No.14
CGアーティスト
森田 悠揮さん(デジタルハリウッド卒業)
このインタビューは2018年9月当時の内容です。
ダブルスクールでCGを学び、大学卒業後フリーランスのCGアーティストに
- Q
- CGアーティストとして活躍中の森田さんですが、現在どのようなお仕事をされているのでしょうか。
- A
- 以前はモデリングやテクスチャなど技術的なことをしていましたが、最近はコンセプトアート、キャラクターデザインがメインです。映画、CM、テレビ番組、ゲームなど、幅広い分野で仕事をしています。
- Q
- 最近のお仕事ではどんなものがあるのでしょうか。
- A
- 『荒神』というNHKのSF大河ドラマで、クリーチャーのデザインとCG造形を担当しました(※3月17日(土)午後1:30からBSプレミアムにて再放送予定)。ほかには、まだタイトルを出せない映画の仕事がいくつかあります。最近では、海外の映画でコンセプトアートを作りました。プロジェクト自体がスタートできるかどうかという前段階で、僕の作ったコンセプトアートで企業から資金を集めたり反応を見たりするようです。
- Q
- 当初はモデリングの仕事をされていましたが、キャラクターデザインのお仕事へ移行したのはなぜでしょう。フリーランスとして活動するうちに、お仕事内容が変わっていったのでしょうか。
- A
- もともとキャラクターデザインの仕事がしたかったのですが、フリーになったばかりの頃はキャラクター1本で食っていくだけの技量がなかったんです。最近はいろいろな方に作品を見てもらう機会も増えましたし、仕事のツテも増えたので、キャラクターに特化しています。今では、自分の好きな仕事しかやっていません。
- Q
- 森田さんは、立教大学に通いながらデジタルハリウッドでCGを学んだそうです。ダブルスクールをした理由は?
- A
- 頭の中にあるイメージや僕が作りたい世界を表現するには、CGの技術が必要でした。 大学1年の後期に「早く始めなくてはいけない!」と焦りを感じたのが理由です。ただ大学内の授業では3DCGや映像制作を基礎から学ぶことはできないので、デジタルハリウッドへの入学を決めました。
- Q
- CGアーティストになるまでの道のりで、転機になったことは?
- A
- 僕は生き物が好きなので、ずっとクリーチャーやモンスターのデザインをやりたいなと思っていました。でも狭き門ですし、しかもフリーランスでやるとなるとよほどの技術がないと難しいんですよね。造形の知識はもちろん、生物学、アナトミー(解剖学)の知識も必要なんです。そこでデジハリ卒業後、立教大学の在学中に必死で勉強しました。そうやって基礎力をつけて、卒業後に最初に取り組んだプロジェクトがNHKスペシャル『生命大躍進』の仕事でした。
- Q
- 卒業後すぐにフリーランスとして活躍されているんですよね。
- A
- そうです。海外のCGコンテスト「CG Student Awards 2013」で受賞し、その作品を見た方や企業、SNSでつながった方から仕事の依頼をされました。
- Q
- モンスターとかクリーチャーに興味を持ったのは、いつ頃ですか?
- A
- 子供の頃からです。僕はちょうど『ポケットモンスター』『デジモンアドベンチャー』の世代なので。
- Q
- 森田さんの作風とはだいぶ違うのでは?
- A
- そうですが、あれも生き物の延長線にあるものですから。それがああいう面白いデザインになっていることに、子供ながらに自然と惹かれていって。いまだにモンスターやクリーチャーに心惹かれます。
- Q
- 現在は、リアリティのある精細なCGを描いています。そういった作風に興味を抱いたのは?
- A
- モンスターやクリーチャーに心惹かれながらも、CGというツール自体にも興味がありました。多分ハリウッド映画のようなハイクオリティなCGを観たからだと思うのですが。やっぱりCGをやるからには、リアリティは欠かせない要素です。リアリティを追求しつつ、自分の好きなフィールドで……となると、やっぱりリアル系モンスターの造形かなと思いました。でも、それも仕事を始めてから気づいたこと。プロになってようやく「自分はこのフィールドで食っていけるんだな」とわかりました。いろいろ寄り道はしていますね。
自分が好きなものを、自分が納得するまで作る
- Q
- CGアーティストとして、ご自身の強みはどこにあると思いますか?
- A
- 実写系に特化していますが、キャラクターデザインからCGのモデリングまで、トータルでできるのが強みだと思っています。3DCGを制作する場合、普通ならコンセプトアーティストがいて、モデラーがいて、テクスチャーアーティストがいて……と作業が分担されていますが、それを一貫してできるので。
- Q
- コンセプトアートを自分で考え、それを立体として動かせるのは大きなメリットですね。ご自身の中で思い描いたものをそのままを動かせるわけですから。
- A
- そうですね。でも、それはあくまでもスキルセットなんです。すべての工程に関わることが、自分のやりたいことというわけでもなくて。欲張りなことを言えば、キャラクターデザインだけやりたい。今は、その時々で自分のやりたいことだけを選べるキャリアを作れたかなと思っています。
- Q
- お仕事をするうえでのモットーは?
- A
- クオリティに関して言うと、あんまりないです(笑)。自分が納得すればいいかなと思って。
- Q
- 逆に言うと、自分が納得するまでやるんですね。
- A
- そうです。自分の基準にはストイックなんですけど、良くも悪くも他人の基準にはストイックではなくて。自分の中で納得できるまでは寝ずにずっと作業しますが、それを超えるとどうでもよくなってしまうんです(笑)。
- Q
- わかりやすいですね(笑)。でも、クライアントから「こういう作品を作ってほしい」というオーダーもありますよね。ご自身が目指す理想像と違う場合、どのようにすり合わせていくのでしょうか。
- A
- クライアントも、コンセプトアートを僕に発注する時点で僕なりの何かを求めているということだと思うんです。ですから、好きにやらせていただくパターンが多いですね。その点で揉めたり、ストレスを溜めたりすることはありません。そうでなければ、先方もわざわざフリーランスの僕に頼まないと思うんです。
- Q
- 活動を始めてからずっとフリーランスですが、それによるメリット、デメリットは?
- A
- デメリットはないですね。自分のペースで仕事ができることがメリットです。
- Q
- はっきりしてますね。
- A
- そう、超はっきりしてるんです。ゆとり世代ですし、僕は会社には一生入れないでしょうね(笑)。フリーランスなら、好きな時に起きて、好きな時に仕事をして、好きな時間に遊べますから。しかも自分が納得するまで仕事ができる。これが一生続けばいいなと思います。
- Q
- スタジオに所属したり起業したりすることは考えていませんか?
- A
- 1、2年前に、海外の映画スタジオに入ろうかなともふんわり考えたこともありました。なぜなら箔がつくから。ハリウッド映画に携われば、フリーでも仕事は途絶えないだろうと思ったんです。でも、よく考えたら別にハリウッド映画をやりたいわけじゃないんですよね。だから時間の無駄かなと思いました。むしろ、国内にいながらハリウッド映画の仕事ができれば最強じゃないですか。実際、今ハリウッド映画の仕事も請けていますから。
- Q
- ここまでとんとん拍子に進んできたように思います。ご自身としてはいかがですか?
- A
- でも、学生時代はいろいろ試しました。その結果「キャラクターをやろう、その中でもデザインをやろう」ということに落ち着いたんです。自分の中では一直線に来た感じではないですね。だいぶ寄り道はしました。CG以外にも音楽もやっていましたし。
- Q
- なるほど。あと、最近『The Art of Mystical Beasts』という本を出版されましたよね。こちらの見どころは?
- A
- 幻獣アートを集め、その制作手法を解説した本は少ないと思います。クリーチャーやモンスターに特化した本なので、好きな方はぜひ買ってください。
- Q
- 「こんなに種明かししちゃっていいの?」というぐらい手の内を明かしていますよね。
- A
- そうなんです。気づいたらたくさん書いていました(笑)。確かに内容は濃いですね。その割に、値段は安いのでぜひどうぞ。この本を読んだ人が、自分の技量を抜かしてもかまわないと思ってます。
- Q
- そうなんですか?
- A
- 実際に抜かされた時にどう思うかわかりませんが、抜かれることはないという自信があるので。どうぞ抜かしてください、という気持ちです。
- Q
- 今回は技法を解説した本でしたが、3DCGのトレンドは意識しますか?
- A
- 作風に関しては意識しないですね。技術面に関しては、新しいソフトの情報を仕入れますし、実際に試してみることもあります。
- Q
- 作風はブレずに、でも新しい技術を取り入れているんですね。
- A
- 僕の場合はリアリティを追求しているので、自分の作風を出そうとするとリアリティが崩れるんです。リアルには、作風も何もないじゃないですか。物理的に正しければリアルですから。
- Q
- とはいえ森田さんの場合、現実には存在しないクリーチャーやモンスターをCGで描いています。それでありながらリアルに寄せるというのが、難しそうです。
- A
- そこで活きてくるのが、生物学や解剖学の知識なんですよね。現実にいる生き物の骨格、質感を正しく反映できているかが大事だと思っています。
- Q
- ちなみに『モンスターハンター』シリーズのCGモデルって、どのようにご覧になっていますか?
- A
- 実は僕、『モンスターハンター』ってプレイしたことがないんです。クリーチャーや架空の生き物についても、ジャンルがいくつかあって。ひとつは、グロテスクなアンデッド系クリーチャー。ゾンビや『ハリー・ポッター』に出てくる魔法生物がそうです。ふたつめは『モンスターハンター』のような恐竜系。3つめがファンタジックな幻獣です。僕は3番目が好きなので、それ以外のジャンルは守備範囲ではないんです。
- Q
- なるほど。では、今後の目標についてお聞かせください。
- A
- やっぱり、自分の作品を見て仕事をくれる人が途絶えないように頑張ることですね。
- Q
- CGクリエイターを目指す人にアドバイスを送るとしたら?
- A
- 好きなことを貫いたほうが、結果近道になるんじゃないかと思います。僕は寄り道もしましたが、自分が目指すところを見つけてからはその道をずっと突き進んできました。ぜひ、自分の好きな道を進んでください。
インタビュー:野本由起
CGアーティスト
森田 悠揮さん(デジタルハリウッド卒業)
1991年生まれ。2014年、立教大学卒業。大学在学中にデジタルハリウッドスクールとのダブルスクールを経て、現在はフリーランスのデジタルアーティスト、キャラクターデザイナーとして活躍中。国内外の映画、テレビ番組、CM、ゲームなど幅広い分野でコンセプトアート、クリーチャーデザインを手掛けている。2017年12月、作品集であり技術解説書でもある『The Art of Mystical Beasts』を刊行。
Yuuki Morita Artworks→ https://www.itisoneness.com/