No.38
アニメプロデューサー
福原慶匡さん(デジタルハリウッド大学大学院修士課程修了)
学生の頃に、シンガーソングライター川嶋あいのマネージャーを務め、2003年にリリースしたシングル『明日への扉』がメガヒットを記録。音楽業界を経験した後、アニメビジネスの世界へ転身し、経験ゼロから模索する中で、2017年にはアニメプロデューサーとして『けものフレンズ』を大ヒットに導く。エンタメという軸は一貫しながらも、常に新しいフィールドで挑戦を続けてきた福原慶匡さん。プロデューサーとして成功をおさめながらも、新たな学びを求めてデジタルハリウッド大学大学院へ入学したその背景には、「本質を知りたい」という福原さんの信念がありました。
(※このインタビューは、2021年6月当時の内容です。)
「運命を感じた」デジタルハリウッド大学との“出合い”
- Q
- 音楽やアニメなど、コンテンツの分野で長らく活躍されてきて、既にコンテンツ作りに関しては経験や知識も豊富であるはずの福原さんが、デジタルハリウッド大学大学院に入学された理由は何だったのでしょうか。
- A
- 「教え方」を学びたかった、というのはありますね。2020年に「アニメプロデューサーになろう! アニメ『製作(ビジネス)』の仕組み」(星海社)という本を出したのですが、実はこの本、会社のスタッフへの勉強会用に使っていた資料が土台になっているんです。250ページのパワポ資料をもとに、8時間くらいかけて新入社員に説明するということをずっとやっていたのですが(笑)、実務経験に基づいて教えていたので、あらためて知識に抜け漏れがないよう、コンテンツビジネスに関して体系立てて学んでみたいと思ったんです。
- Q
- 本の中でも福原さんは「ビジネスが分かるアニメーションプロデューサーを育てたい」といったことをおっしゃっていましたね。デジタルハリウッド大学大学院に実際に入学されてみて、どのような学びがありましたか。
- A
- それこそ『アニメプロデューサーになろう!〜』にも書いていますが、デジタルハリウッド大学大学院には、コマのチョイスによっては、プロデューサー教育に必要なものがすべてあると感じています。特に、四宮隆史先生(デジタルハリウッド大学大学院客員教授)の著作権まわりの授業はすごく勉強になりました。
- Q
- アニメプロデューサーなど、コンテンツビジネスに携わる人にとって、やはり「著作権」の知識は必要不可欠なものでしょうか。
- A
- 「アニメ」は、本当に著作権の塊のようなものなので、僕はとても重要なものだと認識していますが、よほど意識の高いプロデューサーでなけば、スクールに通ってまで勉強している人は少ないのではないでしょうか。というのも、大きな会社であれば、法務部があるので自分で学ばなくてもいいですし、小さい会社だと、法務リスクがあるほどの大きな取引がないので、いずれにしてもアニメプロデューサー自身が著作権の知識を持つ必要は、ないといえばないんです。
なんですけど、僕の感覚でいうと、何事も誰かに任せたり、避けたりすることで、本質が見えなくなることはあまり好きじゃないんです。必要があるかないかは、実際に学んでみて自分で判断すればいいことですし、学んでもいないのに「必要ない」と決めつけてしまうのは“ナシ”だと思っています。インプットした結果、「これは自分には向いていないな」「やっぱり専門家の人に任せよう」と感じたら、そのようにすればいいんです。ともかく、分からないことがあったら一回突っ込んで全部を知っておきたい、というのが僕の性分です。
- Q
- 先ほど四宮先生のお話が出てきましたが、そのほか印象に残っている教員や授業はありますか。
- A
- 一番記憶が鮮明なのは、入学とともに参加する、一泊二日のキャンプですね。幕張の研修センターみたいなところで、100人ぐらいの受講生がグループ分けされて、自分でビジネスプランを考え、最終日にみんなの前で、2分ぐらいでプレゼンするという、デジハリの2年間でやることを2日間にまとめたような感じの授業です。最初、何をやるかも聞いていない状態から、先生の導きに従って、自分の内面と対話しつつ進めていくと、自然とビジネスプランができてしまうんですよね。こういう「仕組み」や「システム」によって生まれるビジネスというのも面白いなと思いました。
- Q
- アニメプロデューサーを目指す上で、必要なスキルや考え方を1つ挙げるとするならば、なんでしょうか。
- A
- いろいろあるので1つに絞るのは難しいですが、やはり「好奇心」という言葉に収れんされていく気がします。世の中で盛り上がっている事象、人でもモノでも作品でも、なんでもいいんですけど、いくつか流行っていることがある中で、そこには必ず何かしら共通点があります。僕なんかも日頃、YouTuberとか、Web漫画家とか、若いクリエイターに会う機会が多いんですけど、彼らと接する中で「この世代ってこんな共通点があるな」ってふと気づくことがあるんですよ。「気づく」タイミングはできるだけ早いほうがいいですから、「これは多分僕は好きじゃないな」とか「僕はこういうタイプじゃないな」と好き嫌いをしないで、なんでも突っ込んでいくことが大事だと思います。
- Q
- その「気づき」がプロデューサーという仕事をする上での糧になるわけですね。
- A
- はい。また、プロデューサーという話に限らず、自分の殻を破ってブレイクスルーをするためには、未知の出会いを繰り返す中で「自分の限界」に気づくことがとても大事なんですよね。僕自身、自分のことを全然信じてないですから(笑)。そもそも音楽業界からアニメ業界に移行したのも、友だちから「アニメを見ろ」と言われて従ったことがきっかけですし、自分の価値観に縛られずに、色々な人に出会って、素直な気持ちでどんどん新しいことを吸収していってほしいですね。
- Q
- そういった意味では、新しい出会いや学びを求めて、デジタルハリウッド大学大学院のような新しい環境に飛び込んでみるのも、自分の殻を破るための1つの方法かもしれませんね。
- A
- そうですね。一流の人に出会ったりするたびに、自分の限界ってまだまだあったんだって気づくことも多いんですけど、四宮先生とは仲良くなってそのまま弊社の顧問弁護士になっていただいていますし、指導してくださった高橋光輝教授にはいまでも連絡頂いて産学連携のパイプとして働かせて頂く事もあります(笑)、僕自身もデジタルハリウッド大学大学院では、その後にも続くいろいろな出会いがありました。何よりデジタルハリウッド卒業生であることの一番の強みって、同級生が卒業後に売れっ子になっていくっていう、人脈構築の部分なんですよね。そういう意味では、校友会を通じて縦のつながり、横のつながりをもっと強固にしていけたらと思います。
- Q
- デジタルハリウッドは“Entertainment. It’s Everything!”(すべてをエンタテインメントにせよ!)という学校理念を掲げているのですが、一貫してエンタメ業界に関わってきた福原さんは、この理念についてどう思われていますか。
- A
- 僕もその発想は大切にしていますね。エンタテインメントって人の気持ちを自在にコントロールする魔法みたいなものだと僕は思っていて、コメディなら笑わすし、ホラーだったら泣かすし。いずれにしても人の感情を動かしたい、喜ばせたいという気持ちがベースにあるはずなんです。僕が経営する株式会社8millionにも「目の前の人を笑顔にする」というミッションがあって、本当は「世界を平和にする」が一番いいんでしょうけど、まずは最小単位の「目の前の人」を必ず喜ばせよう、笑顔にしようということをモットーにしています。だから、根本的な考えは近いんじゃないですかね。
- Q
- 最近ではアニメ制作にとどまらず、著名人のYouTubeチャンネルの企画・運用、オンラインサロンの運営サポートなどもされていますが、福原さんがいま取り組まれている仕事の中で、一番力を入れている部分はどこでしょうか。
- A
- いろいろなことに取り組んでいるのですが、共通して言えるのは「エンタメのDX」で日本のクリエイターをサポートしていく、ということですかね。
これまで日本の産業が強みとしていた製造業が衰退してしまい、ハードの時代からソフトの時代に移行する中で、日本の強みの一つがエンタメコンテンツだと思います。特にアニメに関しては、既に独特のセンスや価値を持っているので、大きな可能性を秘めていると思っています。ただ日本はクリエイティブのセンスでは勝負ができるのですが、それをサポートするビジネスがまだまだ発展途上。監督が何もしなくてもスター選手が勝手にホームランを打ってくれるという時代は終わり、今はクリエイターのセンスだけでなく、ビジネスのフレームワークも両輪として必要とされています。
A.
- Q
- そこで必要となるのが「エンタメのDX」ということでしょうか。
- A
- そうですね。従来のアニメスタジオの仕事はそもそもアップサイドが少ない形態が多く、例えば100万円の仕事であれば、どんなに頑張っても100万円以上のお金はもらえない契約が主流です。逆にアップサイドがあるビジネスというと「ソシャゲ」になってくるのですが、ソシャゲは昔と比べると製作費も高騰しており参入障壁が高くなっています。 今あるコンテンツビジネスの中で収益を上げていく為にはビジネスもクリエイティブも上手にデジタルを取り入れるしかありません。
僕はクリエイターに食べさせてもらっている身でもありますし、やっぱりクリエイターが食べていける仕組みを作っていきたい。そのためのアプローチってDXにおいては、まだまだ大量にあると思うんですよね。僕たち業界の内側にいる人間だからこその目の付けどころで、痒い所に手が届くきめ細やかなサポートが届けられると思っていますので、そこに注力していきたいですね。
A.
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デジタルハリウッド大学大学院
アニメプロデューサー
福原慶匡さん(デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科修了) 株式会社8million 代表取締役社長、プロデューサー。1980年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部卒。デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科修了。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程在学。大学在学中に歌手・川嶋あいの路上ライブの手伝いから音楽業界で働き始める。川嶋のマネージャーを務め、シングル『明日への扉』が90万枚超のメガヒットを記録。その後、アニメーションスタジオ「ヤオヨロズ」を立ち上げ、プロデューサーとして『直球表題ロボットアニメ』『みならいディーバ』『てさぐれ!部活もの』等を担当。アニメ『けものフレンズ』で大ヒットを記録した。