Interviewインタビュー

No.36

公開日:2021/06/04 

10年越しに完成したオリジナルアニメ デジタルハリウッドで学んだスタジオ経営哲学

CGデザイナー社長 デジタルハリウッドスクールデジタルハリウッド大学大学院

No.36

株式会社ピコナ 代表取締役
吉田健さん(デジタルハリウッドスクール本科CG・映像クリエイター専攻修了、大学院修士課程修了)

3DCGアニメーション制作会社・ピコナで代表取締役を務める吉田健さん。大手ゲーム会社を20代で退職後、オリジナルアニメーションを制作することを目標にデジタルハリウッドのスクールと大学院に通い制作現場とプロデュースの両方を学ばれました。クリエイターの労働環境改善にも尽力し、現在はカナダのスタジオと新たな作品の制作を展開中です。デジタルハリウッドで学んだプロデュース哲学とスタジオ経営術がこれまでと現在にどのように生きているのか、吉田さんにうかがいました。
(※このインタビューは、2021年5月当時の内容です。)

スクールと大学院の両方を修了し、それぞれの“脳”を使い分ける

Q
吉田さんは大手ゲーム会社に勤務し、20代後半で退職された後でデジタルハリウッドのスクールに入学をされましたが、これはどのようなきっかけからでしたか?
A
僕がスクールに入学したのは2005年だったのですが、実はその1年前にデジタルハリウッド大学院で開講していた「UCLA Extension 映像プロデューサーカリキュラム」(※)を受講しておりまして、それがデジタルハリウッドで学ぶ最初のきっかけになります。会社を辞めたのは自分でオリジナルのアニメーションを制作したかったからでした。その後、ロサンゼルスやサンフランシスコを回った際にピクサー社内を見学させてもらったときに、自分の企画を実現するにはやはり3DCGだろうと思いました。そして、日本に帰ってCGを学べるところはどこかと考えたときに、頭に浮かんだのはやはりデジタルハリウッドでした。スクールでは実務的な3DCGの使い方を学びました。僕はゲーム会社でもカードゲーム開発・グラフィックデザインの方だったので、CGについては独学もしていたのですが、やはり教わらないと分からない部分もあったので、基礎から学んでいきました。3dsMaxでのモデリングやアニメーション、他にAfter EffectsやPhotoshop、Illustratorの授業などを受講していました。
※経済産業省の映像プロデューサー育成講座。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のカリキュラムを学ぶ。
Q
スクールを修了された2007年に、今度はデジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科に入学をされましたが、ここではどのようなことを学ばれたのでしょうか?
A
作品のプロデュース方法を学びました。契約の仕方や展開のさせ方、著作権についてなどですね。作品を作っても誰の目にも止まらなければ何にもなりませんし、一方でそもそも作品が存在しなければプロデュースすることもできません。スクールと大学院との両方に通うことで双方をリンクさせて学ぶことができたのは大きかったと思います。大学院になると、スクールとは違った意味で教授や同級生との距離感が近くなりました。教授陣の中には木村元子さん(TVドラマ/映画/演劇プロデューサー)や内田康史さん(現ツインエンジン取締役)ら、コンテンツ業界で実際にプロデュースをされている方も多くいましたし、ゼミは山本和夫先生のストーリーマーケティングゼミで、そこではメンバーとの意見交換も活発に行われました。CG業界ですと、Studio GOONEYSの代表取締役・斎藤瑞季さんも同じゼミ生です。志が高い人が集まっていたので刺激になりましたし、修了してからも「同じ釜の飯を食った仲間」のような関係です。仕事上でお付き合いするにしても、損得だけの関係ではない、仲間意識があると思います。
Q
大学院修了後、2009年に株式会社ピコナを設立されました。どんなビジョンを描いて起業されたのでしょうか?
A
ホームページに「オリジナルのアニメーション企画を作る」会社だと記載し、それに共感してくれた人たちが集まってきてくれました。その企画の1つが『Midnight Crazy Trail』です。この作品を作ることを目標に、受託の開発を続けるなかで、技術やノウハウを構築していきました。そして後に「あにめたまご2018」(平成29年度文化庁若手アニメーター等人材育成事業 )に採択していただき、ついに制作に漕ぎ着けることができました。いざ制作することになると、スケジュールと予算の問題が発生します。そこではクリエイターとしての脳の使い方とプロデューサーとしての脳の使い方を切り分けて考える必要があります。大変ではありましたが、デジタルハリウッドのスクールと大学院でそれぞれを学んだ経験から、両方の思考を上手く使えたことに繋がったと思います。

クリエイターのモチベーションを高める「定性評価と定量評価」

Q
そうした考えもあってか、ピコナ社はクリエイターの労働環境を整えることに注意を払われています。どのようなきっかけからだったのでしょうか?
A
それは、先ほど申したピクサーの現場を見たという経験が大きいですね。「どうすればクリエイティビティを発揮できるか」について、ピクサーではとてもよく考えられています。例えばクリエイターには一人一部屋が与えられ、インスピレーションが湧きやすい環境が整えられています。クリエイターの仕事はスポンジと同じで、どこからか水を吸収していないと干からびてしまいます。つまり、きちんとしたインプットがないとアウトプットもできないという考えです。オリジナル作品を作るためには、こうしたアウトプットしやすい環境にできるだけ近づける必要があります。僕らの目標はオリジナル作品の制作にあるので、環境はできるだけ整えようと考えました。以前は残業チケット制度(※)を敷いていましたが、今ではそれを使わなくとも自主的にみんな定時で帰るようになりました。忙しい時期の後は代休をきちんと取ったり有給を消化したりと、スタッフがなるべく疲れないような仕組みづくりをしています。
※残業に上限を設けるピコナ社の制度。2014年リクルートキャリア主催「グッド・アクション」特別賞を受賞。
Q
評価制度もクリエイター側に立ったシステムだそうですが、詳しく教えていただけますか?
A
例えば、作業が追いついていない人がいて、助けた人が担当した工数を正確に計り、評価に組み込むようにしています。手伝った人が損をしないことが仕事のモチベーションに繋がるからです。また、この仕事の難しいところは一般的な会社とは体系が異なり、自分がどのように成長しているのか分かりづらいところにあります。それで、ハリウッドのスタイルになぞらえて、リードクラスやスーパーバイザークラスといった形でクラス制を敷いています。定性評価と定量評価の2つの評価軸をベースに、条件を満たすごとにランクアップしていくような評価制度です。これは達成すると月単位でアップしていきます。僕自身が10年以上クリエイターをやってきたなかで、「こうあったらいいな」と考えた経験をもとに、弊社独自で数値化して用いているものです。
Q
デジタルハリウッドのスクール理念に“Entertainment. It’s Everything!” があります。お話を聞いているとモノづくりだけでなく、ピコナ社の労働環境にもその考えが生きているように感じます。
A
どんな職業であろうとどんなジャンルであろうと、こちら側がそういう考え方を持っていけば何でもエンタテインメントとなり得るのかなと思います。この評価制度もRPGのようなゲーム感覚があって、「人事評価」というと堅苦しく感じられるところを、受け取りやすい形にしている。難しく考えずにこうやって遊びの要素を採り入れていくのが大事だと思います。デジタルハリウッドにはさまざまなエンタテインメントについての考えを持った方が集まってきて、そこで忌憚なく意見交換できる環境にあるのでとても良い場所だと思います。CGに限らず、何か新しいエンタテインメントのコンテンツを生み出せる場所ですし、新しい技術をどんどん先取りして研究している人が多く、デジタルハリウッドに行けばとにかく最先端のものがあるというイメージがあります。
Q
吉田さんは 「DIGITAL FRONTIER GRAND PRIX 2021」で審査員を務められていますが、デジタルハリウッド卒業生との交流は多いですか?
A
学生時代にアートディレクション賞をいただいたときの審査員がカナバングラフィックスの富岡聡さんで、今は一緒にお仕事もしています。先ほどのGOONEYSの斎藤さんもそうですが、この業界は人間関係が狭いですよね(笑)。大学院は先生と学生というよりも、お互いにビジネスを学ぶ間柄という感じです。このご時世ですので会を催して会うという交流機会は少なくなっているのですが、皆さんFacebookなどで常に情報発信しコミュニケーションもしているので、会ったときも久々という感じはしませんね(笑)。
Q
今後の目標について教えてください。
A
新たなオリジナルアニメーション作品の『サムライ・パイレーツ』の企画が進行中です。これはToon Boom Animationというカナダ・トロントの会社と国際共同制作で展開する作品です。弊社にとっても非常に大きな企画で、2016年から進めています。日本では少子化が進み、子供向けのオリジナルアニメーション企画が難しくなっているため、世界中のマーケットに向けて制作をしなければいけません。従来型のマーケットがあるぶん、日本は中国や韓国に比べて海外展開が遅れているのですが、できるだけ早く進めていく必要があると考えています。

Q
デジタルハリウッドで学ぶ学生さんや記事の読者にむけてメッセージをいただければと思います。
A
夢や企画を実現するためには継続することが重要なポイントだと思います。先程の『Midnight Crazy Trail』は、企画から約9年越しに実現し、完成したときは10年でした。制作手法を磨いていくにせよ、ソフトを覚えるにせよ、すべては一歩一歩の積み重ねだと思いますので、諦めないでいれば必ず活路は見いだせるし、チャンスは訪れます。そのためには実現したときの姿を思い浮かべることです。1つ1つできる範囲のことを書き出して積み重ねていけば、それをやり遂げたときに大きな自信に繋がります。僕自身、美大予備校の頃から悔しさをバネにしてきました。デッサンでもモデリングでもやってきた時間だけうまくなりますし、振り返ると積み重ねが分かりますので、一気に全部を成し遂げようと思わず、何を一歩一歩やっていけばいいか、自己分析しながら思い描けることを地道に進めていくことが大事だと思います。

吉田健さんが学んだコースはこちら↓↓
デジタルハリウッドスクール本科CG・VFX専攻
デジタルハリウッド大学院

株式会社ピコナ 代表取締役
吉田健(デジタルハリウッド大学卒業)
(デジタルハリウッドスクール・大学院修了)
1978年生まれ。コナミ株式会社でカードゲーム開発のグラフィックデザインを担当。退職後にデジタルハリウッドで学ぶ。修了後、フリーランスを経て株式会社ピコナを設立。同社オリジナルIP『melody makers』、『Midnight Crazy Trail』、『SAMURAI PIRATES』でプロデューサーを務める。

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