No.98

ミラクルマイル株式会社 3DCGアーティスト
北方 優介さん
デジタルハリウッド大学2023年卒業
ミラクルマイル株式会社 代表取締役CEO
中原 修一さん
デジタルハリウッドU.S.A.校
(dhima通称ディーマ:Digital Hollywood Institute of Media Arts) CG映像専攻2005年修了
デジタルハリウッド大学教授 ロボットデザイナー
星野 裕之さん
デジタルハリウッド東京校修了
デジタルハリウッド大学でCGを専攻していた北方優介さんは、4年生の時デジタルハリウッド校友会主催のホームカミングデーで、ゼミの指導教員だった星野裕之教授から、ミラクルマイル株式会社の中原修一社長を紹介されたことをきっかけとして、同社にてインターンシップを開始。中原社長は北方さんのCGの実力や働きぶりを高く評価し、入社をオファー。ほかにも数社から内定を獲得していたにもかかわらず、そのまま同社に正社員として就職。現在は両者ともに幸せな状態にあるといいます。なぜ星野教授は北方さんにミラクルマイルを紹介したのか。中原社長はなぜ北方さんをスカウトし、北方さんはなぜ好条件の大企業を蹴ってまでベンチャー企業であるミラクルマイルを選んだのか。それぞれに詳しく語っていただきました。
マルチポテンシャライトゆえの苦戦
──北方さんはデジタルハリウッド大学在学中はどのようなことを専門に学んでいたのですか?
北方優介さん(以下、北方):専攻は3DCGです。でも、途中から授業の進み方が遅く感じたので、独学で勉強していました。
──卒業したらどのような仕事がしたいと思っていたのですか?
北方:第一志望はゲーム系のCGモデラーでした。でも、高校時代からCADでサバイバルゲーム用のオリジナルグリップを設計して3Dプリンターで作ってメルカリで売っていました。大学に入ってからも、CG制作よりも、3Dプリンターでメカやフィギュアの原型などを作って、ワンダーフェスティバルに出品するという、モノづくりの方に熱中していたんです。そんなわけでゲームモデラーとしての制作実績が少なかったので、いろいろなゲーム会社の求人案件に応募して、面接までは行くのですが、ことごとく落ちちゃって。ゼミの担当教授だった星野先生に相談しながら就活を進めたのですが、なかなかうまくいかなくて困っていました。
──星野先生は北方さんの苦戦の理由をどうお考えですか?
星野裕之教授(以下、星野):その理由は簡単で、企業の新卒募集が「プログラマー」、「デザイナー」、「モデラー」、「アニメーター」など、ある特定の職種限定で、「いろいろできる人」という募集がないんですよ。今、デジタルハリウッド大学の学生にとても多いのが、マルチポテンシャライト傾向。つまり、いろいろなことができるから、一つの職業に縛られず、いろいろやりたい。今の多くのデジタルハリウッド大学の学生はそう思っている第一世代なのです。
確かに北方君含め、彼らはいろいろできる。でも、今の企業が求めているのは、いろいろできるマルチポテンシャライト人材じゃない。ある特定の1つの仕事ができる専門職なんです。だから、北方君は就活がうまくいかず、どうしたものかと悩んでいた。あと北方君は体調もネックだったんだよね。
北方:はい。昔から片頭痛持ちなんですよ。
星野:体調の波があるので、フレキシブルに対応してくれる会社じゃないと厳しかったというのも理由の一つとしてあったんです。
好きなことを勝手にやって結果まで出せる
──星野先生から見た学生時代の北方さんの評価は?
星野:僕も北方君と一緒にいろいろなものを作ってワンフェスに出していたんですが、デジタルハリウッド大学の学生たちは、好きなことを学んだり、好きなものを作っている人が多いんです。本来は当たり前なことなんですが、意外とそれを地でやっている人って少なくて。「好きでやってる」にも、いくつかの段階があるんですが、北方君はその最高峰の「好きなことを勝手にやっちゃう」系です。誰かに何かを言われなくても勝手に何か作っちゃう。さらに、「結果を出す」「社会的評価を得る」ところまでやりきる人はすごく少ない。それを特に無理矢理頑張ることなく、ナチュラルにやれる北方君みたいな人はおもしろいですよね。
──北方さんは学生時代からクリエイターとしてのスキルのレベルは高かったのですか?
星野:スキルセットのレベルは高かったと思います。でも、おそらくスキルは他の人の方が上手い部分なんてたくさんあるんですよ。スキルの上下ってそれにかけた時間で変わってくるだけなので、それほど重要ではない。ただ、北方君の場合は、作るものや場面に応じて、俯瞰して、足りないところを見つけたら自分で補完して進めることができる。このような能力をベースとしてもっているというのはなかなかすごいと思います。あとは新しい技術にも物怖じしないし、必要であれば、おもしろいと思ったら勝手に勉強して身につける。このような点が素晴らしいと思います。
それと何より、デジタルと物体の両方を作ることができる。虚を実に、フィクションをリアルにできるスキルがあるので、リアルワールドとアンリアルワールドを繋げられる稀有な人材なんです。その術を知っていてもできない、やらない人がほとんどなんですが、それを学生の時にナチュラルにやれてるってすごいこと。これから、特に大企業は新しい市場を創出したいと思っているので、その時に引っ張りだこになる人材なんです。
きっかけはホームカミングデー
──北方さんは就活に苦戦していたとのことですが、その後、どのように進めたのですか?
北方:4年生の6月に、デジタルハリウッド校友会主催のホームカミングデーで、星野先生からミラクルマイルの中原社長を紹介されたことをきっかけに、急激に前に進み始めました。
──星野先生と中原社長はどのような繋がりだったのですか?
中原修一社長(以下、中原):当社の取締役の弟が別の会社で働いているんですが、彼もデジタルハリウッドの卒業生なんです。
星野:そうなんです。たまたま、2、3年前くらいにデジタルハリウッド大学の卒業制作展で、学長向けに遠隔ロボットを入れたのですが、それを借りた会社にいらっしゃったのがその弟さんです。
中原:その時、その弟が星野先生と話をした時に、「うちの兄貴がCG会社の取締役をやってるんです」と話したら…
星野:じゃあ遊ぼうぜって、その兄貴の取締役と中原社長をうちのラボに呼んだんです(笑)。
中原:うちの会社も秋葉原にあってデジタルハリウッド大学からすごく近いからすぐ行って話したら、その場でがーってすごく盛り上がって(笑)。帰り際に星野先生が「2ヶ月後にデジタルハリウッド校友会主催のホームカミングデーがあるから来なよ。dhima(デジタルハリウッド大学U.S.A)のOBが来たらみんなビビるぜ」って言ってくださって。それで2023年6月にホームカミングデーに行ったんです。
星野:ホームカミングデーで中原さんと話している時に、おもしろそうだと思って北方君を呼んだんです。
北方:ホームカミングデーの後半の方で、アルバイト終わりに合流してご飯でも食べようと思っていたら、星野先生に捕まって連れて行かれたんです。
中原:星野先生から「おもしろい子がいる」って紹介されたのが北方君でした。
2人を引き合わせた理由
──星野先生はなぜ北方さんを中原社長に紹介したのですか?
星野:中原さんといろいろ話してみると、元々海外志向があって(編集部注:中原さんはdhimaに入学、修了後は帰国せず、サンタモニカのVFXスタジオに入社して、CGアーティストとしてハリウッド映画やCM制作に関わっている)、会社の規模は小さいベンチャーかもしれないけれど、手掛けていることややりたいことがすごくスケールがデカかった。それがおもしろいし、いろいろできる北方君に合っているんじゃないかなと。
中原:我々が手掛けていることは幅が広いんです。先ほど星野先生がおっしゃったように、今、いろいろできて、いろいろやりたい第一世代が増えているという状況は、僕らのように起業して小規模で活動しているベンチャー側も同じで、一つの仕事、例えばCGだけやっているという社員は減っているんです。その背景には、会社に入ってもいろいろなことがやりたいという人が増えているという現象があって、そこが星野先生におもしろいと思っていただいた部分だと思います。
星野:そうなんです。ほとんどの大企業の場合、入社後は1つの職種専任になって、10年ほどいろいろな部署を渡り歩いて、ようやくジェネラリスト的な職業になっていく。でも、私も起業して会社を経営しているのでよくわかるのですが、ベンチャーでは1人6職くらいできなければやっていけません。中原さんやその片腕の方と話して、ミラクルマイルもおそらくそんな感じだと思いました。加えて、中原さんは、アメリカであれだけのことをやってきて、世界レベルのことをわかっているということが大きいんですよ(※編集部注:詳しくは中原社長のインタビュー記事を参照)
中原:確かに海外に出て勝負したことのない人とはマインドは違うと思いますね。
星野:そう!そういう人はなかなかいないんです。それで、北方君のようなマルチポテンシャライトの第一世代が入社して幸せになれる企業の条件として挙げられるのは、いろいろな仕事がやれることと、視座が高いことなんです。また、ほとんどの大企業は、あらゆることが学生のスピード感よりも圧倒的に遅いんですよ。なので、学生が入った後「これでいいんだ」と思っちゃうと、もうそれから先はなかなか成長しない。北方君の場合は、彼の能力にまだ社会の方が適応できていないので、ミラクルマイルさんのような会社に入るのが幸せだろうと思ったわけです。
喉から手が出るほどほしい
──中原さんの方は、星野先生から北方さんを紹介されて、実際に話してみてどう感じたのですか?
中原:僕が従業員を採用する時に必ずチェックするポイントが1つあります。それはモノを作り始めて、最後まで完成させた経験がある人。その意味で、北方君は一見物静かな印象なのですが、高校時代からすでに自分でものを作るだけではなく、ビジネスをして、自分の手でアグレッシブにお金を稼ぐところまでやっていた。そういう人材って企業からすると喉から手が出るほどほしいんですよ。
だからその場ですぐ北方君に「うちにインターンにおいでよ」って言ったんです。その瞬間から、うちに入社してくれないかなと思っていました。だけど、北方君のスキルセットのレベルがすごく高かったので、どうしたらうちに入ってくれるかなと考えていました。
──北方さんは中原さんからインターンに誘われた時、どう思いましたか?
北方:星野先生の紹介だし、僕自身も中原さんの話を聞いていろいろやれておもしろそうだなと思ったので、その翌月からミラクルマイルでインターンを始めました。
──実際にミラクルマイルでインターンをやってみてどう感じましたか?
北方:これまであまり経験してこなかった、映像向けのCG制作をやらせてもらって、やはりCGは楽しいなと思いました。でも、その時くらいから、第一志望だった、ゲームだけのCGモデルを作る仕事ってどうなんだろうと考え始めちゃって。ミラクルマイルはゲーム以外もいろいろやらせてもらえるので、就職先としてちょうどいいのかなと思いながらインターンをしていました。
──中原さんは、北方さんの仕事ぶりや成果物などを見て、どう感じたのですか?
中原:そもそもスキルセットのレベルが高いし、インターンとしての働きぶりもすごくいいと感じていました。ただ、それよりもむしろ、自分で作品を作ってワンフェスに出すなど、発信するところまでやるというのを見てすごいなと思っていました。それはデジタルハリウッド大学で学んだからこそだと思います。それこそ星野先生のゼミでやりたいことを一気通貫でやらせてもらっていたという環境が、北方君の能力を伸ばしたのだと思います。
なので、半年ほど経った頃、正式にうちに社員として入社してくれないかと勧誘しました。その時、社員として割り振られた仕事だけをやっていると、クリエイターとして腐る可能性があるから、自分で好きなものを作って売りたいという気持ちがあれば、積極的にサポートしたいとも伝えたんです。
大企業の内定を蹴ってミラクルマイルを選ぶ
星野:でもその時、何社か内定をもらっていたんだよね。
北方:そうですね。全部業種がまちまちで、1社が映像制作会社。面接の時に「3Dプリンターを使ってものづくりがやりたい」と言うと、社長さんが「ものづくり専用の部署に入れてあげるから、そこで好きにやっていい」と言われて魅力的だったのですが、印刷会社に買収されて、先行きがあまりにも不安だったので辞退しました。2社目はゲーム会社。星野先生に相談したら、「大手ゲーム会社に買収された小さい会社だから、入ってもあまり自由に働けなさそうだね」と言われて。
星野:そうそう。買収された後も社員数が増えてないということは、入ったとしてもおそらくやりたいことを思う存分やらせてくれる環境ではないだろうからお勧めできないと。
北方:3社目はフィギュア系のものづくりの会社だったのですが、あまりおもしろくなさそうだからやめました。4社目は自動車、医療機器、航空部品の分野で、ソフトウェア開発や3Dプリント、設計、エンジニアリングなどを手掛けている会社。業種が僕が好きなものづくりでいろいろとおもしろいことができそうだし、従業員数千名、売り上げ高も数百億の大企業だし、給料もかなりよかったので、最後まで死ぬほど迷いましたが、中原社長のお誘いを受けて、ミラクルマイルに入社することにしたんです。
──その理由は?
北方:インターンをしている時、CGモデリングはもちろん、映像やゲームなど、やりたい仕事がいろいろできたので、自分のスキルを伸ばすにはいいかなと思って。正式に社員として入社したのは、2024年4月です。
リードモデラーとして活躍
──ということは入社してちょうど1年ですね。今は具体的にはどういう仕事をしているのですか?
北方:インターン時代とあまり変わってなくて、会社として受注したCGモデリングや、自社で使うMR向けの3DCGモデルを作ったりしています。メインはモデリングで、最近はずっとリグとスキニングをやっています。
中原:リードモデラー的な立ち位置で働いてもらっています。
──ミラクルマイルを選んでよかったと思う点は?
北方:ゲーム系の会社に入ったらゲーム系の仕事しかできないし、映像系の会社に入ったら映像しかできないと思うのですが、ミラクルマイルではいろいろなことにチャレンジできます。例えば、ゲームや映像も少し特殊な分野をやらせていただいて、いろいろな経験を積めるので、ミラクルマイルを選んでよかったです。
──仕事環境はいかがですか?
北方:すごくよくて、自由な働き方をさせてもらっています。先ほどもお話したとおり片頭痛持ちで、出社できそうにないくらい頭が痛い時は自宅でのリモートワークを許可してくださっているので、助かっています。
会社としてもメリットが大きい
──中原社長が北方さんを採用してよかったと思う点は?
中原:まず良くも悪くもめちゃくちゃ真面目という点ですね。基本的に、指示した仕事は難易度の高い仕事でも、愚直に丁寧に、最後まであきらめずにやり切ってくれます。逆に真面目さが悪い方向に行くこともあって、そこまでやらなくてもいいのにというところまでやるので、そのせいで体調が悪くなることもあるんじゃないかなと心配することもあります。
もう一つの大きな強みは、作るものの精度が高く、それでいてスピードが早いこと。スピードって急に成長するものではないので、新入社員なのに早く作れるって、大きな武器です。作り始めてはみたものの、わからないところがあって時間がかかるタイプと、わからないところはあるけれど自分なりに考えて解決して進めるというタイプでは、当然後者の方がはるかに有能な人材です。北方君は後者で、学生時代から自分でゼロからモノを作って売るところまでやってきてるので、自分でそれなりの解決ができるんですよ。
僕もキャリア的には、ハリウッドのVFXスタジオでリードモデラーを務めていたので、何か教えられることがあるかもしれないと思ってうちに引っ張ったというのもあるのですが、着地点は必ず自分で設定して邁進するので、僕の方からは考え方を少しアドバイスすることがあるくらいで、モデリングに関して細かく指示をするということはほとんどないですね。そこはすごくうちに入ってくれてよかったと思う点です。
──経営者としては社員を育てる手間暇がかからないって大きなメリットですよね。
中原:本当にそうなんですよ。中小企業にとって、新卒社員に対するトレーニングって時間的にも金銭的にも労力的にもすごくコストがかかります。それが必要ないというのは会社にとってすごくメリットが大きいんです。
ただ、その一方で、北方君の能力が高すぎるがゆえに、そのポテンシャルをすべて使いきれていない部分があるというジレンマを感じています。やはり会社を経営していくためには、どうしてもやらなければならない仕事が生じてしまいます。もちろん個人によって得手・不得手はあるので、この社員にはつらいだろうなと思う仕事は、極力アサインしないのですが、それでも会社としてやってもらわざるをえない局面はどうしても出てくる。うちは小さい会社なので、モデリングだけしていればいいというわけにはいきません。例えば、チーム内のコミュニケーションを円滑にする役目などもお願いせざるをえない。でも、本来ならもっと突出したスキルをしっかり発揮させて、得意な領域だけで活躍できるようにしてあげたいので、その方法を考えているところです。
やりたいことをやっていきたい
──北方さんの今後の目標、やってみたいことは?
北方:ゲーム向けのいろいろなモデルを作りたいですね。また、自分で新しいゲームやフィギュアを作って、いろいろな世界観をごちゃ混ぜにしながら、自分のやりたいことをやっていきたいと思っています。
──中原さんとして今後、北方さんに期待していることは?
中原:僕としては、将来「北方優介」として世に出てほしいと願っています。うちに入る社員に必ず言っているんですが、よくも悪くもミラクルマイルって小さいので、社長である僕の会社というイメージが強いんですよ。でも、世に出る時、「ミラクルマイルの社員として」ではなくて、「北方優介がミラクルマイルにいる」というふうに出てほしいですね。だから、社員が関わったものには、極力、担当者のクレジットを入れるようにしているし、もっと自分に可能性があると思ったらどんどん言ってくれたらいいなと。
うちはクリエイター業界の日本ハムファイターズになりたいんですよ。社員が会社の外に出て行きたければどんどん出ればいい。外に興味あるのなら、外で活躍している人についていろいろ教えてあげられるし、背中を押してあげられる。とにかく、やりたいことがあるのに、会社があるからとあきらめてほしくないんですよ。とはいえ、入ってきた人たちが出て行ってばかりでは困るので、会社にいながらにして一人のアーティストとして外へ発信できる環境は作っていきたいとも思っています。
──北方さんは将来、独立して個人のクリエイターとして活動したいという気持ちはありますか?
北方:あんまりないですね。ただ、いろんなことに携わりたいとは思いますし、楽しいことをやりたいという気持ちが強いです。優先順位としてはお金より楽しいことをやれることの方が断然上なので。ただ、そのためには実績を積んで自分の名前をちゃんと大きくしていくことも大事だなと思うので、頑張りたいですね。
学生のために新しい職業を作る
──就職した学生と採用した会社の両方がwin-winになっていますが、この幸せな状態のきっかけを作った星野先生は、どういう思いで北方さんと中原さんを繋げたのですか?
星野:冒頭でお話したとおり、デジタルハリウッド大学の学生は、マルチポテンシャライトが多いので、新しく職業を作ってあげないとなかなか就職できない人もいるんですよ。あと、今はデザイナーとアーティストとエンジニアが融和しているので、例えばこの前の卒業制作展では、約3割の学生がアーティストと名乗っていました。アーティストって就職のルートが非常に少ないわけですよ。なので、社会的インパクトを持った上で何かに刺さりに行かなきゃいけないのと、特別なコネクションが必要になる。となると、北方君みたいに、就職が難しくなってしまう。それを学生と一緒に考えて、デジタルハリウッド大学というリソースも使いつつ個展をやって、彼らのCVをなるべく増やしてあげる。学生にはいつも「ポートフォリオを絶対作れよ。じゃないと、卒業後アーティストとして就職しても、3年後に後悔するからね」と言っています。
なので、学生がアーティストとして食べていけるようになるまで、一緒にトライ&エラーを繰り返しています。これによって、毎年、新しい職業が2つ以上生まれています。いわば北方君がその第一世代の1人目です。
中原:就職活動の過程で学生にどのような企業が合うかというのを、学生と担当教授がすごく近い距離感で話をして決められるという点が、デジタルハリウッド大学のいいところだと思います。
好きなことで食べていける世の中に
──モチベーションとしては、学生に幸せになってもらいたいという思いが強いのですか?
星野:いえいえ、そんな高尚なことは全く考えていません。一番ショックだったのは、僕のゼミで絵をものすごくうまく描ける女子学生がいるんですが、彼女に「キミすごいね。卒業したらどうするの?」と聞いたら、なんと「SEになります」と答えたんですよ。びっくりして「は?SEになりたいの?」と聞くと、「いえ、別になりたくはありません」と。「え? どういうこと?こんなに絵が上手なんだからバリバリ漫画描けるじゃん」と言ったら、「漫画ではとても食べられないのでSEになるんです」と。それを聞いた時、やりたいことと生活の手段を別々にわけられるんだとものすごくショックを受けました。
──確かに最近はそのような考え方の若い人が増えているとよく聞きます。
星野:でも、コミックマーケットなどの同人イベントに行くと、プロ級のハイレベルな絵が描ける人ってこんなにいるんだと感動するんですが、その同人漫画家たちが商業漫画の編集者にスカウトされまくることによって、Web漫画のコンテンツがひと昔前に比べて10倍増になっているんです。つまり、ようやく今、同人という業界が、いわゆるインディーズという名称に変わって、お金を稼げる可能性が出てきた。これがこの国のおもしろいところだと思うんですよ。
なので、ようやくやりたいことで食えるフェーズになりつつある。ただ、本人も周りもそのようなマインドセットがまだそこまでできていません。だから、学生が「本当は漫画家になりたいけど、食えないからSEでいいですよ」って言った時、僕らは「いやいや、それはやめようよ。今は好きなことで食える可能性が出てきているから、チャレンジしてみない?」って反対して提案すべき。例えば、漫画の才能もスキルももっている人たちがSEにならないで漫画を描いて食っていくにはどうすればいいか。みんなやりたいことで生きていきたいと思ってデジタルハリウッド大学に入っているわけなので、それを実現できるように最大限サポートするし、そのような世の中に変えなければならないと思っています。新しい職業を創出しなければならない理由も、学生の就職先を考えなければならない理由も、社会に出てからさらにインパクトを高めたい理由もそこに尽きるんです。
──学生が好きなことで食べていけるようにしたいというのは、結局学生のことをすごく考えてるってことですよね。
星野:実力もあって頑張っている学生が評価されないのはつまらないと思っているだけです。ぜひ評価されて、その瞬間をスタンディングオベーションしながら見てみたい。「うわ、やっぱそうなった。(繋げた会社と学生は)噛み合うでしょ、ほら」って言いたいだけです(笑)。だから北方君、より変なことをやろう(笑)
北方:そうですね。ぜひやりたいですね。
中原:そういうことの方が楽しいですよね。
熱量の高いところにお金を出す
星野:以前、DeNAの人が講演でこんなことを言っていたんですよ。「マーケティングにすごくコストをかけた時期があるんだけど、ことごとく外れる。だからあきらめて、社内で熱量の高いところを観測したら、やっていることの意味はわからなくても、お金を出すことにしている」と。この話を聞いて感動しちゃって。
中原:すごい!
星野:だから経営者目線で考えると、市場創出の重要な点って、マーケティングより熱量なんだなと。
中原:勉強になります。
星野:おもしろいよね。
中原:おもしろいし、弊社でもやりたいですね。
星野:なので、北方君たちの世代が熱量をかけてやりたいと思ったことには、おそらくこの先、利益を生んだり、社会にインパクトを与える何らかの芽はあるはずなんですよ。大人たちはそこにフルベットしてもいいかなと。
中原:先ほどの星野先生のSEの話もそうですが、食うためにやりたくもない仕事をやるのって、生きるためには正しいかもしれないけど、つまらない。本人にとってはよくないと思うんですよ。でも今の日本の社会はそうせざるをえないという窮屈な状況になっているので、若い人がおもしろいと思って高い熱量で取り組んでいることに、お金やアイデアを持っている人たちがベットする。その結果、お金を生めることがわかれば、みんな寄ってくるはずなんですよね。それを今、みんなやりたがらない、やれないんじゃないかという空気があると思うので、若い人たちが好きなことをやるという方向に行ってもらえればいいですよね。その意味では、北方君のような若者はいろいろなことがマルチでできるんだから。
僕も北方君と1年、一緒に仕事をしていますが、先ほども話したとおり、社員である以上はやっぱり会社の仕事をやってもらうことが第一条件になりがちなんですよね。今回のこの鼎談で再認識させられましたが、「北方君は本当に何がやりたいの?」ということは、この後面談してじっくり聞きたい。そこで例えば、北方君が熱量をもってやりたいこと、星野先生と連携してできること、うちの会社としても何かおもしろい動きができることがあれば、「お金を出すから僕と一緒にチャレンジしませんか?」と言いたいですね。
北方:楽しいことができるのであれば率先してやりたいので、ぜひやらせてもらいたいですね。
星野:ぜひやりましょう! 実はすでにいろいろと一緒にやりたい案件があるんですよ。楽しくなってきましたね!
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