍後、デジタルハリウッド専任講師に。映画『劇場版銀河鉄道999』『ハッピーフライト』、ゲームソフト『デッド オア アライブ』、ライブビデオ・DVD『ウラスマ』など数多くの作品でCGを手掛けている。

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