Interviewインタビュー

No.29

公開日:2021/01/08 

キャリア20年の現役ミュージックビデオ監督がスクールに入学した理由、 技術のアップデートが未来につながる

映像ディレクター デジタルハリウッド東京本校

No.29

映像ディレクター
福居英晃 さん(デジタルハリウッドスクール 専科3DCGデザイナー専攻修了)

Hey! Say! JUMPやmiwa、チャットモンチーをはじめ、アイドルからロックバンドなど、さまざまなアーティストのミュージックビデオの演出を数多く手がける人気映像ディレクターの福居英晃さん。実は、2019年から1年間、受講生として デジタルハリウッドスクールに在籍されていました。映像業界で20年近いキャリアを持つ福居さんがなぜCGを学ぼうと思ったのか、 そしてデジハリで得た知識と経験はどのような形で仕事に活かされているのか、在学中の意外なエピソードも交えて、お話しいただきました。
(※このインタビューは、2020年12月当時の内容です。)

Mayaを学んだ経験がCGの世界への足がかりに

Q
2006年に独立され、以降フリーの映像ディレクターとして数多くのミュージックビデオ(以下、MV)を手がけられてきた福居さんが、2019年になって改めてデジタルハリウッドでCGやVFX技術を新たに学ぼうと思われた理由を教えてください。
A
MV制作の仕事において、自分でもCGを使って手を動かし何かできないかなと思ったのがきっかけです。最初はAfterEffectsの勉強から始めましたが、SNSなどの情報に触れるうちに、次第に3DCGに興味を持ち始めました。それで、せっかくだからきちんと勉強しようと考えたんです 。家族もいるので、仕事を辞めて平日通うという選択肢はなかったのですが、週1日で通える手軽さが魅力で、授業以外でもいつでも学校の設備が使えるので、空いた時間で自由に勉強できることも利点でした。
Q
福居さんが入学されたのはデジタルハリウッドスクール 専科3DCGデザイナー専攻とのことですが、クラスはどんな様子でしたか?
A
僕が最年長でしたが、1歳下の方もいましたし、地方でCMディレクターをされている方や、アニメーションの仕事をされている方、2Dのデザイナーもいましたし、けっこう多彩でしたよ。余談ですが、同業者のプロデューサーに軽く「今度デジハリに通おうと思っている」と話したら、興味を持って別の曜日で通っていました。僕の担当はプロのCGアニメーターの大竹祐次先生で、授業の合間や課題提出後の飲み会の席で、CG業界のお話を聞けたことも興味深かったです。ほんの短い時間のアニメーションでも時間をかけて丁寧に作っていることも分かりましたし、 UV展開やウェイト調整など、細かい手作業があるのだと実感しました。
それまで、CGに対して漠然とした認識だったのが、どんなことが大変であるか、そうでないかの知識を身に着けられたことは大きかったですね。
Q
入学して得られた技術について、ご自身ではどのように捉えていますか?
A
授業だけでなく毎日学校に出没して技術を磨いたり、知識を蓄えたりしていた同級生は、即就職できるレベルになっていました。僕自身は、在学中は仕事もあったので、そこまで学校に通い詰めることはできなかったのですが、CGに対しての意識が変わったことは大きかったですね。2020年にスクールを卒業してすぐにCOVID-19の影響で仕事が ストップしてしまったのですが、その期間を利用して、MVでちょっとエフェクトを足したりするのに使えそうだとHoudiniを勉強し始めたんです。これは、スクールに通ったことでCGを学ぶ土台作りができたからこそ、自分でも独学をしようと思えたのだと考えています。その後、仕事が再開してからは、Mayaでプリビズを作って簡単なレイアウトを行って、そのプロジェクトごとCGプロダクションに渡すという手法をとるようになりました。そうすることで自分のイメージにより近いものを仕上げてもらえるようになったり、効率よく作業を進めたりすることができるんです。たとえば、背景を作るにしても、映らないと最初から分かっている部分は作る必要がありませんし、その分の労力は映る部分に割いてくれたほうが画面全体のクオリティが上がるわけです。自分に知識があれば、「モデリングは良いけれども、テクスチャだけ変えれば成立する」といった効率的な代替案も出せますし、それだけで仕事の効率は大幅に変わると思います。
Q
CGへの理解が進むことで、発注する際にもビジョンや効率をより良い精度で届けることができるわけですね。
A
そうですね。予算の範囲でできることを考えて、ディレクションだけでなく自分で手を動かすこともあります。 ЯeaLというバンドの『Dead or Alive』(2020)というMVではHoudiniを使って、ガラスが割れるエフェクトを足したり、レーザーの光を加えたりしています。ご本人たちにもとても喜んでいただけましたので、嬉しかったです。自分で手を動かしていると時間を忘れるくらい楽しいんですよね。「こういうのってCGでできるかな?」と漠然と考えたことを調べて、それが実現できると嬉しいですね。この作品がというわけではありませんが、予算がないときでも何とか工夫して良いものを作ろうとしています。そうすることで信頼を得て評判になればそれが次の仕事に繋がり、結果的にプラスになるんです。

Q
お仕事のやり甲斐にもつながるんですね。
A
それは大いにあります。アーティストやレコード会社はもちろん、MVが良い出来だとファンの方が「推されている」という実感を持って喜んでくれる。その様子をYouTubeのコメント欄やSNSでの反応を読んだりすると嬉しいですね。
Q
逆に仕事における難しさはどんなときに感じますか?
A
CGに関していえば、技術の進歩が速いので、皆さんが凄い映像に見慣れていってしまうという点があります。そのため日々技術を更新していかなければいけないという大変さもあります。ただ、だからといって何でもプラグインで自動化すれば良いわけでもなく、手間をかける必要もあったりします。一方で労力をかけたところで画面に結果が出なければ意味がありませんし、そこは難しいところですね。また、無理に働きすぎても今の時代は良くないことだと思います。その意味で言えば先程のように、CGを使うことで効率的にできる良い面もあります。それだけで働いている若手の残業時間が減るかもしれませんし、そのことで後に業界の人材の層が厚くなることにもつながるかもしれない。そういうことまで考えていく必要もあると考えます。

“就職活動”を通じて映像制作のパートナープロダクションと巡り合う

Q
これまでさまざまなMVを手がけられてきましたが、その中で特に印象的なものを教えてください。
A
チャットモンチーの『シャングリラ』(2006)です。彼女たちが大きくブレイクするきっかけとなった楽曲ですね。撮り終えたときからとても良いものに仕上がるという実感もありました。この楽曲がヒットをしたことでMTVやスペースシャワーTVなどで繰り返し放送され、それをご覧になった方からさまざまなお声がけをいただくようになりました。

Q
フリーになられて間もない頃に、代表作と言える作品を手がけることができたことで軌道に乗れたんですね。
A
そう、それは本当に大きかったと思います。次に評判を呼んだのはONE OK ROCKの『完全感覚Dreamer』(2009)でした。プロとして食べていくために、代表作は常に更新していかねばなりません。同じように技術も更新していく必要があります。僕は仕事の幅を広げようと、2013年にシナリオ教室に通っていました。それはストーリー仕立てのMVのオーダーがあった場合、脚本作りの知識を備えているほうが絶対に良いものが撮れると思ったからです。ちょうどアイドルや声優アーティストがMVのなかで演技するという内容が求められていたという潮流もあり、結果的にそこからストーリー仕立てのMVのお話を多くいただくようになりました。その意味では僕が去年、スクールに通い出したのは、自分の中での技術更新というねらいもありました。CGが絡む仕事はやはり面白いと思いますし、企画としてCGを入れられそうだと思ったら、どんどん自分から提案するようにしています。

Q
デジハリで過ごした1年間の中で特に印象的だった出来事は何ですか?
A
就職活動ですね。といっても、本当に就職できると思ってやっていたわけではないのですが。コース課程の後半になると、周りの生徒が就職活動を始めるんです。デジハリにいるときはプロの知り合いはできなかったので、就活の体で企業の方と知り合えたらなと思って。10社くらいに履歴書を送って、いわゆるお祈りメールもほとんどだったのですが、面接していただいた会社も数社ありました。それで「実はすでにこういう仕事をしていて、一緒に仕事できるような会社を探していまして……」とお話したら興味を持ってくださったのがUNITというプロダクションさんでした。
最近でいうと、Hey! Say! JUMPの『Fab-ism』(2020)やSixTONESの『ST』 のMVはUNITさんと作りました。かなりCGを使った演出をしているのですが、これはUNITさんのおかげです。この縁のおかげで、CGメインで作りたいというオーダーの仕事に応えられるようになりました。自分のCG知識はプロで何年もやっている人に比べたら全然ですけれども、こうやって強い味方ができるきっかけになったのはやはりスクールに通った結果です。教室で知り合った同級生は就職してまだ1年目なのですが、いずれ一緒に仕事をできると思いますし、そういう交流ができたことも大きかったですね。

Q
そうした同級生に刺激を受けることもスクールに通うひとつの意義ですね。
A
それはありますね。僕の通ったコースはある程度、社会人経験を積んで自分のやりたいことを見つけ、ジョブチェンジのために頑張っている方が多かったですね。僕も、もう少し若ければ、キャリアを投げ売ってCGの会社に入ってこの道を目指すという選択をしていたかもしれません。あ、でもフリーでバリバリ活躍していた40代の方で、本気の就活をされてCGの会社に入られた方もいたようですし、別の方でプログラマーからCGの会社に転職されたという方の話も聞きました。「正直、年収は下がったけれども、毎日の仕事が楽しい」って。スキルアップのつもりで来て、本格的に勉強をしたら楽しくなって、その結果人生が変わるということも大いにあるんですよね。
Q
今後の目標や将来像を教えてください。
A
かつての自分は将来像を漠然と捉えていましたが、今は正直に言ってMVを撮ることが本当に楽しくて、この仕事を続けていくことが目標です。そのためには、常に技術をアップデートしていかなければなりません。その過程で自然と仕事が広がるのであれば、どんどん新しい分野にチャレンジしていきたいと思います。CGを勉強し始めたばかりなのにあれこれと手を出すのは尚早かもしれませんが、今はUnreal Engineが面白そうだなと感じています。
Q
デジタルハリウッドの現役の在学生や卒業生、関係者など、インタビューを読んでいる読者にむけてメッセージをお願いします。
A
デジハリの卒業生として親近感が湧いて興味を持ってくれる人がいましたらお気軽に連絡をください。何か面白いことを一緒にしましょう。 そして卒業された方には、ある程度、キャリアを積んで仕事のやり方を分かった上で、デジタルハリウッドの別のコースでまた学ぶのも面白いと思うんです。プログラマーが3Dの技術を学んだり、CGデザイナーが別のソフトを学び直したりすることも、大きな意味を持つと思います。僕自身、そのようにして新たに道が拓けそうだと入学・卒業をして非常に感じましたので、卒業生の方々には強くオススメしたいと思います。

福居英晃さんが学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッドスクール 専科3DCGデザイナー専攻

映像ディレクター
福居英晃 さん(デジタルハリウッドスクール 専科3DCGデザイナー専攻卒業)
1977年生まれ。石川県出身。京都芸術短期大学造形芸術学部映像コース卒業後、2000年に映像制作会社に入社。2006年よりフリ ーランスとしてTVCMやさまざまな分野のアーティストのミュージックビデオの演出を手がける。2019年デジタルハリウッドスクール 専科3DCGデザイナー専攻で1年間学ぶ。2020年11月よりSPECに所属。
福居さん監督作品はこちらからご覧いただけます。
視聴にはパスワードが必要です。パスワードのお問い合わせはhidee@pj9.so-net.ne.jp へメール、もしくは、こちらまで、メッセージでお問い合わせください。

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